あんざい果樹園 「色トリドリノフクシマ」

ちょうどいい言葉はなんだろう?
伝わる言葉はどこにあるんだろう?

桃の季節が終わろうとしていた8月下旬。数もまばらになった桃の木の横では、秋を待ち望んでいる梨が実っていた。ひとつひとつ丁寧に手が掛けられた梨は、たくさんの愛情を受けて、おいしそうに、すくすくと育っていた。

DSC_3018
「桃まだ食べてないの? はいこれ持って。いってらっしゃい!」
到着早々手渡されたのは、ふたつのバケツ。水と果物ナイフが入った黄色のバケツと、空っぽの白いバケツ。荷物を置いて、カメラを首にぶら下げ、両手にバケツを持って、桃畑の中に入っていく。

私の手が届くところにある桃はほとんど狩り採られてしまっていたから、奥の方や上の方に手を伸ばし、少し固めの桃を探す。ナイフで皮をむき、そのままがぶりと頬張ると、あたたかい果汁が溢れてくる。甘いなぁ。そう思いながら空を眺めると、太陽は少し傾き始めていた。

直売所に戻ると、「固いの食べれた~?」と、伸也さんの子どもたち、草くんと百々ちゃんが駆け寄ってきた。「うん、食べれたよ。おいしかったよ」。私のその返事ににこっと笑うと、林檎畑の方へかけていった。

ここは、あんざい果樹園。福島市の西側、吾妻連峰のふもとを走るフルーツライン沿いにある果樹園だ。夏はずっしり甘い桃、秋はみずみずしい梨や洋梨、そして冬には蜜をたっぷりたくわえたりんごが実る。今は、伸也さんのお父さん一寿さんと、お母さん久子さんが暮らしている。

DSC_3000

私の中のあんざい果樹園は、桃のイメージ。それは、ここに来るときはいつも夏だったからだと思う。数時間に1本しかない電車に揺られて小さな無人駅に降り立つと、真っ青な空と真っ白な大きい入道雲が迎えてくれる。まぶしい日差しに目を細めながら歩いていくと、一面に広がる緑の中に、ピンクに色づいた桃が見えてくる。ほんのりと甘い匂い。

震災前にひとりで訪ねた時は、伸也さんの奥さん、明子さんが営んでいた「cafe in CAVE」の窓際の席で、桃のロールケーキと桃のスムージーをいただいた。なかなか来られないからと、少し欲張って、デザートをふたつ頼んだ。

震災後の2011年には、みんなで桃狩りをした。たっぷり実っているいちばん食べごろの桃は、あまりにも甘く、おいしかった。だから、くやしかった。

そして今年。木からもいだ桃は、いつもと変わらない、甘く、やさしい味がした。

DSC_3025

「もみじ市、いつだったっけ?」
一寿さんが、直売所の壁に掛けられたカレンダーをめくる。「10月の19日と20日です」。私がそう答えると、にこっと笑い、カレンダーに書き込むと、また桃の箱詰め作業に戻っていく。

「ここから入るんだよ。早く靴脱いで」
そう言って私を呼ぶと、慣れた手つきで玄関横のリビングの網戸を開け、切り株を踏み台にさっと家の中に入る草くん。少しとまどいながら着いていくと、思わぬところから現れた私にちょっと驚いて、でも優しく微笑んで「いらっしゃい」と久子さんが迎えてくれた。私がたどり着いたその場所は、久子さんが営む「器やあんざい」。少しお話をした後、久子さんはふたたび、お客さんと会話を弾ませている。

震災が起きた日から、2年と5カ月が経っていた。ここには、決して以前とは同じではないけれど、でも新しい日常が確かに流れていた。訪れるすべての者をあたたかく迎え入れてくれるおおらかさは変わらずに。

安齋伸也さんは震災後、北海道の地で、奥さんの明子さんと「たべるとくらしの研究所」を立ち上げた。生活の拠点を北海道に移しつつも、北海道と福島を行き来している。

多くの人が集まり、多くの人に愛されていたあんざい果樹園は、あの震災で大きく変わった。一寿さんは、あんざい果樹園の表土を取り除き、果樹の表皮の一部を剥がすなど、自主的に除染作業を行った。さらには果物ごとに、検出限界を低く設定し、調べることができる厳しい検査にも自主的に依頼をかけ、数値はすべて公開している。納得した上で選んでもらえるようにと。自らがつくる果物に、食べてくれる人たちに、正直であるために。

変わらずやってくる毎日。繰り返される習慣。ご飯を食べること。息を吸うこと。眠ること。大切な人と手を取り合うこと。私たちが生きている中であたりまえに行っているそれらと、彼らにとっての果物を育てるということは、同じなのかもしれない。生まれ育った地で、果物を愛し、育てていくことは、彼らにとって、生きることそのものなのだ。

おいしいから、食べてもらいたい。だから、納得して選んでもらえるようにと。起こってしまったことを嘆くのではなく、まっすぐに受け止め、どうするべきか考え、自らの意思で判断し、前に進んでいる。誰のせいにもせず、真摯に向き合って。そうやって大切に大切に育ててきたたくさんの果物を持って、3年ぶりに伸也さんがもみじ市にやってくる。

5回目の参加になる今年は、あんざい果樹園と共に「LIFEKU(ライフク)」も一緒だ。LIFEKUとは、“福島に来る、福が来る、福島に暮らす”という意味。その名のとおり、福島にやって来る者をあたたかく迎え、福島に今以上の福が来ることを誰よりも願い、そして、福島で暮らしていくことをより楽しくするための活動をしている、とてもゆかいな仲間たちだ。そのLIFEKUが、オリジナルのピンバッジ「F-PINS」と、もみじ市のための楽しい仕掛けを持ってやって来る。

lifeku_photo1

lifeku_photo2

福島で生まれ育った私が今回、あんざい果樹園を担当させてもらったこと。だからこそ、この原稿で彼らのことを書くのは簡単ではなかった。ちょうどいい言葉はなんだろう? 伝わる言葉はどこにあるんだろう? ずっとそう思っていた。だけどきっと、ちょうどいい言葉なんてありはしないのだ。

確かなことはひとつ。あんざい果樹園が、そこにあるということ。その大地には、色とりどりの果実が、豊かに実っているということ。

【あんざい果樹園  安齋伸也さんと、LIFEKU 遠藤知絵さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
福島県福島市のあんざい果樹園とLIFEKUです。LIFEKUは、福島の街のセンスとスタイルを紹介するために活動しています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
伸也さん「ゴールデングリーン。夕日に照らされた緑かな」
知絵さん「赤です。真っ赤赤!」

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
あんざい果樹園からは、梨や洋梨など、採れたてのおいしい果物やりんごジュースをたくさん持っていきます。LIFEKUでは、「子供たちの未来」、「福島からのメッセージ」、「これからのエネルギーを考える」、「自然の大切さ」というメッセージが込められたカラフルな「F-PINS」と、来た方に楽しんでいただける“ある仕掛け”もご用意しました!よかったら、ふらっと寄ってみてください。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さあ続いては、2013年もみじ市、いよいよ最後の出店者の紹介です。大トリを飾るのは、京都からやって来るキャンドルアーティスト!

文●高松宏美