松永武さんと高井知絵さんによる型染め・注染のユニット「kata kata」。手ぬぐいをはじめとして、風呂敷、日傘、クッションなどのテキスタイルにまつわる作品を作っている。第1回のもみじ市から参加してくれているふたりは、今ではすっかりもみじ市の顔。今年のもみじ市で前回に引き続きkata kataを担当させてもらうことになった私のもとに、知絵さんからこんなメールが届いた。
「前回のもみじ市ブログを改めて読んだよ。私たちは、上手く言葉にできないからモノを作っている気がするのだけれど、こうやって力強く、完結に言葉に変えてくれるから、なんだか自信をもってもみじ市に参加できるし、kata kataとはこうなんだ! ってことを気づかせてもらってます。ありがとう」
敬愛してやまない一流の作り手が集うもみじ市において、私たち事務局メンバーが担ういちばんの大仕事は、作り手の想いや作品の素晴らしさをより多くの人に伝えるために“ことば”で表現すること。あえて“ことば”にしなくても作品をみればその素晴らしさは一目瞭然で、作品自体がその想いを物語っているのに、それを私の拙い言葉で表現することに、どこか申し訳ない気持ちを抱えていたところもあった。けれど、決して上手ではなくても、“ことば”でしか伝えられない側面や想いがある。だからこそ私たちの役割があって、これこそがもみじ市なのだと改めて気づかされ、背中を押してくれたメールだった。とてもとても嬉しくて、同時に背筋がしゃきっと伸びた。
だから今回も、もみじ市にとって大切なkata kataを、“ことば” で紹介させていただきます。どうぞこの機会に、作品の向こう側にあるおふたりの顔を、想いを、ちょっとだけ覗いてみてください。
kata kataは、“静と動”
“静”は、武さん。「今回はこれに挑戦しよう!」と明確な目的意識を持ち、その姿勢は決してぐらつかない。少しずつ書き溜めたスケッチや断片的な落書きから、その時作りたいモチーフを選ぶ。それはヘビだったり、オオカミだったり、クジラだったり。自分が納得出来るまでじっくりと向き合って完成するデザインは、繊細だけど力強い直線で構成されている。静かで、美しい。
武さんと対照的な知絵さんは“動”。くるくると変わる彼女の表情のように、知絵さんのデザインはとても賑やか。描きたいモチーフがひらめくと、持ち前の集中力を発揮してぱっと勢いよく描きあげてしまう。知絵さんの手によって命を吹き込まれたサーカス団、人形や鳥たちは、今にも手ぬぐいから飛び出してきそうな躍動感に溢れている。作品の作り方も向き合い方も、とても対照的。ふたりの“静と動”の絶妙なバランスから、kata kataの手ぬぐいは生まれている。
kata kataの、“陰と陽”
ずらっと並ぶ手ぬぐいはカラフルで、まるで絵の具のパレットのよう。鮮やかな水色、ぱっと目をひく赤、眩しい黄色。今までの手ぬぐいのイメージを気持ちよく裏切ってくれる色合いは、描かれるモチーフやデザインによって決められている。この色はどうやって決めているのだろう。
「実は、この水色にはグレーが混ざっています。綺麗な色にグレーや茶色を混ぜることで、その色がぐっと際立って、深みが出るんです。派手に見えるけど、実はいろいろ混ぜているんです」
原色の染料に濁った色をほんの少しずつ混ぜる。そのままの色は使わず、すべて少しずつ濁す。手先を動かして絶妙なさじ加減で、kata kataの色は作り出されている。相性の良い染料、悪い染料。型染めに向いた色合いと、注染の方が表現しやすい色。多くの条件の中で、その色は生まれている。明るくカラフルに見える色でも、それだけではその色の本当の魅力に気づけない。陽の裏には陰がある。陰が陽を引き立てる。そうすることで、鮮やかさがより際立つ。私たちを惹きつけてやまないkata kataの色には、長年の経験から生まれた“陰と陽”の魔法が、ひっそりとかかっている。
kata kataと、“制約と自由”
「型染め」と呼ばれる染色技法では、下絵に合わせて彫った一枚の大きな型をもとに布を染める。型は繋がっていなければならないため、その中でデザインを決めるという制約がどうしても出てきてしまう。
「ここは途切れないように上手く繋げて、とか、このモチーフとこのモチーフは色を変えたいから離しておかないと、とか、常に頭の中で考えながらデザインをしています。大変だけど、それが型染めの魅力だから、楽しいんですよね」
型染めを始めてまもなく10年が経とうとしている今年、kata kataは型染めとはまったく異なる技法、プリントの作品を発表した。自らの手で染める作品を中心に作ってきたふたりが、なぜ今プリントなのか。
「型染めや注染で手ぬぐいを作ろうと決めてしまうと、思考も縛られてそれ以上広がらなくなってしまう。もうちょっと考えたら、もっとおもしろいものができるんじゃないかと思いながら作っていたいんです。何を表現したいか、何がいちばん楽しいかをいつも考えています」
そこから生まれたのが、ニワトリ、オオカミ、そしてアホウドリ柄のオリジナルプリント作品。細かなドットが重なるようにして描かれたニワトリは、型染めでは表現することがとても困難なデザイン。少し厚めの生地も、プリントならでは。
「ワクワクする布を作りたいんです。技法や用途も大事だけれど、まずは絵がある。だから、こういうのはプリントに任せた方がいいなとか、型染めがいいなとか。何を表現したいかによって技法を選んでいるんです」
型染めにある制約とプリントにある自由の中で、布を作りたいという想いに正直に、今日もkata kataはより楽しく表現する方法に想いを巡らせている。
kata kataは、“来年で10周年!”
一生懸命に、でも楽しむことを決して忘れずに作り続けてきたkata kata。活動を始めてから10年が経とうとしている。
「作品が受け入れられて売れることは嬉しいです。でも、自分たちも楽しくいたいっていう気持ちもあります。常におもしろいものを作っていたいんです。自分たちが楽しければ、それが伝わって周りも楽しいと思ってくれるんじゃないかと信じてます。自分たちが楽しく熱中出来ることが大事で。それは、この10年ずっと変わっていないし、これからも変わらないと思います」
もみじ市は大人の文化祭だという武さん。来てくれたお客さまの心の中に、少しでも多くの楽しい思い出が残って欲しい。そう願うふたりは、毎回のように楽しい仕掛けを用意してやってきてくれる。今回もいろいろと考えてくれているとのこと。
いつまでたっても楽しいことに夢中になっていたい。このふたりに会うといつもそう思う。
「カラフル」とは「色彩に富んだ」「華やかな」という意味。いつでも楽しむことを忘れないふたりが作るものは、私たちの生活をより華やかにしてくれる。これまでも、これからも。
【kata kata 松永武さんと高井知絵さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
型染めと注染と、最近はプリントによるオリジナルの染布を制作しています、kata kataです。布を広げた時に、ものがたりを想像できるような、会話が生まれる作品作りを心がけています。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
じゃあ、染料の名前で答えてみようかな。
武さん : グリーンBA (緑)
知絵さん : S・ターキスブルーFBLL 167% (水色)
です。どんな色かは、当日聞いてくださいね。
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今年のテーマ、カラフルですよね。どんぴしゃすぎて困ります! 逆にモノトーンとか作りたくなっちゃいます! というのは冗談ですが、(テーマをおいといて)いつも通りやりたいことやろうと思います。カラフルにとらわれて小さくまとまってしまうことなく、好きなことをやらせていただきます。でも、必ずあなたのこころをカラフルにしますよ。ふぉっふぉっふぉ。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
続いてご紹介するのは、イラストレーションとグラフィックデザインの見事なコラボレーションを実現するあのおふたりです!
文●高松宏美