mado cafe「はらぺこオムライス屋さん」

愛知県岡崎市。JR岡崎駅から歩いて20分ほどの閑静な住宅街の中に、もみじ市に出ることをずっと夢見ていたという一軒のカフェがある。

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「暑いなか大変だったねー!」

まぶしい笑顔で出迎えてくれたのは「mado cafe」のオーナー・柴田真史さん・友香さん夫妻。閑静な住宅街の中に予期せずあらわれた一軒のカフェ。朱色の瓦屋根に、ちょこんと突き出した煙突が目印だ。手間暇かけて丁寧に世話をされていることが分かる開放的な庭には、季節ごとに目を楽しませてくれる草花や、料理に使うこともあるという蜜柑やブルーベリーの木々が青々と葉をひろげている。整然と敷き詰められた砂利までもが美しく、まだ店の中に入ってもいないのに、今日一日がとても素晴らしいものになりそうだという予感が胸をくすぐる。

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子供の頃から家族で喫茶店によく行っていた友香さん。食にまつわる仕事に就いたのはごく自然な流れだったという。根っからの食いしん坊で、喫茶店やカフェで過ごす時間が大好き。カフェでしか働いたことがないのだとか。対する真史さんは大学生の頃、1年ぐらい“ぶらぶら”していた。そのときに通っていた喫茶店やカフェで過ごす時間がとても心地よく、真史さんの人生を動かした。

「その場にいる人が思い思いに自分の時間を過ごせる喫茶店とかカフェって良い場所だなぁ、と思ったんです。このときまで、あまり珈琲を飲んだこともなかったんですが、飲食店でアルバイトをはじめて、気付けば親に頼んで大学を中退させてもらって、調理師専門学校に通っていました」

そんなふたりは、同じカフェで働いていたことがきっかけで知り合い、やがて、「いつかは自分たちのお店を持ちたい」と思うようになる。その夢をサポートしたのが、真史さんのご両親だ。「畑の土地を使ってみたら」と提案をしてくれたことで、mado cafeが物語を紡ぐ場所が決まった。お店を建てるにあたっては、設計士さんや大工さん、友人の力を借りながら、外装、内装全てに関わったという。

「ペンキを塗るのも一苦労でした。今年になって外壁の塗り直しをしたんですが、その時もたくさんの友達が手伝いにきてくれて、なんだかお祭り騒ぎでした」

いつもお店に多くの仲間が集う、mado cafeらしいエピソードだ。

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mado cafeの店内に入ると、気づく。昔懐かしいブラウン管のテレビ、そっと隙間を埋めるように置かれた古道具、存在感を放つ暖炉、行きつけの古道具屋さんで見つけて来たテーブルと椅子、開放感のある高い天井、窓から差し込む穏やかな光、優しい風……、そういうものがすべて混ざり合い、絶妙な調和を取り合いながら、奇跡的な空気感をつくっている。

ふたりが好きな時間がある。それは、お客さまが思い思いに自分の時間を楽しんでくれていると感じる瞬間。

「すべての席がひとりのお客様で埋まったとき、静かなんだけどお客さまはちゃんといて。それぞれがゆっくり過ごしている時間は特別なものがあります。鳥肌が立つような」

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いまや看板メニューとなったマドごはんは、ランチタイムに味わうことができる限定20食のプレートメニュー。調理師免許を持ち、他店で修行を重ねた真史さんがつくるマドごはんは、確かな技術に裏打ちされたプレートだ。いわゆる“カフェメシ”のレベルではない。旬の野菜を中心に乾物や豆類などを使ったお惣菜が少しずつ、大きなプレートに盛り付けられ、ご飯に汁もの、デザートがついてくる。素材の美味しさはそのままに、それぞれ違った調理法で作られる料理はおいしくて美しく、ボリュームもあるので、私のような食いしん坊も食べ終わる頃には満腹になってしまった。しかし、その満腹感は、なんとも清々しい満腹感で、「良いものを食べている」ということを、自分の身体が証明してくれているような感覚だった。

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こんなにおいしいものを提供しているmado cafeだが、真史さんと友香さんは、まだまだ満足していないようだ。mado cafeは今年4月に5周年を迎えた。これからのことを、ふたりは考えている。

「やっぱり、僕たちがやりたいのは、喫茶店なのだと。近所の人が、ふらっとコーヒーを飲みに来られるような喫茶店でありたい。僕たちにとっての喫茶店とは、オムライスやナポリタン、ピザトーストやクリームソーダ、ホットケーキ、カスタードプリンがメニューにあるお店。子どもの頃、喫茶店に連れて行ってもらって、ワクワクしたあの記憶を今でも覚えています。そしてそれは、お子さんからお年を召した方まで、みんなが好きなメニューだと思います。
色々な年代の方が自分の時間をゆっくりと過ごせるお店が僕たちの理想です。本を読みに来ただけでも良いし、少し休憩したり、手帳を整理したり、おしゃべりしたり。美味しかったと言ってもらえるのも嬉しいんですが、ゆっくりできました、という言葉をかけてもらった時の方が何倍も嬉しいです」(真史さん)

「ごはんやおやつも、お客さまが気持ちの良い時間を過ごすために上手に使ってもらえたらいいなって。実は今新たなメニューを試作している真っ最中なんですが、お客さまの時間の邪魔にならない程度の軽食、それも、喫茶店と聞いて思い浮かぶメニューを提供したいと思っています。きちんと選んだ食材でなるべくシンプルなレシピの、優しい軽食を出したい。自分たちがいちばんどきどきしてるのですが、もっとお客さんに喜んでもらえて、気軽に立ち寄ってもらえる場所にしたいなと思っています」(友香さん)

手紙社が主催するイベントに、「カフェフェス」というプロジェクトがある。良いカフェがあると聞けばどこへでも行く手紙社が選りすぐった、本当に良いカフェだけに参加してもらっているカフェと音楽の祭典だ。2011年に調布市の味の素スタジアムで行ったカフェ & ミュージックフェスティバル 、2012年と2013年にニセコで行った森のカフェフェス、そして先月横浜で行った海のカフェフェス。この4回のカフェフェスにすべて参加してくれているのがmado cafeだ。つまりそれは、日本で有数のカフェであることを意味する。カフェフェスの開場前の出店者の朝礼のとき、手紙社のスタッフが、いつもこうmado cafeのことを紹介する。

「東海地方を代表するカフェが、カフェフェスにやって来てくれました。mado cafeのみなさんです!」

美味しいものを食べることが、作ることが好きなふたりがはじめた店は、いまやカフェ好きならば一度は訪れたい店になった。そして今回、満を持して、もみじ市に参加する。決してイベント向きの会場とは言えない河川敷で、2日間とも食事を提供してくれるという。

「もみじ市が迫って来てドキドキしてきました。僕らにとっては本当に憧れのイベント。甲子園のような存在です。実は今回用意するオムライスは、これからmado cafeが進む方向への区切りとして考えています。もみじ市で用意したオムライスを、これからmado cafeの定番にできたらと思い、気合いを入れて用意します!」

今年、もみじ市が行われる多摩川河川敷は、ふだんは野球場として使われている場所だ。全国を代表する作り手が集うもみじ市は、確かにものづくりの世界の甲子園なのかもしれない。

もみじ市の朝、多摩川河川敷に、作り手たちがひと組、またひと組とやって来るあの風景が、私は好きだ。甲子園の入場行進みたいに整然としているわけではないけれど、あの風景は、もみじ市ならではの入場式なのだろう。

2013年もみじ市の入場式が始まりました。まもなく、今回初めてもみじ市に参加する作り手が入場します。愛知県代表、mado cafeのみなさんです!

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【mado cafeさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
愛知県岡崎市のはずれにある小さな喫茶店です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
シンプルで何事にも引き立て、なじむ、「白」が好きです。料理やデザートを引き立てる白いお皿やお客様の時間をやさしく包む白い店内。気がつけばマドにはたくさんの「白」が溢れていました。そしてそんな「白」に私たちもなれたらと思っています。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
お店ではご用意していないもみじ市特製の「マドのオムライス」をお持ちします。野菜たっぷりでやさしい味わいのマドのオムライスをぜひお楽しみに!みなさんぜひはらぺこでお越し下さい!!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、ガラス作家のあの人です。日々、工房で真摯に作られる作品をどうぞ御覧ください。

文●市川史織