あちらべ「活版印刷、ものづくり」

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日本に、いや世界にデザイン事務所を謳(うた)うグループや企業は星の数ほどあれど、今そこにあるコミュニケーションにこんなにもまっすぐで誠実で、美しくあろうとするユニットを、ぼくはほかに知らない。彼らの名は、あちらべ。ものづくりによって、ヒトとヒト、ヒトとモノ、モノとモノをつなぎ、まだ見ぬよりよい方向=あちらべ(江戸時代に使われた言葉で、あちらのほう、の意)へいざなわんとする、赤羽大さんと宇田祐一さんによる東京・目黒のデザイン・ユニットだ。

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彼らのプロダクトの最大の魅力は、誤解を恐れずにいえば、彼らだけではけっして成立しないところにある。もっとも、成立させない、といったほうが正しいかもしれない。東日本大震災の被害を受け、支援が届きにくい孤立地区の復興支援を目的とした一般社団法人つむぎやとともに制作した漁網100%ミサンガは、そのタグ・デザインを牡鹿漁協女性部有志グループ、マーマメイドのお母さんたちが描いた三角形をモチーフにして構成されている——たとえば、こんな具合に。

「『そんなやり方で、どうやってデザインを担保するの?』っていわれたりもするんですけど(笑)。でもデザイナーって、与えられた情報だけで器用にそれなりの形にできちゃうから、けっこうちゃんと人の話を聞いていないな、と感じることも多くて。その事象に真摯に向き合ったとき、そこにある関係性にしかできないことにちゃんと想いを馳せれば、彼女たちに描いてもらうほうが圧倒的にいいわけで。そういう、言葉にするとあまりに当たり前のことを大切にしたいんです」

このイノセンスゆえ、だろう。通常、<切れると願いが叶う>といわれるミサンガだが、丈夫な漁網の補修糸で作られたこのミサンガには、コラボレーションするパートナーとの信頼関係によって結ばれた、<決して切れない絆>への想いが託されているように思えてならないのだ。

そんな彼らが、現在のデザイン・ワークの大きな武器の一つ、活版印刷に出逢ったのはむしろ必然、といってもいい。

「活版印刷って、組んだ活字の縦横をジャッキで締めて版にするんですけど、印刷しない部分もスペースを埋めないと、構造的に成り立たないんです。それが、すごくしっくりきたんですよね。ぼくらが伝えたいのは、デザインって目に見えない部分をふくめてはじめて成立するものだ、ってことだから」

そう、そもそもデザインとは、そういうアウラ(ラテン語で、事象から発するオリジナルな気配の意)すべてから生まれるストーリーのシルエットを美しく浮かび上がらせる、まぎれもなきコミュニケーションの言語であるということ。そんな摂理のど真ん中を軽やかなステップで射抜きながら、いつだって遊び心にあふれた粋な仕掛けでぼくらを驚かせてくれる彼らが、大きな大きな活版印刷機(てきん)を携えて、ふたたびもみじ市へやってくる。そしてあの青空の下で彼らが手繰るハンドルは、彼らとの心通うあたたかなコミュニケーションの証としての凹凸を、あなたの心のひだにそっと刻んでいってくれるはずだ。

<あちらべ「活版印刷で、もみじ市の思い出をつくろう!」のご案内>

もみじ市をずっと前から楽しみにしていたカラフルなあなたに朗報です! 折角来たんだから何か思い出にして持って帰りたい! そうですよね!?

青空の下(希望を込めて)、もみじ市の思い出を活版印刷でカタチにして持ち帰ってみませんか!? もみじ市の思い出をカタチに残したい方なら、どなたでもご参加可能です。手動の活版印刷機とともにお待ちしてます! 

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開催日時:
10月19日(土)11:00〜15:30
10月20日(日)10:30〜15:00
※両日とも開催時間中随時受け付けいたします。

参加費:500円(当日のお支払い)
お申し込み方法:事前のお申し込みなしでご参加いただけます。

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<ワークショップの流れ>

お客様の好きな紙を自由に選んでいただきます。

選んだ紙に手動の活版印刷機で印刷し、その様子をインスタントカメラで記念撮影します。

撮った写真にも活版印刷します。

紙と写真にヒモを通して出来上がりです。 

【あちらべ 赤羽大さんと宇田祐一さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
見た目や機能にとどまらず、人を動かす仕組みを大切に考えてデザインに取り組んでいるデザイン・ユニットです。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
鏡、かな。答えとしては、禁じ手ですかね?(笑)。でもこれ、けっこうドンピシャで自分たちのことを表現できていて。そこに映ったあなたの心の色が、ぼくたちにとっての色であって。何をするにも、目の前の人との関係性がすべてなんです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
ほかでもないもみじ市なんで、ほんとに当日ギリギリまで悩んでいるような気がします(笑)。ただ、自分たちと関わってくれている人たちや、当日来てくださった人たちとの関係性を大切に思っている、ということが伝えられるようなブースにしたいですね。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、今回もまたもみじ市の最後を締めくくるあのお二人です。

文●藤井道郎

つる9テン(つるぎ堂・九ポ堂・knoten)「小さな活版印刷屋」

活版印刷で作品づくりを行っている、つるぎ堂九ポ堂knoten。この3組が今回合同チーム「つる9テン」としてもみじ市に初出店してくれることになり、つるぎ堂の多田陽平さん、九ポ堂の酒井草平さん・葵さんご夫妻、knotenの岡城直子さんに集まってもらい、西国分寺にある九ポ堂さんの工房でお話を伺いました。

-それでは、さっそくですがつる9テンの結成秘話をお聞かせいただけますか?

knoten・岡城直子(敬称略 以下同)
「結成秘話…、あれかな、レジでの会話が始まりかもしれないですね。私と九ポ堂の葵さんが『世界堂』という画材屋さんでアルバイトをしていて、趣味の話になったんです。『分からないと思うけど…活版印刷が好き』と話すと、たまたまお互い好きだったという…(笑)」

九ポ堂・酒井葵
「いま思うとものすごく運命的だよね。同い年でなかなかいない。そんなこんなで仲良くなりつつ、東京で開催された『活版凸凹フェスタ』というイベントにつるぎ堂、九ポ堂、knotenそれぞれが出店していたんです」 

九ポ堂・酒井草平
「つるぎ堂さんが隣のブースで、初めてお会いしたんですけど、つるさん(多田さん)がお昼ごはんを食べに急にいなくなるんですよ(笑)。代わりにレジをしたりして、妙な親近感が湧きました」 

つるぎ堂・多田陽平
「いやー、まったく覚えていないですね…。そのときはお世話になりました」

九ポ堂・酒井草平
「その後もイベントでちょくちょく顔を合わせるようになりましたね。そして、2011年5月に行われるはずだった活版凸凹フェスタが、東日本大震災の影響で中止になった時、それぞれ参加の準備はしていたので、3組合同で『ちいさな活版印刷屋の夏休み展』という展示・販売イベントを下北沢で行うことになったのが、つる9テン結成のきっかけですね」 

九ポ堂・酒井葵
「そうそう、それで展示会だから名義を決めなきゃ、という話になったんだよね。そしたらつるさんが『つるぎ堂、九ポ堂、knoten、それぞれの文字をとって、つる9テンでいいんじゃないですか』って。つるさんは、いつも気楽に決めちゃいます」 

–なるほど、つる9テンの名付け親は多田さんだったんですね! それでは、次の質問ですが、こうしてグループとして活動することで得られるメリットはありますか?

つるぎ堂・多田陽平
「イベントに出るときは参加費が割り勘になっていい(笑)」 

九ポ堂・酒井葵
「たしかにそうだけど、つるさんもっと良いこと言わないと! 3組の絵柄のテイストがまったく異なるので、お客さんの幅が広がりますね。knotenは女の子に人気で、つるぎ堂はマニア向けというかアートに興味がある人、九ポ堂は漫画や絵本が好きな人に好まれることが多いかな」 

knoten・岡城直子
「あとは、狭い業界なので情報交換が出来ることですね。どこの紙・インキが良いか、お付き合いのある業者さんを紹介してもらったり。集まればすぐに印刷技術などの話になりますね。得意分野もそれぞれ違います」

九ポ堂・酒井葵
「そうだね、なおちゃん(岡城さん)は色んな人とつながりを持っていて、営業力がある。元々、手紙社さんのイベントに呼んでもらえたのもそれがきっかけ。九ポ堂はデータ処理を担当することが多いかな」 

九ポ堂・酒井草平
「つるぎ堂さんは…語学が堪能で、木工が得意」 

つるぎ堂・多田陽平
「どっちも活版に関係ないじゃないですか(笑)」 

-3組でテイストも出来ることも違うからこそ、活動にも幅が生まれているんですね。これもぜひお聞きしたい質問ですが、皆さんそれぞれの作品に対して、どういった印象をお持ちですか?

九ポ堂・酒井草平
「つるぎ堂さんは、つるぎ堂さんにしか描けない世界がありますね。人と視点が絶対ちがうし、独創的。“あ”しかないカルタなんて、普通思いつかない。『あるぱか もこもこ やさしいこ』『あるぱかに にているひとに こいをした』『あるぱかに きいても なにも わかりません』だっけ。ああ、ちゃんとカルタ覚えてますね。やっぱり商品と絵柄がユニークで印象的だから」

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–つるぎ堂さんの作品のモチーフは、ロシアのマトリョーシカや日本のこけしなど昔からある郷土玩具であったり、かわいいアルパカだったり、どういったチョイスで選ばれているのでしょうか?

つるぎ堂・多田陽平
「考え方としては、頭の中でいろんなものをコラージュしていって、これおかしな組み合わせだな、というものを探っていくんです。それで、“これだ”と思ったものを描く、という感じです。何と組み合わせても変な感じが出しやすいものを使っている気がします」

九ポ堂・酒井草平
「イラストと組み合わせる言葉も素晴らしい。九ポ堂は小ネタを交ぜて長々と文章を載せるけど、つるぎ堂さんは一行で“仕留める”感じ。バレンタインデー用のカードを作ったときに、『月がきれいですね』という一文を載せていて、これはやられた、と思いましたね。夏目漱石が『I LOVE YOU』を和訳したときに用いた言葉です」 

–九ポ堂さんの作品はいかがですか?

knoten・岡城直子
「九ポ堂さんは、“物語”を生み出す力がすごいですね。夫婦で熱く討論しながら作っている姿をよく見ます。でも、ポストカードだけで終わらせるのはもったいないくらい素敵。本にしたらいいな、と思うくらい」

九ポ堂・酒井草平
「そうだね、最終的にはピクサー社に映画化してもらうつもりでいます(笑)。僕らはネタづくりが大変ですね。印刷をおざなりにしてはいけませんが…やはり“ストーリー”が作品づくりの中心になっています。『雲乃上商店街』『でんでん商店街』など架空の商店街にあるお店を一枚のポストカードに表現した“架空商店街シリーズ”も目指せ100店舗でやっています」

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–九ポ堂のお二人、そして私も好きな小説家・森見登美彦さんの小説の文中には、別の作品のキャラクターがさりげなく出て来たりしますよね。同じひとつの世界で起きていることが分かったとき、ちょっとうれしくなります。九ポ堂さんのつくる世界は、どんな世界でしょうか? 

九ポ堂・酒井草平
「実は、僕らの作品も同じように、別々の作品がひとつの世界になるようにしたいと考えています。ポストカードを見て、ぜひそのつながりを見つけてほしいですね。そういった一つひとつの場所をつなげて立体的に構築しようとするところも、物語が好きだからかな」

–物語を生み出すにあたって、どんなものから影響を受けたり、インスピレーションを得ていますか?

九ポ堂・酒井葵
「二人とも好きなのは、小説家・稲垣足穂さんや、彼に影響を受けたであろう絵本作家・たむらしげるさん。物語の考え方は、漫画家・畑中純さんから影響を受けています。現実とファンタジーの間をいくストーリーがやはり好きです。あとは、ティム・バートン監督のクレイアニメのメイキング映像など、アニメーションのキャラクターがつくられる過程にも感動を覚えますね。物語には欠かせないキャラクターも私たちにとっては大切な存在です」

–knotenさんの作品も他の2組とは異なる世界観がありますが、いかがでしょうか?

九ポ堂・酒井葵
「私たちがつくる商品に比べて、お客さんが主役になれるアイテムが多い気がします。たとえば、文字を書くスペースがあったり、淡い色合いだったり。いろんな人に受け入れられやすいところがあるよね」

knoten・岡城直子
「私たちは手紙を出すのが好きなので、手紙が出しやすいように季節感を意識しています。四季の星座がモチーフのカードもそうして出来ました」 

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–knotenさんは3人で活動されていますが、どういう流れでアイテムが生まれていきますか? 

「私は絵が下手なので、イラストは他の2人に任せて紙選びと製版を担当しています。あと、こんな絵柄を描いてほしい、こんなレターセットがほしい、というような話はよくしますね。自分が好きなものを作りたい。結構わがままなんです」

九ポ堂・酒井葵
「なおちゃんは企画プロデュースをやってるんだね。ある意味デザインをやっている。アートディレクターだ。客観的に見れるからこそ、若い女の子もほしがるものが作れるんじゃないかな」

–それぞれの作品が生まれるバックグラウンドなど、貴重なお話をありがとうございました! 

見る人を不思議な世界へと連れ去るつるぎ堂。こんな世界があったらいいな、そんな誰しもがもつ空想を形にして見せてくれる九ポ堂。思わず使いたくなるようなアイテムで私たちの暮らしを彩ってくれるknoten。今回のもみじ市にはそれぞれの商品販売の他、秋のモチーフを自分で選んで活版印刷でプリントできるレターセットのワークショップも開催してくれるそう。活版印刷機に触れて、自分の手でプレスできる貴重な機会です。つるぎ堂のユニークさ、九ポ堂の物語、knotenの季節感。それぞれがぎゅっと詰まったあなただけの作品がきっとつくれるはず。

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<つる9テン ワークショップ「秋色だより〜秋模様のレターセットを印刷しよう」のご案内>

キノコや虫、枯れ葉、紅葉など秋模様のモチーフを自由に組み合わせてオリジナルレターセットを活版印刷でつくるワークショップを行います。日本製とイギリス製の手動活版印刷機3台を使って、便せんの罫線は2色、封筒は1色で印刷して頂きます。便せんは4枚、封筒は2枚、あなただけの秋色だよりをつくりましょう。

開催日時:
10月19日(土)11:00〜15:30

10月20日(日)10:30〜15:00
 

参加費:1,000円(材料費込み、当日のお支払い)

定員:材料がなくなり次第終了とさせていただきます 
お申し込み方法:当日ブースにて直接お申し込みください 

【つる9テンの皆さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
活版印刷作家のつるぎ堂・九ポ堂・knotenの3組が一緒に活動しています。

【つるぎ堂】
実家は70余年続く活版印刷屋。オーダーを受ける傍ら、動物やマトリョーシカなどをモチーフとしたオリジナル商品も作成。ロシア関連イベントやアルパカフェスタなど活版イベント以外にも多数出展。 

【九ポ堂】
「九ポ」とは活字の大きさの9ポイントに由来します。祖父の残した9ポイントの活字と印刷道具を用いて、皆様にニヤリとしていただけるような、物語性のある作品を作れるよう心がけております。

【knoten】
「クノーテン」とはドイツ語で「結び目」という意味です。小さな一枚が、手にとって下さる方々の縁を結んでくれる一枚になるようなものづくりができたらという想いをこめています。季節を感じられるモチーフなどを中心に、紙やインキの色にこだわりながら手キンと呼ばれる手動の活版印刷機で印刷しています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
【つるぎ堂】
こげ茶

【九ポ堂】
あお

【knoten】
みどり

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
【つるぎ堂】
当日のお楽しみ

【九ポ堂】
イエバコ

【knoten】
四季の星座のレターセット

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、2店舗の手紙舎を作ったあの大工さんのチームです。ものづくり好きの仲間と一緒にやってきます!

文●柿本康治

水縞「文具屋台」

果たして、私なんかが担当していいのだろうか。

水玉好きのプロダクトデザイナー植木明日子さんと、縞模様好きの「36 sublo」店主の村上幸さん。今回のもみじ市で文具ブランドの「水縞」のふたりを担当することになった時、素直に嬉しかった。だけど、戸惑ってもいた。だって、憧れている人たちだから、とても。

メール一通送るのにも緊張した。取材の日は、水玉を着ていくか、ボーダーを着ていくか心底迷った。取材中、聞こうと思っていたリストが頭の中からスーッと消えた。こんなことなら、メモ帳に書いておけばよかったと、取材帰りの電車で泣きそうになりながら悔やんだ。原稿を書いている今も、何をどう伝えたらいいのか迷っている。だって、大好きな人たちだから、とても。

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私が水縞の存在を知った日のことは、今でもよく覚えている。上京して1年が経ったころ、西荻窪に引っ越しをした友人の家を訪ねた。そのとき、彼女が連れて行ってくれたお店が「nombre」だった。「水縞」の商品が並ぶ直営ショップだ。私のことをよく知る彼女は言った。

「絶対、好きだと思うんだよね!」

彼女の予想は、ズバリだった。店内に入った瞬間、私は恋に落ちていた。動物、自動車、果物、地図のハンコ、水玉と縞模様のレターセット、数字だけがデザインされたカラフルなポストカード……水縞がテーマにしている、ちょっぴりビターなアイテムは、もうどれも私好みだった。その日、私はたくさんの買い物をした。友人の家に遊びに行ったのに、内心は自分の家に早く帰りたいと思っていた。紙にハンコを押したい。ポストカードを部屋に飾りたい。その日の私は、終日舞い上がっていた。アイテムひとつで、こんなにも楽しい気持ちにさせてくれる。そんな商品って、そう簡単にあるわけじゃない。

どんな人が作っているのかを知りたくて毎日欠かさず水縞のホームページをチェックするようになった。「ナンバー」「ハウジング」「ゲーム」、1年に1回テーマを決めて登場する新作をいち早く見たくて、展示会には必ず足を運んだ。水縞が出店するイベントにもほぼ欠かさずに行くし、ふたりが行うワークショップにも参加した。こんなに何かを夢中で“追える”のは、本当に久しぶりのことだった。

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水縞が誕生して、ことしで7年目になる。「36 sublo」のお客さんだった植木さんが、村上さんと仲良くなり「ふたりでなんかやろうよ」ということからスタートした「水縞」。ブランドを立ち上げた時から今に至るまで、新商品を生み出す作業は軽快だ。現在、1週間に一度は顔を合わせ、商品について打ち合わせをしているというふたり。打ち合わせといっても、どうやら固いものではないらしい。某コーヒーショップで待ち合わせをし、そこでアイディアを出し合う。きっと、端から見ている人には打ち合わせをしているようには見えていないんじゃないかな、と話を聞いて思った。とにかくふたりは、いつも楽しそうだから。

今年の新作のテーマは、「日本列島」。ふたりの手にかかった「日本列島」が早く見たくて、すでに私はうずうずしている。

「もみじ市にも少し持っていければと思っていますよ」

とふたりはニヤニヤ。間違いない。今回もものすごく良いものが出来上がっているのだ。私は、毎年ふたりが生み出す、最高にビターなアイテムに、これからもきっとやられてしまうんだ。

この原稿をここまで書いてみて、ふと思い出す感情があった。昔一度だけ書いたことのあるラブレター。あの時とよく似ている。書いては消し、書いては消し、何日もかけて私はそのラブレターを書いた。出来上がったものは、結局何を伝えたいのか自分でもよくわからないものになっていた。“好き”という気持ちが大きすぎると、たくさんの思いを伝えたくなって、たくさんの言葉と文字を並べたくなるものなのかもしれない。ロマンチックとは言いがたい、不細工なラブレターだった。それでも、私の“好き”という気持ちは彼にちゃんと伝わっていた(両想いにはなれなかったけど)。植木さんと村上さんは、私の原稿を読んでどう思うだろうか。すでにドキドキして、胸が少し痛い。だけど、もみじ市当日、私は誰よりも早くふたりに、そして私を夢中にさせる文房具に会いに行こうと思う。

【水縞 植木明日子さんと村上幸さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
クラフト紙やグラシン紙といった、味のある紙を使った紙ものアイテムを作っています。私たちの目線を通して製作、セレクトする少しビターな文房具をぜひ見に来てください。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
モスグリーン、楠んだ緑です。商品につける帯やタグ、パッケージなどにもよく使用しています。黄色っぽい緑、深い緑、黒に近い緑など、一言では言えないですが好きなモスグリーンはたくさんあります。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
水縞が、デザインを担当させてもらった阿佐ヶ谷の老舗和菓子店「釜人 鉢の木」さんの和菓子をもみじ市限定パッケージに入れて販売する予定です。また、定番のカレンダーや秋の新作もずらりと並びます! 普段は販売していない商品、デッドストック、もみじ市限定で作ったハンコなどを詰め合わせた「もみじ袋」も用意しますので、みなさん是非のぞきに来てくださいね。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは八王子からやってくるあのパン屋さん。もみじ市ではどんなパンを持ってきてくれるのでしょうか。

文●新居鮎美

six「出張蚤の市」

ステーショナリー。いや、文房具。小学校の頃、駄菓子と一緒によく買っていたのを思い出します(当時、文房具店には駄菓子も売っていました)。気にいったシャーペンを何色も買って、買った日はいつもより丁寧に字を書いたり、勉強をがんばったような気がします。みなさんにも、文房具にまつわる思い出があるのではないでしょうか?

sixの店主である佐藤達郎さんは文房具を企画デザインする「DELFONICS」(デルフォニックス)を1988年に立ち上げ、その6年後の1994年、東京・自由が丘にsixをオープンさせました。

瀬戸内のおだやかな町で育った佐藤さんは言います。

「小学校の前にあった文房具店には元気な子供たちがいっぱいで、ワクワクやドキドキにあふれていました。まるで宝物さがしでもするかのように、毎朝、店内をひと回りしてから教室に向かいました。文具店に一番活気があった、あの頃のたたずまいや匂い、ワクワクやドキドキを伝えていけないだろうか。当時たしかにあったその魅力を、今の時代の中で再生していきたい。けっして再現ではなく、現代なりの、自分なりの解釈を添えて」

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sixの店舗は地上から少し階段を下って入ります。そしてトビラをくぐった瞬間に一気に広がる世界は、佐藤さんが伝えたかったというワクワクやドキドキを感じずにはいられません。店内にはペンやノート、消しゴムにテープカッター、便せんにハサミなど、私たちが子供の頃から文房具店で見てきたアイテムや、アンティーク時計、スノードーム、ポスターなどの雑貨が、ところ狭しと並んでいます。

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これらのアイテムは佐藤さんとsixのスタッフさんたちが、フランス、イタリア、スペインなどのヨーロッパや北欧などの国に行き、直接仕入れたもの。「欲しい」と思って仕入れたものです。今では多くのお店で見かける海外の文房具ですが、sixがオープンした約20年前には、まだ日本ではなかなか見かけることがありませんでした。人気があるから、ではなく、自らの足で見つけ、長きにわたって海外の文房具を見続け、文房具を自ら企画デザインもする佐藤さんならではの視点、解釈を、アイテムひとつひとつから感じることができます。

佐藤さんがセレクトをする際にいつも言っているという言葉をスタッフの伊藤妙子さんに聞くことができました。

「文房具を使うシーンに緊張感があること、その一方で雑貨も含めた遊び心も忘れたくない、という様々な良さに惹かれもの選びをしています」。

文房具というのは仕事で使う場面が多く、オンタイムのもの。だからある一定の緊張感が必要で、その中にも使う時に楽しい要素を、ということなのでしょう。

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今回のもみじ市のテーマはカラフル。「ひとつのボールペンでも様々なカラー展開がある文房具は今回のテーマぴったりです。国や地域ならではの色が、文房具にもあります。それをぜひ楽しんでください」と伊藤さん。子供の頃、文房具店訪れた時のような気持ちで、sixのブースに行ってみてください。文房具を選ぶワクワク・ドキドキ感を、そして文房具を使う楽しさを、きっと思い出させてくれますよ。

【sixスタッフ伊藤妙子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
お店では文房具と雑貨を扱っていますが、年に何度かヴィンテージのものを集めた蚤の市を行っています。もみじ市ではその蚤の市の出張版で臨みます!

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
カラフルな色彩が映える白でしょうか。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
文房具はカラー展開が豊富なので、カラフルなアイテムをご用意します。そして様々な国や地域のアイテムが持つ性格、色を楽しんでください。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いてご紹介するのは、初出店の方です。この人の手にかかれば、みんなツメの先までカラフルになれますよ!

文●竹内省二