アルチザン(フランス語で職人)とは、正しくは彼女のような存在のことを指すのかもしれない。「すこしずつ」という意味を持つpetit a petit(プ・ティ・タ・プ・ティ)は、中西麻由美さんが営むパン工房。石臼で挽いて細かくふるった小麦、そして自家製酵母で作った生地に吟味された素材を合わせてていねいに焼き上げられたパンは、ご自宅兼アトリエのある武蔵野市近郊なら直接、ご自身の手でお客さまのもとへ届けられる。
「お店を持つのもいいんですけど、一人でやりたかったんです。自分がやれる範囲内で。そう、すこしずつ」
そんな彼女が作り出すパンは、ある意味とても独創的な味わいをたたえている。それぞれの素材がまっすぐにベースを支えながらも、ほのかな酸味としっかりとした歯ごたえは、どこか一つの芸術作品としての風格すら放っているのだ。それはあたかも、フレンチの一皿のごとく。「けっこう、好き嫌いがわかれると思います」と本人は笑うが、この繊細かつ、じつに力強い舌触りはちょっと感動を覚えるほど官能的で。なにより、そのパンに魅せられ虜になった10年来のリピーターの存在が、静かに熱い支持の多さを証明している。
だが、かといって孤高、というわけではもちろんない。
「ワインが好きで、スクールに通ったりしたんですけれど、けっこう奥が深くて。いくら学んでも追いつかない(笑)。でも基本的なことがわかってくると、『なるほど』ってことが意外とたくさんあって。(ヨーロッパの)南のワインと北のワインでは、ワインそのものの味わいもまるで違うし、それぞれに合う料理もまったく違うんです」
日照時間の多い、温暖な気候の中で育った葡萄を豊かに発酵させた赤ワインは、同じくそんなふうに育った果実をベースにした料理ととてもよく合うし、厳しい天気を耐えぬいた葡萄をベースにした静謐なたたずまいの白ワインは、身の締まった魚料理と相性がよかったりする。
「私が作るのはパンですけど、パンもいっしょに味わうほかの料理やワインがあってこそ、お互いが引き立てあって、はじめて成立するもので。だからこそ、私もただパン自体の味で勝負したいだけなんですよね。ほんとうは、具は何もなし、で作ってみたいくらい(笑)」
この揺らぎない作り手としての矜持(きょうじ)こそがpetit a petitの本質なのだろう。アルチザンたるゆえん、ここにありである。
そんなpetit a petitが今年もまた、もみじ市へやってくる。パン自体が主人公であり、食べてくれる人とのマリアージュ(幸福な組み合わせ)こそを願ってやまない、そんな穏やかなアルチザンの作品との邂逅がふたたび果たされるのは、調布河川敷にて、まもなく、だ。
【petit a petit 中西麻由美さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
03年から、主に通販と宅配でパンをお届けしています。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
モノトーン?(笑)。選ぶ服も黒、グレー、ベージュとかばかりで。いつもおなじ服を着ているように思われちゃいます(笑)。
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
パンはいつも通販などでお出ししているようなものを、いろんな種類持っていきます。あと、今回は焼き菓子も出そうかなと。外見からというよりは、中身にいろんなものを入れて、断面でカラフルを表現するというか。自分の範囲内でのカラフルに挑戦します(笑)。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
さて、続いてはあの農家さんが採れたての野菜を積んでやってきます!
文●藤井道郎