空気公団「ライブ」(20日)

『おはよう通りに 今日だけの朝が来た
 電車はぐるりと 今日の街をたずねている』

これは、空気公団の「おはよう今日の日」の冒頭の一節の歌詞。空気公団の曲のなかでも、私にとってはとても特別な曲だ。ちょうど二年前の「今」、私がもみじ市当日の朝までずっとずっと、繰り返し、朝のBGMに聴いていたのが、この曲だった。初めてのもみじ市事務局。ずっと前から大好きだった空気公団の担当をさせていただくことになり、実際にお会いして、いつもはヘッドホンの向こうにいた、彼らに取材をした。取材のときは、メンバーの方が三人とも来てくれていて、ゆっくりいろいろなお話をしてくれた。聞きたいことは山ほどあったのに、緊張して聞けなかったこともたくさんあった。彼らは、真剣に、真剣に、空気公団の楽曲作りのことなどをたくさん話してくれて、空気公団の一つひとつの曲が、とても繊細で丁寧である理由が、その時にわかった。緊張した取材を終えて、いよいよ紹介文を書こうというとき。私はもみじ市の一週間前だというのに海外へ旅に出てしまった。だから、帰りの朝の飛行機のなかで、この曲を何度も聴いて、シートに備え付けの小さなテーブルの上で、文章を書き上げたのだった。 

静かな朝。電車はゆるやかに発車し、少しずつスピードを上げて走り出す。電車に揺られながら、これから始まる一日を思っている。「おはよう今日の日」は、そんな風景を連想させるような、ピアノの旋律から始まる。今日は、いったい何が起こるのだろうか。同じ今日は二度と来ないから、いつだって毎日が、特別でぴかぴかの今日。だから私は、一日の始まりにいつもドキドキしている。

もみじ市当日の朝は、ほんとうに美しい。まだ人もまばらな京王線に乗って、京王多摩川駅に降りると、「あ、あの子がいる」ともみじ市Tシャツを着たスタッフの子を見つけ、元気に声をかける。

「おはよう!」

駅を降りると、まだ太陽は隠れているけれど、空にはもう、明るい光が漏れ出していて。あと、もう少しで、太陽がこの多摩川河川敷を照らして、私たちの今日が始まるんだと実感する。それから大きく深呼吸して、新鮮な空気を、体いっぱいに感じる。

今でもとても鮮明に、あの空気を思い出せるのだ。あれは間違いなく、私にとっても、みんなにとっても、「今日だけの朝」だった。

空気公団は、1997年結成に結成されたバンド。メンバー交代を経て、現在は、歌・作詞・曲を担当する山崎ゆかりさん(空気公団代表)と、ベース・ギター・録音を担当する戸川由幸さん、鍵盤楽器・編曲を担当する窪田渡さんの3人で活動している。音源制作を中心に活動しながら、スクリーンの裏側で演奏するライブイベントや、音楽を聴きながら作品を楽しむ展覧会「音の展示」等、様々な公演をしていて、いつもその創造的な空間にうっとりとしてしまう。

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昨年11月には、アルバム「夜はそのまなざしの先に流れる」が発売されたが、そのレコーディングの方法がまた、独特であった。実際にお客さんの前で、そのアルバムの収録曲を曲順に演奏し、同時に録音を行う、というものであるが、アルバムを作るのに、役者8人がステージ上をかけまわり、ダンスをしていたりするのだ。 

空気公団の紡ぐ音楽は、とても詩的だ。それは、山崎さんの歌詞が詩的だから、ということだけではなく、楽器による風景描写や、音の質感が、とっても詩的だから。春の晴れた日のように、ふわっとあたたかい空気を感じる曲もあれば、冬の雨の日のように、ひんやりつめたい空気を感じる曲もあって。朝の清々しい光にぴったりなときがあれば、夜のしっとりした静けさにぴったりなときもあって。イントロが始まり、やがて山崎さんのつぶやくような歌声が聴こえて来ると、日常のなんでもない風景も、なんだか特別な風景のような気がしてくる。

もみじ市当日の朝も、私はきっと「おはよう今日の日」からスタートするだろう。きらきらした朝を、その曲に閉じ込めるように。もみじ市の記憶と、空気公団の音楽が、今年もそっと、重なっていく。

『おはようのあいさつにあわせて ぼくらの今日が始まっていく 
 通りに新しい風が待っている おはよう今日の日』

空気公団が、またもみじ市にやって来る。

<空気公団ライブ>
10月20日 12:15〜
川を背にしたステージにて 

【空気公団のみなさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
空気公団と言います。もみじ市に参加するのは2度目です。
前回もそうでしたが、とても楽しいイベントにまた参加出来て本当にうれしく思います。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
今の空気公団は水色か白色です。空か海か。誰かが何かを描くことが出来る白い紙か。

Q3 今回はどんな演奏をしてくださいますか?
空気公団3人にドラムをプラスした4人編成で演奏します。空気公団初代ドラマーを迎え、懐かしいものから新作まで演奏します。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
空が広がり、遠くに電車、たくさんの笑顔、もみじ市は小さな街みたいです。空気公団の音楽がその街で流れるのを想像するととても楽しみです。

空気公団公式サイト
http://www.kukikodan.com/

さて、続いてご紹介するのは、透き通るような歌声をもみじ市の会場に響かせてくれるあの人です!

文●池永萌