近藤康平 「ライブペインティング」

「色、そのものを持っていきますね」

もみじ市を1週間後に控えたある日、彼は私の前でこう言った。グラスを持つその手には、落ち切っていないアクリル絵の具がついたままで。楽しみだな、早くお客さんに会いたいな。そう、穏やかに微笑みながら。

彼との出会いは、去年の8月。あるアーティストのライブを観るために行った、江ノ島の小さなライブハウスで、初めて彼に出会った。彼は、音の中で、音に反応しながら、全身で絵を描いていた。私は、次から次へと色が変わっていく大きなキャンバスから目が離せないまま、音に色がついていく光景に夢中になっていた。

それから約半年後。近所のカフェで、偶然にも彼と隣り合わせた。江ノ島で絵を描いていた彼だと気がつかないままおしゃべりをし、彼がお店をあとにした数分後、あの時の彼だと気がついた。江ノ島での空間や絵が鮮やかに思い出されて、ふとこう思った。もし今年、もみじ市があるなら、絶対彼を呼びたい。彼に出てもらいたい、と。ひとつ夢ができた。ドキドキしながら、真冬の帰り道を急いだ。

そしていま。あの時の夢が叶った。彼がもみじ市にやってくる。真っ白な大きいキャンバスと、たくさんの絵の具を持って。青空の下で、思いっきり絵を描くために。

彼の名前は、近藤康平さん。ライブペインティングパフォーマー、絵描きだ。彼は、ひとりで黙々と描くのではなく、様々なミュージシャンの演奏に反応・同期しながら、即興で絵を描いている。

kondo_photo1

彼は、筆をほとんど使わないで絵を描く。アクリル絵の具を直接手に取り、ものすごいスピードで真っ白のキャンバスを色の海に染めていく。圧巻なのだ。頭が真っ白になるとか、言葉が出ないとか、ありきたりだけど、まさにその感覚に自分自身が深く深く潜っていくのがわかる。

数分の間で、みるみる絵が変わっていく。海が、森に。夜が、朝に。女の子が現れ、猫が横切り、クジラが泳いだりもする。瞬きをする余裕さえも与えてくれない。いや、正確には、瞬きをすることがもったいないのだ。

次は何色に変化するのだろうか。次は何が現れるのだろう。想像してみるけれど、彼の手は、私が想うところをはるかに超え、また違う色の世界を描いていく。

「直接手で描くのは、感動の伝わる加減が違ってくるような気がしているからなんです。筆を使うと、その分タイムラグが発生してしまう。観てくれるお客さんも、ミュージシャンも、そして自分自身も、ずっと感動していたいし、させたいんです。驚かせたいんです。だから、一瞬たりとも無駄にしたくないんです」

kondo_photo2

kondo_photo3

kondo_photo4

ライブペインティングをする人の多くは、最初から最後までずっと描き続け、1枚の絵を完成させる。けれど、彼のライブペインティングは違う。描きはじめた数分後には絵が出来上がり、さらに数分後にはまた違う絵になっている。彼の絵には “完成” という言葉がない。描きはじめたときからすでにひとつの作品でもあるし、その場で描き終えたあとも、まだその世界が続いているような気がしてくる。

「絵を届けたい人にちゃんと届けるためには何がいいかと考えた時、このライブペインティングがいちばんだと思いました。生身で、直接、同じ空間を共有して届けたいなと。観てくれている人と、その場を共有したいといつも思っています。物語を共有したいんです。その場にいてよかったという強烈な思いを味わってもらいたいし、僕自身も味わいたいと思って描いています」

“共有” 、彼の中でずっと大切にしている大きなコンセプトだという。そして、共有するための大事な役割を担っているのが、彼の絵の中に登場する、動物や人などのモチーフだ。

「抽象画であれば、その模様だけでも成り立ちます。でも、観てくれている人との距離を縮めたい。そう思ったとき、人や動物を入れることで物語ができ、絵を通してコミュニケーションが生まれるんです」

kondo_photo5

アトリエにこもって、自分の世界に潜り、ひたすら描き続ける。絵描きと聞いて多くの人が想像するのは、きっとそんな姿。けれど彼は違う。絵を届けたい人がいて、観てくれる人がいて、その空間があって、初めて彼の絵が呼吸をする。

彼の絵が呼吸を始めると、観ている私たちは、森の中へ、海の中へ、どこへでも自由に行ける。ひとりにもなれるし、誰かと一緒になることもできる。そして、気がつけば、いつか見たことのあるような、どこか懐かしい景色の中にいる。

kondo_photo6

近藤さんは、絵を学んだことがない。すべて自己流、独学なのだ。

「学んでいない分、学んだ人には絶対できないような発想ができると思って。絵の描き方、絵描きとしてのスタイルも、自分が思うままにやっています。モデルケースはありません。だって、絵を描きながら全国ツアーなんて、聞いたことがないでしょ? すべて、実験中なんです」

ゆっくりと穏やかな口調で、話してくれた。

kondo_photo7

週末、多摩川河川敷の晴れた空の下に、色の森が現れます。一緒にその森に迷い込んでみませんか? どこか懐かしいような、いつか夢の中で見たような。楽しくほっとできるその場所に、ご案内します。

< 近藤康平 「ライブペインティング」のご案内 >

開催日時:
10月19日(土)12:00頃 約40~50分間
10月20日(日)12:00頃 約40~50分間

演奏:原田茶飯事

参加方法:当日、直接ブースへ起こしください。

 【近藤康平さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
はじめまして。近藤康平です。絵描きです。今、「color power spot」という個展をしています。ひとつの色が、僕等の日常をパワースポットに変えてくれるような、そんな気がします。

もみじ市は、そんな色や、音や、食べ物や、飲み物や人たちが集まるのだと思います。みんなが多摩川河川敷をパワースポットに変えてくれるのだと思います。みんなで癒されましょう。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
青です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
“色そのもの” を持っていきます。そして、盟友である原田茶飯事くんという最高のミュージシャンとライブペインティングをします。真っ白の大きなキャンバスにカラフルな絵を描きます。真っ白な服や靴できてくれた方、ご希望があれば直接絵を描きますよ!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、三角マークが目印の万能調味料の開発者。今回はどんなお食事を用意してくれるのでしょうか?

文●高松宏美