ルヴァン「天然酵母パン&パイ」

まるでひとつの大きな家族のようだ。

そのお店とそこを訪れる人々の関係性を言葉にしようとしたらこんな言葉が浮かんできた。

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渋谷区富ケ谷。代々木上原の駅の方から井の頭通りの坂をちょうど降りきったところに、天然酵母パンのお店「ルヴァン」はある。20年以上の歴史を持ち、日本に天然酵母のパンをここまで根付かせた、我が国のパンの歴史を語る上で欠かせないお店だ。

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店内にある石窯で焼くルヴァンのパンは、長い間受け継いできた自家製の酵母と国産の麦を使い、どっしりとたくましく、噛めば酵母の酸味や小麦の香りがふんわりと立ち上る。さらに噛むと甘みが口の中を満たしていく。噛めば噛むほど甘みは増してくる。一度、それを体験してしまったら、もうこのお店の虜だ。

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「こんにちは!」「この間はありがとう」「久しぶり、お元気でしたか?」
店内ではいつも親しげな挨拶が交わされている。ルヴァンを知ってからもう何度もこのお店を訪れているけれど、いつもこんな具合だ。そして、ここで働く人はみんな活力に満ちたとても良い顔をしている。いつ何時に訪れても、帰ってきた家族を「おかえり」と迎えるような、そんな笑顔を向けてくれる。パンの味ももちろんあるけれど、この親密な空気に触れたくてついつい足を運びたくなってしまうのだ。

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オーナーは甲田幹夫さん。家族の長。いつも笑顔の、だけど強烈な求心力の持ち主だ。甲田さんが店にいると、お客様はみんなみんなにひっきりなしに声をかける。お店を訪れる人はもちろん、お店の前を自転車で通り過ぎる人さえも、甲田さんの顔をみて、「あら、こんにちは!」と声をかけていく。東京の真ん中で、こんな光景が繰り広げられていることが、すごいと思う。

IMG_4633隣に併設するカフェ「ル・シャレ」では、パンのプレートや珈琲を楽しめる。

「お店は人だからね」
甲田さんは言う。
「お客さんが来た時に感じる心地よさ。それがなんなのかをいつも考えながらやってるよ。例えば、お客さんがカフェに通う理由って、美味しい珈琲を飲みに行くってことはあるけど、あの人がいるから行くってこともあるよね」

IMG_4651この夏より始めた“かきごおり”。「ずっとやりたかった」という甲田さんが自ら作ってくれた。

「うちの場合、お店に段差がないでしょう? お店の前を通る人も、お客さんも、スタッフもみんな同じレベルで接している。すると、前までお客さんだった人が働いてくれたり、働いていたひとがまたお客さんになっていたりしてくれて、みんなつながってくれる。そういうのが良い空気を作ってくれている気がするな」

働く人もできるだけ、自由に伸び伸びと働けるように考えているという甲田さん。その成果は、ルヴァンで修行し、独立した数々のお店の活躍が物語っているだろう。巣立って行ったお店は両手でも数えきれないほどで、名前を挙げればそうそうたる面々が顔をそろえる。

卒業後も機会がある毎にお店を訪れたり、来てもらえたりと変わらず交流があったりもするそうだ。そんなつながりの深さも「大きな家族」のようだと感じる理由の1つかもしれない。

もみじ市でもたくさんのお客さんを包み込んで、“家族”の輪に加えてくれるのではないだろうか。

ルヴァンに流れるこの親密な空気が、あの河川敷でも流れるのだ。

【ルヴァン 甲田幹夫さん、まこさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
はじめての方も、いつも来てくれている方も、こんにちは。パン屋のルヴァンです。

一口食べると、お口がほろんで、二口食べると、お顔がにっこり、三口食べると大好きな人たちと分かちあいたくなるパン。そんなパンをお届けするのが私たちという気持ちで「おいしいパン焼けました、いかがですか~。」と歌っています。
どんなパン屋かな? 気になりましたら、寄ってみてくださいね。四口目に起こることが…わかるかもですよ。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
私たちは「カンパーニュ色」。カンパーニュ色はパン色でもないし、茶色でもないんです。おいしさの色です。

どんなオイルにも合うし、お惣菜にもあう。彩り鮮やかなジャムにもあう。そうとう、かっこいい色なんです。

幸せな人を彩る色でもあり、人を幸せにする可能性を秘めた色でもあります。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
幸せとおいしさが詰まったパンたち。色は季節の色が、自然の色が表現できたらいいな。お楽しみに…

演出は、自然体のルヴァン。なにが飛び出すやら、かな。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、キュートな笑顔のフードコーディネーターとブローチ作家のあのコンビです!

文●藤枝大裕

わいんのある12ヶ月「カンパーニュ、ベーグル、焼き菓子、わいん、ビール、ソフトドリンクなど」(20日)

ワインとは、パンとは、そして食卓とは。かくも気取らずシンプルで、にぎやかで、幸福に満ちたものではなかったか。「わいんのある12ヶ月」という屋号の台所から届いた祝祭にあふれたパンたちをはじめて口にしたとき、胸に去来したのははたしてこんなストレートな想いだった。

高橋雅子さんの主宰するそれは、<自家製酵母と少しのイースト>をキーワードにパンレッスンを行う、東京で99年から続くパンとワインの教室。彼女を慕って四国、九州、果てはハワイから集う生徒さんたちに囲まれながら、味わいもカラフルなパンと、ワインが進む飾らないおつまみ、確かな選球(?)眼に裏打ちされた豊かな表情のワインが、今日も次々とテーブルへ紡ぎ出されてゆく。

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比類なき人気もそのはず、彼女たちがレシピにしたため、伝えようとするストーリーはただ一つ。日常の再定義、である。脂の乗り切った秋刀魚をターメリックでほのかに包んだスパイシーなデニッシュも、長葱の甘みを最大限に引き出したほろ苦くも繊細なキッシュも、イタリアン・チーズの王パルミジャーノをほのかに凍らせたモダンなジェラートも、すべては日常的に手に入る食材をほんのちょっとだけ一手間かけ、エレガントにアップデートしたもので、つまり日々に忙殺され、世界中の食卓が忘れかけた、家族のはじけるような笑顔を、ささやかな悦びを、あたたかな団欒を、とても優しく美しい方法でそっと再起動しようとしているのだ。

だからこそ、なのだろう。「料理は毎日のことだから、堅苦しいのは、ね」と快活に微笑む眼差しの奥には、一点の曇りもない。そこにあるのは、いうなれば民俗学の伝統的な概念、<ハレ(非日常)>と<ケ(日常)>の<ケ>をこそ静かに慈しむ、確かな意志だけである。

だが、そんなチームを率いる彼女がこうも続けてくれたのは、ぼくたちにとってなんとも幸福な誤算だった。

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「じつは『わいんのある12ヶ月』というチームプレイを本当の意味で100%できるのは、普段の活動を通してももみじ市だけ、なんです。私自身は『わいんのある12ヶ月』の高橋雅子、として仕事をしているつもりなんですけど、ほとんどの場合は高橋雅子っていう、私個人の名前で世に出ていて。うちには何人もスタッフがいますが、そのスタッフ全員が一堂に会して表舞台に立てるものって、そうそうないんです。だから、私たちにとってのかけがえのない文化祭、なんですよね」

そう、<ケ>と真摯に向き合い続ける彼女たちが、そのチームとしての活動の唯一の<ハレ>の舞台として定義しているのは、ほかならぬもみじ市、だったのだ。

ならば、さあさあお立ち会い! ぴかぴかに光るボディの車の中で身体を寄せ合いながら、とびっきり陽気な楽団がごきげんなナンバーをかき鳴らしてパレードを牽引する、全員が主役であり脇役のバンドワゴンのように。年にたった一度、多摩川の秋風と太陽に祝福された彼女たちがパンとワインで奏でる最高にグルーヴィなショウ、目撃しない手はない。

【わいんのある12ヶ月 高橋雅子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
パンとワインの教室を主宰しています。書籍や雑誌への執筆、企業へのレシピの提供なども行っています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
扱っているのがパンとワインというのもあって、チームとしてはどっちの色にもかたよりたくない、というか。むしろ茶色やワインレッド、そんな暖色系を引き立てる色のほうがいいですね。暖色系なイメージのメンバーも、意外といないし(笑)。だからやっぱりもみじ市の、あの空の色かな。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
パンは、わいんのある12ヶ月からはカンパーニュを4種類ほど、代々木八幡で開いているベーグルショップtecona bagelworksからはベーグル、焼き菓子、ビスコッティ、フォカッチャを。ワインは、夜呑むのに似合うワインではなく、あの空の下で呑むのが似合うワインにしたいので、レモンをキュッと絞ったような、さわやかな白や、ちょっと冷やして呑めるくらいのすっきりした赤を用意しようかと。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、いつも賑やかにもみじ市を盛り上げてくれるあの型染めユニットです。この人達がいなくちゃ始まらない!!

文●藤井道郎

CICOUTE BAKERY チクテ ベーカリー「自家製酵母のパンとsandとお菓子たち」(20日)

ちいさな女の子がひとり、パンが入った紙袋を両手でぎゅっと抱えて店から出てきた。こちらをちらりと見て、小走りに団地の中へと去っていく。

東京都八王子市南大沢にある、緑豊かな団地の商店街。静かな時間が流れ、空が大きくひらけた気持ちのよい場所だ。今年3月、この場所へ引越してきたパン屋さんを訪ねた。

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CICOUTE BAKERY チクテ ベーカリー」。自家製の酵母と国産の小麦を用いて、酵母と対話をするように一つひとつのパンを丁寧に焼いている。店に入り、しばらくすると工房から真っ白なマスクと頭巾を着けた店主の北村千里さんが、ぱたぱたと急ぎ足でやってきた。「どうぞ」と、商店街の広場を臨むテラス席に案内してくれた。

美術大学で陶芸を学んでいた北村さん。なかなか思うように形に出来ず、自分にはあまり向いていないのかも、と思ったという。その後、興味があった8mmフィルムの学校に通っていたが、お金がかかるため並行して不定期でテレビやCMの美術制作のアルバイトをするようになるが、やはりこれも向いていないのかも…、と感じていたある日、ディスプレイ用のパンを見て、「これだ!」と思い立ったそうだ。すぐにカフェベーカリーでのアルバイトを開始。ある日先輩にもらって興味をもったのが、自家製酵母のパンだった。当時は自家製酵母のパン屋さんも、その作り方を教えてくれる本なども今のようにはなかったのだが、そのパンを口にしてはっきりと分かったことがあった。

「酵母からつくっても、生地は発酵するとしっかりとふくらみ、香り豊かなパンが焼き上がる。そのすべてのプロセスに感動したんです。バターやミルク、副材料を使わずに、酵母・塩・水・粉だけでこんなにおいしいパンが作れるなら、やっぱり自分はこっちだ! 酵母からつくるパンをつくろう、そう思いました」

その後、何軒かのパン屋で酵母パンの基礎を学んだ後、雑貨屋で働いていた友人とともに、28歳までに自分たちの“場”をつくろう、と目標を決めた。友人はカフェ、そして北村さんはパン屋さんを。28歳が終わる間際、そんな思いが形になったのが下北沢にあった「チクテカフェ」と、町田市にあった「チクテベーカリー」だった。チクテカフェは惜しまれながらも昨年閉店したが、そのカフェへパンやマフィンを提供していたチクテベーカリーは、今は東京・八王子市へ引越し、新しい街で大人から子どもまで、幅広い年代の人々に愛されている。町田の店舗も準備が整い次第再オープンする予定だ。

北村さんの話を聞いていると、これまでが平坦な道のりだったとは口がさけても言えない。パンを焼いて、車でカフェへ配達。梱包して、卸用に発送。初めはすべてひとりでやっていた。配達の帰り道、工房近くにたどり着いても当初は周りに何もなく、暗くて静かでさみしくて、よく泣いたという。それからも配達中の事故、ヘルニアの手術、と波瀾万丈なパン人生だったわけだが、そんななかでもどうして続けてこられたのだろう。

「自分が世に対してできることは“パン”しかないと思っていました。誰かを喜ばせることができるとしたら、私にはパンしかないなあ、と。おいしいものは人を幸せにできるから。人とコミュニケーションをとるのが苦手で、パンがあるといろんな人と会話できるんです。パンがあるから、人のためになることができる。パンがない生活は、きっとつまらないです」

普段とても謙虚で恥ずかしがり屋な北村さんが、そうやって力強く話してくれた。この言葉を聞いた瞬間、僕はこのつくり手を、そしてこの人がつくるパンをもみじ市で紹介できることを、心から幸せに感じた。つくり手の精神は、その人が生み出すものに宿る。素晴らしいパン屋さんに出会えたことを確信したからだ。 

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チクテベーカリーのパンには、洗練された美しさがある。美しさといっても、見た目だけのことではない。イメージに合った食感、練り込む材料と生地との一体感、香りから余韻を味わうまでのストーリー。食べる人がそのパンに出合い、味わうまでのすべてが“ベスト”なのだ。 

「パンは結果。すべてが出ます。上手くできなかったのはなぜか、原因を見つめていくことの積み重ねです。スタッフにも『生地の声を聞け』と冗談っぽく、言います。本当は冗談ではなく。パンを食べる人がどう感じるか、その目標とする最終地点をまずイメージして、ではそのゴールに行くために、生地はどうさわってほしいのか、どれぐらい寝かせてほしいのか、湿度や外気温にも左右される中、生地と対話しながらその日のベストを尽くします」

同じ種類のパンが並んでいても、おかしな形のものはない。チーズを包んだパンをかじると、片寄らず、真ん中におさまっている。片方かじって、中身が口に入らなかったらがっかりしてしまうからだ。「たとえば、それがつくる側にとっては20個つくったうちの1個だとしても、お客さまにとっては大切な1個なんです」と北村さんはいう。

取材中も、たくさんのお客さまが店を訪れていた。近くに住む人も多いのだろう。スタッフの方と和やかに話していた。気づいたことがある。多くの人が“お気に入りのパン”をもっているのだ。パンを選ぶのがとても早いのだ。今思い返せば、あのちいさな女の子もすぐに店から出てきた。マンゴーの入ったパンが大好きで、よくひとりで家族の分も買いにくるという。

もみじ市には新作のパンも登場するそうで、ただいま準備中とのこと。そのパンもきっと誰かのお気に入りになるにちがいない。

【CICOUTE BAKERY チクテ ベーカリー 北村千里さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
「CICOUTE BAKERY チクテ ベーカリー」と申します。以前の多摩境のお店から今年3月に八王子市南大沢の団地の商店街に引っ越ししました。ゆっくりゆっくり酵母と対話しながら自家製の酵母と国産の小麦で作るパンです。かみしめて粉の甘みと酵母の香りをたのしんでいただけるとうれしいです。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
パン色、または粉色。いつも粉まみれなので。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
ドライフルーツやナッツ、チーズのパンなどの定番のパンから、お菓子やサンドなど、サンドはイベント時のみのものもご用意します。テーマに合わせてカラフルな(?)パンもご用意できたらと思います。お楽しみに。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてはもみじ市の名物のひとつ。ポスターにも乗っているぐるぐる巻きの“あれ”の作り手をご紹介します!

文●柿本康治

きりん屋「自家製天然酵母らっきーぱん」(20日)

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「魔女になりたいんです」

彼女はそう言った。笑いながら、でも真面目そうに。もう立派な大人なのに、小さなお子さんが生まれたばかりのお母さんなのに。彼女は本気で魔女になろうとしているような口ぶりだった。

「魔女になって、パンを通してみんなに元気を与えられたらいいなと思って。『魔女の宅急便』の主人公・キキのお母さんが、魔法の薬草で人を元気にするみたいに」

ふと店の天井を見上げると、魔女のオブジェが悠々と空を飛んでいる。部屋につり下げられたくさんのドライフラワーも、棚に飾ってある古い瓶も、そして、この場所が木々に囲まれた山の麓にあることも、すべてが怪しく思えて来た。彼女は、ほんとうは魔女なのかもしれない。

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『ごっつくて、力強くて、生命力がみなぎっている』

これが、私のきりん屋さんのパンに対する印象だった。「パン」に対する褒め言葉とは思えないかもしれない。「おいしい」「もちもちしている」「香ばしい」という感想はもちろんすべて当てはまるけれど、そんなありきたりな表現では伝わらない気がして、どれも違うと思ってしまうのだ。

初めてきりん屋のパンを口にしてから5年以上が経った。もみじ市にはこれまでに2回参加してくれている。その間じゅうずっと抱いていた疑問を解決すべく、私は三重県へと向かった。どうして、こんな「強い」パンが焼けるのか? 「生命力」の源はどこにあるのか? それを聞き出そうという意気込みと、あのパンの焼きたてが食べられるという期待に胸を踊らせながら。

その店は、山の麓の道すじにあった。茶畑のほかはあまりにも何もない道が続くため、ほんとうにこの辺りに店があるのかと心配になるころ、通り沿いにぽつりと赴きのある小屋が現れた。正直、「みんなこんなところまで、パンを買いにくるんだ」と思った。“わざわざ”行かないと、きっとそこへはたどり着かない。

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赤畠由梨枝さんに会うのは2年ぶり、前回のもみじ市以来だ。小柄でかわいらしく、ストローハットが似合い、ケラケラとよく笑う。どう見ても、あんなストイックなパンを焼くようには見えない。赤畠さんと、こんな時間を持つのは初めてだった。3時間以上もの間一緒にいて、たくさんの話を聞き、パンを焼く姿を見せてもらった。けして饒舌とはいえない彼女は「なんでやろう?」「なんでやったかな?」と何度も繰り返しながら、言葉を選ぶように私の疑問に答えようとしてくれた。

実はいまここで、きりん屋さんを紹介するにあたり、あの場所で感じた何を伝えたらいいか、私は戸惑っている。赤畠さんがどんなに魅力的な人か。その店がどんなに美しく、彼女が焼くパンがどれほどたくましかったか。そして、私たちのために焼いてくれたピザが、生地のはじっこまでどれだけおいしかったか。伝えたいことが次々と溢れ出て来る。溢れすぎて、頭の中がザワザワするのに、ありきたりな飾り言葉は軽すぎて全部違っているような気がして、なかなか次の言葉が出て来ない。パソコンを打つ手が止まってしまう。そんな日が何日も続いている。

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彼女が何度も繰り返していた言葉が、頭の中で渦巻く。
「力強いパンを焼きたい」
「感動するパンがつくりたい」

それは、ずっと私が感じていたことでもある。「力強くて生命力にあふれる」という、彼女のパンに対する印象は、彼女の魂から来ているのか。彼女の強い思いが、工房の空気を伝わり、彼女の手のひらを伝わり、パンのなかに閉じ込められているのか。

ただの「おいしいパン」なら、本を読んだり人から教えてもらえばどうにかたどり着きそうだけど、力強いパン、感動するパンはどうしたらできるものなのか。具体的に目指すパンがどこかにあったのか。

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ある1冊の本を見せてくれた。タイトルは「THE BREAD BUILDERS」。ロサンゼルスにあるパン屋さんの本だ。その写真にあるパンは、確かに焼けこげていて、ごっつくて、大きくて、力強くて、こちらに訴えかけて来るものがある。その中の1ページには、お母さんが子どもをおんぶしてパンを作っている写真もあり、それもいいという。「この写真をイメージしながら、何度も練習しました。英語だから、中身はぜんぜん読んでいないけど(笑)。技術的なことはわからないから、何度もつまづいた。やってやっての繰り返しでした」

パンづくりを人に習ったことはない。本と見比べて作っては人に食べてもらい、改善しての繰り返しだったという。そして、いまの自分のパンも「まだまだ弱い」と言い切る。ならばどうやって、さらに強いパンを目指しているのか。

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「負けるもんか、っていつも思っています」
いったい何に?
「何かわからないけど、とにかく負けるもんか! って」

強いパンを作りたい、負けるもんか。心のなかで繰り返しながら、無言でパンを捏ねている赤畠さんの姿が目に浮かぶ。赤畠さんが勝負している相手は誰なのだろう? それは、全国のおいしいパン屋さんでも、おいしいパンを求めてくるお客さまでもない。負けたくない相手。それは、「このくらいいいだろう」「こんな感じかな」と妥協する自分ではないだろうか。自分が『これだ』と思うパンまでにいきつくまで、負けないということか。

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力強いパン、感動するパンという言葉には、おいしいこと、香りが高いこと、体によいことが、すべて満たされているように思う。それがすべて合わさっているから、感動するのだ。感動して食べるから、私たちの血となり、肉となるんだ。彼女は「まだまだ弱い」というけれど、もうそれはお客さまには伝わっている。だから、みんなきりん屋のパンを食べたいんだ。きりん屋のパンが好きなんだ。これを求めて遠くからでもやってくるんだ。彼女が作るパンは、人を喜ばせ、人を元気にしている。

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10ヵ月前、彼女に子どもが生まれた。母となった彼女は、パンに打ち込む時間がだいぶ減ってしまったけれど、たくさんのお客さまを待たせてしまっているけれど、「パンを楽しんで焼けるようになった」と話す。これまでは作ることに追われる毎日だった。期待に応えたいと、無理をしていたかもしれない。いま、子どもの時間に合わせるなかで、限られた時間を楽しめるようになった。「視界が広くなった」「いろんなことが受け入れられるようになった」と話す。彼女のとんがった部分が、母になって少しまるくなったのかもしれない。優しく、おおらかになったのかもしれない。

ある人がこんなことを言っていた。
「優しいことは強いこと」

母になった彼女は、ますます強くなる。そして、もっともっと力強く、私たちに感動を与えるパンを焼いてくれるだろう。

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取材前に意気込んでいた「なぜ強いパンが焼けるのか」という疑問については、結局のところ真の理由は理解できなかった。そして、到底それをわかることはできないだろうと、もうあきらめることにした。

だって彼女は、魔女なんだから。

【きりん屋 赤畠由梨枝さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
三重の田舎町にある小さいぱん屋。きりん屋です。自然をいっぱいすいこんだ、にこにこぱん焼いています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
今日は飴色です。憧れは、ピンク色です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
お客様のこころが色とりどりになれるような、楽しいぱん達をつれていきます。どうぞよろしくお願いします。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、“フェルトのこども”という意味の名前で活動をするあの人です。

文●わたなべようこ

SEED BAGEL&COFFEE COMPANY「ベーグルとクレープとカプチーノ」

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もみじ市を休んだこの2年間で、たくさんの人に会った。たくさんのすばらしい作品に出合い、たくさんのおいしいものに巡り合った。

だからといって、素晴しいと思ったすべての作家さんをもみじ市にお誘いしているかと言えば、そんなことはない。取材してわかった。私たちはこういう人と一緒に何かをやりたかったんだ。SEED BAGEL&COFFEE COMPANYの平野大輔さん、小川美月さんみたいな人たちと。

いくらベーグルがおいしくても、いくら店の空間が素晴しくても、それだけではきっと、声をかけることはなかっただろう。好奇心が強くて、ノリが良くって、人懐っこくて、やんちゃな少年のような平野さん、そして、それを母親のように支える美月さんに、もみじ市に来て欲しかった。もみじ市は私たちにとって、特別な場所だから。

初めてそのベーグルを食べた時、衝撃が走った。大げさに聞こえるかもしれないけれど、こんなにもっちりして弾力があり、心からおいしいと思うベーグルを食べたのは初めてかもしれない、と思った。それほどおいしかった。

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忘れもしない、いまから2年前の11月。手紙社が企画する「森のカフェフェス in ニセコ」というイベントの打合わせのため、北海道・ニセコを訪れたときのことだった。地元の方に、森のカフェフェスにお誘いするべきお勧めのカフェを伺ったところ、そのうちのひとつとして紹介されたのが、SEEDだった。

その日は急いで札幌に戻らなければならず、ベーグルだけ買って帰ることにした。ほんとうなら天井が高くて、明るい窓に囲まれたその店でゆっくりとベーグルとエスプレッソを楽しみたかったのだけれど。カウンターにずらりと並ぶ、こんがりと焼き焦げた丸くてかわいらしいベーグルのなかから、慌てていくつかを買い求める私たちを見かねて、平野さんは冷たいお水をそっと差し出してくれた。
「これ、羊蹄山の湧き水なんです。おいしいですから、お水だけでも飲んで行って下さい」
すっきりとクリアで、奥の方がかすかに甘い。それはそれは、おいしい水だった。

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そして、その帰り道に車の中で食べたベーグルが、あの衝撃的なベーグルだったのだ。

それからというもの、あのベーグルがふと食べたくなるときがある。だから、東京とニセコという遠く離れた距離にあるにも関わらず、私たちはパンを販売する機会があると、まっ先に平野さんにメールを送る。「イベントで販売させてもらえませんか?」と。平野さんは、いつでも快く「よしきた!」と言わんばかりに引き受けてくれる。次第に、私たちと平野さんの距離は、実際の距離を忘れさせてしまうほど近くなった。

森のカフェフェスの打合わせの際、ニセコに行くときは必ずSEEDに寄る。たとえ、わずかな時間しかなくても、平野さんの顔を見て「こんにちは。元気?」と言いに行く。まるで、隣町の友達に会いに行くみたいに、気軽に、ふいに。何の連絡もせずに行くから、平野さんはいつも、ビックリした様子で、少し慌てふためいた顔をして、私たちを迎えてくれる。あるとき平野さんが、手紙社の代表である北島のことを、こんなふうに表現した。「体育の先生みたい」と。
「突然、見回りにやってくるじゃないですか(笑)。だから、ちゃんとできてるかな、って緊張して、ソワソワするんですよね」
言い当てていて、なんだかおかしい。

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SEEDのベーグルは、北海道産の小麦と天然酵母が使われ、たくさんの緑から生まれた空気と、羊蹄山から発せられているであろう、地力のようなものに包まれた中でつくられている。水は羊蹄山の湧き水を使う。週に2〜3回、たくさんのタンクを持って湧き水を汲みに行く。もちろん、雨の日でも、雪の日でも。ニセコの自然の恵みを余すことなく使い尽くし、それだけでもおいしいものができそうだけれど、平野さんのベーグルには「こんなベーグルは初めて」と思わせるとっておきの理由が、もうひとつある。それは、世界中をさがしても、おそらく他のだれもやっていないであろうこと。成形の方法だ。

一般的にベーグルは、まず、具材を包んだ細い棒状の生地を作り、その両端をつなげることで円にしている。だが、平野さんの方法は違っている。 「まず、生地を丸い板状に伸ばします。円のふちにそってぐるりと一周具材を置いたあと、外側の生地を引き伸ばしながら、具材を包むように中心に向かって丸め込みます。そして、中心の生地とつなぎ合わせながら整えて行くと、自然と中心に穴が空き、ドーナツ状にできあがります」

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なんでこんな面倒なことを…。

「知らなかったんですよね。ベーグルってどうやってつくるのかって。考えながらやってみた結果なんです。それに、つなぎ目を作りたくなかった。きれいな『丸』が作りたかったんです」

作り方を誰かに習ったことはない。だから、他の人がどうやっているのか、自分のやり方が正しいのか、まったくわからないという。その後、本で読んだ一般的な成形方法でもつくってみたけれど、やっぱり自分流の方がおいしいと感じた。これで行こうと確信した。たとえ、手間と時間がかかろうとも。おそらく、生地が引っ張られ、中心に向かって具材を包み込むときに、複雑なねじれや空洞が生まれ、それがもっちり感を生み出しているのだろうと推測している。本当の理由はわからない。

そうか。誰かと同じやり方で作れば、簡単にある程度の完成度に近づけられるけれど、その人以上のものはできない。自分が見いだしたやり方なら、自分だけのおいしさができるのだ。だから特別なんだ。だから強いんだ。

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店のオープンは朝8時。名古屋地域に広がる「モーニング文化」を取り入れてみようと、朝はコーヒーを頼んだ人には、べーグルをおまけでつけている。オープン当初から始めたこのサービスを続けていくのは、けっこうたいへんなことだけど、それを求めてきてくれる人がいるからと、今もそのスタイルを続けている。モーニングに間に合わせるため、明け方3時ごろから仕込みに入る。今となっては小さく感じてしまうオーブンでは、1回で焼けるベーグルの数はわずか12個。それを毎朝8〜10回フル回転させ、その日に販売するためと、卸先に届けるためのベーグルをつくる。

太陽が高く昇ってきた頃、お客さまがひと組、またひと組とやってきた。外国人観光客や別荘が多いこの地にとって、ここは、朝食のためのおいしいコーヒーと焼きたてのベーグルをいただける貴重な場所なのだろう。常連のお客様と自然に会話をする、平野さんの和やかな顔がそこにあった。

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もうすぐ、もみじ市がやってくる。いつもは私たちがニセコにある平野さんのお店を訪れるけれど、この日は違う。もみじ市の2日間は、私たちが彼らを迎える番だ。

10月19日の早朝、フェリーで新潟に到着する平野さんと美月さんは、その足で多摩川河川敷にかけつけてくる。平野さんのことだから、ひとつでも多くのベーグルを用意しようと、きっと出発の直前まで焼き続け、車に積み込み、運転してくるのだろう。

青く晴れ渡る空の下で、そんな彼らを見つけたら、まっ先に握手を交わそう。そして、こう言おう。「遠くまで来てくれて、ありがとう」と。「ようこそ、もみじ市へ」と。

【SEED BAGEL&COFFEE COMPANYの平野大輔さんと小川美月さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
北海道ニセコ町の有島地区でベーグルとコーヒーの自宅カフェを営んでいる平野大輔と申します。そしてスタッフの小川美月です。よろしくお願いします。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
平野:すぐに頭に浮かんだ色は黄色です。理由はわかりませんが、でも多分黄色なんだと思います。

小川:透明な色。でありたいと思っています、水のような。 時に海のように青く 雪のように白く。大自然と同化していたいのかも 笑

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
ベーグルを出来るだけたくさん、お持ちしたいと思います。

2日目はクレープ屋さんになります。クレープをくるくるーっと焼くのは美月さん担当。平野は全くセンスが無かったです。それとカプチーノ。「カラフル」のテーマに因んでテントをニセコの自然で彩りたいと思ってます。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、天然素材を使った石鹸の作り手。材料となるのは、ハーブ、あずき、白樺。北海道の自然の恵みの結晶がもみじ市にやってきます。

文●わたなべようこ

畑のコウボパン タロー屋「野生酵母パン」(19日)

パンが“生きている”。

それは、生まれて初めての体験だった。取材前、その店のテラスでかじったパンは、「モモ酵母の食パン」。力強くつながれた小麦をちぎるように食み、噛むごとにぷつぷつと細かく弾けるような食感は、まるで生命を体に取り込むような野性的な感覚だ。それでいて、桃特有のふわりとした甘い香りに心は安らぎ、後を引く酸味に惹かれるようにまたひと口、さらにひと口と続く。この店のパンは、明らかに自分が食べてきたパンとは異なる。これからこのパンのつくり手と話せる、そう思うと胸が高鳴った。

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さいたま市浦和区、住宅街の小道を歩いていく。ここらへんかな、そんな予想が何度も外れながら、ようやく目的地となる場所に着いた。「畑のコウボパン タロー屋」。自家菜園から採れる季節の果物・野菜・花から酵母を育て、四季折々のパンを作っている。取材に訪れた土曜日は、今春オープンした新店舗の窓口販売の日。週に二日だけの販売だが、日によっては開店前から列ができ、一時間ほどで売り切れてしまうそう。貴重な営業日、しばらくお店の様子を後ろから見てみることにした。

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近所に住むちいさな男の子。千円札をぎゅっとにぎりしめていた。いつもお使いに来るそう。たしかに慣れた感じだ。「何のパンが好き?」と聞くと、「しょっぱいパンが好き」と答えてくれた。

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続々とお客さんが来る。こちらの方は、「やわらかくて食べやすいパンがいいわ」とスタッフの方にリクエスト。おすすめに従い「巨峰酵母のデザートフォカッチャ」と「モモ酵母の白パン」を購入。スタッフの方が、保存の仕方やおいしい召し上がり方も丁寧に教えている。 

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「汚れちゃうから靴脱ぐね」と店に入ってきたのは、近くの畑で作業を終えた農家さん。大きな「巨峰酵母のノア・レザン」を男らしく買っていった。説明をしているのは、店主の橋口太郎さん。

「動きがよくない」と橋口さんが話すこの日も、取材を始めて少しすると店頭用のパンは売り切れとなった。お店が落ち着いて来たので、テラスのベンチでゆっくりとお話を伺うことにした。

店主の橋口さんは、専門学校でインテリアデザインを学び、店舗設計の仕事をした後、友人とデザイン事務所を立ち上げて、2年間ほど紙媒体のデザインをしていたという。自分が抱いていたクリエイティブなイメージと異なり、実際は受け身な仕事が多く、そのギャップが高まってきたある日、知人から酵母の話を聞く。自分でも酵母を起こせるということに興味がわき、試しに、庭に成っていたびわで酵母を起こしてみた。

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「水に入れて管理するだけで、しゅわしゅわと泡が出て、酵母液が出来る。まるで“魔法”のような体験でした。それから色んな酵母を起こすようになりました。家中に酵母液のビンが転がっていて、まわりにはびっくりされましたね。酵母でパンを作り始めるようになり、実家の畑でも、酵母のために野菜や果物を育て始めました。既存の社会の枠組みにあるものを仕入れなくても、ものが生み出せる。そんな酵母中心の生活には毎日新しい発見や喜びがあって、楽しくて、それがあるからこそ、今パンをつくらせていただいていると思います」

タロー屋さんのパンづくりの入り口は、自然酵母にある。こんなパンがつくりたいから、それに合わせた酵母をつくる、という考え方ではない。起こした酵母の味を確かめ、それに合ったパンを生み出すのだ。初めは副材料を入れるのがこわかった、という。今も酵母の風味を損なわないよう、合わせる素材には気をつけている。これまで酵母といえば、どちらかというと食感を形づくるものかと考えていた自分にとって、酵母由来の香りがわっと広がるタロー屋のパンは驚くべきものだった。

「酵母はたしかにパンを膨らますことに使われますが、単なる膨らましの材料としては考えたくありません。それでは“つくる楽しみ”が薄れてしまう。たとえば、レーズンなどのドライフルーツは甘みが強く、発酵しやすい優秀な酵母です。パンを膨らませる目的だけ考えれば、この酵母だけあれば良い。だけど、さまざまな酵母を起こした時の喜びは、何ものにも代えがたい。それを皆さんにも感じて欲しい。フレッシュな酵母でつくられた季節感のあるパンを皆さんに味わってほしいのです」

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橋口さんがつくる酵母の数は、年間約50種類。1種類の酵母を長年つないで使うパン屋さんもある一方で、タロー屋のパンは季節の素材と「一期一会」だ。

「今も金木犀の開花が遅れていてドキドキしているんですが、必ずしも上手く手に入るとは限らない自然の素材と誠実に向き合うのは、緊張感のいる作業です。気候の変化で素材を使える時期がずれたり、パンを発酵させるために温度や湿度を管理する機器を使っても、外的変化で左右されることもある。ですが、それはつくり手にとって必要な緊張感。釣りをするのが好きなんですが、もしかすると釣りとパンづくりは似ているかもしれません。タイミングを“待つ”こと。酵母の発酵、パンの発酵のタイミングを見誤らず、世話をすることが上手くできた時、おいしいパンができる気がします」

春は、八重桜の若葉で起こした酵母。夏は、ラベンダー酵母。秋は、初めて花でつくった金木犀酵母。冬は、柑橘系やイチゴの酵母。四季の移ろいとともに咲く花が変わるように、つくられる酵母の変化とともに店に並ぶパンも変わる。毎年春の季節だけ来るお客さんもいるそうだ。今年もこの季節になりましたね、と挨拶をするのが橋口さんの楽しみらしい。

今でこそ工房での窓口販売を行っているが、昔は卸販売だけだったというタロー屋。直売を始めたきっかけを尋ねてみた。

「前の工房で卸し用のパンを焼いていると、香りが外に流れていくんです。近くの中学校の通学路にあって、ある中学生の子が『パン屋さん、いつから始まるんですか』と毎日のように手紙を入れてくれて。近所の方々からの声もあり、テーブルにクロスをかけてその上にちょんちょんとパンを置いた、バナナの叩き売りのような状態でお店が始まりました」

そんなエピソードを聞きながら、タロー屋にとって、訪れてくれるお客さまは特に大切な存在なのだろう、と取材前の店の様子を思い返していた。お客さまが外に見えると、「2週間ぶりに来たね」「あの人がいつも買うパン、まだ残ってるかな」と話すスタッフの皆さん。馴染みではない方にもパンの好みを伺ったりと、パンを通して会話が生まれていた。

「僕はパン屋ですが、パン職人と言われると違和感があります。パンをつくりたい、というだけではなく、パンはお客さんと自分がコミュニケーションをとるための媒介のようなもので、“人とつながりたい”という思いがどこかにあるのかもしれません。パンを通して、ここでお客さんとつながることが実はいちばん楽しい。なにより喜びを感じていると思います」

四季折々のフレッシュな素材、そしてそこから生まれるパンを口にする人々。タロー屋にとって、それぞれとの出会いはかけがえのないものだ。

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取材を終えて5日後。タロー屋のホームページを開くと、ボウルいっぱいの色鮮やかな金木犀の写真が、トップページに載っていた。秋色のパンが、もみじ市にやってくる。

【畑のコウボパン タロー屋 橋口太郎さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
さいたま市浦和区の小さなパン工房「畑のコウボパン タロー屋」と申します。四季折々の果物、お野菜、花から酵母を起こしてパンを焼いています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
店先に並ぶ酵母瓶の色にならえば、いまの季節は金木犀のオレンジ色の気分です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
秋の酵母で作るカンパーニュ、フォカッチャなどなど、生命力を感じられるような、元気なパンをたくさん焼き上げて参りたいと思います。金木犀のお花も無事に収穫出来たので、花酵母のパンもご用意したいと思います。噛んで味わい、のど越しに抜ける風味から秋色を感じる…そんなパンをお作りしたいです!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、人呼んで“ミスタークラシックカメラ”。フィルムカメラ専門店を営むあの方の登場です!

文●柿本康治

kuboぱん「ベーグルとマフィン」

気持ちのいい人だな。彼女とはじめて会った時、直感的にそう感じた。清潔感のある真っ白な服。飾らないまっすぐな言葉。ご挨拶をすると、しっかり目を見て、華奢な両手で私の手をぎゅっと握ってくれた。

彼女と彼女の作るベーグルに出会ったのは、木の葉も日の光も秋色に染まった10月頃だったと思う。少し冷たい風が吹く中、温かい珈琲と一緒に食べたベーグルがあまりにもおいしくて、今でもその時のことを鮮明に思い出すことができる。あの日以来私は、すっかりベーグルの、というよりも、彼女のファンになってしまったのだ。

kuboぱんの久保輝美さん。埼玉県でパン教室を開きながらパンの販売も行っている。この夏いちばんの台風が過ぎ去った3連休の最終日、念願だった久保さんのお店兼教室を訪ねた。木の扉をそっと開けると、久保さんがひとつひとつ丁寧に集めた古道具や家具が並んでいる。はじめてお会いした時と同じように真っ白な服を着た彼女は、その空間にとてもよく似合っていた。

kuboぱんのベーグルは、“よくあるベーグル”とはちょっと違う。白くて柔らかそうなそれをはじめて見たとき、ベーグルだとはなかなか気づかなかったほど。私の記憶の中にあるベーグルは、表面がつるっとしていて真ん中に穴が空いていて、噛むとぐっと歯ごたえがあるベーグル。けれど、彼女の作るベーグルは少し違う。細長いコッペパンのような形だったり、かわいらしいハート形だったり。そっと手に取ると、しっかりとした弾力は感じるのに、どこかふわっと柔らかい。一口頬張ると、ベーグル特有のもっちりとした食感の中に、しっとりとした甘みが広がる。食べやすい! ベーグルはちょっと食べにくいものだと思っていたので、正直とても驚いた。

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今から7、8年前。いまのようにベーグルが世の中に浸透する前のこと。パン教室を開いていた久保さんは、ベーグル以外のパンを教えていた。もともとマニュアル通りが嫌いな久保さんは、もっと自由に作りたい! 自分が好きなパンを作りたい! と思っていたそう。ちょうどそのタイミングで、カフェを立ち上げたお友達にベーグルを作ってくれないか? と頼まれ、そこで久保さんはベーグル作りを始めたという。ここでひとりの友人が登場する。小さな頃から本場アメリカのベーグルに親しんできた友人だ。久保さんはその友人に試食をお願いするが、ジャッジは厳しく、何度も「これは違う」と言われてしまう。レシピもない中、記憶の中にある感覚だけでベーグルを伝えてくるお友達に応えるべく、何度も何度も、繰り返し作る日々。結局、その感覚にぴったり当てはまるベーグルは出来なかったけれど、この経験のなかで、自分が「おいしい」と思えるベーグルが出来上がった。kuboぱんのベーグルが誕生した瞬間だった。

それからも久保さんは、ニューヨークで本場のベーグルを食べ歩いて勉強したり、材料や配分を変えてみたり、作る工程を変えてみたり。自身の作るベーグルにたくさんの改良を重ねてきた。もっとおいしいベーグルを作りたい。その想いに、ただひたすらまっすぐに向き合って。

最近、 “ベーグルのkuboぱん”に新しい仲間ができた。マフィンである。なぜマフィン?
「おいしいマフィンになかなか出会ったことがなくて。だったら自分で作ってみようと思ったんです。ちぎるとぽろぽろっと崩れてしまうマフィンではなく、食べやすくておしいしいマフィンを作れないかな? そう思って。試行錯誤しながら作ってみたら、理想のマフィンが出来たんです! おいしかったので教室でも作ってみたら生徒さんにも好評で。これからはベーグルとマフィン、両方届けられたらいいなと思っています」

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毎回もみじ市に出店してくださっているkuboぱん。2年ぶりの開催になる今回、マフィンが初登場する(甘いおやつマフィンとごはんにもなるおかずマフィンを準備してくれる予定)。おやつマフィンは、6月に北海道で行われたイベント「森のカフェフェス」でも大人気だった、フランボワーズとマスカルポーネのマフィン。しっとりとしてずっしりと重く、冷やしてケーキのようにいただくととてもおいしい。他にも新作を試作中とのこと。

「ベーグルやマフィンには、そのときいちばんおいしい季節のものを入れるようにしています。他にも、北海道産の小麦粉を使ったり、ベーキングパウダーもアルミニウムフリーで極力優しいものを使ったり。材料は、ベーグルを作りはじめたころからずっと、自分の目で厳選しています。でも、あまりそれを全面には出したくなくて。おしいしいものを作りたかったら自然とそうなるでしょう? 食べればわかってしまうから、きちんと自信を持っておいしくなるようなものを選びたいんです。なんとなくでも、わかってもらえたら嬉しいかな?」

かっこいいな。やっぱり久保さんは、常にまっすぐでとても気持ちのいい人だ。

そんな久保さん、ふだんは予約で完売してしまうことも多いkuboぱんのベーグルとマフィンをたくさん持って、20日の日曜日に多摩川河川敷にやってきます! 晴れた秋空の下、芝生の上にシートを広げて、温かい飲み物と一緒に真っ白なベーグルを食べてみませんか? 久保さんがベーグルやマフィンに込めたまっすぐな想いを、感じることができるはずです。

【kuboぱん 久保輝美さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
パンのある幸せな暮らしを提案する教室とベーグルの販売をしております。北海道産小麦など美味しい小麦を何種類もブレンドしシンプルな材料で、小さなお子さま、ご年配のお客様も食べやすいよう追求したベーグルを作っています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
白です。1番好きな色。ベーグルの白でもあります。フラットな色なので、みなさんのお好きな色にしていただければ。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
フランボワーズなどのいろいろな色の果物を使ったベーグルやマフィンを持っていきます。
もみじ市のための新作も準備中なので、楽しみにしていてくださいね。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いて登場するのは、もみじ市エンタメ部門の雄、究極の映画ファンのあのお二人です!

文●高松宏美

ヘブンズテーブル「自家製酵母パン&スコーン、焼きたて酵母ワッフル」&「自家製酵母ワッフル作りワークショップ」(20日)

外を見ると、猫が一匹。ガラス戸の前にちょこんと座っている。「今日は何をしているの?」といった様子で外からこちらをじっと見ている。目が合うと、ゴロンと丸くなった。

ここは、ヘブンズテーブル。埼玉県川口市にあるアトリエでは、日々、自家製酵母やイーストを使ったパンづくりのレッスンと季節ごとのおいしい食材を使った料理教室が開かれている。仕事帰りのOLさんや主婦の方、パンづくりに興味のある若者からおばあちゃんまで、様々な人たちがここを訪れる。主催するのはトミヤマトモミさん。第1回のもみじ市から参加してくださっている作り手だ。もみじ市やイベントのときには、アトリエを飛び出して小さな食堂をオープンしたりケータリングをすることもある。“たくさんの人にオイシイ物を食べてシアワセな気持ちになってもらいたい”という思いから始まった、出張食堂なのだ。

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トミヤマさんとの出会いは、私が料理教室に参加したことがきっかけだった。自家製酵母とはどういうものなのかまったく知らなかった私に、今まさに発酵してプクプクと泡のついた果物の瓶を見せてくれて、パンの生地がふくらむしくみと、その楽しさを教えてくれたのが彼女だった。そのとき食べた焼き上がったばかりのパンの鮮烈な香りと美味しさは、今でもはっきりと覚えている。酵母の香りを生かすために独自の方法で焼かれた、しっとりおいしいパンなのだ。

さきほどの猫は、ノラ猫の“しっぽ”。短いしっぽがくるりと丸まっている茶色の猫。目つきは鋭いけれど、甘え上手で人なつっこい。食べているものがいいのか、毛並みにハリがあり、身体もがっしりしている。しっぽは、この場所とここに訪れる人たちのことをとても気に入っているようだ。だからこのアトリエに人が集まりはじめると、それを待っていたかのようにいそいそと店先までやってくる。まるで、自分もその一員であるかのように。

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ヘブンズテーブルは、たくさんのお客さまや教室に通う生徒さん、そしてこれまでの出会いやご縁に紡がれて、2014年4月に10年目を迎える。

「10年目に向けて、この場所を少し変えようと思っています。パンやお菓子をここで販売できるように、そしてもっとこの場所へお客さまが気軽に立ち寄ってもらえるように。初心にかえって、ゼロからスタートするくらいの気持ち」

きっかけは、トミヤマさんのご家族が大きな病をわずらったことだった。いままで当たり前と感じてきた関係性が、いとも簡単に失われてしまうかもしれないという絶対的な喪失感、そして圧倒的な無力感。食を通じて、出張食堂や教室で人と触れ合う毎日を過ごしながらも、人と人との縁、絆というもののかけがえのなさに、どこか自分は無頓着ではなかったかと自問の日々が続く。自分になにかできることはないだろうか? 彼女が出した結論は、とても根源的でシンプルだった。「ここでパンを直接販売しよう」。それぞれが“点”として存在していたご縁を、この場所で“線”、つまり、つながる場所にしよう、そう考えたのだ。

あいかわらず今日もしっぽはヘブンズテーブルにやってくる。なんでかって? しっぽは、もうとっくに気付いているのだ。ここがすでに、人と人がつながる場所になっていることに。

今年もまた、ヘブンズテーブルが多摩川河川敷にやってくる。もみじ市の公式応援歌となった「東京都調布市多摩川河川敷」を書いてくれた、夫であるミュージシャンのトミヤマカズヤスマキさんとともに。多摩川河川敷という“天国”の食卓(ヘブンズテーブル)でサーブされるパンは、そこに訪れた人と人を、そっと、だけど確かにつないでくれるはずだ。

***

もみじ市で大人気のヘブンズテーブルのワークショップを、今回も青空のもとで開催してくれます。2010年のもみじ市で初登場し、焼きたてをその場で販売して大人気だった酵母ワッフル。今回はそれをご自宅で作ることができるように、トミヤマさんが教えてくれます。

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<ヘブンズテーブル「自家製酵母ワッフル作り」ワークショップのご案内>
開催日時:
10月20日(日)13:30〜15:00
参加費:3500円(当日のお支払い)
定員:8名(事前お申し込み制)
※定員に達しましたので受付を締め切らせていただきました。たくさんのお申し込みありがとうございました!

お申し込み方法:件名を「ヘブンズテーブルワークショップ申し込み」とし、ご希望の人数・お名前・お電話番号・メールアドレスを明記の上、【workshop02@momijiichi.com】へメールでご連絡ください。
お申し込み開始日:

<ワークショップの流れ>
酵母についてのお勉強(難しくないです)

生地作り

ワッフルの焼き上げ、試食

自家製酵母の場合は発酵に最低で6時間位かかるので、作ったワッフル生地を持ち帰って頂いてご自分の家で発酵させ、焼いていただく形です。(ワッフルメーカーをお持ちでない方は、フライパンでパンケーキの様にも焼けますのでご心配なく。)ワッフルの発酵状態のサンプルは、こちらで作った物を用意しておきますので、参考にしていただければ幸いです。自家製酵母&ワッフルを作るための詳しい資料もお渡しします。

【ヘブンズテーブル トミヤマトモミさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
埼玉県川口市でパン教室&酵母パン販売をしておりますヘブンズテーブルです。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
その時々で好きな色は変るのですが、今は青色かな。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
自家製酵母のパン、焼き菓子。その場で焼き上げる焼きたてワッフル。季節の飲み物。パンを使ってカラフルを表現出来れば良いのですが‥ 作戦会議中です。

今回のヘブンズテーブルのユニホームは、私たちも大好きな作家さんの布でエプロンを作りました。これはカラフルです。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いては、美しい北の模様を描き出すあの作家さんの登場です!

文●増田千夏

七穀ベーカリー「自家製酵母パンとおやつ、豆乳ドーナツ」

ものづくりびとにとって、最上の喜びは、自分の作ったものが誰かの人生に光を与えられたときだと思う。パンを焼く人も、料理人も、陶芸家も絵描きも編集者も、その手で何かを作り出そうとする人々は皆、作ったものが受け取った人の心に響き、背中を押したとき、ようやく満たされるのだ。その瞬間のために、作っている。

七穀ベーカリー・山本洋代さんは、わたしたちにその喜びを教えてくれた人だ。そして、山本さん自身もまた、自分の作るパンで誰かを幸せにしたいと、ひたむきに願っている人。

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七穀ベーカリーは、大阪・寝屋川市にある。駅前の細道の一角にちょこんと佇む小さなお店ながら、お客さんが絶えない。おもしろいことに、一度七穀ベーカリーのパンを食べた人は、今度は友人を連れてやってくる。取材にお伺いしたときも、ほんの数時間で3組のお客さんが「ここ、めっちゃおいしいねん。素材も一つひとつ吟味してて。一回食べてみて」と友人に話していた。小麦粉、米粉、きな粉やはちみつまで国産で安心できる素材を選び、自家製酵母を使って焼き上げたパンは、穀物の滋味ともっちりと幸福な食感で、毎日でも食べたくなる味だ。朝食にこのパンがあれば、「今日も一日がんばろう」と思える。そして、友人に「おいしいパン屋さんがあってね」と教えたくなる。そんな味。

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「どんな素材で、どこで育ち、どんな人が作っているか、ちゃんとストーリーがあるものを使いたいから、素材選びはとても大切にしています。酵母は、レーズン酵母を中心にすべて自家製で。日々、酵母と向き合っていると、”生きていること”が伝わってくるんです。不思議なことに、わたしが元気がないときは、酵母の方が元気で励ましてくれたりしますよ」

山本さんはそう話すと、「そうそう」と付け加えた。

「自分で酵母を作ってみようと思ったのは、雑誌『自休自足』の特集がきっかけなんです。当時、いろんなパン教室で勉強していたけど、イーストで作るということに少し抵抗があって。『自休自足』に、果物やハーブから起こした自家製酵母の記事を見つけて、やってみようと思ったんです」

『自休自足』は、かつて手紙社の代表・北島が編集長を務めていた雑誌だ。山本さんは、同じく「小さなパン屋さんの作り方」という特集にも勇気づけられ、独立する決心をしたのだと言う。大きなオーブンや陳列棚がないとパン屋さんは開けないと思っていた。でも、小さくても自分らしいパン屋さんを開けば良いのだ、と。

「本」を作っていても、その記事一つに読者がどんな影響を受けたのか、なかなか直接目にすることは叶わない。だけど、ある時ふと「あの本で人生が変わりました」という人に出会うことがある。それは、編集者にとって涙が出るほどうれしい瞬間だ。

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わたしは思う。七穀ベーカリーのパンがおいしいのは、パンの素材の作り手に対して、山本さんがめいっぱいの敬意と感謝をもって接しているからだ。わたしたちにそう言ってくれたように、小麦粉にも、米粉にもはちみつにも、「この素材に出会えたおかげでおいしいパンができました」と、笑顔で伝えているに違いない。そして、その素材に恥じないものを作ろうと、真剣にパンをこね、酵母の声を聞き、オーブンに向かう。だから、パンを食べたお客さんは口々に「おいしいからあの人にも教えてあげたい」と言う。作るひとと、受け取るひとをつなぐ心からの感謝が、幸福な連鎖を生んでいく。

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七穀ベーカリーは別名「飛び出すパン屋」。山本さんは、全国あちこちのイベントに出店しては、行く先々でファンを増やしている。酵母、こね、焼きまで一人で行う山本さんにとって、休日を返上してイベントに出るのは決して楽ではないはずだ。それでも出かける理由を訪ねると、山本さんはこう答えた。

「だって、イベントには素敵な作家さんがいっぱいいるじゃないですか。その人たちに会えるのが楽しみなんです。実際に、イベントで出会って材料を使わせていただくことになった方も多いんです。もちろん、その街のお客さんとお話できるのもうれしくて」

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今回のもみじ市では、「カラフル」のテーマにちなんで、1日目と2日目で違ったカラーの七穀ベーカリーを見せてくれるそう。1日目は山本さんが大切に選んだ素材で大切に作ったパン、2日目はもっちりとした食感が食べ応え満点の豆乳ドーナツ。そのパンやドーナツを頬張ればきっと、もぐもぐと噛み締めるうちに、幸せで、あたたかく、ちょっと背中を押してくれたような、そんな気持ちになれるはずです。

【七穀ベーカリー 山本洋代さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
生まれ育った大阪府寝屋川市にて、母と2人で小さな自家製酵母パン屋を営んでいます。 お店(基地)でパンを焼いて、パンと共に各地へ「飛び出すパン屋」。 飛び出した先で見つけた美味しいものを使ってパンを焼き、素敵なものをお店でご紹介する、ぐるぐるご縁が繋がるパン屋でもあります。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
ピーナッツ色です。ロゴを作ってくれたノラヤさんとロゴの色の相談をしているときに、教えてもらった、始まりの色です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
七穀らしい、自然の恵み「穀」がぎゅっと詰まったパンとおやつの他、手のひらサイズの小さなマフィンのセットなど、ハジメマシテもお届けします。また、19日と20日の2日出展ということで、19日はパン屋、20日は自信作のもっちり豆乳ドーナツ屋と、七穀の2つのカラーをお届けします☆ お楽しみに!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いてご紹介するのは、青森の伝統工芸「こぎん刺し」を受け継ぐ新世代の作り手。色とりどりの作品を手に河川敷にやってきてくれます。

文●増田 知沙

パンと器 yukkaya 「自家製酵母の季節のパン+粕谷修朗の陶器」( 20日)

新しくオープンしたお店のカフェスペースでひと休みしていると…このお店、さまざまなお客さまが訪れます。ガラスの引き戸を開けて、お年を召されたご夫婦がお二人。「天然酵母のパンなのですか?」

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そんなふうに地元の方がふらっと訪れることも多いそのお店とは、「パンと器 yukkaya」。東京都府中市、京王線・JR分倍河原駅から徒歩5分ほどの場所に今年(2013年)6月にオープンしたばかりの、器とパンのお店です。陶芸家・粕谷修朗さんの器と、粕谷奈津子さんの焼くパンを買うことのできるお二人のスペース。店内は奈津子さんが焼く香ばしいパンの香りに包まれ、そしてそのすぐ隣には修朗さんが作った器が並んでいます。

お店がオープンしてから2ヶ月後のこの8月、さらにイートインスペースも始まったことによって、おふたりの夢はようやく実現した、といいます。その夢とは、奈津子さんの焼いたパンを修朗さんの器で提供できること。それは、自分たちの生活に合わせて場所と形態を少しずつ変え、試行錯誤しながら、それでも“二人でできることを大切に”しながら歩んできたお二人にとって、いつか実現したい夢でした。

「ちょっとずつ夢に近づいていった感じですね。器とパンを作っているので、一緒にお皿に盛りつけて食べてもらえる空間が、ずっとほしかったんです。そういう場所がいつかできたら、と思っていて」

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そんなふうに話す修朗さんの作る器は、ご本人の柔らかな雰囲気がそのまま伝わってくるような、温かみの感じられる器。絵を描くように作られた、美しい形でありながらもそっと生活に馴染む、素朴な雰囲気をあわせ持っています。「もともと、仕事をしながら日本画を描いていたのですが、沖縄に住んだことがきっかけで陶芸の道へ進むことになりました。それが、とっても気持ちの良い場所だったんですよ。空が広くて青くて、緑がいっぱいで。そしてまた、そこで教えてくださった方がよかった。そんな親方や職人さんたちが建てた、大きな工房の中で働いていたんです」と語る修朗さん。東京へ戻った現在は、沖縄に住んでいた頃に培った技術をもとに、日々作陶にいそしんでいるそう。

そして奥さまの奈津子さんが作るのは、旬の果物や野菜をつかった自家製酵母のパンや、素材そのものだけが持つ謙虚な滋味が感じられる味わい深いパン。けれど、時にハッとする組み合わせのパン(あずきとシナモン!)で、私たちを新鮮な味覚で楽しませてくれます。

「一昨年まで営業していた東京都日野市のお店では、薪窯でパンを焼いていたのですが、東京で薪でパンを焼くことの難しさを実感しながらの日々でした。焼くこと自体は楽しいかもしれないけれど、毎回の焼き上がりが違うこと、薪を調達して保管することの難しさ、それに広い土地もあったら……と感じていました。イートインのスペースを作ることができなかったので、パンと器はそれぞれで販売だけを行っていて」

日野のお店はオープンしたものの、早い段階からお二人の間ではすでに次の場所へと気持ちが動いていて、新たな場所を探していたお二人。二年ほど過ぎたころ、ようやく見つけたというのが、現在の場所です。

「ここでは薪窯はできないけれど……。薪窯でも電気の窯でもどちらでも、もっとおいしいパンを焼けるようになりたいと思ったんです。道具はどちらでもいいのだなぁと。カフェスペースがきっかけで器に興味を持って下さる方がいらしたり、普段バゲットを召し上がらない方がカフェで食べたサンドイッチがきっかけになってバゲットを帰りがけに買って下さる方がいらしたりするのが今はうれしいです」

そんな「パンと器 yukkaya」へ訪れてガラスの引き戸を開けると……正面のカウンターには奈津子さんの焼いたパンが並び、左のスペースには修朗さんの作った器。そして、右にはオープンしたばかりのイートインスペースが。ずっと前から“二人でできることを大切に”しながらお二人が見ていた風景が、ここにありました。お二人の優しく温かい人柄が作り出す、心地よい空気がここには流れています。

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私が訪れた短い時間のあいだにも、地元のお客さまが「まだパンはあるかな?」とのぞいていったり、いつものお客さまがワンちゃんと一緒に訪れて、店先でお話ししている光景があったり。修朗さんの器で提供されるパンとドリンクを注文したお客さまが、一人ゆっくり休んでいる姿も。「パンと器 yukkaya」はもうすっかりこの街に溶けこんで、すでにここに暮らす人たちみんなのお店になりはじめています。

「今はお皿とカップだけだけれど、スープを出すようになればスープ皿も使うようになるし、スイーツもあったら少し小さなお皿も使うようになるだろうし。お皿からメニューがふくらむこともある。楽しみですね。」

夢をかなえたそんなお二人の物語は始まったばかり。もみじ市には、そんなお二人の手から作られた器とパンがやってきます。多摩川の河川敷に来たら、お二人とぜひお話ししてみてくださいね。

【パンと器yukkayaのお二人に聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
今年6月お店を府中へ移転し、名前も「薪窯パンと器ユッカ屋」から「パンと器 yukkaya」になりました! 夫が陶器、妻がパンを焼いています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
修朗さん:あお(ずっと昔から好きな色です)
奈津子さん:からし色(からし色の洋服が多いんです)

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
修朗さん:いつもは白と黒の器がほとんどですが、カラフルというテーマに合わせて青い器などを考えてみようかなと思います。沖縄の空と海の色を思い出すような……沖縄色を入れてみようかな?

奈津子さん:旬の果物や野菜を使ってカラフルなパンを焼いていきます!紫芋、かぼちゃ、ブルーベリーなどを使って作ろうと思っています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは今回が初出店となる木工作家さんです!

文●増田千夏