generaL STORE「Antique, Vintage, MORCEAU D’EPOQUE」

「古い映画などを見ていると、街に一軒、必ずgeneral store(田舎の雑貨店)というお店が出てくるんです。村の人がみんな何かを楽しみにやってきて、楽しい会話やたまには小さなドラマまでも生まれてしまうようなお店。そんなお店がいいなと思っていました」

店主の奥澤知恵子さんは店のコンセプトについてこんな風に話してくれた。その店の名は「generaL STORE」。茨城県結城市にあるアンティークショップだ。と言ってもただのアンティークショップではない。「僕らの過ごす世界の豊かさに気づかせてくれるお店」とでも言ったらいいだろうか。

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JR水戸線の結城駅から2kmほど離れた閑静な住宅街の中に、突如として現れる異な世界。初めてこの場所を訪れた人は、胸が高鳴ることを押さえつけるのは困難だろう。フランス北部の片田舎に紛れ込んだような錯覚を起こすには十分な、異国感がある建物。錆びた鉄の質感がなんとも言えない柵を開けると、美しい庭が広がっている。さまざまな種類のハーブが茂り、ベリーが実を付け、チャボが自由に歩きまわる。その傍らには古い自転車とガーデンチェア、そして庭仕事の古い道具。店の扉を開けると、古き良き時代のブラックドレスやアンティークレース、ファイヤーキングなどの食器類、美しい色合いのガラス瓶などが迎えてくれた。たくさんのアンティーク雑貨の他に、奥澤さん自身がデザインをする「MORCEAU D’EPOQUE−モルソードエポック−」の洋服も置いてある。まるで、古い映画の1シーンに紛れ込んだかのようだ。かつて奥澤さんがそう思ったように、僕も思った。

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奥澤さんは以前、ファッション・デザインを学ぶためアメリカに住んでいたことがある。古い時代のものを扱おうと思ったのは、当時アルバイトをしていた店の影響だ。その街で一番古い家を改装したその店は、古着やアンティークを扱う店で、初めて訪れた時から魅了されたという。

『初めて扉を開けた時のあの感覚が今も忘れられない。その街で一番古い家は古着やアンティークの店になっていた。まるで古い映画の中に入り込んでしまったような不思議な感じ。手に取るものごとに昔の人の暮らしが巡り、少しだけ自分もその登場人物になれたような気がしてどきどきした。いつかどこかに場所をつくれたら、誰かにそんな気持ちになってもらえたらいいなと思った』

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ホームページの最初に綴られているこの言葉は、まさにその店のことを指している。しかし、そこでの経験は同時に、ファッションの世界に対する疑念も生んだ。仕入れのために目にする膨大な量の古着を見て、消費されていく最先端のファッションの世界に疑問を感じた奥澤さんは、一度は洋服を作ることをやめたという。

「世の中に溢れているから、私が作らなくてもいいんじゃないかと思って」

そんな奥澤さんが再び作り初めたのは、仕入れで訪れた店で出会った一枚の洋服がきっかけだった。それはおそらく200年近くも前のもので、ドレスではなく一般階級の人が着ていた作業服だったそうだ。汚れてはいたが何か光るものを感じた奥澤さんは、その洋服を買って帰り、きれいに洗濯をしてみた。袖を通してみると、100年以上も前のものとは思えない程しっくりと着心地がよく、「こんな服ならつくってみたい」と思ったという。

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高級な服は丁寧に扱われる分、きれいな状態で残っているものも多いが、一般の人たちの作業着は古い時代のものが残っていることは少ない。けれど、そんな日常の服にこそ、今の時代に通じる魅力を感じた奥澤さんはそれを再現することにした。そして立ち上げたブランドが「MORCEAU D’EPOQUE」だ。それ以来、資料になりそうな本や、昔の日常の風景が写った写真を集めたり、仕入れの時に見つけた昔の洋服を解いたりしながら少しずつ形にしている。「MORCEAU D’EPOQUEの服の売りにしているところはどこですか?」という質問に、奥澤さん自身が着ていたその服を指してこんな答えが返ってきた。

「昔の服は手縫いで縫いしろを始末していたり、なるべく真っ直ぐ無駄なく生地を使うような形になっています。そういう知恵を見習いながらも私はミシンメインで縫っていますので、どうやったらミシンで強度を保ちつつ裏側も美しく縫えるかとか、もう少し今の時代にあった形にとか、少しバランスを整えています。ちょっとマニアックですよね(笑)」

古いものに触れ、その知恵を学び、今の暮しに合うように細やかに気が配られている「MORCEAU D’EPOQUE」の服。奥澤さんにお話を伺った中で一番印象に残っているのは、昔の服の作りについて話しているときのことだ。

「作りを見たり、形を見たりしていると、『なるほど』って思うところがたくさんある。あと、想像が膨らむ。だれがどんな風につかっていたかとか、どんな時代の何に使われていたものだとか。想像を巡らせていると、いろいろな暮らしや物語が見えてくる様な気がするんです。」

生地の質感や縫い代の処理、機能的な形。決して裕福ではなかった当時の人達の服には、今のそれには見られないさまざまな工夫が凝らされており、そんな細やかな部分を知った時には感動すら覚えるのだと、奥澤さんは話す。

長く使われてきたものを愛する奥澤さんは、自ら洋服を作るときも“長く付き合える服”を念頭において作っている。よく使われる生地の1つとして、厚手の丈夫なリネンの生地がある。この生地はデッドストックのベッドシーツだそうだ。長い年月の着用にも耐えられ、使い込む程に味わいが増していく。染めは、化学染料ではなく、藍や泥などの天然染料を使う。そうすると生地はより丈夫になり、長く着られるものとなる。少しずつ染料が落ちて変わっていく色合いの変化も、長く付き合うことで味わえる楽しみのひとつだ。奥澤さんは言う。「一緒に歳を重ねられるものがいい」。

一緒に年を重ねた服は、やがて、誰かの元へ行くかもしれない。そうやって愛でられて来た服はきっと、次の持ち主の元へ行っても、確かなる光を放つだろう。
「古いものを普通にみんなが使えるようになったらいいなと思う。古着とか、古いものとか、みんなに使ってほしいなと思います」

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奥澤さんの言葉はシンプルだ。けれど、その目が見定め、その手が作り出すものには確固たる美意識が宿る。そして、その感性に触れることは僕の知る世界を豊かにしてくれる。僕たちが今いる世界を見回せば、“時”という魔法に彩られたさまざまものが、確かに溢れているのだ。

【generaL STORE 奥澤知恵子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
雑貨・アンティーク・ヴィンテージの衣類から作家さんの作品、オリジナルまで盛り沢山の店内です。
古いものに囲まれた空間で、昔の映画の中に入り込んでしまったような気持ちになってもらえたら…と思っています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
むかし色

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
アメリカや欧州の1960年代位までのヴィンテージ衣類やアンティーク雑貨を持っていきます。
また、ヨーロッパのデッドストックシーツやオーガニックコットンを使ったMORCEAU D’EPOQUEのプチ受注会を行います。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは皆をにっこり笑顔にしてくれる、お菓子研究家のあの方です!

文●藤枝大裕