食堂souffle「souffleと京都の仲間たち」

食堂souffleは、京都市の西にある円町という小さな町の、さらに小さな商店街の中にある。ゆるやかな坂道をのぼり、桜の木のある公園を通り過ぎると、やがて鮮やかな黄色いひさしが見えてくる。その黄色は、souffleそのものだ。あたたかく光にあふれ、元気と笑顔をくれる色。黄色いひさしを目にすると、扉の向こうにある“彼女”の笑顔が浮かび、自然と心が明るくなる。

この小さな食堂がオープンするまでの間には、たくさんの物語がある。それは、食堂souffleができるまでの物語でもあるけれど、同時に手紙社とsouffleをつなぐ大切な「縁」の物語でもある。 

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食堂souffleの店主・田中沙由理さん。約1年前まで、京都を拠点にケータリングや出張カフェを中心としたフードデリバラー「souffle」として活動していた。小さいころから、料理上手のお母さんのそばで、気がつけば包丁を握っていたという。そんな沙由理さんが「お店を開きたい」と夢を抱いたのは、近所のお姉さんと一緒に初めてパンを作ったとき。オーブンの中でムクムクと膨らむパン生地にワクワクして、いつまでもオーブンの前を離れなかった。成長したお料理好きの少女は、パン屋さんやレストランで働きながら、いつか自分の店を持つ日のためにフードデリバラーとしての活動をはじめる。

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手紙社とsouffleとの出会いはこのころだ。まだ店もなかった頃から手紙社のwebを見ていてくれた沙由理さんは、つつじヶ丘にカフェができたと知って、一人で京都から訪ねてきてくれた。さらにその後、当時の勤め先だったカフェレストランの仲間とともにもう一度。さらにさらにその後、もみじ市のボランティアスタッフとして、京都から夜行バスに乗って駆けつけてくれた。彼女の信念はこうだ。「会いたい人には、自分から会いに行かなくちゃ」。その行動力と、会う人みんなをあたたかい気持ちにしてくれる笑顔で、souffleはあっという間に手紙社にとってかけがえのない存在になった。

ある日、カフェ手紙舎に最大のピンチが訪れる。大人数のディナー予約が入っているというのに、シェフが急病という一大事。このとき、電話を受けてすぐに新幹線に乗り込み、新幹線の中でメニューを考え、わずか数時間でとびきりおいしいディナーを用意してくれたのが、沙由理さんだった。それはまるで映画のようなエピソードだけど、彼女にとっては当たり前の行動だったのだと思う。souffleは、いつでもどこでも誰かにおいしいものを届けたいと願っている。「距離なんて関係ない」と言うだろう。「私のごはんを思い出してくれてうれしい!」と、満面の笑顔で。

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souffleの料理は、沙由理さんの人柄そのもののように優しく、心地よく身体に沁みわたる。洋のメニューに少しだけ和のエッセンスが加えられていたり、季節の野菜や果実をさりげなく取り入れたり、手間と時間を惜しみなく注ぎながらも、気取ることなく自然体だ。だから、一口いただくとほっとして、するすると心がほぐれていくのがわかる。「souffle」とはフランス語で「息」という意味で、おいしいものを食べてほっとする瞬間を作りたいと名付けたという、まさにそんな感覚だ。

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食堂souffleをオープンするまでの間、沙由理さんは何度も落ち込み、涙していた。「物件が見つからない」「両親がお店を始めることに反対している」「工事が間に合わないかもしれない」…。その度に、souffleのごはんに励まされてきたたくさんの人たちからエールが送られた。だから、沙由理さんは「私には作ることがある」と、もう一度顔を上げて笑うことができた。オープンの日には小さな店を埋め尽くすほどの花束が届いた。

オープンしてから半年余り、店には毎日誰かが訪れる。フードデリバラーとして活動していたころからの友人・知人はもちろん、円町に暮らす人々、通勤通学途中に立ち寄る人、ご近所の商店街の人々…。その誰もを、沙由理さんは「おかえり」と言ってくれているかのような笑顔で迎える。

「フードデリバラーをやっていたころは、『souffle=人』でした。でもお店を持って、この場所にみんなが来てくれることがうれしい。『会いたい人には会いにいく』が信念だったけど、今は会いたい人たちがここに来てくれる。だから『souffle=居場所』になれる店を作っていきたい」

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その顔はもう、食堂souffleの店主の顔だ。明るいスマイル印のイエローは、太陽のように強くあたたかい黄金色へと変化し、新たな一歩を踏み出したかのように見える。3年前、もみじ市の会場で汗だくになってテントを運び、「いつか自分も店を持ってもみじ市に出店したい」と語っていた彼女。そのsouffleが、今年多摩川河川敷にやってくる。カラフルで心躍るおいしいごはんと、誰もをあたたかく迎えてくれるハッピーイエローの笑顔とともに。

【食堂souffle 田中沙由理さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
食堂souffleです。スーフルとはフランス語で息。2007年から京都を中心に、出張カフェ、イベント出店、ケータリングなど、ほっとしたりふぅーっと力の抜けるおいしい時間をニコニコお届けしています。隣にいる人が、笑ってくれることが幸せです。2013年春、中学生からの夢を叶えるべく京都の西・円町に『食堂souffle』を開店しました。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
よく みんなに スーフルは黄色だね、と言われます。お店のオーニングが黄色いこともありますが、きっと、声が大きくて元気なイメージだからだと思います。ひまわりとか太陽とかみたいに 明るく元気な人で在りたいといつも思っています。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
souffleのコーヒーと焼菓子、京都市左京区のパンとお菓子と雑貨のお店「ちせ」のtorajam、自家製の果実酒や自家製ジュース、そして1日目は、食堂souffleのカラフル定食をお出ししたいと思っています。京都の友人たちとお揃いの服を着て、青空の下、ニコニコとみなさまを迎えられるよう元気にお待ちしています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いては、第1回より参加してくれている銅・真鍮を使った雑貨の作り手。河川敷にこの人の笑顔がこぼれるのも2年ぶりかぁ。

文●増田 知沙