西淑「紙もの」

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その絵をはじめて見たとき「静かだな」と感じた。だけどしばらく見つめていると、澄んだ音が聴こえてくるような気がした。キンと響く冬の星空の瞬き、風の声、葉擦れの音、湖にぽとりと雫が落ちる瞬間…。ひたひたと迫る夕闇のように、西淑さんの描く世界に包み込まれていくのがわかる。

「怖い」と思った。

それは、「美しい」とか「愛おしい」という印象と同じくらい強く、心の中に小さな小さな痛みのようなものを残した。その感覚は、今も西淑さんの絵を見つめるたびによみがえる。

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西淑さんは、京都在住のイラストレーターだ。アクリル絵の具などを使った切り絵の作品を年数回の個展で発表しているほか、書籍の装丁や挿画、紙もの雑貨など、多方面で活躍している。淑さんの描くモチーフは、少女、星、馬、森、食卓の風景や暮らしの道具など。しっとりとしたタッチと深みのある色彩で描かれたそれらは、一つひとつが語りかけてくるかのような詩情に満ちている。

福岡に生まれ、鳥取、京都、東京と、絵を学びながらあちこちで暮らした。描くことを仕事にしようと思ったのは23歳のとき。雑誌のイラストなどの仕事を手がけながら、さまざまなギャラリーで個展を開いた。そのころは、今のような作風を見つけられていなかったと淑さんは言う。 「描きたいものが定まらなくて、だんだん『白い紙に描くこと』が怖くなってしまったんです。一度線を引いてしまったら、もう後戻りできないから…」

転機になったのは、2009年、長野のギャラリーBANANA MOONで開いた個展「おりがみの馬」。安曇野の森の中に佇む小さなギャラリーでの個展ということもあり、淑さんの頭の中には美しい森のイメージが浮かんでいた。だから、福岡の実家に戻り、薪ストーブと寝袋で暮らしながら創作した。迷いながら、淑さんは自分の絵を表現する手法を試行錯誤していた。

一度描いた絵を、切る。そうすると、「面」の中にいた木や、馬や、鳥たちが、生命を与えられたかのように淑さんの手のひらにやってきた。それらを貼り合わせ、また一つの絵を作り上げていく。この手法は、まるで淑さんに選ばれることを待っていたかのように、絵の世界観にぴたりと重なった。

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モチーフのかけらを集め、新しい世界を描いていくこと。それは、淑さんのインスピレーションにも通じる。彼女は「拾う」ことが好きなのだそうだ。美しい縞模様の石、種子や葉っぱ、枝や木の実、小指の爪のような貝殻…。散歩に出かけても、旅に出ても、自然の作り上げた小さな造形物を見つけると拾い上げ、こう思う。

「自然の作るものには、自分の描くものはかなわない」

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淑さんは知っている。夜空の星にどんなに手を伸ばしても、届かないこと。美しい森は、時に残酷なほどの闇を秘めていること。そこに暮らす動物たちが、いつかはそのいのちを終えること。少女の時代は、永遠には続かないことも…。彼女が描く世界は、一遍の詩のような美しい情景を持つファンタジーだけれど、そこに宿るのは幻想ではない悲しみや孤独だ。

「何を描きたいかはぼんやりと心の中にあって、言葉にしようとは思わない。でも、自然の中には生死があって、日々の暮らしに当たり前の営みがある。いつもそれを忘れずにいたいんです」

淑さんの絵をはじめて見たときに感じた、小さな小さな「怖さ」。それは「孤独」を知っているからだ。その美しい色彩と繊細な描線の奥には、届かないもの、終わってしまうものへの無力さや寂しさが秘められている。その一方で、淑さんは食卓の風景や、台所、針仕事の道具など、日常のささやかな場面も描く。淑さんが心に留めているもう一つのこと、「当たり前の営み」だ。今日も、食卓に小さな灯がともる。それは、ありふれた日常の光景だけれど、温かく慈しみに満ちた希望の光だ。

もみじ市がお天気の神様に祝福されたとき、澄んだ青空と河川敷に吹く柔らかい風が描き出す、奇跡のような美しい光景が現れます。そこに集う人たちが笑う、当たり前のようで喜びに満ちた時間。自然の風景と人々の笑顔が溶け合う場所で、西淑さんの絵は、わたしたちの心に儚くも美しく、温かい灯をともしてくれるに違いありません。

【西淑さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
西淑です。絵描きです。紙を塗って削って切って貼って絵を描いてます。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
あいいろ。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今回は紙雑貨とちいさい絵、てぬぐいなどの新作の商品もご用意する予定です。自分なりに精一杯の「カラフル」な衣装で参加するつもりです。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いては夢を叶えたあのフードデリバラーがもみじ市へ! とびきりの笑顔でみなさんを迎えてくれるでしょう。

文●増田 知沙