小谷田 潤「フジカラー+陶器」

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「もみじ市はすごい人たちが集まるし、そんな中で中途半端なものを出すのは恥ずかしいから」

そう言って、“彼”は今回もまた、2年ぶりのもみじ市のために万全の準備を進めてくれていた。訪れた工房の壁には、今回のもみじ市で初めてコラボレーションをする作り手の作品が貼られている。作品を眺めながら、日々イメージを膨らませているそうだ。“彼”とは陶芸家の小谷田潤さん。2006年に行った第1回もみじ市のときから参加し続けてくれる、もみじ市の歴史を知る、いや、もみじ市の歴史そのものと言っても良い作り手の一人だ。

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自らの作品を発表するのはもちろんのこと、全く異なるジャンルの作り手さんとコラボレーションした作品を発表する…、もみじ市では恒例となった小谷田さんの“チャレンジ”である。今回もそのチャレンジのために早い段階からコラボレーションする作り手と打ち合わせを重ね、試行錯誤を重ねてくれていた。僕が知るだけでも、打ち合わせの数はすでに3回。真摯に、じっくりと対峙する“ふたり”の横に同席させてもらい、その“通り名”に偽りはないな、と思った。常に新人のように、熱い思いを持ってものづくりに臨む彼のことを、僕らは深い敬意を込めてこう呼ぶ。「情熱の陶芸家・小谷田潤」と。

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小谷田さんの情熱は作品にだけ注がれるものではない。いつも周りに気を配り、投げかける真っ直ぐな言葉は、それを聞く者にも熱い何かを与えてくれる。僕自身、小谷田さんの言葉に勇気をもらったことは一度や二度ではない。今年の1月、とあるギャラリーで行われた個展に足を運んだときのことだ。

「大変だろうけど、頑張って。俺も大変なんだけど、受けた仕事は絶対やり遂げるから」

帰り際に、小谷田さんがこんな言葉をくれた。その時、小谷田さんは僕達のお店で使う器を一揃い、製作してくれていた。僕はといえば、1カ月後に控えた、初めて企画するイベントを前に、少し弱気になっていた。それを見透かされたようにかけてくれたその言葉は、僕の心にしっかりと火を灯してくれた。

もみじ市の全てを僕は知らない。けれど、小谷田さんの情熱にこのイベントが救われたことが今までに何度もあったということは、よく聞かされる話だ。1月の早稲田での展示の帰り道、こういうことなんだな、と理解出来たような気がした。だから僕は、今回のもみじ市で、この人の担当をしたいと立候補をした。誠意を込めて向き合い、精一杯の言葉で紹介をさせてもらう機会が欲しかった。この作り手の素晴らしさを僕の言葉でみんなに届けたいと思った。

そんな想いを胸に抱き、工房を訪れた。そこには、もみじ市のためのいくつもの試作品が焼き上げられていた。小谷田さんの器といえば、ざらりとした表面の黒い器や、アイボリーがかった白い器をイメージされる方も多いのではないだろうか。しかし、展示の度に新しい挑戦を繰り返し、最近では、そこに深い群青色の器や、爽やかな空色の器も加わっている。以前に比べカラフルなラインナップになっているが…。もちろん小谷田潤、今回はそれだけでは終わらない。なにせ、今年のもみじ市のテーマそのものが「カラフル」なのだ。

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上の写真を見て欲しい。ぼくは正直、想像を裏切られた(良い意味で)。青の器はまだしも、黄色い器。小谷田潤の黄色い器! この美しさを写真で伝えるのはちょっと難しい。いままで出会ったことのない美しい黄色。

陶磁器の色は、ベースになる透明なうわぐすりに金属成分を加える割合と、窯の炎との化学反応によって左右される。 焼き上がり、窯から出した時に初めて色が顔を出す。制作の段階では出来上がりの色をみることはできない。もちろん後から色を重ねることも。

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「基本的に絵の具とは違うから、焼いてみるまで出来上がりの色はわからない。焼くと、見たことのない色が出たりする。やってみて少しずつ好きな色に近づけていく。土が変われば色も変わるし、同じ色でもその時に出る色は微妙に違うから難しいんだけど。でも、そういうところがいいのかな」

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担当となり小谷田さんと接していくなかで、気づいたことがある。ストイックなまでの創作に対する真摯な姿勢、そして周囲の人達に対しての深い優しさとは別に、少年のような遊び心も彼の魅力のようだ。今回のもみじ市では作家1人1人を訪ねてメッセージの動画撮影をしている。この撮影の際にも乗りよく遊んでくれた。その様子を見て、情熱や優しさに加えて、この遊び心も一緒に“材料”として作り上げるのが、小谷田さんの器なのだと思った。ぽってりと丸みのある形も、優しい色合いも、毎日の中で繰り返し使いたくなるような気さくな佇まいも、この人のそんな人柄の現れだろう。

2年ぶりに、小谷田潤が多摩川に帰って来る。それは、2年ぶりに、もみじ市が多摩川に帰って来ることを意味している。小谷田潤の新たなる物語と、もみじ市の新たなる物語の幕開けを、あなたの目でしっかりと焼き付けて欲しい。

改めてご紹介しよう。2013年もみじ市のトップバッターを飾る作り手は、この方。情熱の陶芸家・小谷田潤さんです!

【小谷田 潤さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
こやたです。毎日使う器を作っています。たくさんの人の生活になじんでいけばうれしいです。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
群青色です。地味だけど、ちょっと目立ちたいのかもしれません。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
文字通りカラフルな作品を用意します。普段作っているものに加え、色のバリエーションを増やし、少しにぎやかな感じに整列させたいと思います。
あの人とコラボもします。もみじ市でしか作れないあたらしいものを持って行きます。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてのご紹介は今回が初参加!「カラフル」というテーマにぴったりの木工ユニットです。

文●藤枝大裕