【イシイリョウコ プロフィール】
どこかミステリアスな雰囲気を持つ作品を手掛けるのは、人形作家でありイラストレーターのイシイリョウコさん。物語の中から飛び出してきたような手縫の人形は、何かを語りかけてくるように私たちのことを見つめています。一つひとつ手で彩られた鮮やかな色の作品に出会えば、きっとその世界に吸い込まれるように惹かれてしまうはず。イシイさんしか生み出すことができない一点ものの作品を迎えて、あなたと相棒の新しい物語を紡いでみてはいかがでしょうか?
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【イシイリョウコの年表・YEARS】
【イシイリョウコさんインタビュー】
イラストレーター・人形作家として活躍する、イシイリョウコさん。独特の雰囲気を持つ作品たちは、どのように生み出されているのでしょうか。担当の富永琴美がお話を伺いました。
人形制作のはじまり
ーーー人形の制作は、いつ頃からはじめたのでしょうか?
イシイ:人形は大学を卒業してから作りはじめました。卒業のタイミングで展示をやることが決まっていて、そこで絵だけではなく、手に持てるものや立体ができたらいいなあと考えていたんです。その時たまたま目についたのが布で、「布に絵を描いて立体にしてみよう!」と思いついたのがきっかけですね。
ーーーいきなり人形を作るのは、とてもハードルが高そうですね。
イシイ:作り方もよくわからないまま、手縫いでなんとなくチクチク作って、カーブのところに切り込みを入れることも知らなかったので、「なんでこんなところにシワがあるんだろう」と思っていました。最終的に、かなりギュッとした人形ができて面白かったです(笑)。でも「とても良いものができた!」と感じて、ギャラリーの人に恐る恐る展示しても良いか聞いてみたら気に入っていただけて、とても勇気が出たんです。そこからずっと作り続けています。そのあとの転機といえば、もみじ市に出店したことくらいかなと思います。
ーーーもみじ市には2007年に初めて出店されたんですね。
イシイ:初めて参加したのは、2日間開催のうち台風で1日が潰れてしまったときのもみじ市でした。
ーーーはじめてのもみじ市は、いかがでしたか?
イシイ:はじめはやっぱり、人の多さに驚きましたね。「こんなにすごいイベントがあるんだ」って。大げさかもしれませんが、駅から会場まで数百メートルもお客さんが並んでいたような気がします。もみじ市は、私の作品を初めて見るという方がとても多いので、いろんな反応を感じられて嬉しいです。最近のもみじ市は、外国の方が多いですね。
ーーー年表には、2003年ごろから雑誌に取り上げてもらうようになったとありますが、何かきっかけはあったのでしょうか。
イシイ:イベント出店をちょっとずつ重ねていくうちに、わたしの作品を面白がってくれる人が増えていきました。雑誌に紹介されて少しずつ知られるようになってからは、展示会に来てくださる方も増えてきて、今につながっていると思います。
ーーー昔から積極的にイベント出店をされていたのですね!
イシイ:インターネットもそこまで普及していない時代で、自分で積極的に売り込みに行かなければいけなかったのですが、怖くてできなかったんです。何か作品に対してマイナスなことを言われたら、絶対に心が折れてしまうなと思って(笑)。なるべくたくさんの人に見ていただける機会を持つようにしていました。
ーーー今年のもみじ市は、“YEARS”というテーマですが、出店に向けてなにか考えていることはありますか?
イシイ:そうですね、何かはやりたいなと思っているのですが結構難しいテーマですよね。私の作品は基本全部1点ものなんですけど、過去に作って面白かったものを振り返って作ってみるのも良いかもしれませんね。今あんまり作ってないもの、なんだろう……。
ーーー人形の形は作り始めた当初から変わっていないのでしょうか。
イシイ:やっぱり少しずつですが上達はしてくるので、どんどん複雑な形が作れるようにはなっています(笑)。昔は本当にシンプルでした。全部ズトーンって直線で。当時の作品をもう一度作ってみても良いかもしれませんね! 例えば、年を重ねて作れるようになった複雑な形状の人形と、昔のシンプルな形のものを組み合わせても面白いかも。
誰にも真似されないものを作りたい
ーーーイシイさんの作品は、どれもどこかミステリアスな雰囲気があるように感じます。無類のホラー映画好きと伺ったのですが、何かその影響はあるのでしょうか。
イシイ:要素としては混じっていると思うんですけど、前面には出さないようにしています。可愛過ぎず、怖過ぎずの間ぐらいが好きなんです。それは最初から変わりません。
ーーー人形のアンニュイな表情が、どの作品もとても印象的ですよね。
イシイ:自分の中ではそんなにアンニュイだと思っていないんです。イメージとしては「強さ」。女の子の表情を強い感じに見せたい。あとは、手にした人が見るときの気持ちによって、ちょっと違う表情に見えるものにしたいと思っています。
ーーー表情を描くときに気をつけていることがあれば、ぜひ教えてください。
イシイ:例えば、すごい笑顔とか泣き顔にしてしまうと、その感情しか見えない気がするんです。わかりやすい表情にならないように気をつけています。
ーーーイシイさんの作品は、どちらかというと夜のイメージがありますが、どんな環境で作品を作られているのでしょうか。
イシイ:制作するのは夜がほとんどで、朝まで絵を描いてることもよくあります。そこから寝て朝の11時くらいに起きて。昼夜逆転しちゃっています。そろそろ改めたいと思っています。
ーーーこれまでに、絵や人形以外の作品を作ろうと思ったことはありますか?
イシイ:カバンを作ってみようと思ったことがあるんですけど、うちにミシンがないので本を読みながら手縫いでやってみたら、すごく長〜い取手のついたランチョンマットができてしまいました(笑)。人には向き不向きがあることがよくわかりました(笑)。
ーーー作品制作にあたり、どのようなことを大切にしているのでしょうか。
イシイ:「自分にしか作れないものを作ろう」っていつも思っています。全て1点ものにしているのも、そういった気持ちからかもしれません。自分が持っているのが“世界にひとつしかない”と思える喜びって大きいと思うので、そういうのを大事にしたいです。売れるからといって、同じものをたくさん作るのはやめようと思っています。作っていて飽きるというのもあるんですけどね(笑)。
ーーー全て1点ものということは、常に新作を作り続けるということですよね。本当にすごいと思います。
イシイ:やっぱり新しいものを生み出すのは難しいです。だから、いつも何か良いモチーフはないかと考えています。目についたもので面白そうなものを、「これは人形になりそうだな」って。職業病ですね(笑)。常に新しいものを見つけなきゃって考えています。作ろうと思ったその場でアイディアを出そうとしても浮かぶものではなくて、常日頃から考えているからこそなのかなって。実際に作る作業は、やりきるだけの根性さえあれば良いので、そんなに難しくはないんです。
一対一の仕事を大切にしたい
ーーー年表の最後に「一周回って絵を描く楽しさに気がつく」とありますが、こちらについてお話を聞かせてください。
イシイ:20代後半からわりと間延びするというか「このままじゃいけない気がする」という感じで、もやもやとした気持ちが生まれたんですね。そのもやもやを抱えながら日々を過ごしていたら、何かをしたわけではありませんが、急に「あ、絵が楽しい」って気づいたんです(笑)。今までも好きだったけれど、本当の意味での楽しさには達してなかったんだなって改めて思いました。そこから絵を描くのが楽しくなって。
ーーー印象に残っている絵のお仕事はありますか?
イシイ:ある理由があってご依頼をいただいて描いた作品があったのですが、出来上がった絵をお届けしたら、とても喜んでいただいて。そのときに絵を描いてきてよかったなと幸せを感じたんです。だれかのことを、一生懸命に考えながら絵を描く時間も幸せで。「こういう制作を大切にしたい」と思いました。
《インタビューを終えて》
「手にした人のその時の気持ちによって、違う表情をみせる作品にしたい」そんな思いが込められた人形たち。その瞳に見つめられると、自分の心の奥にしまい込んでいた気持ちを見透かされているような、不思議な感覚に包まれます。イシイさんが作り上げる特別な空間に足を踏み入れれば、きっとあなたも、世界でたったひとつしかない自分だけの“友達”に出会えるはず。河川敷に並ぶ唯一無二の作品たちを、どうぞ間近でご覧ください。
(手紙社 富永琴美)
【もみじ市当日の、イシイリョウコさんのブースイメージはこちら!】