アノダッテ「栗色、マロンダッテ」

誰にとっても大切なものがある。「これまでの編集者のキャリアのなかで、もっとも大切な仕事は何か?」と問われたら、ぼくは迷いなく「もみじ市です」と答える。そして、もみじ市の歴史はぼくにとって、アノダッテとの歴史でもある。

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2006年夏、もみじ市前夜。ぼくたちは、初めて行うイベントに参加してくれる作り手を捜していた。「ぼくたち」というのは、ぼく北島勲と、渡辺洋子と、増田千夏。3人で始めたもみじ市。小さな青いジムニーに乗って、3人でどこまでも行った。素晴らしい作家さんがいると聞けば、どこまでも。 そんなある日、ふと手にした雑誌の中に、とても印象的なジャムの瓶があった。家をかたどった手描きのイラストと、「アノダッテ」の文字。この瞬間から今に至るまで、ぼくはずっと恋に落ち続けている。恋の相手はもちろん、アノダッテだ。

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プロの編集者や書き手にとって、「禁句」と言うべき言葉が存在する。そのひとつが、優れた作り手やアスリート、表現者を評するときに用いる「天才」という言葉。しかし、アノダッテのお菓子を食べたとき、それを生み出すふじもとようこさんのことを思い浮かべるとき、ぼくの頭にはいつも、この漢字二文字がよぎる。

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もみじ市の2日間だけ販売する「もみじ市公式ガイドブック」のなかに、「もみじ市名言集」というページがある。これまでのもみじ市の歴史のなかで、出店者やスタッフが発した“名言”をまとめているのだが、そのなかにキノ・イグルーの有坂塁さんの言葉がある(アノダッテのふじもとさんの名言も掲載しているので、ぜひご覧下さい)。

『信頼関係かな』
(キノ・イグルーの有坂塁さんの言葉/「もみじ市って聞いて、ぱっと出てくる言葉は何ですか?」という問いかけに対して)

信頼関係。自分で言うのはちょっとおこがましい気がするけれど、ぼくとアノダッテとの関係は、これにつきると思う。「アノダッテなら大丈夫だ」。ぼくはいつも、こう思っている。アノダッテが作るものなら、とびきりおいしいものに違いない。アノダッテがつくる小屋なら、きっと素敵なものに違いない。アノダッテなら、ぼくが表現したいことをわかってくれるはずだ。アノダッテなら、大丈夫だ。7年前に初めて会った日から今日まで、その思いが汚れたことは一度もない。

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「信頼」とは、一方が信頼し、もう一方が信頼されるという一方通行では決してない。双方に「信頼する」というベクトルが存在し、そのベクトルが同じ値であること、それが本当の信頼関係だと思う。つまりそれは、ある意味勝負なのだ。相手に信頼されうる“力”をこちらも持っていなければいけない。相手のベクトルの値が大きくなった時、こちらもそれに合わせて値を大きくしていかなければいけない。

もみじ市に参加してくれる作り手とぼくたちの関係は、つまりはそういうことだ。単なる出店者と主催者の関係ではない。お互いを表現者として高め合っていく関係。信頼関係のバランスを右肩上がりで保っていく関係。それが、もみじ市なのだ。

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この夏、アノダッテから手紙舎に新しいジャムが届いた。それは、あの定番となっているラベルとは異なる、新しいラベルだった。ふじもとさんの手書きによる英文字のラベル。それを見てぼくは、ふじもとさんにメールをした。
「ジャムのラベル、とっても良いですね。新しいチャレンジ、素敵です。ぼくはこれからも、アノダッテの素晴らしい感性を最も感じられるヤツでいたいです」
ふじもとさんからの返事は、すぐ来た。
「私も、北島さんにほめられ続けるヤツでいたいです」

形があるものはいつかは終わる。もみじ市だって、いつかは終わる。でも、もみじ市が続く限り、ぼくはアノダッテの担当をしたいと思っている。そんな話をしたら、ふじもとさんが言った。
「北島さんが、書くことがなくならないように、がんばらなくちゃ」

そう言うなら、ぼくたちもがんばらなくっちゃ。何を? もちろん、今年のもみじ市を。素晴らしいアノダッテに相応しいイベントに。珠玉のごとき出店者たちに相応しいイベントに。みんなで高め合って来たこの7年間を集約した、唯一無二の場所。それが、もみじ市なのだ。

【アノダッテ ふじもとようこさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
おーきなもみじの木の下でー♪
はじめまして、おやつとジャムのマロンダッテ、 もとい! アノダッテです!

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
もちろん今は、栗色ー!

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
アノダッテらしく、色とりどりのジャムたちでみなさんをお迎えしたいです!
橙色の杏・シックな赤紫の完熟プラム、色も甘みも繊細な白桃・フルーティーな黄金桃・濃い赤紫のまるごといちじく、皮をむいてスモーキーピンクにも変身!
クリーム色した香り高い洋梨・トロピカルイエローのパイナップル・バナナにオレンジ、黒い種までおいしいパッションフルーツ!
真っ赤なりんご・紅東や濃厚な山吹色したパンプキン!
これらのカラフルな色と香りの果物たちを、そのままシンプルに、はたまたさまざまなスパイスや木の実を取り合わせてジャムにしていきます!

そして、
2年ぶりの河原でのライブなおやつは、「モンブラン・パンペルデュ」を!
焼きたてパンペルデュに、その場で絞る自家製モンブランクリームの秋色栗色マロンダッテです!
いつもジャムの隣にちょっこり置いてある焼き菓子は、今回はきなこのような香ばしさがおもしろい、栗粉のクッキーを焼いていきます!
お楽しみにー!
「モンブラン・パンペルデュ」を食べて、栗のお面をつけて、みんなもマロンダッテになろー!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いては、東京の下町で活動を続ける帽子の作り手のあの人たちの登場です。

文●北島勲