つる9テン(つるぎ堂・九ポ堂・knoten)「小さな活版印刷屋」

活版印刷で作品づくりを行っている、つるぎ堂九ポ堂knoten。この3組が今回合同チーム「つる9テン」としてもみじ市に初出店してくれることになり、つるぎ堂の多田陽平さん、九ポ堂の酒井草平さん・葵さんご夫妻、knotenの岡城直子さんに集まってもらい、西国分寺にある九ポ堂さんの工房でお話を伺いました。

-それでは、さっそくですがつる9テンの結成秘話をお聞かせいただけますか?

knoten・岡城直子(敬称略 以下同)
「結成秘話…、あれかな、レジでの会話が始まりかもしれないですね。私と九ポ堂の葵さんが『世界堂』という画材屋さんでアルバイトをしていて、趣味の話になったんです。『分からないと思うけど…活版印刷が好き』と話すと、たまたまお互い好きだったという…(笑)」

九ポ堂・酒井葵
「いま思うとものすごく運命的だよね。同い年でなかなかいない。そんなこんなで仲良くなりつつ、東京で開催された『活版凸凹フェスタ』というイベントにつるぎ堂、九ポ堂、knotenそれぞれが出店していたんです」 

九ポ堂・酒井草平
「つるぎ堂さんが隣のブースで、初めてお会いしたんですけど、つるさん(多田さん)がお昼ごはんを食べに急にいなくなるんですよ(笑)。代わりにレジをしたりして、妙な親近感が湧きました」 

つるぎ堂・多田陽平
「いやー、まったく覚えていないですね…。そのときはお世話になりました」

九ポ堂・酒井草平
「その後もイベントでちょくちょく顔を合わせるようになりましたね。そして、2011年5月に行われるはずだった活版凸凹フェスタが、東日本大震災の影響で中止になった時、それぞれ参加の準備はしていたので、3組合同で『ちいさな活版印刷屋の夏休み展』という展示・販売イベントを下北沢で行うことになったのが、つる9テン結成のきっかけですね」 

九ポ堂・酒井葵
「そうそう、それで展示会だから名義を決めなきゃ、という話になったんだよね。そしたらつるさんが『つるぎ堂、九ポ堂、knoten、それぞれの文字をとって、つる9テンでいいんじゃないですか』って。つるさんは、いつも気楽に決めちゃいます」 

–なるほど、つる9テンの名付け親は多田さんだったんですね! それでは、次の質問ですが、こうしてグループとして活動することで得られるメリットはありますか?

つるぎ堂・多田陽平
「イベントに出るときは参加費が割り勘になっていい(笑)」 

九ポ堂・酒井葵
「たしかにそうだけど、つるさんもっと良いこと言わないと! 3組の絵柄のテイストがまったく異なるので、お客さんの幅が広がりますね。knotenは女の子に人気で、つるぎ堂はマニア向けというかアートに興味がある人、九ポ堂は漫画や絵本が好きな人に好まれることが多いかな」 

knoten・岡城直子
「あとは、狭い業界なので情報交換が出来ることですね。どこの紙・インキが良いか、お付き合いのある業者さんを紹介してもらったり。集まればすぐに印刷技術などの話になりますね。得意分野もそれぞれ違います」

九ポ堂・酒井葵
「そうだね、なおちゃん(岡城さん)は色んな人とつながりを持っていて、営業力がある。元々、手紙社さんのイベントに呼んでもらえたのもそれがきっかけ。九ポ堂はデータ処理を担当することが多いかな」 

九ポ堂・酒井草平
「つるぎ堂さんは…語学が堪能で、木工が得意」 

つるぎ堂・多田陽平
「どっちも活版に関係ないじゃないですか(笑)」 

-3組でテイストも出来ることも違うからこそ、活動にも幅が生まれているんですね。これもぜひお聞きしたい質問ですが、皆さんそれぞれの作品に対して、どういった印象をお持ちですか?

九ポ堂・酒井草平
「つるぎ堂さんは、つるぎ堂さんにしか描けない世界がありますね。人と視点が絶対ちがうし、独創的。“あ”しかないカルタなんて、普通思いつかない。『あるぱか もこもこ やさしいこ』『あるぱかに にているひとに こいをした』『あるぱかに きいても なにも わかりません』だっけ。ああ、ちゃんとカルタ覚えてますね。やっぱり商品と絵柄がユニークで印象的だから」

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–つるぎ堂さんの作品のモチーフは、ロシアのマトリョーシカや日本のこけしなど昔からある郷土玩具であったり、かわいいアルパカだったり、どういったチョイスで選ばれているのでしょうか?

つるぎ堂・多田陽平
「考え方としては、頭の中でいろんなものをコラージュしていって、これおかしな組み合わせだな、というものを探っていくんです。それで、“これだ”と思ったものを描く、という感じです。何と組み合わせても変な感じが出しやすいものを使っている気がします」

九ポ堂・酒井草平
「イラストと組み合わせる言葉も素晴らしい。九ポ堂は小ネタを交ぜて長々と文章を載せるけど、つるぎ堂さんは一行で“仕留める”感じ。バレンタインデー用のカードを作ったときに、『月がきれいですね』という一文を載せていて、これはやられた、と思いましたね。夏目漱石が『I LOVE YOU』を和訳したときに用いた言葉です」 

–九ポ堂さんの作品はいかがですか?

knoten・岡城直子
「九ポ堂さんは、“物語”を生み出す力がすごいですね。夫婦で熱く討論しながら作っている姿をよく見ます。でも、ポストカードだけで終わらせるのはもったいないくらい素敵。本にしたらいいな、と思うくらい」

九ポ堂・酒井草平
「そうだね、最終的にはピクサー社に映画化してもらうつもりでいます(笑)。僕らはネタづくりが大変ですね。印刷をおざなりにしてはいけませんが…やはり“ストーリー”が作品づくりの中心になっています。『雲乃上商店街』『でんでん商店街』など架空の商店街にあるお店を一枚のポストカードに表現した“架空商店街シリーズ”も目指せ100店舗でやっています」

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–九ポ堂のお二人、そして私も好きな小説家・森見登美彦さんの小説の文中には、別の作品のキャラクターがさりげなく出て来たりしますよね。同じひとつの世界で起きていることが分かったとき、ちょっとうれしくなります。九ポ堂さんのつくる世界は、どんな世界でしょうか? 

九ポ堂・酒井草平
「実は、僕らの作品も同じように、別々の作品がひとつの世界になるようにしたいと考えています。ポストカードを見て、ぜひそのつながりを見つけてほしいですね。そういった一つひとつの場所をつなげて立体的に構築しようとするところも、物語が好きだからかな」

–物語を生み出すにあたって、どんなものから影響を受けたり、インスピレーションを得ていますか?

九ポ堂・酒井葵
「二人とも好きなのは、小説家・稲垣足穂さんや、彼に影響を受けたであろう絵本作家・たむらしげるさん。物語の考え方は、漫画家・畑中純さんから影響を受けています。現実とファンタジーの間をいくストーリーがやはり好きです。あとは、ティム・バートン監督のクレイアニメのメイキング映像など、アニメーションのキャラクターがつくられる過程にも感動を覚えますね。物語には欠かせないキャラクターも私たちにとっては大切な存在です」

–knotenさんの作品も他の2組とは異なる世界観がありますが、いかがでしょうか?

九ポ堂・酒井葵
「私たちがつくる商品に比べて、お客さんが主役になれるアイテムが多い気がします。たとえば、文字を書くスペースがあったり、淡い色合いだったり。いろんな人に受け入れられやすいところがあるよね」

knoten・岡城直子
「私たちは手紙を出すのが好きなので、手紙が出しやすいように季節感を意識しています。四季の星座がモチーフのカードもそうして出来ました」 

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–knotenさんは3人で活動されていますが、どういう流れでアイテムが生まれていきますか? 

「私は絵が下手なので、イラストは他の2人に任せて紙選びと製版を担当しています。あと、こんな絵柄を描いてほしい、こんなレターセットがほしい、というような話はよくしますね。自分が好きなものを作りたい。結構わがままなんです」

九ポ堂・酒井葵
「なおちゃんは企画プロデュースをやってるんだね。ある意味デザインをやっている。アートディレクターだ。客観的に見れるからこそ、若い女の子もほしがるものが作れるんじゃないかな」

–それぞれの作品が生まれるバックグラウンドなど、貴重なお話をありがとうございました! 

見る人を不思議な世界へと連れ去るつるぎ堂。こんな世界があったらいいな、そんな誰しもがもつ空想を形にして見せてくれる九ポ堂。思わず使いたくなるようなアイテムで私たちの暮らしを彩ってくれるknoten。今回のもみじ市にはそれぞれの商品販売の他、秋のモチーフを自分で選んで活版印刷でプリントできるレターセットのワークショップも開催してくれるそう。活版印刷機に触れて、自分の手でプレスできる貴重な機会です。つるぎ堂のユニークさ、九ポ堂の物語、knotenの季節感。それぞれがぎゅっと詰まったあなただけの作品がきっとつくれるはず。

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<つる9テン ワークショップ「秋色だより〜秋模様のレターセットを印刷しよう」のご案内>

キノコや虫、枯れ葉、紅葉など秋模様のモチーフを自由に組み合わせてオリジナルレターセットを活版印刷でつくるワークショップを行います。日本製とイギリス製の手動活版印刷機3台を使って、便せんの罫線は2色、封筒は1色で印刷して頂きます。便せんは4枚、封筒は2枚、あなただけの秋色だよりをつくりましょう。

開催日時:
10月19日(土)11:00〜15:30

10月20日(日)10:30〜15:00
 

参加費:1,000円(材料費込み、当日のお支払い)

定員:材料がなくなり次第終了とさせていただきます 
お申し込み方法:当日ブースにて直接お申し込みください 

【つる9テンの皆さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
活版印刷作家のつるぎ堂・九ポ堂・knotenの3組が一緒に活動しています。

【つるぎ堂】
実家は70余年続く活版印刷屋。オーダーを受ける傍ら、動物やマトリョーシカなどをモチーフとしたオリジナル商品も作成。ロシア関連イベントやアルパカフェスタなど活版イベント以外にも多数出展。 

【九ポ堂】
「九ポ」とは活字の大きさの9ポイントに由来します。祖父の残した9ポイントの活字と印刷道具を用いて、皆様にニヤリとしていただけるような、物語性のある作品を作れるよう心がけております。

【knoten】
「クノーテン」とはドイツ語で「結び目」という意味です。小さな一枚が、手にとって下さる方々の縁を結んでくれる一枚になるようなものづくりができたらという想いをこめています。季節を感じられるモチーフなどを中心に、紙やインキの色にこだわりながら手キンと呼ばれる手動の活版印刷機で印刷しています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
【つるぎ堂】
こげ茶

【九ポ堂】
あお

【knoten】
みどり

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
【つるぎ堂】
当日のお楽しみ

【九ポ堂】
イエバコ

【knoten】
四季の星座のレターセット

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、2店舗の手紙舎を作ったあの大工さんのチームです。ものづくり好きの仲間と一緒にやってきます!

文●柿本康治