nuri「キャンドル」

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9月1日、午前2時30分。1通のメールが届いた。

『あの後、ずっともみじ市のことを考えていて、ほんとにわくわくしています。それで思いついたことがあって、いてもたってもいられなくてメールしてしまいました。「カラフル」をテーマにはじめはどんな作品を作ろうか、と考えていたのですが、青空の下で綺麗なものを作りたいと思い、ワックスペーパーでのれんのようなものを作ろうと思い立ちました。3月の個展の時にワックスペーパーで三角の旗を作ったのを覚えていますか? あれを三角ではなく長いリボンのようにして、たくさんはためかせたらとても綺麗なんじゃないかなと思いました。ワックスペーパーは光を透かすと本当に綺麗です。風に揺れたら最高だと。色はカラフルに。夢の入り口みたいな感じにしたいので』

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前日の8月31日、私は、京都にあるnuriさんの工房を訪ねていた。翌々日から個展が始まるという多忙な日、納品するためのキャンドルを一緒にプチプチで包みながら、作品づくりのこと、最近の暮らしのこと、これからのことなどをたくさん話した。そして、その日の夜が開けないうちに、彼女が送ってくれたメールが、これだった。

じんわりとこみ上げて来るものがあった。実は、nuriさんの家を後にするとき、私は少し気持ちがもやもやしていた。言いたいことがあったけれど、言えずに帰ってきてしまったのだ。彼女があまりに忙しいこと、いつも体と心が壊れそうなほどに、ギリギリまで制作に励んでいること。材料の仕入れから、デザイン、形づくり、色つけ、梱包までぜんぶひとりでやっているから、できることに限界があること。それを知っているから、言い出せなかった。

「今年のもみじ市で、なにか新しいnuriさんを見せてもらえないか」と。

だから、このメールを読んだ時、うれしくてうれしくて、朝起きてまっさきに、私は返事を送っていた。「ありがとう!」と。

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それからもう、1カ月以上も経っている。ついに、もみじ市の直前になってしまった。でも、なかなか原稿を書く気持ちになれなかった。ゆっくりと向き合ってみたかったのだ。nuriさんも、もみじ市も、私にとってあまりにも大切な存在であり、このふたつは切り離せない存在だから。

nuriさんが初めてもみじ市に出てくれたのは、2010年のことだった。もみじ市の7カ月前、京都で開催されていた個展で偶然みかけたnuriさんのキャンドルは、シンプルな形の中にさまざまな色が込められていて、美しいけれどどこか儚くて、すっと私の心の引き出しの中に入り込んで来たのだった。

初めて連絡を取ったのは、その数カ月後、もみじ市に出ていただきたいとメールを送った時だった。少し緊張して「送信」のボタンを押したのに、nuriさんは1時間もしないうちに返事をくれた。「嬉しい!」「出ます!」と、少し興奮ぎみに。この話は、いまでもnuriさんを語る上で時々登場するエピソードとなっている。人懐っこくて、まっすぐで、情熱的で、ひたむきな、nuriさんそのものだったから。

それからは、もみじ市以外でもたくさんご一緒していただいた。お店で作品を販売させていただいたり、イベントに出品していただいたり、昨年は手紙舎で個展もやっていただいた。何かをやろうと思うと、まっ先にnuriさんを仲間に入れてしまいたくなる。nuriさんとnuriさんの作品は私にとって、手紙社にとって、あまりに大切で、頼もしくて、いつでも一緒に何かをやりたい存在なのだ。そのたびごとにnuriさんは、たくさんのキャンドルを用意してくれる。ひとつでも沢山つくろうと、なにか面白いことにトライしようと、私たちの誘いに対してこちらの想像以上に力を尽くしてくれる。なにが彼女をそうさせているのだろうと、こちらが疑問に思うほどに。

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今回のもみじ市のテーマがカラフルと決まった時、私はまっさきにnuriさんのことを思い出した。nuriさんにぴったりなテーマだと思った。

nuriさんがつくるキャンドルは、色に溢れている。色を作ることが好きで、楽しいと、nuriさんは言う。彼女が作る作品をよく見ると、ひとつひとつすべて色を変えて作られている。シンプルな形のものも、人気の小鳥のキャンドルも。それはそれは、どんなにか手間がかかる作業だと思う。でも、それが楽しい、それがやりたいことなのだという。

先日取材に伺ったときも、こんなことを言っていた。

「ろうそく屋である前に、色屋さんでありたい」

そうか、この人はキャンドル作家じゃない、表現者、アーティストなんだ。色を表現するために選んだ素材がキャンドルだったのだ。素直に色が表現できて、さまざまな質感があって、光に透けて、そして、いつか儚くとけていく。そんな、キャンドルという素材を最大限に活用しながら、作品を作り続ける。だからnuriさんは、独自の手法で作品をつくり、手のひらに乗るほどの小さな作品から、空間を埋め尽くすようなダイナミックな作品まで、表現が無限大に広がっているのだ。

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今年になって生まれたという新作は、これまでとは少し違った趣を放っていた。古い壁のような、使い古された扉のようなマットな質感とグレイッシュな色合い。ドライで少しざらついた表面。形は、余分なものがすべて削ぎ落とされたように、至ってシンプルだ。そのキャンドルは、暮らしの中に色を添えるために飾ったり、さりげない1日の終わりに火を灯してみたくなるような作品だった。

たとえばそれは、北欧の森の中にある家の窓際に飾っあって、夜になるとそのキャンドルに火が灯されて、その光の中で、お父さんは本を読み、お母さんは子どものためにマフラーを編み、子どもたちは思い思いに遊んでいる。そんなシーンの中に、あのキャンドルがある風景が見えてくる。

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「私にとって色は大事なもの。素材はロウと決めているから、形もある程度限界があるから、色でしか勝負できないと思う。ろうそくの作家さんがたくさんいるなかで、私はどこで勝負するかをいつも考えています。誰かがやっていることはやりたくない。見たことのないものを作りたい。『ロウという素材でこれはみたことないでしょ』と思わせるものを作りたい。だから、この作品が完成したとき、安心したんです。きっと、誰かが先にこれをやったら嫉妬していただろうと思う。これは私の作品として、ずっと作りつづけていくだろうと思います」

むき出しで、美しいと思った。新しいnuri candleの始まりだ。

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さて、冒頭に登場したワックスペーパーの作品は、もみじ市の当日、会場装飾をしてくれるDOM.F..の迫田さんの手により、ステージの装飾に使われることになった。虹のようにさまざまな色が風に揺れ、光を透かし、風景と一体になってカラフルな会場に拍車をかける。

nuriさん、もう何日かしたら、あなたはここにやって来てくれますね。あの大きな河川敷の会場に降り注ぐ太陽と同じくらい、情熱的な笑顔をたたえて。迎える私は、胸がいっぱいで、あなたの顔をみたら泣いてしまうかもしれません。もみじ市を開催する日がふたたび来ると、ずっとずっと信じてくれたあなたと、ここでまた会えることが嬉しすぎて。

【nuriさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
nuriです。京都の古い一軒家で毎日ろうそくを作っています。早寝早起きで日々精進です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
オレンジ。火の色。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
いつもカラフルなろうそくを作っているのですが、いつもその時の色を作っているのでいろいろ変化しています。今の私が出せる色を精一杯表現したいと思っています。

今年は蝋の紙でたくさんのリボンを作りました。会場のどこかでひらひらしていると思います。

青空に映えるといいな。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

これにて、2013年もみじ市の全出店者の紹介が終了。この後は、出店者のみなさんから届いた直前情報をお届けします。

文●わたなべようこ

西本良太「木工」

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ライフスタイルしかり、ファッションしかり、デバイスしかり。ぼくたちの日常がどこかシンプルなものへと回帰しはじめてから、ずいぶんと経ったような気がする。だが、そのなかに本質的にオーセンティックなものをほとんど見つけることができないのは、未だにどこか回帰しきれないぼくの思い過ごしだろうか。彼の作品を手にするとき、いつもそんな想いが頭をよぎる。

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西本良太さんは、木材を中心としながらもプラスチック、アクリル板、紙、果てはセメントに至るまで、多彩なマテリアルを用いてヴァラエティに富んだプロダクトに落としこむ、緑豊かな西東京に工房を構えるクラフト作家。建築の図面で用いられる、三次元を二次元で描き出す二点透視図法のシルエットを再び三次元に起こしたウッド・ブローチ、すこし力を入れれば折れてしまいそうな、アクリルを繊細に削り出したしなやかなタッチのリング、水と着色剤をセメントに加え、型に流し込んで丹念に磨き上げた淡く発色する箸置き―—その静謐でシャープなたたずまいの作品群は、いずれも一貫して圧倒的とすらいえる気品を放ちつつ、不思議とやわらかなあたたかみを感じさせてくれる。

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だがそんな色とりどりの鮮やかなアプローチを次々と繰り出しながらも、やはり木工作家と呼ばれるのがいちばんしっくりくる、と彼は笑う。

「もともと木工の家具を作る会社にいた、というのが大きいような気がしますね。木だけにこだわらず、身近にあるいろんな素材を使ったりしますけど、ベースになっている技術や知識はそれほど変わらないし、そんなに違うことをやっている意識もなくて。それに、木もそのほかの材料も、なるべく特別なものは使わないようにしているんです。専門の人じゃないと買えないようなものじゃなく、誰もが選択できるもの。そのへんのホームセンターで買ってきたりしますよ(笑)。ベースが個性的であったり、貴重であったりすることにまったく興味がない、というか。だって自分が作っているのは、あくまで普段身に付けるものや、日常で使う道具なので」

この透徹したストイシズムこそが、テクスチャーをフラットに飛び越えたクリエイティヴィティに、自身でさえ無意識のうちに帰結するのだろう。

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「箸置きだって、着色剤を混ぜたセメントを固めただけの、ただの立方体ですし。いろんな色が表現できたり、その質感の意外な面白さ自体を毎日使うものの中で出してみたくて作ったものだから、そこで強烈な形はあんまり前に出てくる必要がなくて。ものを、ものとして見たいんです。高い材料だからいい、ってわけじゃないし、安い材料でも面白い素材はたくさんあるから。『これもいいでしょ?』っていう。あらゆることを並列に、平らにしたいのかもしれませんね」

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ものの本来の価値とは、社会が暗黙のうちに都合よく定義した相対的な規格のなかに潜むのではなく、ただ対象に真摯に向き合い、その魅力を正しくとらえようとする、後ろ盾のない絶対的な勇気にこそ宿ることに、彼の手はあらかじめ気づいている。どうかもみじ市で、あなたにもこの凛とした奇蹟に出逢ってほしいと強く想う。世界よ、これが正統だ。

【西本良太さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
指輪、箱、家具などを製作する、木工作家です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
グレーかな。気になる素材もグレーが多いんです。塩ビ管、とか(笑)。黒みたいにきつくもないし、白みたいにはっきりした感じでもないし。どこか、ぼやけたものが好きなのかもしれませんね(笑)。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
最近とくに気持ちが向いていて、いろいろ作ることも多いんですけど、箱でなにかやりたくて。ただの入れ物のはずなのに、どこか惹かれるんですよね。ちょっと小さめのもの、小物入れがいいかな。テーマは単純にそのまま文字通り受け取って、あまりひねらずに、いろんな色のものを作られればな、と。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、もみじ市の“象徴”、tico moonのアルバム・ジャケットなども手がけたあのイラストレーターさんです!

文●藤井道郎

mitome tsukasa「真鍮・ブロンズ・シルバーのアクセサリー」(20日)

「ただそこに静かにあるような、飾り立てるのではなく、そっと寄り添うようなアクセサリーを作りたいんです」

作家活動を始めて今年で10年目になるmitome tsukasaさん。落ち着いて、でも生き生きとした口調で、そう語ってくれました。

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mitomeさんは、大学で金工の1つである鋳金を専攻し、この世界に入りました。

「絵は手で描くけれど、結局は眼で観るもの。それに対し、工芸品は触れることができる。そういう結実の仕方がいいなと思ったんです。美術館に行っても、通常、絵は触れない。工芸品のように人が使うものは、実態を確認できる。ガラスや陶器は割れてしまうことがあるし、染織品は色褪せてしまう。その頃は、変わっていくことが悲しすぎて耐えられなかったので、少しでも丈夫で残していけるものを作りたかったんです」

鋳金とは、型を作って、溶けた金属を流し込む、金属工芸の技術のひとつです。型を作ればまた再生できることから、mitomeさんは永遠につながるもの、と考えました。「1点ものだと私の性格では、手放せなくなってしまう」。型を用いて作品を作って行くことはまるで、分身を作って行くような作業。ひとつひとつにmitomeさんの想いが詰まっています。

とはいえ、簡単なものではありません。作品が完成するまでは、いくつかの工程があります。まず、直径1mmの線状のロウで、原型を作っていきます。気温が高ければ溶けてしまい、低ければ簡単に折れてしまう繊細なロウ。少しずつ少しずつ曲げたり切ったり、ハンダゴテでくっつけたりしながら形作っていきます。それを工場で鋳造してもらい、それをやすったり磨いたりして形を整えた後、シリコンゴムで型をとります。その型を使い、ロウで“分身”を作ります。それらを再び鋳造してもらい、形を整えて、初めて、作品が完成するのです。

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また、成分や配合も指定して金属にしています。通常の美術鋳物のブロンズには、ごく少量の鉛が含まれますが、mitomeさんは、鉛が0になるものを選び、かぶれにくいようになど気を付けて、真鍮、ブロンズ、シルバーの特徴をそれぞれ生かしながらアクセサリーにしています。 

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葉山で生まれ育ち、ご自宅の敷地内にあるアトリエで制作するmitomeさん。海の香りが漂いながらも、山の緑に囲まれている、この場所だからこそ生まれている作品もたくさんあります。日々歩いているときに出合う、木々や草花たち。観たもの、感じ取った空気などから、世界観を拾ってきます。

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8月。mitomeさんの個展に伺いました。acacia、lilac、dahlia、elder flower、sirakabaなど植物をモチーフにしたもの、flow、spangle、mizu、doily、arabesqueなど現象や模様をモチーフにしたもの、その他にも目移りしてしまうほどにたくさんの種類のピアスやイヤリング、ネックレス、ブレスレット、リングなどが並んでいました。私が迷っていると、mitomeさんがそっと似合うものを選んでくださいました。つけているとやさしい気持ちになれる、毎日つけたくなるようなアクセサリーです。

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「つけているのを忘れてしまうくらいのものがいい」

mitomeさんが自然の中で出合う空気が織り込まれているから、私たちの日々にもそっと溶け込むような作品になるのかもしれません。いっしょにいたくなるような、毎日の暮らしに馴染んでいくようなアクセサリーを探しにいらしてください。mitome tsukasaさんは20日のみのご出店ですので、お間違えありませんように。

【mitome tsukasaさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
金属でアクセサリーを作っています、mitome tsukasa と申します。金属だけど、やわらかいようなあたたかいような…、そんな風合いになるよう心掛けて、制作をしています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
葉っぱが重なってできる緑色。透明が重なってできる青色。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
真鍮・ブロンズ・シルバーの、ピアス・ネックレス・ブローチ・リングなどいろいろ。定番のものが多いですが、わたしなりのカラフルな空間の中にずらーっと並べて、いつもと違う表情を感じていただくことができたらいいなと思っています。お選びいただいたアクセサリーは、カラフル巾着袋に包んでお渡しいたします!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、あの活版印刷ユニットです! 毎回さまざまなワークショップを行なってくれるこの方々。今回はどんなワークショップをご用意してくれているのでしょうか。

文●鈴木 静華

左藤吹きガラス工房「普通の日の吹きガラス」

「もみじ市にはたくさんのお客さんが来る。ガラスに興味がない人もいると思う。そういうお客さんが、ふとガラスの器を見たときに印象に残るようにしたい。初回は買ってもらえなくても、とにかく見てもらいたいんです」

大量生産できる工業製品よりも、どうしても高価になってしまう手仕事のガラス。しかし、そのガラスのあたたかさ、やさしさ、光を通したときの美しさ、手仕事ならではの表情は、直接見て、触れないと伝わらないのかもしれません。

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左藤玲朗さんの作品に出合ったとき、私はとても懐かしい気持ちになりました。その理由のひとつは、再生ガラスを材料のひとつとして使っていることにあるようです。もともとは醤油の瓶だったガラス、お酒の瓶だったガラス……、昔から使われている瓶の色には、生活に馴染む、良い色が多いのだそうです。とはいえ、再生ガラスを使うことはとても手間がかかります。ガラスを集めることはもちろん、選別、洗浄など、材料を揃えるまでに一苦労です。

左藤さんのガラスといえば”モール”。これは、昔の食器棚などに使われていたストライプに凹凸が入っている模様のことで、これを施すにはやはり、とても手間がかかります。しかし、モールのコップや小鉢などの質感、手触り、光の揺らぎ具合は、他のガラスにはない、なんとも言えない美しさがあります。

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沖縄のガラス工場に2年間勤務し、ガラスの基本的な扱い方を学んだあと、4年前に兵庫県から千葉県九十九里に工房を移した佐藤さん。九十九里を愛する左藤さんの気持ちは、今回作成していただいたお面からも、とてもよく伝わってきます(いちばん下の動画メッセージをご覧ください)。

今回、取材のために工房にお伺いしたいことを伝えると、8月ではなく9月にした方がいいとのことでした。夏場の工房の気温は、40℃を超えます。炉の中は1000℃超え。過酷な環境の下、足下は足袋に下駄、腕には熱さに耐えられるカバーをし、眼にはサングラス、心には忍耐を。研究を重ねたスタイルで、ガラスに向き合います。ひとつひとつの道具も、使いやすいように、動きやすいようにと、試行錯誤の上、自身で作ったオリジナル。左藤さんが作品に真摯に向き合っていることが、至るところから伝わってきます。

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「ガラスは、陶芸のように直接触って作れないので、練習してもできない形があります。そういうときは、道具を工夫し、作り方を見直していくんです」

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 左藤さんが作る器は、普通の日に使ってほしいもの。

「食器棚から出してもらえる回数が多いほうが良い道具という仮定に基づいて、なるべく使い難い要素を削る方向で制作しています。特に何も良いこともなかった日の無事を喜べて、一日の締めくくりに使ってもらえるように」

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7月20日の「左藤吹きガラス工房公式業務日報」と題されるブログには、こう書いてあります。

「昨日手紙社より、2013年もみじ市が10月に開催される旨の発表があった。天気が気になる。開催場所の調布市河川敷のすぐ横には屋根付きの競輪場がありそこを借りる案もあったことと思う。実際骨董市などをそこでやってもいる。だがやっぱり屋外、晴れた空の下の替わりはない。プールでスイカ割りをする人がいないように」

河川敷には、不便なこともたくさんあります。雨が降ると遮るものがなく、場所の変更が必要になります。水道もお手洗いも近くにありません。電気もありません。それでも河川敷を選ぶ理由。左藤さんがわかってくださっていたことがとてもうれしく、私自身、その絶妙な表現であらためて気付かされました。

もみじ市当日、生活に寄り添うような左藤さんのガラスの作品を、ぜひご覧ください。そして、気に入った器があれば手に取り、その夜、できることなら、もみじ市を振り返りながら使ってもらえたなら、私も、きっと左藤さんもうれしいはずです。

【左藤吹きガラス工房さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
千葉九十九里の左藤吹きガラス工房です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
ガラスを吹く人は短気な人が多いので火の色オレンジ色です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今回は特に小さいものに力を入れています。また私は植物、特に花の形を参考に器を考えることが多いので、器そのものに色を着けていなくても花を感じてもらえるとうれしいです。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのはヤギが目印のあのお店です!

文●鈴木 静華

はしもとみお「木彫りの移動動物園」

「立体図鑑を作りたいんです! 彫刻動物図鑑を!」
目を輝かせながら、はしもとみおさんは言いました。

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「全世界にいる動物たちの立体図鑑を作りたい。今はまだ200種類くらい。虫や鳥や魚も彫っていたら、一生が一瞬で終わりそう」

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動物を彫ることに人生をかける彫刻家はしもとみおさん。かつては、「動物に関わる仕事がしたい」という想いから獣医や飼育員を考えたこともあったそうです。

はしもとさんは、15歳のときに阪神淡路大震災を経験しました。兵庫県にある実家の被害は大きく、近所のかわいいペットたちも、みんないなくなってしまいました。「形を残したい」。そう強く思ったはしもとさんは、17歳で美術を始めました。

美術は「術」だと話すはしもとさん。訓練で身に付くものなので、反復練習が大切だと言います。はしもとさんは、あまりにもたくさんのスケッチを繰り返しました。描いて来たものは、もちろん動物です。そして、そのスケッチをよりリアルにするため、立体にすることを考えました。鉄や石、陶器などで動物を作ることを試し、結果、彫刻を選択しました。毛並みを表現するには、木が最適だったそうです。

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スケッチした動物たちを彫る作業は、体力勝負でもあります。丸太を購入し、チェーンソーで切り出し、こつこつ彫っていきます。使うのは主に楠の木。すうっとハッカのような香り。虫がつきにくく、国産のものが手に入るから、というのも楠の木を使う理由のひとつ。地産地消にもなるからです。木を彫り、造形が出来たら、アクリル絵の具を中心に、漆やカシューを塗って仕上げて行きます。

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はしもとさんは、目の前に生きている、あるいは生きていた、名前がある動物たちをモデルにして彫っています。その名も「肖像彫刻」。ただの柴犬だったり、ただのチワワではなく、世界に1匹だけの、“その子”を彫るということ。

「自分はアーティストではなく、職人。その子自身をどれだけリアルに残せるか、というお仕事です」

お客さまの依頼を受けて、実際に会いにいき、スケッチをする。そして、アトリエに戻って、彫る。結婚して嫁いでくる妻に、妻が長年かわいがっている実家の犬の彫刻をプレゼントしたい、という男性からの依頼もあったそう。はしもとさんが彫った動物を見て、「■■動物園の●●ちゃんだ」と、わかる人もいるそうです。

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私は、知人にはしもとさんのブログを読むことを勧められ、はしもとさんを知りました。ブログには、はしもとさんが日々感じたことや考えたことが、惜しみなく刻まれていました。あまりにも純粋で、強く、心の奥の方から絞り出されるような言葉の連なりは、私の心の大切なところを、でもふだんは自分では気づいていない大切なところを、きゅっとつかまれるような感覚。こんな感覚をおぼえたのは、生まれて初めてだったと思います。

「大切なことは、自分の目を信じること。目の前の見えるものに素直になること」

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はしもとみおさんは、車に積める限りたくさんの動物たちを連れて、三重県から多摩川河川敷にやってきます。その名も「木彫りの移動動物園」。2日間だけの、はしもとみおさんの動物園に、どうぞお越し下さい。

<「はしもとみおの、木で寝ている柴犬を彫ろう!ワークショップ」のご案内>

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開催日時:
10月19日(土) 13:00~15:30 
10月20日(日) 13:00~15:30 

両日とも満席となりましたので、申し込みを締め切らせていただきます。たくさんのお申し込みありがとうございました。

参加費:4,200円(材料費込み)(当日のお支払い)
定員:各回15名(事前お申し込み制)
持ち物:あれば彫刻刀、汚れてもいい服装、エプロン、バンドエイド(手を切ってしまった時などに)、筆記用具、彫りたい柴犬の資料

10歳未満の子供のかたは保護者同伴でお願いします。
彫刻刀はこちらでも用意してありますので、なくてもかまいません。

【はしもとみおさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
三重県にアトリエを構え、主に木彫りの動物たちの肖像彫刻を作っています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
空色になれたらいいなと思っています。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今回は羊さん、ヤギさん、犬たち、たくさんの等身大の彫刻たちも連れて行きます。ご自由に写真とかも取っていただけるように、移動動物園を開催したいと思います。

また、ちいさな動物たちは販売できるものも連れて行きます。動物たちそれぞれに、個性といういみでの「カラー」がたくさんありますので、ちいさくてもおおきくてもその彫刻の中にある「カラフル」を探して楽しんでいただければと思っています!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのはお菓子とグラフィックの甘い、甘いコラボレーション。女の子の好きがぎゅっと詰まったお菓子に紙ものをご用意してくれます。

文●鈴木静華

norioはんこ店「オーダーはんこ+押してみようはんこ」

「私の作品は私だけのものじゃないんですよね。半分はお客様の作品なんです」

これは、norioさんの言葉。全国各地を飛び回り、お客さんと1対1で向き合いながら、その場ではんこを彫りあげるnorioさん。その活動を始めて、もうすぐ10年目を迎える。

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大学で日本画を学んでいたnorioさんがはんこを彫り始めたきっかけは、10年前に働いていた雑貨店。オーダーメイドはんこを作るイベントをそのお店で開催したことがきっかけだ。「恥ずかしいんですけど」と見せてくれた1冊のアルバムには、当時の作品が収められていた。そこには、はじめて作ったとは思えないほどの出来栄えの作品がずらりと並んでいた。
「彫り方も未熟だし、イラストもすごい偏っているんです。できることが限られていたから。この時来てくれたお客さんには感謝しかないですね」
norioさんはそう言うが、あきらかにセンスを感じさせる作品の数々。はんこ作家norioが誕生した瞬間だった。

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それからは、ひたすらお客さんのために彫りながら、技術を上げていった。10年経った今では、はんこが彫り上がるまでの一連の動きはスムースで、単に彫るための作業をしているわけではなく、その作業自体がエンターテイメントなのではないか、と感じる。

ここで、norioさんがはんこを彫っている場面を実況中継。

小さい机を挟んでお客様と向かい合うnorio さん。まずはお客さまの要望をヒアリング。その顔はニコニコ。
おっと、お客さまの話を聞きながらすでに鉛筆を走らせている。あっという間にひとつ目の図案(下書き)が完成。
それもつかの間、じゃあ今度は、と別の視点から描き出された図案が完成。
ふたつの図案を見比べながらお客さまと意見交換。もうこの時点でお客さまは嬉しそう。
図案が決定。トレーシングペーパーに描いたイラストをゴム版にぎゅっとこすりつけて絵柄を写す。
ゴム版を迷いのない手つきで掘り進めていく。手を動かしながらもお客様に話しかけるnorioさん。That’s Entertainer!
そうこうしているうちに世界にひとつだけのはんこが完成!
これで終わりではない。完成したはんこを使って、インクの付け方のコツを教えてくれる。
終了。お客さまはみな、とっても幸せそう。

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norioさんは、1組あたりにかける時間を決めていると言う。それには理由がある。
「時間があればいいというものでもないんですよね。時間があるとあれもこれもと悩んでしまって、お客さまの本当に欲しいものが見つけにくくなってしまうと思います。それと時間が決まっているからこその良いこともたくさんあって。前のお客様と次のお客様の交流が生まれたりするんです」
リピーターが多いのもnorioはんこ店の特徴。
「最初はおひとりではんこを作ってくれて、そのつぎは結婚して旦那さんとふたりで、子どもがうまれて3人で、家を建てた記念のはんこ、という風に節目で作りに来てくれる方もいて、本当にありがたいなと思います」

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今や、全国各地にnorioさんのはんこを待っている人がたくさんいる。
「毎年呼んでくださる方がいるのも本当にありがたいことだと思っています。そこに、これからは自分がはんこを作りに行きたい場所も加えられたらいいなとも思っています。自分の作品を作り続けるよりも、相手が必要としているものを作るというこのスタイルが、自分の性に合っているのだと思います」
そう、norioさんのはんこは、お客さまあってのもの。“半分はお客様の作品”なのだ。

どれだけ人気になっても変わらず、お客さまひとりひとりに向き合ってはんこ作りを続けていくnorioさん。ファンを増やし続けるnorioはんこ店は、今年ももみじ市の会場で、各日8組様限定でオーダーはんこづくりを行います。ご希望の方は開場後、norioさんのブースまでお越しください。参考となる印刷物や写真もぜひお持ちくださいね。

また今回は、ポストカードと切手、はんこをセットにした「押してみようはんこ」を販売します。ポストカードの絵柄を、norioさんのはんこで自分なりに彩ることができますよ。この日のためにnorioさんは、カラフルなインクやマーカー、特製のポストを用意して、みなさんのお越しをお待ちしています。

<norioさん オーダーはんこのご案内>
10月19日(土)11:00〜16:00
10月20日(日)10:30〜15:30

お申し込み方法:
もみじ市当日「norioはんこ店」ブース前にて先着順で受付をいたします
一日8組限定/お一人様30分ご予約制

お客様と一緒にモチーフを決め、はんこ(ゴム版)を制作し、その場で販売いたします。 皆様のはんこにされたいイメージをお伝えください。お写真や印刷物などの資料、大歓迎です!
はんこは何点でもお受付可能ですが、1点のご注文ですと当日お渡し、2点以上のご注文になりますと(モチーフの内容や個数によります)後日ご郵送となる場合もございますのでご了承ください。(11月中旬お渡し予定)

はんこ(大)税込3675円…内容の細かいもの。文字やモチーフの多いもの。3人以上の人物、動物。
はんこ(中)税込2940円…2人までの人物、動物、物+お名前、屋号などの文字。
はんこ(小)税込2100円…文字のみ。

※ 制作内容により大きさが変わります。お値段はモチーフご相談の際にお伝えいたします。

【norioはんこ店 norioさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
はんこのnorioです。京都精華大学日本画学科を卒業後、2005年より活動を開始。お客様と対面でお話をしながら図案を決め、オーダーでゴム版はんこを作っています。北海道から沖縄まで色んな土地にひょっこり現れます。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
サンドベージュ。はんこのベースによく使うインクの色にサンドベージュという白い紙にも押せる白色があります。今年は白く新しい気持ちでもみじ市に参加したいという想いもこめて。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
いつものはんこオーダーに加え、ご来場の皆様にはんこをその場で押してカードを作れるようなスペースを用意したいと思います。カラフルなインクやマーカーとはんこを用意してお待ちしております!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、手紙舎つつじヶ丘本店の本棚を飾ってくれるあの人たちです!

文●市川史織

丸林佐和子「こども工作」(19日)

「子供とお母さんの気持ちを、いちばんわかってあげられる造形作家になりたいんです」

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丸林佐和子さんは造形作家。その経歴は、児童館での工作の先生に始まり、雑誌付録のアイデアプランナー、 NHK教育テレビ『つくってあそぼ』の造形スタッフなど、多岐に渡ります。現在では著書を手掛けたり、全国各地で子供たちのための工作のワークショップも開催するなど、とにかく忙しい日々を送っています。そんな丸林さんが、子供に教える楽しさに目覚めたのは、大学一年生の時。画家になろうと美術大学に通っていた頃に、友人に誘われて、児童館で工作の先生をしたことがきっかけでした。

「子供って作ったときに、ものすごい笑顔になるんです。自分が教えたことでこんなに喜んでもらえることってあるんだ! って、ものすごい嬉しくなっちゃって」

丸林さんの父親は学校の先生。それも、休日のたびに生徒が家に遊びにくるような先生でした。子供と対等に話すことができる人だったと言います。そして、そんな父の姿を幼い頃から見ていたからでしょうか。丸林さんもまた、自分が子供の声を受け止められるタイプである人間だということに気付きます。

「そういうことが当たり前だと思っていたので、子供とすぐに馴染めたんです。自分では普通に接しているつもりでも、子供からしてみたらそれが接しやすかったのかもしれませんね。今思えばですけど。本当に合っていたんだと思います」

絵を描いて、観てもらうよりも、より直接的に伝わる“教える”という作業に、丸林さんは、いつしか自然とのめり込んでいきました。
ここまでは「子供」の気持ちをわかってあげたいと願う、丸林さんの一つ目の側面。そしてここからは、もう一つの側面である「お母さん」の気持ちをわかってあげたいと願うお話です。

大学を卒業してから、早い段階で子供を授かった丸林さんは児童館の先生を離れざるをえませんでした。子育てに奔走する日々の中で、お子さんが通う幼稚園でバザー係になった丸林さん。ふたを開けたら、例年と比較にならないくらいものが売れたそうです。そりゃそうだ。なんたって丸林さんが作ったものがバザーに出てるんですよ。木のリースを糸ノコで作れる主婦なんて、めったにいない。

そのことは、たちまちお母さんの間で話題になり、手作り教室をやろうということになりました。丸林さん、なんと市役所に掛け合いに行ったんです。

「とにかくお母さんが楽しめる場所を作りたいんです!」

丸林さんの熱意がよっぽど伝わったのか、ひとり、そしてまたひとりと巻き込んで行き…、結果、託児所付きの教室を開催できるようになりました。

お母さんが子育ての合間に、どんなことをやりたいか。当時の丸林さんは、そんなことばかりを考えていました。お洒落なこともしたいし、自分の趣味の時間も持ちたい。もちろん子供とも遊びたい。そんな気持ちをどうやって解消してあげられるかを。その結果、カフェご飯を作ったり、ちょっとおしゃれなバーベキューをやったり、果てはフラワーアレンジメントまでも。とにかく、お母さんが興味を持ちそうなことは全てその教室に盛り込んだそうです。

「だから私、子供のこと大好きだけど、それと同じくらい、お母さんのことも大好きなんです」

丸林さんの工作といえば、見た目の可愛さはもちろん、シンプルでとってもわかりやすいものばかり。自分でも作れるかも! そう思わせてくれます。それにもかかわらず、その作品のクオリティーはとても高いことが大きな特徴です。それには、今まではあまり語ってこなかった真意があるようです。

「見た目をよくしてるのは、子供だけでなく、出来た作品が、お母さんにも愛してもらえるようにしているからなんです。お母さんが喜んでくれると、子供も参加もしてくれるし、子供が苦手でもお母さんが参加しようとしてくれるし、一緒に作ったものを飾ってもらえれば、家にあたたかい空気ができたりして、全てが良いほうに向かって行くことに気付いたんです。作品を綺麗なものにすることで、すごく広がりが生まれるんだなって」

さらに丸林さんは続けます。

「工作って一緒にやってもらえると、楽しいだけじゃなくて、間近で子供の成長を見ることができるんです。それに、何が一番良いって、お母さんも一緒に作ってくれると、家に返って、それをもう一回やってくれるんです。さらに、他の友達にも伝えてくれようとするんです。広がりができて、お母さんの楽しみになっていくんですよね」

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子供がなにが好きで、なにがほしいのか、お母さんがどんな場所を求めているか。丸林さんが作品よりも大事にしていること。それは、子供の気持ちとお母さんの想いを汲み上げること。自分がやるべきことはそこなのだと、彼女はわかっている。

「だから、私の工作は、何を作るかじゃなくて、どんな場所を提供できるかなんです」

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テレビや書籍など、今となっては活躍の場が山ほどある丸林さん。それでも彼女が、ワークショップをやりたがる理由。この人はよっぽど子供に教えることが好きなんだなあ。今まで私は、その程度の認識でしかありませんでした。でもそれは大きな間違いでした。ワークショップは、丸林さんにとって最も大切にしている日常であり、ライフワークだったのです。

「教える仕事が一番初めだったということもあるんですけど、とにかく、子供とお母さんに会いたいんです。仕事しながら子育てするのも大変だし、子供と一日中いるのももちろん大変。ただ、私は幸運なことにそのどちらも経験しているので、お母さんとたくさんお話して、お友達になりたいんです。私のワークショップは、そういう場所にしたい」

最後に、丸林さんのこんなぼやきをひとつ。

「ワークショップの後に、お礼のメールをたくさんいただくんですけど、誰も先生って呼んでくれないんですよ。冒頭の書き出しは必ず『佐和子さん』なんです(笑)」

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そう嬉しそうに話す丸林さんは、誰よりも優しい工作の先生だ。

唯一無二の造形作家・丸林佐和子さん。彼女は多摩川河川敷の青空の下で、子供たちが来てくれることを、そして、その子供に手を引かれたお母さんが来てくれることを、誰よりも、誰よりも願っている。

〈丸林佐和子「カラフルなチョウチョをとばそう!!」ワークショップのご案内〉
開催日時:
10月19日(土)11:00〜15:30
(19日が雨天の場合は、以下に変更となります)
10月20日(日)10:30〜15:30

参加:900円
定員:とくになし(材料が無くなり次第終了)
お申し込み方法:当日ブースにて直接お申し込みください。

【丸林佐和子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
造形作家の丸林佐和子です。わくわくさんの『つくってあそぼ』の造形スタッフを3月に卒業して今は、べねっせの『ぽけっと』の造形あそびの監修をしています。
沢山の子供達に会えるのを本当に楽しみにしています!!

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
私の色は…、なんだか、ちっとも思いつきませんでした。工作の作品も色を多く使いますので、多くの色に囲まれて生きていますが、自分はなんだろう?? 土の色かな?? 農婦でもありますのでそんな大地の土の色かもしれないです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今回は。色とりどりの『ちょうちょ』をつくります。ちょうちょを棒につけて、ゆらゆらと飛ばしながら、瓦を子供達が遊んでくれたらいいなぁと思っています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、未来を担う若きパフォーマー集団の登場です!

文●加藤周一

Chappo「リネン、ウール、フェルトいろいろ帽子」

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今でもあの時のことをよく憶えている。僕がChappoのふたり、須田英治さんと舩越由紀子さんに初めてお会いしたのは、少し遅れて参加した2010年のもみじ市の決起大会のときだった。

「浅草橋に拠点を構える帽子工房、須田制帽の4代目、Chappoの須田英治さんとパートナーの舩越由紀子さんです!」

着いたときは、出店者さんひとりひとりを紹介している最中で、ちょうどふたりが呼ばれて挨拶をするところだった。「浅草橋」。その時に僕が勤めていた会社のあった場所である。当時、こういう世界にはまだまだ疎くて、何度かお手伝いをしていたにもかかわらず、いつもドギマギしていた僕はその単語を聞き逃さなかった。「あ、共通点がある」と思ったのだ。挨拶が終わってからすぐにふたりに声をかけた。大らかな須田さんと元気でよく笑う舩越さん。その時、もみじ市に初参加だったふたりも若干の緊張をしていたように思う。その後、偶然訪れた手づくり市で会ったり、職場の近くで一緒にお昼を食べたり、一緒にカレーを食べにいったりと親しくさせてもらっていた。

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手紙社に入ってからは、さらにいろいろなところでお世話になっている。調布PARCOにあった手紙社のお店ででChappoの作品を取り扱うときは、引っ越したばかりの平井の家を訪ねて帽子を見させてもらった。ニセコで行われた「森のカフェフェス」では旅するもみじ市の一員として、北海道まで来てくれた。今年初めて行った2月の「かわいい布博」にも出てくれた。いろいろご一緒する中で、Chappoは僕にとって、とても特別な作り手となっていった。

そんなChappoのふたりに今回あらためてじっくり話を聞いて感じたことは、出会ってからの3年間でふたりは作り手としての道をしっかりと着実に進み続けてきたんだということ。そして、今まさに次のステージに向かうところなのかもしれないということだった。

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Chappoの作る帽子は、いまや手紙社のイベントや各地で行われている青空市では絶大な人気を誇る。もみじ市に出店してくれている作家さんをはじめ、クリエイターの中にも愛用をする人は多い。今年7月、蔵前のカワウソで行われた展示には、たくさんの作り手がChappoの帽子を被って、大沼ショージさんのポートレートに収まっていた。どれも映画の登場人物のように“決まって”いる。身に付ける人の着こなしや写真もさすがだと思うけど、それを引き出しているのは間違いなくChappoの帽子だ。

ふたりはどんなイメージから帽子を生み出しているのだろう。「デザインはどうやって考えてるんですか?」と尋ねてみた。そうしたらはっきりと「デザインはしてないし、できないよ」という答えが返って来た。

「昔の製品を新しくかぶりやすく直してる感じ。デザインはできないからさ、映画を見て、登場人物がどんな帽子をかぶっているかずっと見ていたりするよ。外国の人は、かぶり方がすごくかっこいい。ただ乗っけてるだけなのに様になってて、こんな風に格好良くかぶれる帽子が作りたいなって思うんだよね」

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自分のデザインを誇示したいわけではない。はっきりとそう答えるふたりは、自らのものづくりのスタンスについて、こんな風に話してくれた。

「作家って感じじゃない、かといって職人ともすこし違う。ただの帽子を作る人、かな。沖縄の言葉で帽子を組む人を『帽子くまー』っていうんだけど、それが一番すんなりくる。あぁ、こうなりたいんだなって」(須田さん)
「デザインとかが凝ってるっていうよりは、シンプルですごくいいなっていう帽子を作りたい。製品に近い帽子を作りたい。だから作家とは少し違うのかな」(舩越さん)

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その言葉の奥に、ふたりと出会った時にはまだなかった作り手としての確固たる自信のようなものを感じることができた。言葉に深く強い意思を感じたのだ。「迷走中」とも言っていたけれど、このふたりは迷ってなんかいないと思う。“何か”を掴みかけているだけなのだ、きっと。

「まだまだ中途半端、頭の中に思い描くイメージに追いついてない」
ちょっと悔しそうに須田さんはこういうけれど、その帽子は、どんどんと魅力に深みを増していると思う。

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今回、僕はChappoのふたりと話している中で感じた“何か”を言葉にするつもりでこの原稿に臨んだ。真摯なものづくりのその先に宿すものをどうにか言葉にしようとしてみた。でも、それはどうやら難しそうだ。その“何か”は一つひとつの作業を自らの意思で積み重ね、努力を続ける人が生み出す「もの」にだけ、ただ宿るから。

だから、みなさん。ぜひもみじ市の会場でChappoの帽子を手にとってみてください。きっとあなたの心を掴む“何か”が、そこにあるはずだから。

【Chappo 須田英治さんと舩越由紀子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
Chappo(シャッポ)と申します。東京下町で帽子を作っています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
茶色と思います。(須田)
白です。(舩越)

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
秋冬のあったか帽子や通年被れるリネンの帽子など、いろいろな生地でいろいろな形の帽子を持って行きたいと思います。一見シンプルな外見でも裏地がカラフルだったり派手だったりの帽子があるので、お手に取って楽しんでいただけたらと思います。僕はいつも服装も土色なのですが、当日はがんばって色付き衣装で楽しみたいと思います!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、栃木からもみじ市に初参加するあのカフェです。屈指の名カフェが名を連ねる栃木県の中にあっても輝く存在感はまさしく栃木の“至宝”。

文●藤枝大裕

福田利之「紙と布」

福田利之、遂に単独名義で出店。

ある年は、tupera tuperaの亀山達矢さんとのコラボレーションユニット「カッパメ」として、またある年には、平澤まりこさん、桑原奈津子さん、山田愛さん、甲斐みのりさんというあまりにも豪華なスペシャルチームを結成して「funchi nu puri(フンチヌプリ)」として。日本屈指のイラストレーター・福田利之さんは、もみじ市に参加してくださる時には必ず、個人名義ではない特別なユニットを組んで私達をワクワクさせてくれていました。

「もみじ市ってお祭りじゃないですか。イラストレーターって基本は地味な仕事なので、もみじ市は外に出ていろんな人と触れ合える絶好の機会。だから、みんなで楽しくできればいいなって思っていたんですけど、そろそろ自分のこともやってみようかなって思ったんです。ちょうど、布も出来上がったので。お祭り気分は変わらないですけどね」 

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福田さんといえばポストカード。今回、もみじ市に合わせて制作していただいた新作もあるとのこと。キャンバスにティッシュペーパーを貼り付け、絵付けをし、インスタントコーヒーとニスを使って仕上げるという、独特の手法。そこから放たれるエネルギーから感じるのは独特の迫力、そして繊細さ。自分が求める質感を求めて、試行錯誤の末、あの表現に落ち着いたと言います。自身を飽きっぽいと自嘲的に言う福田さんも、この技法だけは、自分の手に馴染んだからこそ続けてこられたそうです。 

もみじ市で福田さんがみなさんに発表するのは、ポストカードだけではありません。出店タイトルは「紙と布」。えっ、布? もしかしたらそう思った方も多いのではないでしょうか? そう、福田さんは今年の夏、布を作ったのです。彼のクリエイティビティで様々な種類の布プロダクト製作、発信をしていくブランドとして。その名前は「十布-テンプ-」。十は必ずしも十種類というわけでなく、“たくさんの”という意味を含ませています。布を媒体にして、今後いろんなことにチャレンジしていこうという、福田さんの決意表明なのです。

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第一弾として、大きなガーゼをカラフルな模様で覆った新作「tenp01」を発表しました。そして今後は、刺し子やインドのブロックハンコ、タイシルクなどの展開も考えているとのこと。以前から「布」というジャンルに興味を持っていた福田さん。満を持してテキスタイルの世界に足を踏み入れました。

「布は全くの素人なので初心な感じです。それが面白いんですけどね。慣れないことをやるって面白いです」

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600yellowこれが、「tenp01」の図案。福田さんのイラストをご存知な方ほど、これまでの画風との違いに驚かれるのではないでしょうか? でもね、ちゃんとした理由があるんです。それは、布は布として、絵は絵として使ってもらいたいという福田さんの想いから。

「布を作ることも、イラストレーションの仕事の延長でしかないんです。もともと、一枚の絵を売るというのは、個人的にあまり好きじゃなくて、それよりもプロダクトにして流通させたかった。そうすれば、良いなって思ってくれる人がいたら、遠くに住んでいる人にも持ってもらえるじゃないですか。だからポストカードもたくさん作っているんです。部屋に飾ってもらうのでもいいし、手紙に使ってもらうのでもいいし。ひとりのための一枚の画ではなくて、色んな人のための一枚の絵であってほしいですね」

さらに福田さんは続けます。

「そう考えると、布は、それをカバンにしたり、クッションにしたり、なんでも作れるじゃないですか。だから、ゆくゆくは反物を作りたいんです。たくさんの人の手に渡ってもらえれば、それだけ色々なカタチに変化させてもらえる。そうなったら嬉しいですね。その人の生活の一部になってもらえるといいな、究極は。道は険しいですけどね」

どこまでも先を見据えたような、熱く、強い眼差しで語る福田さん。その瞳にはきっと、自分の布が多くの人の生活に溶け込んだイメージが写っていたに違いありません。

「絵を描く仕事をしている僕らは、ある程度までいくと表現に限界がきてしまう。だから、そこでどうやって違うものにしていくか、そこが勝負の分かれ目。まずは素材を変えてみたり、自分が苦手だなって思うことをわざとしてみる。そうすると、今までにない、違う表現ができたりする。逆に言えば、そういうことをしないと新しいものは生まれない。でもね、表現はそこから広がっていくんです」

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木ハガキサイズ

「表現」することに対して貪欲に、そして真っ直ぐな福田さん。彼はこの先、私達にどのような美しい表現を魅せてくれるのだろう。私は最後にこんな質問を投げかけてみました。

「これから、どんな表現をしたいと思っていますか?」

少しの沈黙の後、福田さんは、まずは「ものをつくる」ということについて、話し始めてくれました。

「良いものをつくるって、時間とお金のいちばんバランスの良いところでつくることだと思うんです。それが、永遠のテーマ。だからそのためには、僕もきちんと時間をつくらないといけないし、お金をかけるところもしっかりと見極めないといけない。しかも、それを完璧にできたとしても、成功するのは何%とかなんです。自分がイケるぞって思ったものがお客さんの心には響かないことだってしょっちゅうありますよ。でも、だからこそ、ものをつくるって面白いんです」

さらに、この先の展望について、こう続けます。

「僕も決して若くない歳なので、着地の仕方も考えますよ、正直なところ。会社をやっているわけでもなければ、弟子がいるわけでもない。それでもやっぱり描く仕事は好きなので続けていくつもりです。でも好きじゃなくなったらもしかしたらやめちゃうかも。そのかわり、面白そうなことがあれば、どんなことでもやっていこうと思っています。垣根をつくらずに、やっていこうと思います」

どこまでもチャレンジングなその姿勢。福田利之が初めて個人名義で挑むもみじ市。どうかみなさんには、彼のその“熱い想い”を存分に感じてもらいたいと思います。

最後に、今年の8月に手紙社が開催した「第2回 かわいい布博」に「十布」として出店してくれた福田さんから、数日後に届いたメールの一文を紹介して、この文章を締めさせていただきます。この言葉、久しぶりにシビれたなあ。

「僕にとっては久しぶりのアウェー感、3日間いろいろ勉強になりました。井の中の蛙にならないために、今後も違う分野でも挑戦していきたいと思います」

イラストレーター・福田利之。彼の飽くなき挑戦は続きます。

【福田利之さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
何度かグループで参加させていただいているもみじ市ですが、今回はじめて一人での参加になります。普段制作している紙ものの商品の他、今年の春から十布(tenp)というブランドで布を扱った商品展開をはじめました。

十布−テンプ− http://www.tenp10.com/contents.html

紙もの布ものふくめて、もみじ市で初めて発表する新作を多数ご用意してお待ちしています。お気軽にお声掛けください。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
青です。もみじ市当日晴れますように。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
50種類ほどのポストカードやラッピングペーパー、大きな布や、限りがありますが布の計り売りなど。まじめに地味に気持ちはカラフルにがんばります。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、もみじ市のおやつシーンを支えるあの人たちの登場です! 今年はどんな美味しいものを用意してくれるのでしょうか?

文●加藤周一

杉田明彦「漆工」

自分といっしょに年をとっていく、そんな一生ものの漆の器はいかがでしょうか。軽くて丈夫で、つるんとした上品な佇まいに、心ひかれることと思います。

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「漆」。少し敷居が高く感じるかもしれません。実家にならある、という方もいるでしょう。お正月のおせち料理のお重を思い浮かべる方もいるでしょう。いつ使えばいいのかわからず、仕舞い込んでいる方もいるかもしれません。高級なものだし、手入れもわからないし、どうやって使えばいいのか見当がつかない方もいると思います。

漆器は使っていくと若干の傷はついていきますし、やつれて体積が減り木目が浮いてきます。時間が経つほどに硬化していきます。毎日触れ、口をつけるお椀は、自分の手の脂なども馴染んでいき、つやっとした表情も見せてくれます。

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もみじ市史上、初めてとなる漆の作家さん、漆工の杉田明彦さんをご紹介します。杉田さんは手打蕎麦屋で修行後、「茶の箱」という本に感銘を受け、塗師の赤木明登さんの門をたたきました。4年間の修行と2年間の御礼奉公、計6年の修行を経て、今年4月に独立しました。

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海と山に囲まれた自然豊かな石川県輪島市に、杉田さんの工房があります。神聖なる空気が流れているような気がする薄暗い工房は、漆を塗る場所、乾かす場所など、作業ごとに空間が分けられています。

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塗って、乾かして、塗って、乾かして、を繰り返す作業。下地を4回、中塗りを2回、そのあとに仕上げの上塗りをします。押し入れのような部屋の中に並べられたお椀は、塗った漆が垂れてこないように10分ごとに回転する仕組みになっており、細かい塵もつかないように整えられ、湿度と温度を調整して24時間かけて乾燥させます。とても繊細な作業です。

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昔から、分担作業で作られてきた漆器。型師さんが丸木から削り取ったものを、木地師さんがひとつひとつ手で確認しながら、お椀の形にしていきます。おがくずを燃やした燻煙加工で木を乾燥させ、中にいる小さな虫なども処理しています。杉田さんも、信頼する木地師さんに、大きさや厚さはもちろん、その湾曲の具合などを細かく注文していています。手に優しく馴染むその形は、杉田さんがデザインしたオリジナルの形なのです。

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自らのことを「漆工」と呼ぶ杉田さん。
「塗師と言ったら職人のかっこよさがある。憧れるけど自分では名乗りづらい。でも作家などと、大きくも言えない。もっと僕らの世代はフラットでいいんじゃないかな。金属工芸の人は金工っていうから、じゃあ漆工でいいんじゃないかな、と。普段の延長で、肩をはらない漆工。考え方がかわればまた変えるかもしれないけれど。」

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杉田さんの二人のお子さんは、生まれた時から漆の飯椀と汁碗を使っているそう。漆は木から採れる樹液なので、体にも環境にも優しい天然素材。子どもにも安心して使っていただける器なのです。

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さて、みなさんがきっと気になっているお手入れの話。「たいへんそう」というイメージを抱いている方も多いかもしれませんが、さにあらず。直射日光にあてない、水につけっぱなしにしない、柔らかいスポンジで洗うなど、ごく普通のことに注意すれば、とても長持ちするのです。

そう、漆器とは、日常的に使ってほしい器。丈夫で、美しく、口当たりがなめらかな漆器は、「毎日の暮らしにそれがあるだけで人生は豊かになる」と言っても言い過ぎではないと思うのです。

「自分といっしょに歳をとっていく様子も楽しんでもらいたいんです」
杉田さんはそう言います。実は、杉田さんは基本無料で漆の塗り直しをしています。長く長く使ってもらえるように。人生を漆器と一緒に歩んでもらえるように。

もみじ市初出店となる杉田さん。今回は、定番のお椀をはじめ、使いやすい形のお皿、マットな質感のものも持ってきてくださいます。ぜひ、杉田さんの漆器を、その美しさを見ていただきたいと思います。

何度も何度も塗り重ねられた美しい漆の器を、明日から食卓に並べてみませんか。漆器とは、普段使いの器なのです。

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【杉田明彦さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
1978年 東京都文京区生まれ。
学習院文学部哲学科中退
手打蕎麦店での修業の後、07年に輪島へ。
塗師 赤木明登のもとで修業、今年4月に独立。
10月より金沢にて活動。

Q2.今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
椀、皿、鉢、板など。

すみません、これという演出は考えていません。一人一色あればいいのかなとも思います。漆の色は基本は黒です。(細かく言えば濃い飴色ですが)今はそこに顔料を入れていろいろな色を出すこともできますが、黒の中にも微妙な色相の差や、また質感・奥行の違いが出るのでそこが魅力だと思っています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いては、日本を代表すると言っても過言ではないあのイラストレーターさんです。今回は紙だけでなく“布”のものもご用意してくれるそうですよ!

文●鈴木 静華