緊張をまぎらわせるために大きく深呼吸し、息をととのえる。ゆっくりとトビラが開き迎えてくれたのは、もしかしたら私よりもちょっと緊張しているかもしれないふたりだった。
雑誌・書籍の表紙や挿絵を手がけるイラストレーターの祖敷大輔さん。書籍のデザインなど印刷物のデザインを手がけるデザイナーの根本真路さん。フリーランスとしてそれぞれ活動をするふたりは今、三鷹にあるビルの一室を事務所とし、同じ空間で仕事をしている。
いつかは、オリジナルのグッズを作りたいと思っていた祖敷さんに、もみじ市事務局のスタッフが出店の声をかけたのは2年前。その話を受けて祖敷さんが協力を求めたのが、一緒に仕事をしたことがある根本さんだった。
「グッズを作るからデザインを担当してほしいと誘ってもらったんです」
もともと祖敷さんのファンだった根本さんは、この案件をふたつ返事で快諾。初めてふたりで作ったポストカードやメッセージカードは、多摩川の河川敷に並ぶことになる。
根本さんが、祖敷さんの存在を知ったのは、現在ポストカードにもなっているゴリラのイラストだ。ある雑誌の1ページにドンと掲載されているのを見て「これ、いい!」とひと目惚れ。そのページを丁寧に切り取り、部屋に飾っておくほど気に入ったのだという。
「いつか一緒に仕事がしたい」
根本さんの中で生まれた野望が叶うのに、時間はそれほどかからなかった。当時、別の雑誌のデザインを担当していた根本さんは、祖敷さんに挿絵を依頼した。
「根本くんは、仕事を依頼してくれる人の一人でしたよ。だけど、年齢が近かったので話がしやすかったんです」
何度か仕事をするうちに、ふたりの関係性が少しずつ変わっていく。
「グッズのデザインの話をいただいてから、祖敷さんとの距離がものすごく縮まりました」
もみじ市の出店が、ふたりの大きな転機となったのは言うまでもない。
グッズを作る上で、根本さんの存在は必要不可欠だと祖敷さんは言う。
「フリーのイラストレーターになる前は、新聞社の広告局で働いていました。その時の習性といいますか、自分の描くイラストをディレクションするように見てしまうんです。仕事の依頼を受ける時も、イラスト部分がぽっかりと空いたラフが送られてきます。文字が横組だから顔の向きは左がいいとか、全体のバランスを考えて描くことが多いんです。だから、グッズを作るときも『文字とかのせなくて大丈夫? 』って心配して聞いたりしてました」
なんとも控えめな祖敷さんの発言に根本さんはいつもこう話す。
「祖敷さんのイラストがいいんです。他は何もいらないんです。それだけでいきましょう!」
絵を描くことに真面目な祖敷さんと、その魅力を誰よりも理解している根本さん。このふたりだからこそ作り出せる世界観がそこにはある。
「ここ最近、仕事で依頼があったイラストしか描いていなくて『これではいかん!』と思い、プライベートでも絵を描き始めたんです。その矢先に、今年のもみじ市出店の話をいただきました」
その絵を見せてもらった根本さんはすぐさま、こう答えた。
「すごくいいと思います。今回のグッズはこの絵を使いましょう」
オイルパステルを使って描いた、祖敷さんの絵をいくつか見せてもらった。風景、乗り物、建物、人物。新たに描かれたものには動物以外のものが多くあった。新しく生まれるグッズには、この中のどれかが使われるかもしれない。今あるグッズとはまるっきり違ったものがきっと生まれるんだ。私は、目撃者になった気がして鳥肌が立った。
個性も役割も異なるふたりが一緒にものづくりをした時、それぞれがそれぞれの力を認め、高め合ったとき、奇跡が起こるのかもしれない。枠にとらわれることなく、自分の殻を破ってしまえるのは、ひとりじゃなく、ふたりだから。久々に制作するというグッズには、ふたりの奇跡がしっかりと刻まれているに違いない。
【祖敷大輔さんと根本真路さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
イラストレーターの祖敷大輔とデザイナーの根本真路です。2011年から二人でグッズの制作を行っています。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
祖敷:白(絵を描くときに大切にしている色)
根本:青(今年の気分)
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
書き下ろしのイラストを使ったグッズを販売する予定です。紙もの雑貨以外にも、布を使ったアイテムも用意したいと思っています。もみじ市が、お披露目の場となるのでぜひ見に来てください。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
さて、続いてご紹介するのは、代々木八幡のあのパン屋さんですよ!
文●新居鮎美