nuri「キャンドル」

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9月1日、午前2時30分。1通のメールが届いた。

『あの後、ずっともみじ市のことを考えていて、ほんとにわくわくしています。それで思いついたことがあって、いてもたってもいられなくてメールしてしまいました。「カラフル」をテーマにはじめはどんな作品を作ろうか、と考えていたのですが、青空の下で綺麗なものを作りたいと思い、ワックスペーパーでのれんのようなものを作ろうと思い立ちました。3月の個展の時にワックスペーパーで三角の旗を作ったのを覚えていますか? あれを三角ではなく長いリボンのようにして、たくさんはためかせたらとても綺麗なんじゃないかなと思いました。ワックスペーパーは光を透かすと本当に綺麗です。風に揺れたら最高だと。色はカラフルに。夢の入り口みたいな感じにしたいので』

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前日の8月31日、私は、京都にあるnuriさんの工房を訪ねていた。翌々日から個展が始まるという多忙な日、納品するためのキャンドルを一緒にプチプチで包みながら、作品づくりのこと、最近の暮らしのこと、これからのことなどをたくさん話した。そして、その日の夜が開けないうちに、彼女が送ってくれたメールが、これだった。

じんわりとこみ上げて来るものがあった。実は、nuriさんの家を後にするとき、私は少し気持ちがもやもやしていた。言いたいことがあったけれど、言えずに帰ってきてしまったのだ。彼女があまりに忙しいこと、いつも体と心が壊れそうなほどに、ギリギリまで制作に励んでいること。材料の仕入れから、デザイン、形づくり、色つけ、梱包までぜんぶひとりでやっているから、できることに限界があること。それを知っているから、言い出せなかった。

「今年のもみじ市で、なにか新しいnuriさんを見せてもらえないか」と。

だから、このメールを読んだ時、うれしくてうれしくて、朝起きてまっさきに、私は返事を送っていた。「ありがとう!」と。

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それからもう、1カ月以上も経っている。ついに、もみじ市の直前になってしまった。でも、なかなか原稿を書く気持ちになれなかった。ゆっくりと向き合ってみたかったのだ。nuriさんも、もみじ市も、私にとってあまりにも大切な存在であり、このふたつは切り離せない存在だから。

nuriさんが初めてもみじ市に出てくれたのは、2010年のことだった。もみじ市の7カ月前、京都で開催されていた個展で偶然みかけたnuriさんのキャンドルは、シンプルな形の中にさまざまな色が込められていて、美しいけれどどこか儚くて、すっと私の心の引き出しの中に入り込んで来たのだった。

初めて連絡を取ったのは、その数カ月後、もみじ市に出ていただきたいとメールを送った時だった。少し緊張して「送信」のボタンを押したのに、nuriさんは1時間もしないうちに返事をくれた。「嬉しい!」「出ます!」と、少し興奮ぎみに。この話は、いまでもnuriさんを語る上で時々登場するエピソードとなっている。人懐っこくて、まっすぐで、情熱的で、ひたむきな、nuriさんそのものだったから。

それからは、もみじ市以外でもたくさんご一緒していただいた。お店で作品を販売させていただいたり、イベントに出品していただいたり、昨年は手紙舎で個展もやっていただいた。何かをやろうと思うと、まっ先にnuriさんを仲間に入れてしまいたくなる。nuriさんとnuriさんの作品は私にとって、手紙社にとって、あまりに大切で、頼もしくて、いつでも一緒に何かをやりたい存在なのだ。そのたびごとにnuriさんは、たくさんのキャンドルを用意してくれる。ひとつでも沢山つくろうと、なにか面白いことにトライしようと、私たちの誘いに対してこちらの想像以上に力を尽くしてくれる。なにが彼女をそうさせているのだろうと、こちらが疑問に思うほどに。

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今回のもみじ市のテーマがカラフルと決まった時、私はまっさきにnuriさんのことを思い出した。nuriさんにぴったりなテーマだと思った。

nuriさんがつくるキャンドルは、色に溢れている。色を作ることが好きで、楽しいと、nuriさんは言う。彼女が作る作品をよく見ると、ひとつひとつすべて色を変えて作られている。シンプルな形のものも、人気の小鳥のキャンドルも。それはそれは、どんなにか手間がかかる作業だと思う。でも、それが楽しい、それがやりたいことなのだという。

先日取材に伺ったときも、こんなことを言っていた。

「ろうそく屋である前に、色屋さんでありたい」

そうか、この人はキャンドル作家じゃない、表現者、アーティストなんだ。色を表現するために選んだ素材がキャンドルだったのだ。素直に色が表現できて、さまざまな質感があって、光に透けて、そして、いつか儚くとけていく。そんな、キャンドルという素材を最大限に活用しながら、作品を作り続ける。だからnuriさんは、独自の手法で作品をつくり、手のひらに乗るほどの小さな作品から、空間を埋め尽くすようなダイナミックな作品まで、表現が無限大に広がっているのだ。

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今年になって生まれたという新作は、これまでとは少し違った趣を放っていた。古い壁のような、使い古された扉のようなマットな質感とグレイッシュな色合い。ドライで少しざらついた表面。形は、余分なものがすべて削ぎ落とされたように、至ってシンプルだ。そのキャンドルは、暮らしの中に色を添えるために飾ったり、さりげない1日の終わりに火を灯してみたくなるような作品だった。

たとえばそれは、北欧の森の中にある家の窓際に飾っあって、夜になるとそのキャンドルに火が灯されて、その光の中で、お父さんは本を読み、お母さんは子どものためにマフラーを編み、子どもたちは思い思いに遊んでいる。そんなシーンの中に、あのキャンドルがある風景が見えてくる。

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「私にとって色は大事なもの。素材はロウと決めているから、形もある程度限界があるから、色でしか勝負できないと思う。ろうそくの作家さんがたくさんいるなかで、私はどこで勝負するかをいつも考えています。誰かがやっていることはやりたくない。見たことのないものを作りたい。『ロウという素材でこれはみたことないでしょ』と思わせるものを作りたい。だから、この作品が完成したとき、安心したんです。きっと、誰かが先にこれをやったら嫉妬していただろうと思う。これは私の作品として、ずっと作りつづけていくだろうと思います」

むき出しで、美しいと思った。新しいnuri candleの始まりだ。

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さて、冒頭に登場したワックスペーパーの作品は、もみじ市の当日、会場装飾をしてくれるDOM.F..の迫田さんの手により、ステージの装飾に使われることになった。虹のようにさまざまな色が風に揺れ、光を透かし、風景と一体になってカラフルな会場に拍車をかける。

nuriさん、もう何日かしたら、あなたはここにやって来てくれますね。あの大きな河川敷の会場に降り注ぐ太陽と同じくらい、情熱的な笑顔をたたえて。迎える私は、胸がいっぱいで、あなたの顔をみたら泣いてしまうかもしれません。もみじ市を開催する日がふたたび来ると、ずっとずっと信じてくれたあなたと、ここでまた会えることが嬉しすぎて。

【nuriさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
nuriです。京都の古い一軒家で毎日ろうそくを作っています。早寝早起きで日々精進です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
オレンジ。火の色。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
いつもカラフルなろうそくを作っているのですが、いつもその時の色を作っているのでいろいろ変化しています。今の私が出せる色を精一杯表現したいと思っています。

今年は蝋の紙でたくさんのリボンを作りました。会場のどこかでひらひらしていると思います。

青空に映えるといいな。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

これにて、2013年もみじ市の全出店者の紹介が終了。この後は、出店者のみなさんから届いた直前情報をお届けします。

文●わたなべようこ