喫茶tayu-tau「旅のピクニックセット」(20日)

人は想像すらできないほど膨大な量の情報の海の中を泳ぎ、たくさんのちいさな選択を積み重ねて生きている。そんな中、ふと何かを感じ一歩を踏み出したことが、思いもかけない出来事を生み出すことがある。

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 喫茶tayu-tauを営むご夫婦飯島慎さんと寿代さんは運のよい人だ。若いころに勤めていた会社で出会い、ふたりの幸せな生活をイメージして漠然と「カフェをやりたい」と考えていたときに、とある雑誌の記事に出会ったことがきっかけで、やがては「喫茶tayu-tau」を開くこととなる。雑誌で気になるお店のことを知るということは誰にでもあることだろう。でもここからが他の人とは違うところだ。当時千葉県で暮らしていたふたりは履歴書を持って、茨城県にある、はじめて訪れるその店の門を叩くのである。

ふたりの予感は的中、実際にお店に入ってみてそのおもてなしに感激し、「こういうキラキラした暮らしをしている人がいるんだ!」と感銘を受ける。面接の結果、寿代さんはそのお店で働けることとなり、慎さんはお店のオーナーの紹介で別のレストランで働く機会を得る。今では全国からファンが訪れ、のちの有名店オーナーを数多く輩出することになるその店や、繋がりのあった北関東のすぐれた飲食店関係者と関わることで、いわばカフェの英才教育を受けて数年を過ごした。

そこで吸収し、見つけた自分たちの「好き」を膨らませてできあがったのが今の喫茶tayu-tauだ。「運と勢いとタイミングでしたね」と笑うふたりだが、よい運をたぐり寄せ、確かな選択を続けてきたからこその結果であり、幸せをつくり出す才能と心持ちを持っているのだと思う。

喫茶tayu-tauのふたりはきっと不器用な人だ。地元の人たちに愛されるその店は、開店後すぐに満席になってしまう。ふたりでお店のすべてを賄っているので待たせてしまうこともある。

「スタッフを増やしたい気持ちもあるんですが、自分たちの考える『おもてなし』について細かいところまで共有できる自信がなくて、ちょっとしたことでお客様に違って伝わってしまうことが怖いんです」

と少し困った顔で語る。ひとりひとりに出来たてのあたたかい料理を提供し、ていねいに説明を添える。グループ客もひとりのお客さんにもゆったりと過ごしてもらえているか店内に目を配り、時にそっと声を掛ける。店内オペレーションの効率を優先にはせず、あくまでお客さんの居心地のよさにこだわる強い意志がそこにある。

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喫茶tayu-tauのふたりはきっと欲張りだ。お店の名前を聞いて、ゆっくりとコーヒーを飲むことができる場所を想像していた。光あふれるゆったりとした空間でおいしいコーヒーを飲むことができるだけで、十分に気持ちのよいお店なのだが、取材の日にいただいた野菜プレートには驚いた。色鮮やかなたくさんの種類の野菜が個性を生かすようにていねいに調理され、見た目もたのしく提供される。人が飲食店に求めることは千差万別だが「この野菜プレートをサーブされて心が踊らない人とは仲良くはなれないな」と唸らされた。味見をさせてもらった人気のメンチカツは、なるほどお酒にも合わせたくなる、男性も満足させる一品だ。その上、寿代さんが作るフランス焼菓子はさっくりとした食感と香ばしさがなんとも好ましい。見回せば品のいい日本とフランスのアンティークがなじんでいて、オープンして1年強とはとても思えない落ち着いた内装である。一体お店のどこに焦点を当てて紹介すればよいのかとうれしい悲鳴をあげてしまう。さらには、お店の将来のことを聞いてみると、近々作家さんの個展やアーティストのライブが予定されているという。ふたりの欲張りな関心はこれからどんな素敵な変化をこの店にもたらすのだろう。

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喫茶tayu-tauの、はじめてのもみじ市出店紹介文を書く機会を得られた私はとてもラッキーな人間だ。あの気持ちのよい日射しが差し込む素晴らしい空間を体感し、色鮮やかな野菜プレートに心を踊らせ、店主ふたりが引き寄せてきた、幸運かつ必然のエピソードを聞くことができた。これからもすこしずつ形を変えて続いていくだろうそのお店のことを想像するだけで、ワクワクさせられた。おまけに自分にとって必ずや再訪することになるだろうお店を、見知らぬ土地に持つことができたのである。

そしてこの紹介文を自らの選択で目にすることになった人たちはきっと幸運の持ち主だ。何人かはこの紹介文で何かを感じ、週末のもみじ市で喫茶tayu-tauのピクニックセットを手にすることになるだろう。多摩川河川敷の気持ちよく抜けた青空と光と芝生の緑と、喫茶tayu-tauのピクニックセットが、あなたに小さな幸福をもたらすだろう。

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 【喫茶tayu-tau 飯島慎さんと寿代さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
三重県津市の喫茶tayu-tauです。大好きな日本やフランスのアンティークと音楽をあつめて作ったお店です。お店を通じて生活がちょっとたのしくなるような提案をしていきたいと思っています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
ちょっと前までは緑色でした。今は、お店の内装に使っているような木の色が好きなので「ちょっとさびれた茶色」です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
前回のもみじ市でぼくたちがお客さんとして参加した時のように、会場でピクニックを楽しんでいただきたくて、ピクニックに持っていくお弁当をイメージした「旅のピクニックセット」をご用意します。お野菜とお肉の2種類のお弁当です。テーマがカラフルなのでできるだけ彩りのよい野菜などで作れたらと思っています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは新進気鋭のアーティスト。会場ではライブペインティングを行なってくれます!

文●尾崎博一