あちらべ「活版印刷、ものづくり」

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日本に、いや世界にデザイン事務所を謳(うた)うグループや企業は星の数ほどあれど、今そこにあるコミュニケーションにこんなにもまっすぐで誠実で、美しくあろうとするユニットを、ぼくはほかに知らない。彼らの名は、あちらべ。ものづくりによって、ヒトとヒト、ヒトとモノ、モノとモノをつなぎ、まだ見ぬよりよい方向=あちらべ(江戸時代に使われた言葉で、あちらのほう、の意)へいざなわんとする、赤羽大さんと宇田祐一さんによる東京・目黒のデザイン・ユニットだ。

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彼らのプロダクトの最大の魅力は、誤解を恐れずにいえば、彼らだけではけっして成立しないところにある。もっとも、成立させない、といったほうが正しいかもしれない。東日本大震災の被害を受け、支援が届きにくい孤立地区の復興支援を目的とした一般社団法人つむぎやとともに制作した漁網100%ミサンガは、そのタグ・デザインを牡鹿漁協女性部有志グループ、マーマメイドのお母さんたちが描いた三角形をモチーフにして構成されている——たとえば、こんな具合に。

「『そんなやり方で、どうやってデザインを担保するの?』っていわれたりもするんですけど(笑)。でもデザイナーって、与えられた情報だけで器用にそれなりの形にできちゃうから、けっこうちゃんと人の話を聞いていないな、と感じることも多くて。その事象に真摯に向き合ったとき、そこにある関係性にしかできないことにちゃんと想いを馳せれば、彼女たちに描いてもらうほうが圧倒的にいいわけで。そういう、言葉にするとあまりに当たり前のことを大切にしたいんです」

このイノセンスゆえ、だろう。通常、<切れると願いが叶う>といわれるミサンガだが、丈夫な漁網の補修糸で作られたこのミサンガには、コラボレーションするパートナーとの信頼関係によって結ばれた、<決して切れない絆>への想いが託されているように思えてならないのだ。

そんな彼らが、現在のデザイン・ワークの大きな武器の一つ、活版印刷に出逢ったのはむしろ必然、といってもいい。

「活版印刷って、組んだ活字の縦横をジャッキで締めて版にするんですけど、印刷しない部分もスペースを埋めないと、構造的に成り立たないんです。それが、すごくしっくりきたんですよね。ぼくらが伝えたいのは、デザインって目に見えない部分をふくめてはじめて成立するものだ、ってことだから」

そう、そもそもデザインとは、そういうアウラ(ラテン語で、事象から発するオリジナルな気配の意)すべてから生まれるストーリーのシルエットを美しく浮かび上がらせる、まぎれもなきコミュニケーションの言語であるということ。そんな摂理のど真ん中を軽やかなステップで射抜きながら、いつだって遊び心にあふれた粋な仕掛けでぼくらを驚かせてくれる彼らが、大きな大きな活版印刷機(てきん)を携えて、ふたたびもみじ市へやってくる。そしてあの青空の下で彼らが手繰るハンドルは、彼らとの心通うあたたかなコミュニケーションの証としての凹凸を、あなたの心のひだにそっと刻んでいってくれるはずだ。

<あちらべ「活版印刷で、もみじ市の思い出をつくろう!」のご案内>

もみじ市をずっと前から楽しみにしていたカラフルなあなたに朗報です! 折角来たんだから何か思い出にして持って帰りたい! そうですよね!?

青空の下(希望を込めて)、もみじ市の思い出を活版印刷でカタチにして持ち帰ってみませんか!? もみじ市の思い出をカタチに残したい方なら、どなたでもご参加可能です。手動の活版印刷機とともにお待ちしてます! 

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開催日時:
10月19日(土)11:00〜15:30
10月20日(日)10:30〜15:00
※両日とも開催時間中随時受け付けいたします。

参加費:500円(当日のお支払い)
お申し込み方法:事前のお申し込みなしでご参加いただけます。

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<ワークショップの流れ>

お客様の好きな紙を自由に選んでいただきます。

選んだ紙に手動の活版印刷機で印刷し、その様子をインスタントカメラで記念撮影します。

撮った写真にも活版印刷します。

紙と写真にヒモを通して出来上がりです。 

【あちらべ 赤羽大さんと宇田祐一さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
見た目や機能にとどまらず、人を動かす仕組みを大切に考えてデザインに取り組んでいるデザイン・ユニットです。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
鏡、かな。答えとしては、禁じ手ですかね?(笑)。でもこれ、けっこうドンピシャで自分たちのことを表現できていて。そこに映ったあなたの心の色が、ぼくたちにとっての色であって。何をするにも、目の前の人との関係性がすべてなんです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
ほかでもないもみじ市なんで、ほんとに当日ギリギリまで悩んでいるような気がします(笑)。ただ、自分たちと関わってくれている人たちや、当日来てくださった人たちとの関係性を大切に思っている、ということが伝えられるようなブースにしたいですね。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、今回もまたもみじ市の最後を締めくくるあのお二人です。

文●藤井道郎