アンリロが生まれ変わった。
営業時間が変わり、ディナーがなくなった。その代わり、ランチタイムとカフェタイムを今まで以上にゆっくりと過ごせるように、時間を延ばした。メニューにお子様ランチも加えた。キッズルームと呼ばれる座敷席は、スタッフで力を合わせて、丸2日で作った。新しい仲間は、主婦や妊婦の方を積極的に迎え入れることにした。そう、アンリロは子どもがいる環境にある全ての人に対して、大きな“いたわり”を持つお店に生まれ変わったのだ。
「世の中を動かしているのは主婦の人たちだからね。いちばん頑張っているし、気合いが違います。昔から続いているお店を見ても、やっぱり頑張っているのは主婦の方ですし」
きっかけは、オーナーシェフである上村さん自身の環境の変化によるものだった。3年前、第一子を、そして今年、第二子目を授かった。楽しいけれど、決して一筋縄にはいかない育児の日々の中で芽生えた想いが、彼を変化させていったのだ。
アンリロとは、上村真巳というひとりの男の人生そのものなのだと思う。自身の環境の変化に合わせてお店自体も変化させていく。その姿勢には、潔さと人間らしさがあふれている。その中で、ただひとつ変わらないこと。それは、自分が行きたくなるお店をつくり続けてきたことだ。
2005年、上村さんは栃木県鹿沼市に、野菜をおいしく食べるフレンチベジタリアン「アンリロ」をつくった。地元で採れた野菜を美味しく食べてもらいたい。そんな願いのもとでつくられた料理が、多くの人を魅了するのには、さほど時間はかからなかった。そして、2008年、31歳の年齢を数える年、2号店である「ル・ペリカン・ルージュ」をつくった。そこは地元の食材を使用したお料理とおいしいワインが楽しめるビストロ。男性が行けるお店をつくりたかったのだという。掲げたテーマは「30代以降の大人が居心地のいい、遅くまで開いているお店を目指そう」だった。
そして、今回の大きな変化。アンリロに足を運ぶ客層は9割が女性だ。もちろん、その中には妊婦の方も多い。だからこそ、そんな方々が子どもを産んでからも「行きたい」と思ってもらえるようなお店にしたいという結論に至ったのは、ごく自然なことだったのだろう。
インタビューを続ける中で、私はアンリロを初めて訪れたときのことを思い出していた。それは今年の1月のこと。手紙社の一員として、数名のスタッフと共に上村さんに会いに行ったときのことだ。どうせならと、アンリロのランチを予約していた。お店に到着すると、用意してくれていたのはポカポカとした冬の木漏れ日が射し込むテーブル席。そこに並ぶ料理の色鮮やかさといったら…。陽の光を受けてキラキラと輝く、鹿沼の採れたての野菜を使った料理の感動は今でも色褪せることなく覚えている。ひと皿ひと皿が、とにかく美しい。そして、きちんと演出されている。料理が提供される度に皆、感嘆の声を上げた。純粋に料理を、そして食事を楽しむ。そんな体験だった。夕食は、ル・ペリカン・ルージュを予約した。カウンターに座っている常連と思わしき年配の男性と楽しそうに会話をしている上村さん。それが、初対面の瞬間だった。この時にどんな言葉を交わしたのかは、正直なところ、緊張のあまりほとんど覚えてはいない。それでも、そのとき話してくれた、マクロビに対する考え方。地元の野菜を使うことに対する想い。そして、何よりも料理をする自分自身が楽しむということ。その場で話を聞いていた私達は、噛み締めるようにその言葉を心に刻んでいた。そして、前菜の盛り合わせが、本当に美しくて美味しかった。これは余談になるが、同行していた手紙舎のカフェのスタッフもいたく感銘を受けていたようで、「地元の野菜を使う」という上村さんの考えに影響された結果、現在、手紙舎のカフェで使用する野菜は我々の地元である調布で採れたものを使っている。
ふいに、将来の展望を話す時間が訪れた。その内容は、海外のとある国でお店をつくりたいという話だった。自身が独立前にお世話になったオーガニックレストランのオーナーが住んでいるということもあり、上村さんは家族で、その国へ幾度かの旅行を重ねてきた。ベジタリアンが多く、どこのお店に入ってもベジタリアンメニューが必ずある。エステも盛んだ。内側と外側から身体を綺麗にできる国。それはインドネシア。ただ観光地化しているのではなく、自然をふんだんに活かしたお店づくりが成されていて、そこには昔の日本の風景を感じるのだとも言う。例えば、山あいの渓谷の中のお店。窓なんて無くて、全てが開放感にあふれている。清流の流れる音、そこにある自然全てがインテリアとして成立しているお店。
「作られた造形も好きですけど、自然が作り出した造形には敵わないなって思うんですよね。なによりも本当に気持ちが良いんですよ。そんな空間で、モダンな料理なんか出したら、絶対素敵だと思いません?」
はい、そう思います! そんなロケーションで楽しむ上村さんの料理。楽しみだなあ。そんな日がいつかきっと来る。将来の自分のご褒美がまたひとつ増えた瞬間だった。
インタビューもそろそろ終わりの時間を迎える頃、上村さんは自身の生き方のテーマをこのように紡いでくれた。
「常にベースにあるのは“自然体”という言葉。自然の流れに逆らわず、無理をしないで生きていきたいですよね。」
そして、その言葉は料理に対する想いへと繋げるように続いていく。
「それじゃあ、自然体な料理って何かって聞かれたら、やっぱり、地元で採れた食材でつくることだと思うんです。それが自分には向いているし、好きなんですよね。そう考えると、なんかもう、何処でも生きていける気がします」
栃木県鹿沼市、その土地で暮らしを営む一員として、誇りを持って、上村さんはシェフであり続ける。野菜を料理し続ける。上村さんがつくったお面を是非見てもらいたい。太陽の朱色と、地球の緑。それはどちらも野菜の色だ。
2年ぶりのもみじ市。アンリロは鹿沼の野菜をたっぷりと使ったパスタを用意してくれる。使う野菜は新鮮で色とりどり。正にカラフルだ。もちろん、みんなが大好きな、もみじ市名物と言っても良い、あのにんじんフライもあるので、どうぞお楽しみに。新鮮な素材と、プロフェッショナルな料理。そして、今のアンリロにはそれ以上の“何か”が存在している。新生アンリロは、これまでにないくらい、子供と家族に優しいフレンチベジタリアンとして、多摩川河川敷にやってくる。
【アンリロ 上村真巳さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
栃木県鹿沼市のアンリロです、栃木県は全国的に寒暖の差が厳しい土地でもあり特に野菜は美味しくなる気候なんですよ! そんなお野菜をふんだんに使ったフレンチベジタリアンがアンリロです! 美味しいおやさい食べに来てくださいね!
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
太陽のオレンジと葉っぱの緑!
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今回は定番の人参フライはもちろん、パスタもサラダもカラフルにしあげます!もちろん屋台もお花でいっぱいにします!
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
続いてご紹介するのは、人気イラストレーターのあのお二人です!
文●加藤周一