わいんのある12ヶ月「カンパーニュ、ベーグル、焼き菓子、わいん、ビール、ソフトドリンクなど」(20日)

ワインとは、パンとは、そして食卓とは。かくも気取らずシンプルで、にぎやかで、幸福に満ちたものではなかったか。「わいんのある12ヶ月」という屋号の台所から届いた祝祭にあふれたパンたちをはじめて口にしたとき、胸に去来したのははたしてこんなストレートな想いだった。

高橋雅子さんの主宰するそれは、<自家製酵母と少しのイースト>をキーワードにパンレッスンを行う、東京で99年から続くパンとワインの教室。彼女を慕って四国、九州、果てはハワイから集う生徒さんたちに囲まれながら、味わいもカラフルなパンと、ワインが進む飾らないおつまみ、確かな選球(?)眼に裏打ちされた豊かな表情のワインが、今日も次々とテーブルへ紡ぎ出されてゆく。

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比類なき人気もそのはず、彼女たちがレシピにしたため、伝えようとするストーリーはただ一つ。日常の再定義、である。脂の乗り切った秋刀魚をターメリックでほのかに包んだスパイシーなデニッシュも、長葱の甘みを最大限に引き出したほろ苦くも繊細なキッシュも、イタリアン・チーズの王パルミジャーノをほのかに凍らせたモダンなジェラートも、すべては日常的に手に入る食材をほんのちょっとだけ一手間かけ、エレガントにアップデートしたもので、つまり日々に忙殺され、世界中の食卓が忘れかけた、家族のはじけるような笑顔を、ささやかな悦びを、あたたかな団欒を、とても優しく美しい方法でそっと再起動しようとしているのだ。

だからこそ、なのだろう。「料理は毎日のことだから、堅苦しいのは、ね」と快活に微笑む眼差しの奥には、一点の曇りもない。そこにあるのは、いうなれば民俗学の伝統的な概念、<ハレ(非日常)>と<ケ(日常)>の<ケ>をこそ静かに慈しむ、確かな意志だけである。

だが、そんなチームを率いる彼女がこうも続けてくれたのは、ぼくたちにとってなんとも幸福な誤算だった。

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「じつは『わいんのある12ヶ月』というチームプレイを本当の意味で100%できるのは、普段の活動を通してももみじ市だけ、なんです。私自身は『わいんのある12ヶ月』の高橋雅子、として仕事をしているつもりなんですけど、ほとんどの場合は高橋雅子っていう、私個人の名前で世に出ていて。うちには何人もスタッフがいますが、そのスタッフ全員が一堂に会して表舞台に立てるものって、そうそうないんです。だから、私たちにとってのかけがえのない文化祭、なんですよね」

そう、<ケ>と真摯に向き合い続ける彼女たちが、そのチームとしての活動の唯一の<ハレ>の舞台として定義しているのは、ほかならぬもみじ市、だったのだ。

ならば、さあさあお立ち会い! ぴかぴかに光るボディの車の中で身体を寄せ合いながら、とびっきり陽気な楽団がごきげんなナンバーをかき鳴らしてパレードを牽引する、全員が主役であり脇役のバンドワゴンのように。年にたった一度、多摩川の秋風と太陽に祝福された彼女たちがパンとワインで奏でる最高にグルーヴィなショウ、目撃しない手はない。

【わいんのある12ヶ月 高橋雅子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
パンとワインの教室を主宰しています。書籍や雑誌への執筆、企業へのレシピの提供なども行っています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
扱っているのがパンとワインというのもあって、チームとしてはどっちの色にもかたよりたくない、というか。むしろ茶色やワインレッド、そんな暖色系を引き立てる色のほうがいいですね。暖色系なイメージのメンバーも、意外といないし(笑)。だからやっぱりもみじ市の、あの空の色かな。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
パンは、わいんのある12ヶ月からはカンパーニュを4種類ほど、代々木八幡で開いているベーグルショップtecona bagelworksからはベーグル、焼き菓子、ビスコッティ、フォカッチャを。ワインは、夜呑むのに似合うワインではなく、あの空の下で呑むのが似合うワインにしたいので、レモンをキュッと絞ったような、さわやかな白や、ちょっと冷やして呑めるくらいのすっきりした赤を用意しようかと。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、いつも賑やかにもみじ市を盛り上げてくれるあの型染めユニットです。この人達がいなくちゃ始まらない!!

文●藤井道郎