仕事帰りの電車の中、窓に映る自分の疲れきった顔に気づいてハッとする。そんな日は、帰ったら何をするよりもまず顔を洗う。メイクを落として、石けんを泡立てる。両手いっぱいの泡で顔を包み込んだら、全てをさっぱりと洗い流す。そう、汚れだけじゃなく、今日起こったあんなことやこんなこと、何もかもさっぱりと。そうして洗い終わったら、鏡に映る自分の顔は、すっかり優しくなっている。心も丸くなっている。Siesta Labo.の附柴彩子さんが作るのは、そんな、魔法のような石けんだ。
色とりどりの紙に包まれた石けんたちは、お菓子のように可愛らしい。
色紙にハトロン紙が重ねられた淡い色の包み紙。開くと現れるのは、少し白みがかった穏やかな色の石けん。四角い形は手のひらにすっぽりとおさまるサイズ。Siesta Labo.の石けんは、洗い心地はもちろん、何から何までとても優しい。
「女性にとって、石けんで顔を洗うのは “ほっ” とする瞬間です。作っているのは石けんだけれど、届けたいと思っているのは、”ほっ” とする時間なんです」
「Siesta」はスペイン語で「お昼寝」を意味する。うたたねをする時のように、心からくつろいでほしいから、素材はなるべく天然のものを使っている。ベースとなるのは、ヤシ、パーム、オリーブなどの植物オイルにアルカリ成分を加えたもの。そこに、蜂蜜やヤギのミルク、ハーブなど、肌のタイプに合わせた素材をブレンドし、商品のコンセプトによって、エッセンシャルオイル(精油)で香り付けをする。余分なものは一切入れない。そして、40日間という時間をかけて “熟成” する。さらに、完成した石けんに型を押すのも、紙で包むのも、全てをひとつひとつ手作業で行っている。伝統的な技法を選び、手間をかけることで、時間はかかるけれど、その分だけ、肌に優しい気持ちのこもった石けんができあがる。
熟成開始から何日で型を押すか、そのタイミングは石けんの種類によって違うという
石けん作りと聞くと、ほんわかと可愛らしい様子を想像するかもしれない。しかしながら、Siesta Labo.の石けんが生まれる場所は、実験室のような部屋だった。白衣に袖を通し、ビニールの帽子を被って部屋の中へ入る。大きな鍋やレードルが置かれた流し場。磨き上げられたステンレスの台。壁一面に備え付けられた頑丈そうな棚には、熟成中の石けんが業務用のケースに入れられて、びっしりと並んでいる。
Siesta Labo.の石けんのサイズに合わせて特別に作られた器具で、カットしていく
「私がもともと理系出身なのもあって、やるんだったらきっちりやりたくって」
附柴さんが初めて石けんを作ったのは、大学院生のとき。市販の石けんが肌に合わなくなり、試しに自分で作ってみたところ、その工程がすごく自分に合っていると感じたという。
「これを仕事にした方がいい! と思いました。全く違う素材を混ぜ合わせることで、新しいものが生まれるという現象が好きなんです。オイルと様々な材料を混ぜ合わせることで、新しい石けんができあがる。その工程が、すごく楽しい。それに、石けんをカットしたり、四角いものをいっぱい並べるという作業も、とても好きなんです(笑)」
大学卒業後、製薬会社で何年か働いた後に、化粧石けんのレーベルを立ち上げる。附柴さんが製作の拠点に選んだのは、地元ではなく、大学時代を過ごした北海道だった。
「何年か住んでみて、北海道がすごく好きになりました。道内には良い素材がたくさんあるんです。でも、その良さを活かしきれていないと感じる部分もあって、それを伝えていきたいと思いました。だから、Siesta Labo.の石けんは、道産の素材を使うことを大切にしています」
一番のロングセラーである「アズキ石けん」(肌がすべすべになると評判の石けんだ)に使われているあずきも、もちろん北海道産。また、素材の生産者にはなるべく直接会いにいくという。例えば、乾燥肌の人向けの「白樺石けん」、材料となる白樺の芳香蒸留水が作られているのは、道北の下川町という小さな町。北海道に住んでいる人でもピンと来づらい地名だが、「最近は若い人たちが増えていて、とっても活気があるんですよ」と、まるで自分のことのように、うれしそうに、附柴さんが教えてくれた。
附柴さんのお話を聞いていると、素材選びや作業工程、お客さんに対する姿勢など、その全てから真摯さが伝わってくる。優しい石けんを作る附柴さんの眼差しは、やわらかでとても強い。
「石けんを作るのではなく、生活を作っている。そう思っています」
Siesta Labo.の商品は石けんだけに留まらない。シャンプーやバスソルト、ルームフレグランスなど日々を穏やかに過ごすためのアイテムが並ぶ。さらにお店では、しばしば、靴やアクセサリーなど、他の作家さんの展示会や販売会が開かれる。すごく多忙なはずなのに、とてもきらきらとした表情の附柴さんとお会いして、これから先、さらに大きく活動の場を広げていかれるような気がして、とても楽しみになった。
”カラフル” に合わせて作られたもみじ市オリジナルの石けん。お試しサイズなのもうれしい。
Siesta Labo.の石けんは、とても優しい色をしている。そしてエネルギーに満ちている。それは、自然の素材から作られているから、そして、附柴さんの思いが込められているから。ぜひ手にとって、眺めて、匂いをかいでみてほしい。それだけでとても、優しい気持ちになれるはずだから。
もみじ市に、Siesta Labo.の石けんが並ぶ。それは附柴さんにとっての夢であり、私たちにとっても、夢のような光景なのだ。
【Siesta Labo. 附柴彩子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
札幌で手作り石鹸の工房を開いています。北海道のハーブや、小豆などの素材を使い、じっくりひと月以上時間をかけながら石鹸を作っています。ブランド名のシエスタはスペイン語でお昼寝。お昼寝をするようなゆったりとした気持ちを過ごしていただけるような、いい香りだったり、ホッとする素材を選んで制作を行っています。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
穏やかな晴れた海のような人になりたい、とずっと思っていました。だからなのか、青がとても好きです。
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
青、ピンク、グリーン…色とりどりの石鹸を作って参加します! そのほかにも、スキンクリームや、ルームフレグランスなど…もみじ市のために特別に作った、手のひらサイズの石鹸も持っていきます。はじめてのもみじ市、とても楽しみにしています。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
さて、続いてはいつ訪れても多くの人で賑わうあのビストロの登場です!
文●吉田茜