杉田明彦「漆工」

自分といっしょに年をとっていく、そんな一生ものの漆の器はいかがでしょうか。軽くて丈夫で、つるんとした上品な佇まいに、心ひかれることと思います。

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「漆」。少し敷居が高く感じるかもしれません。実家にならある、という方もいるでしょう。お正月のおせち料理のお重を思い浮かべる方もいるでしょう。いつ使えばいいのかわからず、仕舞い込んでいる方もいるかもしれません。高級なものだし、手入れもわからないし、どうやって使えばいいのか見当がつかない方もいると思います。

漆器は使っていくと若干の傷はついていきますし、やつれて体積が減り木目が浮いてきます。時間が経つほどに硬化していきます。毎日触れ、口をつけるお椀は、自分の手の脂なども馴染んでいき、つやっとした表情も見せてくれます。

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もみじ市史上、初めてとなる漆の作家さん、漆工の杉田明彦さんをご紹介します。杉田さんは手打蕎麦屋で修行後、「茶の箱」という本に感銘を受け、塗師の赤木明登さんの門をたたきました。4年間の修行と2年間の御礼奉公、計6年の修行を経て、今年4月に独立しました。

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海と山に囲まれた自然豊かな石川県輪島市に、杉田さんの工房があります。神聖なる空気が流れているような気がする薄暗い工房は、漆を塗る場所、乾かす場所など、作業ごとに空間が分けられています。

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塗って、乾かして、塗って、乾かして、を繰り返す作業。下地を4回、中塗りを2回、そのあとに仕上げの上塗りをします。押し入れのような部屋の中に並べられたお椀は、塗った漆が垂れてこないように10分ごとに回転する仕組みになっており、細かい塵もつかないように整えられ、湿度と温度を調整して24時間かけて乾燥させます。とても繊細な作業です。

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昔から、分担作業で作られてきた漆器。型師さんが丸木から削り取ったものを、木地師さんがひとつひとつ手で確認しながら、お椀の形にしていきます。おがくずを燃やした燻煙加工で木を乾燥させ、中にいる小さな虫なども処理しています。杉田さんも、信頼する木地師さんに、大きさや厚さはもちろん、その湾曲の具合などを細かく注文していています。手に優しく馴染むその形は、杉田さんがデザインしたオリジナルの形なのです。

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自らのことを「漆工」と呼ぶ杉田さん。
「塗師と言ったら職人のかっこよさがある。憧れるけど自分では名乗りづらい。でも作家などと、大きくも言えない。もっと僕らの世代はフラットでいいんじゃないかな。金属工芸の人は金工っていうから、じゃあ漆工でいいんじゃないかな、と。普段の延長で、肩をはらない漆工。考え方がかわればまた変えるかもしれないけれど。」

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杉田さんの二人のお子さんは、生まれた時から漆の飯椀と汁碗を使っているそう。漆は木から採れる樹液なので、体にも環境にも優しい天然素材。子どもにも安心して使っていただける器なのです。

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さて、みなさんがきっと気になっているお手入れの話。「たいへんそう」というイメージを抱いている方も多いかもしれませんが、さにあらず。直射日光にあてない、水につけっぱなしにしない、柔らかいスポンジで洗うなど、ごく普通のことに注意すれば、とても長持ちするのです。

そう、漆器とは、日常的に使ってほしい器。丈夫で、美しく、口当たりがなめらかな漆器は、「毎日の暮らしにそれがあるだけで人生は豊かになる」と言っても言い過ぎではないと思うのです。

「自分といっしょに歳をとっていく様子も楽しんでもらいたいんです」
杉田さんはそう言います。実は、杉田さんは基本無料で漆の塗り直しをしています。長く長く使ってもらえるように。人生を漆器と一緒に歩んでもらえるように。

もみじ市初出店となる杉田さん。今回は、定番のお椀をはじめ、使いやすい形のお皿、マットな質感のものも持ってきてくださいます。ぜひ、杉田さんの漆器を、その美しさを見ていただきたいと思います。

何度も何度も塗り重ねられた美しい漆の器を、明日から食卓に並べてみませんか。漆器とは、普段使いの器なのです。

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【杉田明彦さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
1978年 東京都文京区生まれ。
学習院文学部哲学科中退
手打蕎麦店での修業の後、07年に輪島へ。
塗師 赤木明登のもとで修業、今年4月に独立。
10月より金沢にて活動。

Q2.今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
椀、皿、鉢、板など。

すみません、これという演出は考えていません。一人一色あればいいのかなとも思います。漆の色は基本は黒です。(細かく言えば濃い飴色ですが)今はそこに顔料を入れていろいろな色を出すこともできますが、黒の中にも微妙な色相の差や、また質感・奥行の違いが出るのでそこが魅力だと思っています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いては、日本を代表すると言っても過言ではないあのイラストレーターさんです。今回は紙だけでなく“布”のものもご用意してくれるそうですよ!

文●鈴木 静華