福田利之、遂に単独名義で出店。
ある年は、tupera tuperaの亀山達矢さんとのコラボレーションユニット「カッパメ」として、またある年には、平澤まりこさん、桑原奈津子さん、山田愛さん、甲斐みのりさんというあまりにも豪華なスペシャルチームを結成して「funchi nu puri(フンチヌプリ)」として。日本屈指のイラストレーター・福田利之さんは、もみじ市に参加してくださる時には必ず、個人名義ではない特別なユニットを組んで私達をワクワクさせてくれていました。
「もみじ市ってお祭りじゃないですか。イラストレーターって基本は地味な仕事なので、もみじ市は外に出ていろんな人と触れ合える絶好の機会。だから、みんなで楽しくできればいいなって思っていたんですけど、そろそろ自分のこともやってみようかなって思ったんです。ちょうど、布も出来上がったので。お祭り気分は変わらないですけどね」
福田さんといえばポストカード。今回、もみじ市に合わせて制作していただいた新作もあるとのこと。キャンバスにティッシュペーパーを貼り付け、絵付けをし、インスタントコーヒーとニスを使って仕上げるという、独特の手法。そこから放たれるエネルギーから感じるのは独特の迫力、そして繊細さ。自分が求める質感を求めて、試行錯誤の末、あの表現に落ち着いたと言います。自身を飽きっぽいと自嘲的に言う福田さんも、この技法だけは、自分の手に馴染んだからこそ続けてこられたそうです。
もみじ市で福田さんがみなさんに発表するのは、ポストカードだけではありません。出店タイトルは「紙と布」。えっ、布? もしかしたらそう思った方も多いのではないでしょうか? そう、福田さんは今年の夏、布を作ったのです。彼のクリエイティビティで様々な種類の布プロダクト製作、発信をしていくブランドとして。その名前は「十布-テンプ-」。十は必ずしも十種類というわけでなく、“たくさんの”という意味を含ませています。布を媒体にして、今後いろんなことにチャレンジしていこうという、福田さんの決意表明なのです。
第一弾として、大きなガーゼをカラフルな模様で覆った新作「tenp01」を発表しました。そして今後は、刺し子やインドのブロックハンコ、タイシルクなどの展開も考えているとのこと。以前から「布」というジャンルに興味を持っていた福田さん。満を持してテキスタイルの世界に足を踏み入れました。
「布は全くの素人なので初心な感じです。それが面白いんですけどね。慣れないことをやるって面白いです」
これが、「tenp01」の図案。福田さんのイラストをご存知な方ほど、これまでの画風との違いに驚かれるのではないでしょうか? でもね、ちゃんとした理由があるんです。それは、布は布として、絵は絵として使ってもらいたいという福田さんの想いから。
「布を作ることも、イラストレーションの仕事の延長でしかないんです。もともと、一枚の絵を売るというのは、個人的にあまり好きじゃなくて、それよりもプロダクトにして流通させたかった。そうすれば、良いなって思ってくれる人がいたら、遠くに住んでいる人にも持ってもらえるじゃないですか。だからポストカードもたくさん作っているんです。部屋に飾ってもらうのでもいいし、手紙に使ってもらうのでもいいし。ひとりのための一枚の画ではなくて、色んな人のための一枚の絵であってほしいですね」
さらに福田さんは続けます。
「そう考えると、布は、それをカバンにしたり、クッションにしたり、なんでも作れるじゃないですか。だから、ゆくゆくは反物を作りたいんです。たくさんの人の手に渡ってもらえれば、それだけ色々なカタチに変化させてもらえる。そうなったら嬉しいですね。その人の生活の一部になってもらえるといいな、究極は。道は険しいですけどね」
どこまでも先を見据えたような、熱く、強い眼差しで語る福田さん。その瞳にはきっと、自分の布が多くの人の生活に溶け込んだイメージが写っていたに違いありません。
「絵を描く仕事をしている僕らは、ある程度までいくと表現に限界がきてしまう。だから、そこでどうやって違うものにしていくか、そこが勝負の分かれ目。まずは素材を変えてみたり、自分が苦手だなって思うことをわざとしてみる。そうすると、今までにない、違う表現ができたりする。逆に言えば、そういうことをしないと新しいものは生まれない。でもね、表現はそこから広がっていくんです」
「表現」することに対して貪欲に、そして真っ直ぐな福田さん。彼はこの先、私達にどのような美しい表現を魅せてくれるのだろう。私は最後にこんな質問を投げかけてみました。
「これから、どんな表現をしたいと思っていますか?」
少しの沈黙の後、福田さんは、まずは「ものをつくる」ということについて、話し始めてくれました。
「良いものをつくるって、時間とお金のいちばんバランスの良いところでつくることだと思うんです。それが、永遠のテーマ。だからそのためには、僕もきちんと時間をつくらないといけないし、お金をかけるところもしっかりと見極めないといけない。しかも、それを完璧にできたとしても、成功するのは何%とかなんです。自分がイケるぞって思ったものがお客さんの心には響かないことだってしょっちゅうありますよ。でも、だからこそ、ものをつくるって面白いんです」
さらに、この先の展望について、こう続けます。
「僕も決して若くない歳なので、着地の仕方も考えますよ、正直なところ。会社をやっているわけでもなければ、弟子がいるわけでもない。それでもやっぱり描く仕事は好きなので続けていくつもりです。でも好きじゃなくなったらもしかしたらやめちゃうかも。そのかわり、面白そうなことがあれば、どんなことでもやっていこうと思っています。垣根をつくらずに、やっていこうと思います」
どこまでもチャレンジングなその姿勢。福田利之が初めて個人名義で挑むもみじ市。どうかみなさんには、彼のその“熱い想い”を存分に感じてもらいたいと思います。
最後に、今年の8月に手紙社が開催した「第2回 かわいい布博」に「十布」として出店してくれた福田さんから、数日後に届いたメールの一文を紹介して、この文章を締めさせていただきます。この言葉、久しぶりにシビれたなあ。
「僕にとっては久しぶりのアウェー感、3日間いろいろ勉強になりました。井の中の蛙にならないために、今後も違う分野でも挑戦していきたいと思います」
イラストレーター・福田利之。彼の飽くなき挑戦は続きます。
【福田利之さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
何度かグループで参加させていただいているもみじ市ですが、今回はじめて一人での参加になります。普段制作している紙ものの商品の他、今年の春から十布(tenp)というブランドで布を扱った商品展開をはじめました。
十布−テンプ− http://www.tenp10.com/contents.html
紙もの布ものふくめて、もみじ市で初めて発表する新作を多数ご用意してお待ちしています。お気軽にお声掛けください。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
青です。もみじ市当日晴れますように。
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
50種類ほどのポストカードやラッピングペーパー、大きな布や、限りがありますが布の計り売りなど。まじめに地味に気持ちはカラフルにがんばります。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
さて、続いてご紹介するのは、もみじ市のおやつシーンを支えるあの人たちの登場です! 今年はどんな美味しいものを用意してくれるのでしょうか?
文●加藤周一