日光珈琲「もみじ市だよ日光珈琲!」

一度見たら忘れられないTシャツだ。派手な色、というわけではなく、変わった形、というわけでもなく、ベージュ色のシンプルなTシャツなのだが、注目すべきは左胸のワンポイント。「NIKKO COFFEE」の文字があしらわれた円形のロゴマークの下に、男らしい骨太なフォントで「ドリップ」の文字。このTシャツを来た、存在感抜群の男が丁寧に珈琲をドリップしている。この珈琲が、うまくないわけがない。

この男の名は、風間教司。「cafe饗茶庵」「日光珈琲」「日光珈琲 朱雀」のオーナーである。日光と鹿沼の地に新たなるカフェ文化を築いている男であり、カフェという“媒体”を通して、町に新たなる“物語”を生み出している男だ。
「物件の情報を入手したときにまず考えるのが、この地域はどういう場所だったんだろう、ということ。その物件の周辺の状況や時代背景……言って見れば歴史の発掘調査から始めるんですね。そういうものを取り込んで、じゃあここに店を作るとしたらどんな空間にするか、この場所でどんな物語を紡いで行けるのか、というのを考えて行く。それが楽しい」

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日光珈琲がある場所は、かつて宿場町として栄えた今市の繁華街から、小さな路地を入ったところにある。古い木造の建物を改装したこの場所は、かつては連れ込み宿だったという。
「部屋が細かく区切られていて、どの場所も囲われているような、秘密めいた空間でした。その雰囲気を生かしたかった。元から入っていた色ガラスを活かして、色気のある空間にしようと。裏通りにひっそりとある、大人のカフェに」

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実は今、風間さんは4軒目となるカフェを建築中。その場所は、日光東照宮に近い、“日光の中の日光”だ。
「大正天皇の御用邸につながるメインストリートだったんです。御用邸の馬車が通る道。その道沿いにある、かつて商家だった建物が新しいお店で、大正の時代の雰囲気を残しています。だから、大正、昭和に使っていた什器を使って、重厚でクラシカルなイメージに仕上げたいと思っています」

カフェの空間やメニューは媒体に過ぎない、と風間さんは言う。そのカフェが出来たことによって、地元の人でさえ忘れていた町の歴史や魅力に気づいてくれるのが嬉しいと。実際、風間さんがこれまでに蒔いて来た種は、豊かな実りをもたらしている。cafe饗茶庵がある鹿沼の街は、饗茶庵が出来たことによって、若者たちがこぞってカフェや焼き菓子店、レストランを開く、賑わいのある街となった。月に一度行われる「ネコヤド商店街」(鹿沼のお店を中心に、県内のお店が数多く出店するマルシェ)は、いまや県外からもお客さんがやってくるイベントだ。仕掛けたのはもちろん風間さんである。

とはいえ、そのカフェが“ただのカフェ”であれば、”媒体“にはならないであろう。空間の素晴らしさ、提供するメニューのクオリティの高さ、とりわけ、風間さんが自ら焙煎する珈琲の旨さを知れば、カフェとして一流であることこそが、そのカフェが良き媒体でありうる条件に他ならないことがわかるはずだ。

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日光珈琲のロゴマークには。3つのものが描かれている。いちばん上にあるのは「NIKKO COFFE」の文字。その下に描かれるのは、日光連山をイメージした山々。いちばん下に描かれているS字型の曲線は、日光例幣使街道やいろは坂、大谷川など、“流れるもの”をイメージしている。かつて宿場町だった日光市今市は、いろんなひとが流れて来て、交差して、また帰って行く場所だった。自分の店もそうでありたい、と風間さんは言う。
「店のコンセプトを、こちらから前面に出すようなことはしたくない。カフェは集まった人の“色”によってつくられるから。お客さんによってお店のイメージは作られて行くもの。いろんな人やものが交わって生まれゆくものを見つめるのが楽しい」

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地元鹿沼市では、「いずれは市長に!」という、決して冗談とは取れないような声が上がって来ている。実際、最近は市や県から声がかかることも増えて来た。しかし風間さんは「市長は飾りになっちゃうからいや。自分で自由に動きたいから」と笑う。4軒のカフェを切り盛りするようになっても、きっと風間さんは変わらない。どこかに面白そうな“物語”がひそんでいることをかぎつけたら、フットワーク良く、どこへでもかけつけるはずだ。当然のことながら、今週末、多摩川河川敷で紡がれる「もみじ市」という名の物語へも。

少し肌寒くなって来た河川敷に、いれたての珈琲の香りが漂って来たら、それは風間さんがやって来た証拠だ。目印は、日光連山と日光の山川が描かれたロゴマーク、そして「ドリップ」の文字だ。

【日光珈琲 風間教司さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
毎度お馴染み、日光珈琲です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
情熱の「赤」ですかね?

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
自家焙煎珈琲
自家製3色スコーン
さつきポークのカラフル挽肉ごはん
実はまだ残ってました! 氷室直送、日光天然氷のカラフルかき氷

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いては、誰もが楽しい気分になれる音を鳴らすあの人たちです!

文●小木曽元哉