机の上にその箱が置かれると、一瞬にして箱の周りにあるものの見え方までもが変わった。机の木目、傍に置かれたグラス、照明の光、それが作る影までもが美しく見える。箱の蓋をそっと開けると、美しい焼き菓子が綺麗に並べられていた。
これは、もみじ市のときだけ結成されるチーム「marutoとle perchoir」による「oyatsu+hako」。焼き菓子を作るmarutoの清水美紀さんと、イラストレーターの石坂しづかさん・口広真由美さん(le perchoirは、石坂さんと口広さんのユニット名)の3人がコラボレーションして作った、もみじ市限定のおやつの箱だ。
「自然と出会ったんですよね。縁があって、出会って、一緒に出かけたり、おいしいものを食べたり、それぞれ違う感性だけれど、それぞれの感覚を信頼していますね」
3人の関係について、こう話してくれたのは石坂さん。書籍の装丁や雑誌の挿絵、CDのジャケットなど、さまざまなメディアで活躍する石坂さんのイラストは、どうやって生まれるのだろう?
「あの時見た光の感じ、あの時の美しかった光景……旅先で出会った色だったり、匂いだったり、そのとき感じた感覚、空気感をなんとか表現したい、と思って描いています。手が先に動いてゆくこともあります。それでも、手と脳は繋がっていて、手を動かすことによって、“あの時の空気感”を見つけ出せたりもするんです」
石坂さんは旅先などで好きな色を見つけると、帰って来てからそれを画材やパソコンで再現してみるそう。いわば、「記憶の色」を「実在の色」にするのだ。時にはそれをプリントアウトしてみる。そうやって、世界中から集めた色をストックして、絵を描くときに出会った景色の空気感を紙に落としてゆくのだと、石坂さんは教えてくれた。
石坂さんが旅先で見つけた色、かっこいいと思うもの、匂いや、おいしいと思うもの、美しいと感じた一瞬が、やがて石坂さんが描く絵の中に表現される。だから私たちはその絵の持つストーリーに、線や色の持つ景色に、ふと立ち止まってその先の世界を想像するのだ。
今日という一日は、一瞬は、人生のなかでもう二度と訪れない。今見えている景色はもう二度と見ることが出来ない瞬間の連続だ。それでも私たちは作り手が感じた過ぎ行く一瞬を、作品を通して味わうことができる。それは、とても幸運なことだ。
石坂さんと口広さんの“甘い記憶”が閉じ込められたイラストは、今回もみじ市で、甘いお菓子を包む。ふたりが作る箱の中に入るのは、清水さんが作るお菓子だ。箱の中のお菓子を、そっと箱から取り出し、食べてみた。じんわり暖かい気持ちになる味で、食感も口に入れた時の大きさも、しっくりなじむ。ずっと昔から食べていたような、ずっとこれからも食べていくようなお菓子だ。
「味はもちろん大切にしていますが、箱を開けるとき、食べるとき、誰かにプレゼントするとき、いろんな場面を想像しながら作っています。それから、お菓子には自分の気持ちが味にとても影響すると思うので、作るときはいい気分で楽しく作っています」(清水さん)
「もみじ市は自分が思うままに、楽しんで作れる場所」という3人。
「実は『お菓子の入った箱』の他にもうひとつ『何かが入った箱』も販売します。『何か』の中身はナイショですが…」
と、石坂さん。箱を開けるまでわくわくが続きそうな、箱好きの3人ならではのいたずらな仕掛け。中身をこっそり教えてくれたのだけれど、ここでは秘密にしておおこう。
marutoとle perchoirの3人が、甘いおやつと、楽しい気持ちと、3人の友情をたっぷり詰め込んだ箱を持って、多摩川河川敷へやって来ます。清水さんのおやつを食べてしまった後はどうか、もみじ市の記憶を、石坂さんと口広さんの箱にそっとしまっておいて下さいね。
【marutoとle perchoir 石坂しづかさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
marutoは東京で焼き菓子を作っている清水美紀さん、le perchoirはイラストレーターの石坂しづかと口広真由美のユニットです。le perchoirはフランス語で止まり木という意味で、いろんな人の止まり木になってアイディアなどを増やせたらという気持ちで付けた名前です。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
水色です。
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
色々なイラストで、たくさんの箱をカラフルにしたいと思います。ひとつの箱の中にいろいろな種類のお菓子が入っているので、味でカラフルを表現したいと思います。
le perchoirのお楽しみ箱は、もみじ市を楽しんでいただけるように心をこめてつくりました。秋の一日を色々な人達と楽しく過ごせたら嬉しいです。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
さて、続いてご紹介するのは、歌なき歌を奏でるおもちゃの鼓笛隊。今年初出演となるあの人たちが会場を盛り上げてくれます!
文●鳥田千春