堀口尚子「よもやま店」(19日)

手紙舎 2nd STORYの雑貨スタッフふたりに、「手紙舎の歴史上、最も売れた雑貨を3つ挙げよ」という質問をしたら、おそらくふたりとも、この商品を3つのうちのひとつに入れるのではないか。堀口尚子さんの包装紙「tutumu+」。

hori13枚で1セットの「tutumu+」。もみじ市では組み合わせを新しくして販売する予定

A3サイズの3枚の包装紙がくるっと丸められ、薄い茶色の紙でパッケージされ、タグがつけられた商品(パッケージもタグも、堀口さん本人の手によるもの)。手紙舎で人気があるのはもちろん、大阪・京都・高知で行った紙ものまつりのときも完売した商品。3枚の包装紙は、堀口さんが切り絵で“描いた”絵をレトロ印刷で印刷したもの。大きな猫、植物、“形”をモチーフにした絵は、圧倒的な存在感があり、ロマンチックで、ノスタルジックで、極めて自由で、だけどバランスが絶妙に取れている描線によって描かれている。そして、レトロ印刷独特の鮮やかな色彩。

hori2毎年作っている「ieカレンダー」。製本も自分の手で

レトロ印刷で印刷物を制作したことがある人ならおわかりかと思うが、入稿(印刷の元となる版下データやイラストを印刷所に渡すこと)する際、イラストの原画をそのまま渡したり、スキャンしたデータをそのまま渡せばいいわけではなく、色の指定をしなければならない。例えば、堀口さんの植物の包装紙の場合7色のインクを使っているわけだが、入稿するイラストは黒一色のもので、それに、花の部分は青のインク、茎と葉っぱの部分は赤のインクと、7色分指定していくわけだ。言ってみれば、色をオーダーメイドするようなもので、実際の色味は印刷物が納品されるまでわからない(特にレトロ印刷の場合、完成のイメージを想像するのは難しい)。印刷の出来上がりをイメージするために、入稿前に、試しに色付けをしたりするのだろうか?

「まったくしないんですよね。自分の頭の中でイメージするだけ。最初はインクの濃淡がどのように出るかわからなかったり。でも、そういうのも含めて、面白い。自分がイメージしたものがどのように出来上がってくるのか、という楽しさがありますね」

hori3段ボールをキャンバスにしたコラージュ作品

「偶然性」とどう向き合うか、というのは作り手にとって重要だ。それを愛せる人と、愛せない人がいる。堀口さんは間違いなく前者だ。例えば、段ボールをキャンバスにして作品を作ってみようと思い立ったとき、まずはその上に色紙を置いてみる。自作のゴム判をポンと押してみる。そこからイメージが広がっていく。下書きは一切しない。もちろん、“描けない時”もある。そういうときはしばらく放っておく。その後しばらくして、何気なくいたずら描きをしたときに、良いものが描けたりする。

堀口尚子の強さはここにある。自由なのだ。表現というものに対して純粋に向き合いながら、だけどそれにとらわれてはいない。つくりたいものを、つくる。つくりたいから、つくる。彼女と話しているときに、「仕事だからこういうことをやっている」という雰囲気は微塵も感じられない。

hori4手紙社の著作「レトロ印刷の本」のカバーは、堀口さんのイラストです

「絵だけを描いてゆく、とも決めてないですね。この素材だったらこういう表現方法があるかな、とか。この色だったらこういう素材を使ったら面白いかな、とか、自由でありたいですね」

hori5絵だけでなく編み物も。隠れた人気のムササビマフラー

作り手として自分を“何か”に例えるなら? という質問を堀口さんにしたことがある。
「水」
と彼女は答えた。
「形が定まっていない感じ。何にでも、注いだものにちゃんと収まる感じ。かたまるけど、また戻る。決まっていない感じが好き」

そんな堀口さんに今年、“表現の神様”が降りて来た。
「テキスタイルだ! と思ったんです。これ、私やりたいって。今までなんで気づかなかったんだろうって」
信じられないような本当の話なのだが、まさに堀口さんがそう思ったタイミングで、フィンランドのテキスタイルブランド・カウニステ社から一本のメールが来る。贈答用の包装紙に用いる図案を考えて欲しいと。堀口さんの答えは、もちろん「Kyllä!」(フィンランド語で「yes」)。堀口さんが描いた包装紙は、近々本国でお目見えする予定。

カウニステ以外にも、ヨーロッパの人々から連絡をもらうことが多い。つい先日は、デンマークの方から、どうしてもポストカードの図案として使わせて欲しいという連絡が来た。才能のある人は“世界”が放っておかないのだ。

さて、はじめに紹介した包装紙「tutumu+」。包装紙と言いながらも、それを包装紙として使っている、という声はほとんど聞かない。購入したお客様に聞くと、圧倒的に多いのが「部屋に飾ります」という答え。もちろん、それは自由だ。自由な表現で作られた作品が作家の手を離れたとき、それは更なる自由の海へと旅立つ。堀口尚子というよどみなく流れる水は、多摩川へ、そして世界中の海へ、何にも邪魔されることなく、自由に流れてゆくのだ。

【堀口尚子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
表現方法にこだわらず何でも創ってみるをモットーに活動中。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
玉虫色。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
「tutumu+」「ieカレンダー2014」などの「紙もの」と、「ことはな」という花の種とことばを合わせた楽しいくじ引きをご用意しております。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いてご紹介するのは、栃木の生んだ伝説のフレンチベジタリアン! もみじ市のスペシャリテ・にんじんフライが帰ってきます!!

文●北島勲