左藤吹きガラス工房「普通の日の吹きガラス」

「もみじ市にはたくさんのお客さんが来る。ガラスに興味がない人もいると思う。そういうお客さんが、ふとガラスの器を見たときに印象に残るようにしたい。初回は買ってもらえなくても、とにかく見てもらいたいんです」

大量生産できる工業製品よりも、どうしても高価になってしまう手仕事のガラス。しかし、そのガラスのあたたかさ、やさしさ、光を通したときの美しさ、手仕事ならではの表情は、直接見て、触れないと伝わらないのかもしれません。

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左藤玲朗さんの作品に出合ったとき、私はとても懐かしい気持ちになりました。その理由のひとつは、再生ガラスを材料のひとつとして使っていることにあるようです。もともとは醤油の瓶だったガラス、お酒の瓶だったガラス……、昔から使われている瓶の色には、生活に馴染む、良い色が多いのだそうです。とはいえ、再生ガラスを使うことはとても手間がかかります。ガラスを集めることはもちろん、選別、洗浄など、材料を揃えるまでに一苦労です。

左藤さんのガラスといえば”モール”。これは、昔の食器棚などに使われていたストライプに凹凸が入っている模様のことで、これを施すにはやはり、とても手間がかかります。しかし、モールのコップや小鉢などの質感、手触り、光の揺らぎ具合は、他のガラスにはない、なんとも言えない美しさがあります。

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沖縄のガラス工場に2年間勤務し、ガラスの基本的な扱い方を学んだあと、4年前に兵庫県から千葉県九十九里に工房を移した佐藤さん。九十九里を愛する左藤さんの気持ちは、今回作成していただいたお面からも、とてもよく伝わってきます(いちばん下の動画メッセージをご覧ください)。

今回、取材のために工房にお伺いしたいことを伝えると、8月ではなく9月にした方がいいとのことでした。夏場の工房の気温は、40℃を超えます。炉の中は1000℃超え。過酷な環境の下、足下は足袋に下駄、腕には熱さに耐えられるカバーをし、眼にはサングラス、心には忍耐を。研究を重ねたスタイルで、ガラスに向き合います。ひとつひとつの道具も、使いやすいように、動きやすいようにと、試行錯誤の上、自身で作ったオリジナル。左藤さんが作品に真摯に向き合っていることが、至るところから伝わってきます。

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「ガラスは、陶芸のように直接触って作れないので、練習してもできない形があります。そういうときは、道具を工夫し、作り方を見直していくんです」

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 左藤さんが作る器は、普通の日に使ってほしいもの。

「食器棚から出してもらえる回数が多いほうが良い道具という仮定に基づいて、なるべく使い難い要素を削る方向で制作しています。特に何も良いこともなかった日の無事を喜べて、一日の締めくくりに使ってもらえるように」

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7月20日の「左藤吹きガラス工房公式業務日報」と題されるブログには、こう書いてあります。

「昨日手紙社より、2013年もみじ市が10月に開催される旨の発表があった。天気が気になる。開催場所の調布市河川敷のすぐ横には屋根付きの競輪場がありそこを借りる案もあったことと思う。実際骨董市などをそこでやってもいる。だがやっぱり屋外、晴れた空の下の替わりはない。プールでスイカ割りをする人がいないように」

河川敷には、不便なこともたくさんあります。雨が降ると遮るものがなく、場所の変更が必要になります。水道もお手洗いも近くにありません。電気もありません。それでも河川敷を選ぶ理由。左藤さんがわかってくださっていたことがとてもうれしく、私自身、その絶妙な表現であらためて気付かされました。

もみじ市当日、生活に寄り添うような左藤さんのガラスの作品を、ぜひご覧ください。そして、気に入った器があれば手に取り、その夜、できることなら、もみじ市を振り返りながら使ってもらえたなら、私も、きっと左藤さんもうれしいはずです。

【左藤吹きガラス工房さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
千葉九十九里の左藤吹きガラス工房です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
ガラスを吹く人は短気な人が多いので火の色オレンジ色です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今回は特に小さいものに力を入れています。また私は植物、特に花の形を参考に器を考えることが多いので、器そのものに色を着けていなくても花を感じてもらえるとうれしいです。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのはヤギが目印のあのお店です!

文●鈴木 静華