たいやきやゆいとお菓子屋ミモザ「たいやきと焼き菓子」(20日)

8月11日、日曜日。ことしの夏は、少し天気がおかしかった。体がおかしくなるほどの高温と、突然の激しい降雨。この日も東京は猛暑日を記録し、かと思えば14時を回ったころ、土砂降りの雨と大きな雷が街を襲った。少しの停電もあった。

夕方、私は一軒のお店を訪れた。その頃には雨はやみ、暑さだけが残っていた。

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かき氷、という文字が書かれた看板を確認しながら、ドアを開いた。閉店まであと少しの店内の席はほぼ埋まり、家族連れや常連風のおじさんたち、若いカップルらが和やかに甘いシロップのかかったかき氷を頬張っている。正面を見ると、カウンターの中でかき氷機を回す人がいた。「いらっしゃいませ」と、ゆいさんが笑った。 

2012年11月、「たいやきやゆい」の由井尚貴(ゆいなおたか)さんと「お菓子屋ミモザ」の由井洋子(ゆいひろこ)さん夫妻が営む、一軒のお店が国立にオープンした。店内には穏やかな音楽が流れ、L字のカウンターとテーブルに古家具のイス。まるで町の喫茶店のように居心地のよいお店。秋から春の間は洋子さんが作るパンと焼き菓子が並ぶ「パンとお菓子mimosa」。夏から秋にかけてパンはお休みに入り、尚貴さんのかき氷が始まる。

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尚貴さんが国立でたいやきを焼き始めてから、今年で5年目になる。リヤカーで屋台をひきながら曜日毎に決まったお店の前に立ち、街の人たちに焼きたてのたいやきを届ける。昔ながらの「一丁焼き」という手法で、職人さんが作った鋳物の型を使って一匹ずつ焼いていく。北海道のあずきで作られた特製のあんこは、尚貴さんが毎日炊いている。あんこを頭からおしりまでたっぷり詰めることができるのも「一丁焼き」の特徴だと、教えてくれた。

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「毎日、同じものを作っています。たい焼きを焼きながら、お客さんと話しながら、小豆を炊きながら、日々色々なことに気づきます。だから、同じものを作っていても、少しずつ変化していっている。それが、伝わったらいいなと思っています。ずっと食べ飽きないものを作りたいですね」

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2年前の夏、尚貴さんはかき氷を始めた。暑くなり始める6月ころ、たいやきの販売が終わり、かき氷が始まる。たいやきの焼き型をくるくるとひっくり返していた手が、かき氷機のハンドルをくるくると回す手に変わるのだ。そして、秋が深まる10月ころ、再びたいやきに戻る。かき氷のシロップは尚貴さんと洋子さんが自ら収穫した有機栽培の苺を始め、甘夏、レモン、あんずにマンゴーなど。秋に入るとりんご、いちじく、かぼちゃと季節によって変わっていく。さらにたいやきにも使われているあずきや、京都の抹茶、沖縄の黒糖を使った黒みつ。全て、尚貴さんが実際に食べておいしいと思った素材たち。丁寧に削られた山盛りの氷の上に、たっぷりとシロップがかけられ、氷がとけた後も最後までおいしい。それは、あんこがたっぷり詰まったたいやきと、どこか似ている。

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「かき氷とたいやき、形は違うけど思いは一緒です。自分が食べておいしいと感動したものを、お客さんにも食べてもらいたい。それでお客さんも感動してくれるのを目の当たりにすると、とてもうれしいです」

マクロビオティックのお店で、スイーツ部門を担当していた洋子さんが作る焼き菓子には、卵と乳製品はいっさい使われていない。パンも卵を使わずに焼いている。

「アレルギーのある人にもない人にも、同じようにおいしいと思ってもらえるものを目指して作っています」 

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ビスコッティや、クッキー、スコーンにマフィン。粉や素材そのものの優しい味がするお菓子はとてもおいしくて、一口一口、大切に味わって食べたくなる。

「自分で作ったものを食べて『あ、これすごくおいしい』と思うことがあるんです。そう思えるものをずっと作りたい。でも、季節や体調で味が変わることもあって。変わらずにおいしいものを作りたいと思いながら、日々作っています」 

「ひとりだったら、お店はやっていなかった」。そう語る尚貴さんと洋子さん。お互いが尊敬して、信頼し合っているのがわかる。けれど「自分が食べて納得したものを作っているから、お互い、意見を言われても聞かないよね」と、顔を見合わせて笑う。自分の味覚に対しては頑固と言えるほど真剣なところも、とても似ている。

2年前のもみじ市の取材では「いつか一緒に、街に根付いた小さな甘味屋さんを開くのが夢」と話していた尚貴さんに、お店を開いて、夢はかないましたか? とたずねると、

「ここは第一ステップです。駅からも遠いので、たいやきはまだ屋台で販売しています。いつかは、たいやきもお店で売れるようになりたいです」

2人の前に、夢はまだまだ大きく広がっている。

夏は終わり、秋の風が吹くもみじ市でまた、たいやきの屋台に長い列ができるだろう。その横には、スコーンを始め、優しい色の焼き菓子が並ぶ。

「おいしい」

シンプルだけど確かな幸せが、そこにはある。

【たいやきやゆい 由井尚貴さんと、お菓子屋ミモザ 由井洋子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
たいやきとお菓子のお店です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
きいろ

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
たいやきと焼き菓子をご用意して参加させていただきます。たいやきと焼き菓子を食べた皆様の顔の表情がもっとカラフルになっていただきたい! そう思っています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

お次は、初参加のイラストレーターさんの登場です。詩情に満ちたそのイラストは思わず息を飲むほどに美しい。

文●吉田茜