たんぽぽの綿毛が風に揺れて、ふわっと舞い上がったような。
舞い上がった綿毛の周りを、淡い色の小さなちょうちょが飛んでいるような。
とおい春をなつかしみ、ぼんやり物思いにふけるような。
それは、どこまでもやさしく広がる風景。
てふてふとうんころもちには、そんな風景が、とてもよく似合います。
わたしは、おふたりのことを書こうとしたとき、「やさしい」という言葉をなるべく使わないよう、頭のなかで、それに代わる言葉をぐるぐる探してまわりました。けれど、この言葉ほど、おふたりにぴったり合う言葉を、わたしは知らないのでした。
とある8月の、照りつける太陽がとても暑い日です。わたしは、てふてふとうんころもちの取材をするため、自転車でご自宅まで会いに行きました。
メールでは、律幸さんが「こんな暑い日に自転車なんて、大丈夫かなぁ」と、しきりに心配してくれていました。たくさん汗をかいて、やっとご自宅に到着すると、やっぱりとっても心配そうな顔で、おふたりが玄関に出てきてくれました。それから、すぐにふんわりとした笑顔になって、わたしを迎えてくれました。初めて来たのに、田舎の親戚のおうちに遊びに来たような、そんな感じがしました。
それから、木でできた、小さなダイニングテーブルがある場所へ案内してくれました。腰掛けるとすぐに、陽子さんが、手作りの、冷たいパイナップルのソーダとマンゴーのムースを出してくれました。柔らかな光に包まれたなかで食べるムース。口のなかに入れると、ほんのりした甘さと、少しのすっぱさを残して、しゅっと溶けていきます。これが格別に美味しくて、自転車をこいだ疲れや外の暑さすら、すぐに忘れてしまいました。
「てふてふ」とは、お菓子作家である越川陽子さんのこと。ちょうちょモチーフが昔から好きだったのと、道を歩いてちょうちょを見つけたときのように「うれしいきもち」になるような、そんなお菓子を作りたいという想いから名付けたのだそう。陽子さんの佇まいや、表情、雰囲気もどこか、野原をふわりとかけまわる、小さなちょうちょのようでした。
陽子さんは、製菓の専門学校に通い、新潟のケーキ屋さんで一年働いたのち、上京。カフェで6年働き、その間店長などの経験を経て、独立しました。
「迷う余地もなく、お菓子を作ってきました」
とっても柔らかで静かな口調だけれど、陽子さんのお菓子に対する決意のようなものを、その芯のある言葉と、笑うとまあるく膨らむ、あかるいほっぺのうえに感じました。
昨年のクリスマス。とある催しで、てふてふのアイシング・クッキーを買いました。靴下と、雪の結晶の形をしたクッキー。その可愛い小さなお菓子ひとつひとつに物語を感じ、あまりにも可愛すぎて、もったいない気持ちになって、ぎりぎりまで家に飾っていました。飾っているときも幸せな気持ちになったけれど、食べたときの幸せな味は、寒い冬の一日を温かく包み込むようでした。そこにはしっかりと、てふてふの“愛”があるような気がしました。
陽子さんの横で、穏やかに話を聞いているのは、漫画家の越川律幸さん。陽子さんとは、ご夫婦です。律幸さんは、いまや大人気の漫画「うんころもち」の作者。律幸さんの書く漫画は、人をおだやかにする小さな魔法です。
鉛筆で柔らかな線を描いたら、ぽんぽんと淡い色がのって、世界ができてゆく。「うんころもち」は、漫画のなかで、こんなふうに自己紹介しています。
ぼくの名前は 「うんころもち」さ
うんこか もちかは 分からないんだ
生まれた街は うんこロンドンさ
ぼくは うんこロンリーだから 旅に出ることにしたんだ
ふんわりやさしく、たまにシュールでちょっとビター。うんころもちや他のキャラクターが繰り出すまさかの展開に、ふふふっと思わず口元が緩んでしまいます。うんこかもちかは、分からない。それはすべて、見る人に委ねています。
「みんなの生活に、すーっと入っていけたらうれしい。生活と一緒にあるものをつくっていきたいです」
律幸さんがそう言うように、うんころもちは、ファンタジーだけど、「わかる、わかる」と頷いてしまうような、日常の生活に寄り添ったお話ばかりで、読者が自由に想像できるような余白がたくさんあります。本を読んでみると、うんころもちは、ゆっくり生きながらも、いつも何かに悩んでいます。だけど、道を歩けば、ちょっと良いことがあったりして、「なんだか悪くないな」と思い、またゆっくりと歩き出す。
わたしは、うんころもちを読んでいると、日常のなかにある「ちょっとだけ気持ちがうごく瞬間」を、もっともっと見つけて、抱きしめてあげたい気持ちになります。
いっぱい悩んだり、ときにさびしくなったり、悲しくなったり、だれかのやさしさに触れたり。そういうことをたくさん知っていくうちに、うんころもちは、やさしく強くなっていく。まだまだわからないことはたくさんあるけれど、季節や人との出会い、別れを通して、少しずつ、いろいろな想いに触れる。そのひとつひとつのエピソードは、こころに寄り添いながら、わたしもうんころもちと一緒に、ゆっくりと歩いているような感覚になります。
10月末には、初めての絵本「うんころもち列車」を出版するという律幸さん。実は、この絵本は、一昨年のもみじ市にあわせて作った本を新たに描き直したもの。出版もちょうど、今年のもみじ市と時期が重なっていて、少し運命的な出来事なのでした。
今回のもみじ市では、てふてふとうんころもちのコラボレーションが見られます。今までにもたくさんコラボレーションしているおふたり。たとえば、こんなに愛らしい、うんころもちのアイシングクッキーは、見ているだけで幸せな気持ちになります。まるで、うんころもちや、ともだちの毛玉ちゃんがすぐにでも動き出しそう。今回はどんなコラボレーションが見られるのか、とっても楽しみで、想像するだけで、微笑んでしまいそうです。
「誰かに喜んでもらいたい、楽しんでもらいたい」
てふてふとうんころもちの、そのピュアな想いは、美味しいお菓子や雑貨となり、あなたのもとへ、とんでゆきます。
それはまるで、野原を舞う、てふてふのように。
心にそっと寄り添う、やさしさという、おくりものなのです。
【てふてふ 越川陽子さんと、えちがわのりゆきさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
「てふてふとうんころもち」は、お菓子屋「てふてふ」とまんが家の「えちがわのりゆき」からなる二人組です。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
僕らの色は、淡くて優しい色であれば良いなと思っております。
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今回は、うんころもち柄のカラフルな可愛い布バッグにてふてふのお菓子を詰めたものをメインで販売する予定です。そのほかにも、色々なお菓子やグッズもご用意しようと思ってます。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
さて、続いては大阪よりやってくる飛び出すパン屋さんの登場です!
文●池永萌