気持ちのいい人だな。彼女とはじめて会った時、直感的にそう感じた。清潔感のある真っ白な服。飾らないまっすぐな言葉。ご挨拶をすると、しっかり目を見て、華奢な両手で私の手をぎゅっと握ってくれた。
彼女と彼女の作るベーグルに出会ったのは、木の葉も日の光も秋色に染まった10月頃だったと思う。少し冷たい風が吹く中、温かい珈琲と一緒に食べたベーグルがあまりにもおいしくて、今でもその時のことを鮮明に思い出すことができる。あの日以来私は、すっかりベーグルの、というよりも、彼女のファンになってしまったのだ。
kuboぱんの久保輝美さん。埼玉県でパン教室を開きながらパンの販売も行っている。この夏いちばんの台風が過ぎ去った3連休の最終日、念願だった久保さんのお店兼教室を訪ねた。木の扉をそっと開けると、久保さんがひとつひとつ丁寧に集めた古道具や家具が並んでいる。はじめてお会いした時と同じように真っ白な服を着た彼女は、その空間にとてもよく似合っていた。
kuboぱんのベーグルは、“よくあるベーグル”とはちょっと違う。白くて柔らかそうなそれをはじめて見たとき、ベーグルだとはなかなか気づかなかったほど。私の記憶の中にあるベーグルは、表面がつるっとしていて真ん中に穴が空いていて、噛むとぐっと歯ごたえがあるベーグル。けれど、彼女の作るベーグルは少し違う。細長いコッペパンのような形だったり、かわいらしいハート形だったり。そっと手に取ると、しっかりとした弾力は感じるのに、どこかふわっと柔らかい。一口頬張ると、ベーグル特有のもっちりとした食感の中に、しっとりとした甘みが広がる。食べやすい! ベーグルはちょっと食べにくいものだと思っていたので、正直とても驚いた。
今から7、8年前。いまのようにベーグルが世の中に浸透する前のこと。パン教室を開いていた久保さんは、ベーグル以外のパンを教えていた。もともとマニュアル通りが嫌いな久保さんは、もっと自由に作りたい! 自分が好きなパンを作りたい! と思っていたそう。ちょうどそのタイミングで、カフェを立ち上げたお友達にベーグルを作ってくれないか? と頼まれ、そこで久保さんはベーグル作りを始めたという。ここでひとりの友人が登場する。小さな頃から本場アメリカのベーグルに親しんできた友人だ。久保さんはその友人に試食をお願いするが、ジャッジは厳しく、何度も「これは違う」と言われてしまう。レシピもない中、記憶の中にある感覚だけでベーグルを伝えてくるお友達に応えるべく、何度も何度も、繰り返し作る日々。結局、その感覚にぴったり当てはまるベーグルは出来なかったけれど、この経験のなかで、自分が「おいしい」と思えるベーグルが出来上がった。kuboぱんのベーグルが誕生した瞬間だった。
それからも久保さんは、ニューヨークで本場のベーグルを食べ歩いて勉強したり、材料や配分を変えてみたり、作る工程を変えてみたり。自身の作るベーグルにたくさんの改良を重ねてきた。もっとおいしいベーグルを作りたい。その想いに、ただひたすらまっすぐに向き合って。
最近、 “ベーグルのkuboぱん”に新しい仲間ができた。マフィンである。なぜマフィン?
「おいしいマフィンになかなか出会ったことがなくて。だったら自分で作ってみようと思ったんです。ちぎるとぽろぽろっと崩れてしまうマフィンではなく、食べやすくておしいしいマフィンを作れないかな? そう思って。試行錯誤しながら作ってみたら、理想のマフィンが出来たんです! おいしかったので教室でも作ってみたら生徒さんにも好評で。これからはベーグルとマフィン、両方届けられたらいいなと思っています」
毎回もみじ市に出店してくださっているkuboぱん。2年ぶりの開催になる今回、マフィンが初登場する(甘いおやつマフィンとごはんにもなるおかずマフィンを準備してくれる予定)。おやつマフィンは、6月に北海道で行われたイベント「森のカフェフェス」でも大人気だった、フランボワーズとマスカルポーネのマフィン。しっとりとしてずっしりと重く、冷やしてケーキのようにいただくととてもおいしい。他にも新作を試作中とのこと。
「ベーグルやマフィンには、そのときいちばんおいしい季節のものを入れるようにしています。他にも、北海道産の小麦粉を使ったり、ベーキングパウダーもアルミニウムフリーで極力優しいものを使ったり。材料は、ベーグルを作りはじめたころからずっと、自分の目で厳選しています。でも、あまりそれを全面には出したくなくて。おしいしいものを作りたかったら自然とそうなるでしょう? 食べればわかってしまうから、きちんと自信を持っておいしくなるようなものを選びたいんです。なんとなくでも、わかってもらえたら嬉しいかな?」
かっこいいな。やっぱり久保さんは、常にまっすぐでとても気持ちのいい人だ。
そんな久保さん、ふだんは予約で完売してしまうことも多いkuboぱんのベーグルとマフィンをたくさん持って、20日の日曜日に多摩川河川敷にやってきます! 晴れた秋空の下、芝生の上にシートを広げて、温かい飲み物と一緒に真っ白なベーグルを食べてみませんか? 久保さんがベーグルやマフィンに込めたまっすぐな想いを、感じることができるはずです。
【kuboぱん 久保輝美さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
パンのある幸せな暮らしを提案する教室とベーグルの販売をしております。北海道産小麦など美味しい小麦を何種類もブレンドしシンプルな材料で、小さなお子さま、ご年配のお客様も食べやすいよう追求したベーグルを作っています。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
白です。1番好きな色。ベーグルの白でもあります。フラットな色なので、みなさんのお好きな色にしていただければ。
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
フランボワーズなどのいろいろな色の果物を使ったベーグルやマフィンを持っていきます。
もみじ市のための新作も準備中なので、楽しみにしていてくださいね。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
さて、続いて登場するのは、もみじ市エンタメ部門の雄、究極の映画ファンのあのお二人です!
文●高松宏美