どんな土地で育つかによって、目にする木々の形や花の色、肌で感じる温度や、光の強さは全く違います。生活していくなかで、そのひとつひとつが体に染み込んでいき、独自の表現が生まれます。「北の人には北の人の、南の人には南の人にしか表すことのできない色や形がある」。学生のころ、先生に言われた言葉。「点と線模様製作所」の岡理恵子さんの布を初めて見たとき、漠然としか感じていなかったその言葉の意味を、私ははっきりと実感しました。そこに描かれているのは、一度も見たことがない模様。なのに、私はこの色を、景色を知っている。そうだ、これは私の色だと思いました。私が生まれ育った、北国の色だ、と。
雪かきの跡は鮮やかな赤と青で表現され、小さな植物たちはまるで微生物のように布の上を這い、点描によって描かれた森の陰からは動物たちの気配が伝わってきます。北海道に暮らす岡さんが描くのは、雄大な大自然ではありません。生活のそばにある山や川の風景、茂みにひそむ小さな命。短い夏と長い冬。日常に寄り添う自然に耳を澄ませ、そこに記憶や感情を重ね合わせながら、穏やかで美しい模様を作り出していきます。
「自分と無関係なものを題材にするのは、すごく難しくて。一度心が移ったものでないと形にしづらいんです」
もともと、カーテンやテーブルクロスを取り替えると部屋の雰囲気ががらりと変わる様が好きで、模様に興味を持った岡さん。インテリアを学んでいた大学時代に、先生のすすめで”壁紙”を制作したことが、模様を作りを始めたきっかけとなります。「すぐに取り替えられる”生地”よりも、その中に長い時間身を置く”壁紙”の方が、(今まで模様の勉強をしていない私には基礎ができていないので)模様の基本の基が学べるのではないか」という先生の教えに共感し、図案の勉強をし、自ら木版を作って制作。色によって版を分けるなど行程は難しく、出来はあまりよくなかったと振り返りながらも「木を彫ることや色を混ぜて作るなど、手や目など体で学ぶようにできたことで模様のなりたちを勉強でき、それが今につながっています」とうなずきます。
大学卒業後しばらくして、模様作りを仕事にすることを決意。最初のうちは自分で模様を刷るなど、こじんまりと制作していましたが「繰り返しのある模様は、一定の量を量産する役割のあるもの」との思いから、2008年、「点と線模様製作所」という屋号のもと、本格的に生地作りを始めます。
「工場の人も、個人で生地を作るなんていう注文はあまり聞かないようで、最初はなかなか上手くいかず。意思疎通がすこしずつできるようになるまでには時間がかかりました。それは今も同じです」
自らの表現を理解してくれる工場を探し求めた岡さん。例えば、布への刺繍を依頼している工場は、糸をどう繋ぐかで変わってくる細かいニュアンスを、もともとの図案を活かしながら考えてくれるとか。その丁寧な仕事ぶりに惹かれ、刺繍加工をお願いしたそうです。
そうして作られた生地は「北の模様帖」と名付けられ、ひとつひとつの模様を大切にしながら、少しずつラインナップを増やし続けています。
「オリジナルで販売している生地は、年に2作は新作を作ろうと思っています。少ないですよね。でも、10年経ったら20種類の模様の中からお客さんに選んでもらえる。20年なら40種類。色も含めたらその倍になります。今のお客さんが私と同じように年をとっていたら、その中から選んでもらえるんじゃないかなと考えています。ただそこにあって、気にもならないような、あるのが当たり前のような模様を作りたいんです」
今後の目標をそう語ってくれた岡さんですが、今ある模様は、どれも明るく楽しく可愛くて、見ているだけで幸せになれるような、じっくり眺めたくなるものばかり。
「クッションを作るのに使うくらいかな、と考えていた生地を、ある時お客さんが洋服に仕立てるということを聞いて、それならもう少し可愛らしい生地を作ってもいいのかなと思ったんです。植物らしい植物の絵を描くようになったり、鳥や動物がでてきたり。以前は模様を邪魔するんじゃないかと思って描いていなかったモチーフですが、それまで自分が考えていなかった楽しみというのも生地にいれたらいいんじゃないかと、がらりと考えが変わりました」
お客さんの思いに応えるべく、幅を広げた岡さんの模様はさらに愛され、コースターやカバンなどの小物や、ワンピースやコートなどの服にどんどん形を変えていきます。
「この生地でワンピースを作ろうかしら」
「スカートにしたら可愛いかも」
お客さんのそんな言葉に、岡さんの創作意欲は刺激されます。ぜひ、カラフルな生地を手に取って、何を作ろうかな? と想像してみてください。そして、ぜひ岡さんとその思いを共有してください。そこからまた、新たな模様が生まれるかもしれません。
【点と線模様製作所 岡理恵子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
日常の風景や植物などを題材にしながら、北海道で模様作りをしています。その模様をのせて生地を作り各地転々と生地販売の旅をしています。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
黄色と青が好きですが、紫と言われたことがあります。
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
生地なので普通にしててもカラフルになるのですが
半端切れのセット
缶バッジ
ハンカチ
などを販売したいと思います。特別な演出はいつもできませんが並べるとカラフルになるのでお客様には楽しんでみてもらいたいです。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
さて、続いては大阪からやってくるあのイラストレーターさんの登場です! 誰もが思わずクスリと笑ってしまう紙ものは必見ですよ!
文●吉田茜