「ふたりだからできるんだよね」
全国から、そして海外から珠玉の作り手が集うもみじ市。“もみじ市だからこそ”実現するお楽しみがある。それは、2日間限りのコラボレーション。陶芸家とグラフィックデザイナー、料理家と雑貨作家……、ジャンルの枠を超え、素晴らしき作り手がタッグを組む姿を目撃できるのは、もみじ市ならではの楽しみだ。そして、このおふたりがコラボしてくださるのは、まさにもみじ市ならではの贅沢だ。第1回目のもみじ市から参加して下さっているイラストレーターの平澤まりこさんと料理研究家の桑原奈津子さん。
いまでこそ多くの方に足を運んでもらえるようになったもみじ市だが、2006年に行われた第1回目は、今と比べれば小さな規模だった。そんななかで、ひときわ人だかりが出来ていたのが、平澤さんと桑原さんのお店だった。
平澤まりこさんは、雑誌、書籍、広告など、さまざまな媒体をフィールドに活躍するイラストレーター。最近では、コーヒー飲料「LUANA」のビジュアル全般を手掛けられたのが強く印象に残っている。商品はもちろん、CMやポスターを目にしたことがある方も多いのではないだろうか。
平澤さんが描く人物や風景、暮らしの道具、旅先での一コマは、どれもすっと一本軸が通った、意志のある線で描かれる。すっと伸びた首に高い鼻、背筋がピンとした女性……、これは平澤さんが描く女性だが、“彼女”はまさにその意志を受け継いだようで、時には気高く、時には軽やかに、平澤さんが生み出す世界を動き回る。『京都ご案内手帖』『1ヶ月のパリジェンヌ』『ギャラリーへ行く日』など、多くの“旅の本”も著している平澤さんは、丁寧緻密な取材で文章を綴る良質の書き手でもある。平澤さんのお店を選ぶ視点、街を見つめる視線は、彼女の本を手に取る多くの人を、豊かな旅へと導いたのではないだろうか。
桑原奈津子さんは料理研究家。大手製粉会社の食品開発室において、製菓・製パンメーカーのための試作・商品化の仕事に携わった後は加工でん粉メーカーにおいて研究職に従事。あくなき粉への探求心が彼女をいまのポジションへと導いた。手紙社のメンバーが彼女を評して言う「粉に愛された料理研究家」というキャッチフレーズは、あながちオーバーではないのだ。
『お砂糖レッスン』『やさいお菓子・くだものお菓子』『ピクニックの楽しい時間』など数多くの著書を持つ桑原さん。最新作『パンといっぴき』は、桑原さんと愛犬キップルの朝食を、来る日も来る日も定点観測的に記録した1冊。レシピはもちろんのこと、写真も、テーブルスタイリングはすべて桑原さんが手掛けている。レシピブックでもあり、写真集でもあり、エッセイでもあるこの本は、桑原奈津子という作り手の才能が集約されていると思う。自身の愛犬を主人公にしたこの本。普通につくれば、“愛情てんこ盛り本”になってしまいそうなものだが、そこは桑原さん、絶妙な距離を保ちつつ、不特定の人が見ても楽しめるよう、バランスをとっている。写真とスタイリングも、もちろん良い。決して押し付けがましいわけではないけれど、“魅せる力”が素晴らしいのだ。
異なるジャンルで、しかしそれぞれ第一線で活躍している平澤さんと桑原さんがはじめてタッグを組んだのは2007年4月に行われた花市のとき(もみじ市は2008年まで、秋はもみじ市、春は花市の名称で年に2回開催されていた)。きっかけは、第1回のもみじ市。出店場所が、隣同士だったことが、物語の始まり。
「開場したらあっという間になっちゃん(桑原さん)のところにお客さんが来たんだよね。ひとりであまりにも大変そうで、気付いたら袋詰めとか手伝ってました(笑)」
と当時を振り返って話してくれた平澤さん。
「ひとりで心細かったので、とても嬉しかったです」
と桑原さん。7年前のことを振り返り、楽しそうに話すおふたりは、とても仲が良い。だけど、なんというのだろう、ただ仲が良いだけではなく、お互いがお互いを尊敬しあっているのが言葉の端々から伝わってくる。
話を戻そう。2007年4月の花市ではじめてコラボしたふたりが用意してくれたのは、フォーチュンクッキーならぬ”haru no hitokoto cookie”。 桑原さんの作ったクッキーの中に、平澤さんが、メッセージを書いた紙片(もちろん、イラスト付き!)を入れたスペシャルクッキー。
「作業が細かくて大変だった覚えもあるけど、やっぱりふたりというのが心強かったです」
あれから6年。もみじ市で、久しぶりにふたりのコラボレーションが実現する。ふたりが今回のために用意してくれるのは「方舟クッキー」。平澤さんが作る方舟に見立てた箱に、桑原さんがカラフルな人や動物のクッキーを作り、ぎゅぎゅっと詰め込む予定とのこと。
「今年はどうしようかと話していくなかで、わりあいスムーズに“箱”というキーワードが出てきたんです。箱っていいよね、と盛り上がって。箱の中にお菓子を入れて、それをたくさん並べたら、見た目にも”カラフル”になるんじゃないかな、と考えました」
方舟のアイディアはどこから?
「普通に箱を作るのではつまらないなと。美味しいお菓子はもちろん、“希望”を詰め込みたいな、と思いました。それには方舟というイメージがぴったりでした。人それぞれ抱えているものはあるだろうけど、これを手にしてくれた人たちに、ささやかかもしれないけど、幸せを届けられたらな、と思います」
それぞれお忙しく活躍されている平澤さんと桑原さん。もみじ市のために打ち合わせを重ねるだけでも簡単なことではないと思うのだが、それでも参加し続けてくれているのはなぜだろう? 平澤さんは言う。
「もみじ市に来てくれるお客さんは、なんだかみんなキラキラしているんです。ここでしか味わえない出会いがあるのがもみじ市の魅力じゃないかな」
続いて、桑原さんが静かに。
「普段はひとりでお菓子を作っていることもあって、たくさんの方と話せるもみじ市は楽しいです。大変だけど、楽しい」
2006年のもみじ市の会場でぐっと距離を縮めたふたり。会場の「森のテラス」の小さな泉を出航した小さな方舟は、平澤まりこと桑原奈津子を乗せて、7年後、多摩川までやって来ました。気づけばその船には、ふたりのほかにもうひとり、誰かが乗っています。乗客の名は、「希望」。ふたりと希望を乗せた方舟が、多摩川河川敷に寄港するのは10月19日(土)だけ。みなさまどうか、乗り遅れないよう。
【平澤まりこさん 桑原奈津子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
イラストレーターの平澤まりこと、料理研究家の桑原奈津子です。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
ピーコックブルー(平澤)
水色(桑原)
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
地球上のみんなが仲よく、よい方向に向かいますように!という願いをこめて平澤まりこが方舟に見立てた箱を、桑原奈津子がそこに乗りこむ動物たちをクッキーで表現します。
私たちはそれぞれ色とりどり。カラフルな人や動物をとびきりハッピーな箱に乗せてみなさんにお届けしたいと思います。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
さて、続いてご紹介するのは、岐阜県多治見市から初参加のあの店です!
文●市川史織