高旗将雄「たかはたまさお店」

「絵を描くのは好きですか?」

ちょうど一年ほど前、まだ会って間もない彼にこんな質問をしてみた。何気なく聞いたつもりが、彼は首を傾げて、うーんと唸って、納得した答えが出せない様子。

「これを描きたい、という衝動を僕はあまり持っていないのかもしれません。他のイラストレーターの方々と自分を比べたら、描くのが好きとはとても言えません」

少し肩を落としながら、申し訳なさそうに話していた彼。あれから一年、もみじ市の会場となる多摩川の河川敷で、彼と待ち合わせをした。

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イラストレーター・高旗将雄さん。大学・大学院でグラフィックデザインを学びながら、フリーのイラストレーターとしての活動をスタート。雑誌や書籍、WEBなど様々な媒体へのイラスト提供を行っている。対象の特徴をユーモアのある視線で捉え、シンプルな線とカラーで描かれたイラストは、大人も子どもも惹かれるユニークな愛嬌がある。

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「大学の卒業論文で研究していた『郷土玩具』が好きで、自分の描く絵にもその好みが表れています。郷土玩具は大人が買って子どもに与えられることが多く、“大人向けのかわいさ”のようなものがあります。ゆるくて、弱々しくて守りたくなるような要素。バランスをとるのが難しいのですが、“こびすぎないかわいさ”が良いと思います。でも、自分は受け身な人間なので、求められれば色々描きます」

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高旗さんのつくる作品は、イラストという枠に留まらない。シルクスクリーンで刷ったエコバッグやマッチ箱、石粉粘土を固めて絵つけしたブローチ、フェルトのブローチ、立体ゾートロープ、張り子の人形、オーナメント…。たまにイラストレーターであることを忘れそうになる(?)高旗さんの幅広いものづくりの動機を尋ねてみた。

「郷土玩具にも通じる“結果の美”という考え方があります。作るものに対して、それに合った手段を選び、結果的にこうなったという美しさ。学校の設備で大判ポスターが出力できなかったので、自分で印刷できるようにシルクスクリーンを使い出した。写真よりイラストの方がシルクスクリーンに合うのでイラスト制作にシフトしていき、より映えるシンプルなラインで平面的に描くようになった。こんなものを作ってほしい、と言われれば、じゃあどうやって作ろうか、という部分が楽しい。やっぱり受け身な人間ですね」

高旗さんは笑うが、それこそが高旗さんの強さなのだろう。過程を楽しめる強さ。手紙社が高旗さんとお付き合いを始めてから1年半が経過した。その間、手紙社が企画する大きなイベントから小さなイベントまで、高旗さんは皆勤賞だ。ほぼすべてのイベントに参加してくれ、イベントにあわせた作品・商品を作ってくれたり、ワークショップを行ってくれている。こんな作家さんは他にはいない。

無茶ぶりも多い。3月に行った「アカテガミー賞」(言うまでもなく、アカデミー賞のパロディです)では、アカテガミー賞受賞者に贈呈するオスカー像ならぬテガミー像を、6体作ってくれた。7月に行った「手紙舎の夏まつり」では、紐引き(複数の紐の中からひとつを選ぶと、ひとつの景品が釣れる、縁日ではおなじみの“あれ”)を作ってくれた。いずれも手紙社が高旗さんにお願いするのは、無茶な要望で、無謀なスケジュールで、無理な予算の、3拍子揃った仕事ばかり。しかしどんなときも高旗さんは、そんな我々の依頼を、「はい喜んで」と言わんばかりに、さわやかに引き受けてくれる。そして、高旗さんならではのアイデアと粘りで、「こうしたら楽しいんじゃないかと思って」と、目をキラキラさせながら、新しいものを生み出してくれるのだ。

昨年の終わりに行われた手紙社の忘年会。一年間、あらゆる場面でお世話になった高旗さんを招待した。会の終わりに、一年を振り返ってひとりずつ話をすることになったのだが、マイクは高旗さんにもまわって来た。そのときの、言葉を詰まらせながら話す高旗さんの姿が忘れられない。普段はあまり自分のことを話さない高旗さんが語ったのは、フリーで活動することで抱えていた不安と、仕事としてイラストを描かせてもらえることへの感謝。ものづくりをする人のそんな内面に触れたことがなかった自分にとって、忘れられない光景だ。好きなものについて話すときは、少年のようにいきいきと楽しそうな高旗さん。そして、あのときの言葉。僕は彼のまっすぐなところが好きだ。

最後に、こんな質問をしてみた。

「つくるのは好きですか?」

彼は迷うことなく、笑顔で首を縦にふってくれた。もみじ市初出店の高旗さん、今回は「カラフル」というテーマに合わせて“色々”なものを作って持って来てくれるようですよ。カラフルなバッグを使ったシルクスクリーンのワークショップも開く予定。こんなモチーフでブローチをつくってほしい、こんなアイテムがあればいいな、そんな声もぜひ届けに来てください。高旗さんの新しいものづくりのきっかけになるはずです。

<高旗将雄「シルクスクリーンでのカバン作り」ワークショップのご案内>
開催日時:

10月19日(土)11:00〜15:30

10月20日(日)10:30〜15:00


参加費:1,000円(材料費込み、当日のお支払い)
定員:材料がなくなり次第終了とさせていただきます。

お申し込み方法:当日ブースにて直接お申し込みください。

製作所要時間:約20分程度
*インクを乾かすためにお時間いただきますことを予めご了承ください。

【高旗将雄さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
もみじ市の末席を汚させていただきます、イラストレーターの高旗将雄と申します。初めての参加です。絵を描きながら、相模原でほそぼそと暮らしております。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
わかりませんが、カリスマカラーならセラドングリーンが好きです。なのでそういうことにしておいてください。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
ワークショップやブローチの販売など、色々です。カラフルだけに。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いては、自然と寄り添い、自由に暮らすあの人の登場です!

文●柿本康治

西淑「紙もの」

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その絵をはじめて見たとき「静かだな」と感じた。だけどしばらく見つめていると、澄んだ音が聴こえてくるような気がした。キンと響く冬の星空の瞬き、風の声、葉擦れの音、湖にぽとりと雫が落ちる瞬間…。ひたひたと迫る夕闇のように、西淑さんの描く世界に包み込まれていくのがわかる。

「怖い」と思った。

それは、「美しい」とか「愛おしい」という印象と同じくらい強く、心の中に小さな小さな痛みのようなものを残した。その感覚は、今も西淑さんの絵を見つめるたびによみがえる。

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西淑さんは、京都在住のイラストレーターだ。アクリル絵の具などを使った切り絵の作品を年数回の個展で発表しているほか、書籍の装丁や挿画、紙もの雑貨など、多方面で活躍している。淑さんの描くモチーフは、少女、星、馬、森、食卓の風景や暮らしの道具など。しっとりとしたタッチと深みのある色彩で描かれたそれらは、一つひとつが語りかけてくるかのような詩情に満ちている。

福岡に生まれ、鳥取、京都、東京と、絵を学びながらあちこちで暮らした。描くことを仕事にしようと思ったのは23歳のとき。雑誌のイラストなどの仕事を手がけながら、さまざまなギャラリーで個展を開いた。そのころは、今のような作風を見つけられていなかったと淑さんは言う。 「描きたいものが定まらなくて、だんだん『白い紙に描くこと』が怖くなってしまったんです。一度線を引いてしまったら、もう後戻りできないから…」

転機になったのは、2009年、長野のギャラリーBANANA MOONで開いた個展「おりがみの馬」。安曇野の森の中に佇む小さなギャラリーでの個展ということもあり、淑さんの頭の中には美しい森のイメージが浮かんでいた。だから、福岡の実家に戻り、薪ストーブと寝袋で暮らしながら創作した。迷いながら、淑さんは自分の絵を表現する手法を試行錯誤していた。

一度描いた絵を、切る。そうすると、「面」の中にいた木や、馬や、鳥たちが、生命を与えられたかのように淑さんの手のひらにやってきた。それらを貼り合わせ、また一つの絵を作り上げていく。この手法は、まるで淑さんに選ばれることを待っていたかのように、絵の世界観にぴたりと重なった。

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モチーフのかけらを集め、新しい世界を描いていくこと。それは、淑さんのインスピレーションにも通じる。彼女は「拾う」ことが好きなのだそうだ。美しい縞模様の石、種子や葉っぱ、枝や木の実、小指の爪のような貝殻…。散歩に出かけても、旅に出ても、自然の作り上げた小さな造形物を見つけると拾い上げ、こう思う。

「自然の作るものには、自分の描くものはかなわない」

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淑さんは知っている。夜空の星にどんなに手を伸ばしても、届かないこと。美しい森は、時に残酷なほどの闇を秘めていること。そこに暮らす動物たちが、いつかはそのいのちを終えること。少女の時代は、永遠には続かないことも…。彼女が描く世界は、一遍の詩のような美しい情景を持つファンタジーだけれど、そこに宿るのは幻想ではない悲しみや孤独だ。

「何を描きたいかはぼんやりと心の中にあって、言葉にしようとは思わない。でも、自然の中には生死があって、日々の暮らしに当たり前の営みがある。いつもそれを忘れずにいたいんです」

淑さんの絵をはじめて見たときに感じた、小さな小さな「怖さ」。それは「孤独」を知っているからだ。その美しい色彩と繊細な描線の奥には、届かないもの、終わってしまうものへの無力さや寂しさが秘められている。その一方で、淑さんは食卓の風景や、台所、針仕事の道具など、日常のささやかな場面も描く。淑さんが心に留めているもう一つのこと、「当たり前の営み」だ。今日も、食卓に小さな灯がともる。それは、ありふれた日常の光景だけれど、温かく慈しみに満ちた希望の光だ。

もみじ市がお天気の神様に祝福されたとき、澄んだ青空と河川敷に吹く柔らかい風が描き出す、奇跡のような美しい光景が現れます。そこに集う人たちが笑う、当たり前のようで喜びに満ちた時間。自然の風景と人々の笑顔が溶け合う場所で、西淑さんの絵は、わたしたちの心に儚くも美しく、温かい灯をともしてくれるに違いありません。

【西淑さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
西淑です。絵描きです。紙を塗って削って切って貼って絵を描いてます。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
あいいろ。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今回は紙雑貨とちいさい絵、てぬぐいなどの新作の商品もご用意する予定です。自分なりに精一杯の「カラフル」な衣装で参加するつもりです。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いては夢を叶えたあのフードデリバラーがもみじ市へ! とびきりの笑顔でみなさんを迎えてくれるでしょう。

文●増田 知沙