色とりどりの大きなスーツケースを持った人たちを横目に、東京から電車に揺られること1時間。成田空港まであと20分ほどの小さな駅に降り立つと、まだ朝だというのにすでに日差しは強く、誰もいないホームには蝉の声がにぎやかに鳴り響いています。長靴と作業着を詰め込んだバッグを抱えて改札へ急ぐと、そこには見覚えのある笑顔が私を待っていてくれました。その笑顔の持ち主が、本日ご紹介するたに農園の谷洋一郎さんです。
たに農園は、2010年10月に谷洋一郎さんと淳子さんの手によって、千葉県佐倉市に誕生しました。東京のごく普通のサラリーマン一家に生まれ育った谷さん。大学時代に農業に魅せられ、日本各地の農家で修行をし、一代でたに農園を築きあげたのです。
とことん味を追求した野菜を作りたい。食べた人が「おいしい!」と思ってくれる野菜を育てたい。
いつでも忠実にその想いを貫いてきた谷さんの野菜作りは、この秋で4年目を迎えようとしています。
私が初めてたに農園を訪れたのは2年前の9月、前回のもみじ市のちょうど1カ月前でした。念願だった農園を始めて1年。大好きな野菜やお米に囲まれる谷さんはとにかく楽しそうで、畑に育っているたくさんの野菜を見せてくれました。
あれから2年。もみじ市の取材で再びたに農園を訪れることになった私は、谷夫妻と農作業をしながら1日を過ごしました。真夏の作業は大変で、強い日差しと虫たちとの闘いでした。でもそれ以上に、谷さんの野菜への想い、野菜を育てるということの手間暇、そして、生き物としての野菜の力や繊細さを目の当たりにした時間でもありました。日々成長する野菜を相手にしている谷さんに、休む暇はありません。暑い日も、雨の日も、嵐の日も、いつでも畑と向き合い、野菜の声を聞き、寄り添う。谷さんの野菜には、その手間暇がおいしい栄養分になって、ぎゅっと詰まっているのです。
口に入れた途端にとろけてしまう茄子。ぷちっと弾けて中から甘い種が溢れ出すトマト。青々しくシャキっと歯ごたえが良いピーマン。
野菜って、こんなにも味がしたかな? 谷さんの作る野菜を食べると、いつもそう感じます。野菜そのものの味が濃くて、でもほっとする優しさで、“生きている”味がするのです。口に入れるとすうっと肩の力が抜けて、カラダが喜んでいるのを感じます。
品種の豊富さも、たに農園の特徴です。例えば“茄子”と聞いて多くの人が想像するのは、紫色でつやつやした「中長なす」と呼ばれ市場に多く流通している一般的なものだと思います。たに農園で育っている茄子にはこの一般的な茄子以外にも、どーんと大きな米なす、アクがなく柔らかい緑色の青なす、紫に白い縦縞がまだらに入るのが特徴のイタリア生まれのカプリスなど、その種類は多岐に渡ります。これらの茄子は、スーパーで見かける茄子と比べ量産がしづらく、決して育てやすいとは言えないのですが、こういった品種ほど、野菜本来のおいしさが詰まっていることも多いのです。夫婦2人で営むたに農園では、スーパーに並べられるほど量産はできません。だからこそ、野菜の品種選びから妥協せず、食べた人が「おいしい!」と言ってくれる、味がおいしくて見た目も美しい野菜をたくさん作っているのです。
茄子だけに限らず、たに農園で育てられている野菜の種類の多さにはおどろくばかりで、それはそれはいろんな野菜が、約4,000坪もある畑に育っています。茄子、トマト、ピーマン、ズッキーニ、ししとう、カボチャ、いんげん、人参、空芯菜、オクラ、さつまいも、落花生、里芋、きゅうり、つるむらさき、パセリ、スイカ、お米、小麦、大豆、胡麻、油用の向日葵、そして畑の肥やしになるソルゴー。書ききれないので、これくらいにしておきましょう。
初出店を果たした前回のもみじ市、谷さんの中でハッとする瞬間がありました。
「一生懸命育てた野菜を直接手にとって眺めてくれる。育てた野菜を使った料理を、目の前で美味しそうに食べてくれる。それがもう嬉しくて嬉しくて。野菜を届けるだけではなくもっとこういった機会を増やして、育てた野菜を直接食べてもらいたいと思ったんです」
そう思った谷さんは得意の行動力を発揮し、ハイエースを購入。自らの手で改装を施し、立派なキッチンカーを作り上げました。それからというものの、平日はいままでと変わらず畑や田んぼの世話をし、休日には千葉県内のイベントを中心に、自慢のキッチンカーで出店するようになりました。おいしく食べてくれる人の笑顔が、おいしい野菜を作る谷さんの原動力となっています。
さて、今回のもみじ市。たに農園のキッチンカーで一番人気メニューの「たっぷり野菜のタコライス」を持って、多摩川河川敷まで来てくれます!たに農園で収穫した玄米の上に、たっぷりのカラフルな野菜とソース、そしてチーズが乗った、渾身の一品です。野菜は、その日にたに農園で採れた一番新鮮なものを持ってきてくださるそう。
まいにち食べるものだからこそ、カラダが喜ぶものを。大切な人とおいしく食べたいからこそ、丁寧に作られたものを。
きちんと心をこめて丁寧に作られた谷さんの野菜とごはんは、そんな願いを叶えてくれます。だからみなさんももみじ市で、配送が中心のため直接買える機会がめったにないたに農園の野菜や、谷さんの人柄にぜひ触れてみてください。
まだ知らない野菜の魅力に、必ず出会えるはずです。
【たに農園 谷洋一郎さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
平日は千葉県佐倉市にある3,000~4,000坪の田畑で米・麦・大豆・野菜(年間40~50種)を栽培してます。週末はその農産物をキッチンカーで調理して販売してます。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
野菜色です。昔は、自分のセンスと能力で野菜を育てようと思ってました。今は、野菜が健全に育つように遠くから見守ってやって、必要な時だけ手を差し伸べてやるほうが健全で美味しい野菜になることに気がつきました。そんな私たちは野菜色です。
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
この秋はもみじ市に合わせていろんな色の野菜を栽培してます。そんなカラフルな野菜を使った玄米タコライス、オレンジが綺麗なにんじんジュース、赤が綺麗な赤しそジュースなどをお持ちします。他にも、畑の様子によっていろいろ持って行きます。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
さて、続いては工場で余った革のハギレに新たな生命を吹き込むあの人たちです。
文●高松 宏美