chiho yoneyama cogin works「色とりどりのこぎん刺し」

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8月初旬の猛烈な暑さの中、私は長野県松本市へ向かった。今年初めてもみじ市に参加してくださるこぎん刺し作家、米山知歩さんに会いに出かけたのだ。

もみじ市をお休みしていた2年の間じゅうずっと、頭の片隅では「次に開催するならお誘いしたい方」を探していたように思う。そして、まさに彼女はその一人だった。はじめて彼女の作品に出合った時から、彼女の作品と彼女自身に深く深く、魅かれていたのだった。だから、もみじ市の取材を始める時は、まず最初に彼女に会いに行こうと決めていた。初めてもみじ市に出て下さる作家さんの言葉は、いつも私の心を奮い立たせてくれる。だから、私にとって本当の意味での今年のもみじ市の始まりは、この日になるような気がしていた。

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知歩さんとはじめてお会いしたのは、今年の2月。手紙社がはじめて行った『かわいい布博』というイベントに参加してくれたときだった。こぎん刺しのような、地方に伝わる伝統技法を受け継ぐ作品は、ともすると、その地を訪ねたお土産として購入することはあっても、日常で使うものとして魅力的に映らないない場合も多い。ところが、知歩さんが作る作品は、毎日の洋服にさりげなく身につけたいと思うような、かわいらしさとクールさがちょうどよく混じり合った素敵な作品ばかりだった。会場内のたくさんの作家さんの作品の中でも、ひときわ私の心を惹き付ける魅力を放っていた。

取材に伺ったのは、その一画にアトリエを構えたご自宅であり、築300年という平屋の一軒家。周囲は田畑で、遠くには山々がぐるりと取り囲むように連なっている。揺れる稲穂とセミの声は、『日本の夏の風景』そのものだった。古い家屋は、奥に入ると薄暗く、少しひんやりしたけれど、知歩さんのアトリエは光が入る分少し蒸し暑く、時おり通る風が余計に涼しく感じられた。知歩さんはこの3月に東京から夫の実家であるこの家に移り住んだ。蔵にあった埃まみれだった家具を集めたという部屋は、きちんと整頓されていて、とても静かで落ち着く。

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「冷房がなくて。暑くてすみません」。そう言いながら、キンと冷えたハーブティを運んできてくれた。半年ぶりに会う彼女は、以前よりも大人の女性らしい落ち着きを放ち、キリリとしているように感じた。そもそも『こぎん刺し』とは、300年以上前に津軽地方で生まれた伝統技法で、麻の生地の布目を埋めて寒さを防ぐため、また、野良着と呼ばれる作業服の補強のために施されたのが始まりだった。その後、仕上がりの模様の美しさにも注目され『こぎん刺しが上手な嫁が良い嫁』と言われた時代もあったという。青森では、現在も中学校の家庭科の授業で習うほど、こぎん刺しは一般的だそうで、青森県出身の知歩さんももちろん、その授業を受けて育った。ただ「おばあちゃんがやるもの、というイメージがあった。素敵なものという印象はなかったですね(笑)」と、当時を振り返る。

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彼女がこぎん刺しを本格的に始めたのは、およそ3年前。なぜ大人になってから、そこへ辿りついたのだろう。

「もともとデザインの仕事をしていたのですが、プロダクトデザインやグラフィックデザインなど、工業製品のデザインがほとんどでした。でもほんとうは、自分の手で完結するものが作りたかったんです。革小物、布雑貨と、何を作りたいのかわからず、いろいろ作ってみました。ただ、作ってみては『あ、違う』の繰り返しで、なかなか夢中になれるものが見つからなくて。そんなとき、久しぶりにこぎん刺しを思い出したんです」

ぐるりと一回りした後に立ち戻ったところは、自身が生まれながらに目にしていたものだった。とはいえ、最初は思うようなものが作れなかった。けれど、やっていくうちに『これなら』というものができるようになり、せっかく作るなら、誰かに使ってもらうものを作りたい、自分の作品が暮らしの中にある姿が見たいと思うようになったのだと言う。

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「こぎん刺しには、私の地元愛があるんです。青森を離れて10年くらいになるのですが、どこに住んでいても『地元のものに触れられている』という安心感がある。私がここまで続けられているのは、ただ『楽しいから』というよりも、地元への愛着や故郷への執着心から。青森がすごく好きだから。帰ることはないけれど、それに関わっていたいと思うんです」

ひとつひとつの言葉を噛み締めるように、知歩さんは言った。離れていても、地元を愛し、誇りに思う気持ちは誰にでもあると思う。そう、私自身にも。それを形にしている姿が、羨ましくもあり、美しく思えた。

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知歩さんが作る作品は、ただただ伝統をそのまま受け継ぐのではなく、模様のデザインから製品として完成するまで、すべて自身でデザインし、仕立てている。基本を守りながらも、自由にするところは、自分流に。自分が身につけたいと思うような「かわいくなりすぎず、大人の女性が身につけたいと思うかわいらしさ」というラインを、自身の中でしっかりと築き上げている。

オリジナルの模様にはすべて名前がつけられ、それぞれに物語がある。たとえば、『雪の日』(写真右下)という図案。 「東京で最後に作った柄。これを見ると、すごく寂しくなるんです。今年3月に引っ越してきたんですけど、その前にすごく雪が降った日があって、外に出るものいやで。家にこもって作ったのがこの柄でした」

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そろそろ取材も終盤にさしかかる頃、知歩さんはこんなことを話してくれた。

「何年か前に、もみじ市に行ったことがあるんです。そのときは、すごい人で。結婚前にダンナさんと2人で行ったのですが、『なにこれ?』って(笑)。彼に、説明しながら歩き回ったのを思い出します。実はその時、まだ私は作家活動をしていなかったのですが、いつかこういうところに参加できるくらいになったらいいよね、と話をしていたんです。それがホントになった! と思って。『あの、もみじ市からお誘いがきた!』って」

キュッとひとつに髪を束ね、キラキラした表情で話す知歩さん。よく見ると、髪を結んだヘアアクセサリーの模様もこぎん刺しであることに気づいた。聞けばそれは、「kamome」という模様なのだと言う。青い空を自由に飛びまわる、白いカモメたちを描こうとデザインされたもの。それは知歩さんの、生きる姿にも似ている。故郷を離れ、都会暮らしから夫の実家のある地に移り住みながらもなお、しなやかに、たくましく自身の表現を続けている、彼女の姿に。

「もみじ市では、『カラフル』というテーマにちなんで、いろんな色の作品を一同に見せる、ということをやってみたいと思っています。糸は自然素材で染色したものを使っているのですが、その季節、その気候などで、二度と同じ色が出せないものばかり。そんないろんな色を一斉にならべて作品に落とし込んだらきれいだろうな、と思って」

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取材を終え、松本を後にする車の中で、私の心は清々しかった。やっぱり、彼女に会って、彼女の言葉を聞けてよかった。彼女が作る作品が、いっそう好きになった。これがもみじ市だ。2年ぶりのもみじ市が、今年のもみじ市が始まったのだ。

数年前、もみじ市の会場を歩きながら、いつか自分もこの場所に、と思いを馳せていた女性は、その後作家になり、その思いを叶えようとしている。その何年もの思いをぎゅっと詰め込んで、彼女は秋にこの場所にやってくる。

キラキラした笑顔と、美しい作品をたくさん携えて。

【米山知歩さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
こんにちは、米山知歩です。青森の伝統工芸「こぎん刺し」の技法を用いてものづくりをしています。故郷の伝統を大切に思いながら、今の暮らしに自然に寄り添う「こぎん刺し」のあり方を考え制作活動をしています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
青! だったのですが、最近になって緑に変化してきたように思います。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
自然の恵みから生まれた、色とりどりの草木染めの糸を使った、こぎん刺しのアクセサリーを制作いたします。ご自身のお気に入りの色を見つけていただけると幸いです。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、子どもたちを夢中にさせるあの人です。

文●わたなべようこ

Rui「フェルト帽子と巻きもの屋」

春先の夕暮れの帰り道、Ruiさんのレースをふわり、と纏ったら。
薄着の後悔はすぐに消え、口元に笑みが生まれるだろう。おへその上あたりにはりついていた人間関係のモヤモヤも、ふっ、と一吹きで綿毛のように飛んでいきそうな気持ちになる。

晩秋の駅のホームで、Ruiさんのフェルトの帽子をぽん、とかぶったら。
日が短い心細さは羊の毛の中に溶けていき、肩の力が抜けるだろう。自信がなくて曇っていた心も、シャワーの後のようにすっきり、視界良好な気持ちになる。

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Ruiさんの作品に触れると、体の奥のぐっとした結び目がゆるむ。そして気がつくと、明日が来るのが楽しみになっている。

Ruiさんの第一印象は「すくすく育つ夏の植物みたい」。派手でなく地味でもなく、土から栄養を得て太陽の下、つるを上下左右にぐんぐん伸ばしていくへちまや朝顔のような人。私は、すぐにRuiさんを好きになった。

Ruiさんが織りの道へ進むのを決めたのは高校1年生の時。「身に着ける布がいい。一から布を作るなら、織りだ」。大学でテキスタイルデザインを学び、アパレル企業に入社。トップス専門としてスタートしたブランドでディスプレイ担当だったRuiさんは、商品に合わせる帽子やスカートを作り始める。そこからレースとフェルト、2つの道が開けていった。

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Ruiさんのレースの作り方はおもしろい。水に溶ける特殊なシートに、絵を描くように布や糸を置いていく。そしてミシンで自由にステッチをかけていく。水につけてシートを溶かすと、糸が縮んでくしゅっとした手触りの、世界でひとつのレースが現れる。魔法のように。

一方、フェルトは地道な作業。色とりどりの羊毛に温かい石鹸水をかけてごしごし擦る。棒を縦、横、表、裏、約800回も転がして一つの生地を作りあげていく。大変ですね、と思わず目を丸くした私にRuiさんは、「そう大変!でもよろこんでもらえるからやれるんだよね」と笑った。

今回のもみじ市には、これからの季節にアクセントとなるような、ぴかっ、と明るい色のフェルトのブローチやリング、帽子、ストールが中心に並ぶ。身に着けて多摩川河川敷を歩く姿を想像する。きっと背すじが伸びて足どりは軽く、ついスキップしてしまうかもしれない。作品が放つエネルギーに、体が反応するのがわかる。

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淡く、繊細で美術品のようなレースと、カラフルで身近な存在のフェルト。対照的な “静” と ”動” の空気をもつ2つの作品を、Ruiさんが作り続ける理由。その答えは、「やめられないの、どっちも」と困った笑顔で返ってきた。

やめられなくてよかった、と思う。私たちはこれからもRuiさんの作品に出逢い続けることができるから。

【Ruiさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
手づくりのレースとフェルトを作っているRuiです。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
朝日色?ちょっと元気なかんじ。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
小石柄、リース柄のストールのカラフルバージョンと、新作アクセサリー!!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いてご紹介するのは、自由ヶ丘のあのお店。カラフルな海外の文房具をずらりと並べて迎えてくれるはず。

文●小澤亜由美

クロヌマタカトシ「木彫り」

涙がこぼれそうになった。なぜだろう、なぜだかわからない。彼が「少壮の狼」と名付けたオブジェを見た瞬間、ものさびしい気持ちが心から溢れ出し、「哲学者」や「遠望の羊」と名付けられたオブジェの表情をみると、不思議と心が落ち着いた。それ以来、いつかこの作り手に会いたい、話をしてみたい、と心のどこかで強く願っていた。念願叶って、小高い山の麓にある彼のアトリエを訪ね、木の香りに包まれながら、言葉を交わした。

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クロヌマタカトシさん。木彫りで動物や林檎のオブジェ、ブローチなどの装身具を作り、ギャラリーや雑貨店での展示・販売を中心に活動している。しかし、“木彫り”に辿り着くまでは随分と長い道のりがあったのだという。

「学校で建築を学んだ後、1年間住宅メーカーで設計と現場監督を担当しました。しかし、家は自分にとってサイズが大きすぎて、中にある暮らしをイメージすることがなかなか出来なかった。自分がそれをつくっている感覚があまり感じられず、悶々としていました」

もっと暮らしに寄り添うものづくりをやろう、家具職人になろう、とクロヌマさんは木工の職業訓練校に1年通う。それでもまだ、自分がつくりたい“何か”と、実際に作っているものの焦点が合わない。そんなある日、ふと彫刻刀を買ってきて、手を動かしてみた。

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面白い。手のひらにおさまるものをつくった時に「これだ」と感じた。彫りはまったくの独学だった。当時は、彫刻刀の研ぎ方も知らなかったので、鎌倉にある刃物屋に行ってみせてもらったこともある。やがて、本格的に木彫りの活動をスタートした。最初の頃は木のカトラリーを中心に制作していたが、徐々にオブジェへと移っていった。

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「オブジェは人によっては用途のないものですが、それが部屋にあるだけで安心したり、自分にとっては必要なものだと感じます。作品がもつ“空気”のようなものをつくりたいのかもしれません。空間の雰囲気をがらっと変えるものを意図的につくる、ということではなく、人や空間と作品が無作為に交わって生まれる“風”と言えばいいのか…」

そんな話を聞いていて、クロヌマさんが自身の展示の時に残した言葉を思い出した。それは、僕が彼にどうしても会ってみたくなった、きっかけの言葉でもある。

古い大きな倉庫に手を加えた抜けと奥行きのある魅力的な空間。
自分の作ったものをそこに置いた時に生まれる
空気の揺らぎのような、あるいは静まり溶け合うような
共鳴なのか、対峙なのかは分からないけど
ものと空間の交わる一点を探して。
その一点が見つかった瞬間、そこからふわっと気持ちのいい風が吹き始める。
そんな感覚に襲われるときがこの場所の展示にはある。

追記

2日間の在廊を終えて改めてこの場所の心地よさを発見した自分がいた。
差し込む光、通り抜ける風、ゆれる緑。
時間とともに刻々と移りゆく空間にあわせて
表情を変えてゆく作品たちを眺める。
空間と作品と、時間と、光や風や緑といった自然。
それらの調和や共鳴によって生まれる何かに
自分の存在を委ねてみたくなる。
この場所に解けてしまいたくなる。

変わりゆく自然や空間とのつながりが生み出す偶発的な美しさ。見る人が重ねてきた時間・経験と響き合うことで生まれる印象の奥行き。つまりは、見る人の外にあるものと、中にあるもの。その二つの要素が交わって浮かび上がる作品の世界は、人によって、場所によって、まったく異なる。僕にとっては、遠吠えする狼がさびしそうに見えて、自分の孤独だった時間ときっと共鳴したのだろう。哲学者の表情が、そんな自分も理解してくれた誰かの微笑みのように見えたのだろう。

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遠方から、クロヌマさんの個展に訪れたある女性が、彼が彫った女性の像をマリア様のように部屋に飾っていると話したそうだ。

「自分との“接点”を見つけた人、作品を必要としてくれる人の話を聞いたとき、その人のために作ったと思えます。これが、生きている自分の役割なのかもしれないとさえ感じます」

クロヌマさんの彫る作品には、“生命”が宿っている。そんな風に思えてしまうほど、彼のオブジェは見る人の琴線に触れる。色つけも独学で、塗っては剥がしての繰り返しも多いという。まるで森の中を彷徨うように彫りと色つけを行う中で、狼がまさに狼になる瞬間がある、と彼は話す。それこそがきっと、クロヌマさんが彫ったものに“生命”が吹き込まれる、かけがえのない瞬間に違いない。

作品とそれをつくる作家。作品とそれを見る人。作品とそれを包容する空間。それぞれの運命的な交差によって生まれる世界そのものが、クロヌマさんの作品だ。大空の下のもみじ市の会場でもきっと吹くだろう。気持ちの良い、風が。

【クロヌマタカトシさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
クロヌマタカトシと申します。木を彫ってオブジェなどを作っています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
濃藍。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
動物や林檎などのオブジェや装身具をご覧頂ければと思います。全体的にモノトーンのものが多いのですが、新しい色にも挑戦してみようと思います。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのはカラフルなフェルトの作り手。3年ぶりにもみじ市に帰ってきます。

文●柿本康治

五月女寛「陶のオブジェ」

五月女寛さんは旅人のような人だ。

個展や企画展で日本各地に出かけては、ギャラリーのオーナー、その地域で創作活動をしている作家、その友人が営むおいしいお店…といった具合に、人から人へと交流の輪を広げ、たちまちその土地に溶け込んでしまう。五月女さんがいつも肩に掛けている大きなカバンにはスケッチブックと絵の具が入っていて、旅先で美しい風景に出会うと、写真を撮るのではなく絵に残すという。初めて出会った人や、場所や、風景にも、ずっと昔からの友人のように温かく接することができる人。それが、わたしの五月女さんの第一印象だ。

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陶芸家・五月女寛さんは、もみじ市になくなてはならない作り手の一人だ。2009年のもみじ市からずっと、小さく愛らしい「家」の形のオブジェを中心に、マットな質感と優しい色の作品で会場を彩ってくれている。手のひらにのるほどの愛らしい家がずらりと並ぶ光景は、まるで小さな町が現れたようで、そこに流れる時間や物語を空想せずにいられない。

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小さな家は、よく見ると一つひとつ色や形が違い、それぞれに表情がある。のっぽの家、斜めの家、古びた家、赤・青・黄色の家…。どれもシンプルなフォルムだけれど、時を経たような色や質感を表現するのに、五月女さんは惜しみなく手をかける。例えば、輪郭に錆びたような色がのぞく家は、赤土の上に化粧土を施した後、辺を削って下地をわずかに見せている。表面に細かなヒビが入った花入れは、化粧土の乾燥によって生じるヒビの表情を生かしたものだ。それらは決して強く主張することはないけれど、窓辺やテーブルの片隅に置くと、日常の風景が静かで優しい光を宿す。五月女さんは言う。

「使う人の暮らしの中で、初めて完成するような作品を作りたいと思っているんです。窓辺に置いた小さな家が、窓の外の空を背景に一つの絵になるような。花器に生ける花をわざわざ買わなくても、道ばたで見つけた花の方が似合うような」

そう言って屈託のない笑顔で笑う五月女さんのまなざしは、オブジェや花器を買ってくれた人の「帰る家」へと向けられている。オブジェは、ともすれば「嗜好品」として、暮らしとは遠い位置に置かれることもある。だけど、五月女さんの見つめる先は、家族が「おはよう」「おやすみ」と言葉を交わす暮らしの中に、自分の作るものが溶け込む風景だ。

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「なぜ、”家”を作るんですか?」

わたしのその問いに、五月女さんは少し考えてこう答えた。

「家って、世界中どこの国でも同じような形をしているからかもしれませんね。中に人が住まう空間があって、雨をしのぎ、地面へと流してくれる屋根があって、なんだか安心する。そんな形」

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その言葉を聞いたとき、わたしは、五月女さんを旅人のような人だと感じた理由がわかった気がした。旅人には、帰る場所があるのだ。日常を離れて、見知らぬ土地の人々や風景に感動しても、心が帰り着く温かな「家」。言葉が通じなくても、文化が違っても、三角屋根の四角い形を見れば、誰もが自分の帰る家を思い出す。五月女さんの作る家は、わたしたちの心の真ん中にある「家」そのものだ。

今年も、多摩川河川敷に小さな家々が並ぶ町が現れます。その中には、記憶の片隅でいつも自分を待っていてくれたような家が、必ずある。帰ったら家族に見せたくなるような、素敵な花入れやアクセサリーも並びます。お気に入りの作品を見つけて、「ただいま」と笑顔でおうちに帰ってくださいね。

【五月女寛さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
のどかで猫がたくさんいる雑司が谷に暮らしながら、日々陶のオブジェや花入れを作っています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
うーん、黄緑でしょうか。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
カラフルな家、積土などはもちろん、カラフルな紅葉が楽しめる野草盆栽などもご用意いたします。新作の家にはカラフルな旗がのってますよ。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、ご夫婦で営むパンと器のお店。新たな一歩を踏み出した二人がもみじ市に帰ってきます。

文●増田 知沙

SHOESbakery シューズベーカリー「靴から生まれた革小物」

「どうして ぼくだけ みんなとちがっているんだろう。だいたい、パッチワークのぞうなんて、へんだよね。だから、みんな わらうのかな、ぼくのこと」

「ぞういろ」をしたぞうたちの中で、エルマーだけは違っていました。黄色に、赤に、オレンジに、緑。エルマーはパッチワークのぞうだったのです。

世界20か国以上で出版されたイギリスの絵本作家デビッド・マッキーの名作『ぞうのエルマー』。お読みになった方も多いはずです。

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img-919231716-0003『ぞうのエルマー』 
文・絵/デビッド・マッキー 訳・題字/きたむら さとし 発行/BL出版株式会社

悩んだエルマーは、ジャングルの木の実でカラダを染めて、「ぞういろ」のぞうになるのですが、最後には、色とりどりのパッチワークが自分の個性=魅力なんだと気づくのです。

実はこの本、「SHOESbakery シューズベーカリー」の高橋吉行さんが大切にしている一冊なんです。高橋さんの本業は婦人靴メーカーの社長さん。普段はとある有名ブランドの婦人靴をOEMで作っています。でもOEMでは自分たちの会社名を出すことはできません。そこで作ったのが「SHOESbakery シューズベーカリー」というブランドでした。パン屋さんが窯から取り出した焼き立てのパンを店頭でお客さんに販売するように、自分たちもハンドメイドの婦人靴をECサイトで直接お客さんに販売しようと考えたのです。

「婦人靴をつくるには、一枚の革でも傷があったり染めムラがある部分は使えないんです。だからどうしてもあまり革が出てしまう。それをそのまま処分してしまうのはもったいないなぁと、ずっと悩んでいたんです。そんなときに、知り合いのスタイリストさんからこの『ぞうのエルマー』を教えてもらったんです。『いろんな色の、いろんな革が使えるって、シューズベーカリーの最大の強みじゃないの』って」

こうして捨てられる運命だった色とりどりの革は、シューズベーカリーのブックカバーやバッグ、クッションカバー、バブーシュとして生まれ変わりました。

P8210673高橋さんとスタッフの古川さん、そしてパッチワークのぞう・エルマー

P8210665ブックカバーの素材に使われる色とりどりの革

「革小物専門の人だと、ヌメ革を使うことが多いんです。厚みもあって強度も十分だし、使い込めば使い込むほど味が出てくる。ただ色味は限られています。それに較べるとパンプスの革は若干薄いけど、種類が豊富。クロコの型押しをアクセントで使ったり、単色では強すぎる色をちょっとさし色で入れたり、いろいろ遊びができるんです」 

いろいろな色を組み合わせることで、色の持つ魅力がどんどん広がっていく。それがシューズベーカリーの個性=魅力なのだと、高橋さんは話してくれました。

最近では、「嫌いな色はない」という天性のカラフル人・古川淑華さんが新たにスタッフとして参加。シューズベーカリーは、ますますカラフルに進化していっています。

P8210664シューズベーカリーのお面。ワクワク感がいっぱい!

今回は、お越しくださるみなさんに楽しんでいただけるよう誰でも参加可能なワークショップもご用意してくれました。革のハギレを使ったチャーム作りのワークショップです。

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革で作った葉っぱに、革ひもを通してオリジナルのチャームを作ります。用意された数種類の革の葉っぱと紐を自由に組み合わせることができます。お一人10~15分程度で完成出来ますので、ぜひお気軽にご参加ください!

<革のハギレを使ったチャーム作りワークショップ>
10月19日(土)11:00〜15:30
10月20日(日)10:30〜15:00
※両日とも開催時間中随時受け付けいたします。
参加費:500円(参加時にブースにてお支払いください)
お申し込み方法:事前のお申し込みなしでご参加いただけます。

【SHOESbakery シューズベーカリー 高橋吉行さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
「SHOESbakery シューズベーカリー」は、パンプスのあまり革を使ってブックカバーやバッグなど小物をいろいろつくっています。靴から生まれた革小物、ぜひ見てください。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
好きな色はレッドオレンジと、緑がかった青。沖縄の海みたいな色ですね。それが僕のテーマカラーです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
カラフルな革を使ったオリジナルのアイテムと、いままでにお客様からご要望の多かったトートバッグやクラッチバッグなどのバッグ類をお持ちします。それと、事前予約なしで参加できるワークショップを予定しています。いろんな色の革を使ってカラフルなアクセサリーを作りましょう。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いては笑顔が眩しいあの方の登場ですよ。

文●秋月康

大図まこと「大図まことの飛び出せ! 青空手芸&工作教室」

「アイディア」

手紙舎 2nd STORYの雑貨店で働く私が、いつも探しているものだ。空を見上げては降ってこないか、目を向けた視線の先に落ちていないか。そんな私が、もみじ市の取材で彼に会いに行き、大切なことに気づかされた。

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クロスステッチデザイナーとして、多くの著書を持つ大図まことさん。メディアで取り上げられることも多く、人気セレクトショップとコラボした作品も数多く手がけています。大図さんは今年の春、若手のクリエイターが集まる「台東デザイナーズビレッジ」から、物作りの街として知られる浅草に事務所を移しました。新しい事務所の窓から見えるのは、自立式鉄塔として世界一の高さを誇る東京スカイツリー。部屋の中には、所狭しと並べられた“カラフル”な作品たち。オブジェ、時計、アクセサリー、陶器…そこを何かに例えるなら「おもちゃ箱」だ。手に取りたくなる、いつまでも見ていたい、触れていたい、そんな好奇心をくすぶられる作品の数々。大図さんはそんな“刺激的な”空間で、さらなるアイディアと作品を生み出し続けている。

「クロスステッチデザイナーとして活動される前は、何をされていたんですか。服飾とかデザイン関係のお仕事ですか」

私の質問に大図さんは、ニコニコしながら答えてくれました。

「酒屋です。友人からは、それが一番似合っていたって言われるんですけどね」

思っていた答えとあまりにもかけ離れていて思わず拍子抜けしてしまった。酒屋で働いていた大図さんが、一体どういう経緯でクロスステッチの世界に進むことになったのか。

「あの頃、時間がたくさんあったんです。何かを始めたいと思っていたら、友人のカメラマンが担当した手芸の書籍をプレゼントしてくれました。その本を見ていたら、自分でもできるんじゃないか、って思ったんですよね。実際、やり始めたら楽しくって。最初は刺繍ではなくて編み物でした。ニット帽を作ったんです。自分で言うのもなんですが、なかなかの出来でしたよ。それから、編み物以外の手芸を試すようになりました。その中で、自分がいちばん夢中になれたのがクロスステッチだったんです」

大図さんが、各方面で注目されるようになったのはひょんなことから。

「手芸を始めた頃、ブログブームだったんです。自分のブログに作品をアップしていたら、男性なのに手芸!? と評判になり、イベントの主催者や出版者の方から声をかけてもらうようになりました」

人生何が起こるかわかならない。「行動」と「タイミング」がちょうど交差した時、自分でも想像していなかった“何か”が訪れる。手芸界のルーキーは、こんな風にしてチャンスをつかみ取ったのだ。

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「自分が好きなものを作品にしています。ゲームのキャラクター、昆虫、名画…」

大図さんの作品は、一般的には手芸で描かれることがないものばかりだ。とはいえ、斬新なモチーフということではない。見たことのある、馴染みのあるものをクロスステッチという手法で描くことで、新しい表現を私たちに見せてくれる。それがとても面白い。

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「今、いろんなことに興味があるんです。趣味でドット絵を書いていたので、そういうものも作品に生かしています」

大図さんの表現は今や、クロスステッチだけにとどまらない。大図さんが描いたドット絵が陶器になったり、アクセサリーになったり…。

「アイディアを出すのは得意だと思います。何かを考える時にベースとなるのは、やっぱりクロスステッチですが、応用すれば違う形になっていく。展示会やイベントで出会った人に『こういう作品を作りたいんです』と相談したり、クロスステッチではない、別のものを作っている方の話を聞いたり、見にいったりしています。そうすることでまた新しいアイディアと作品が生まれるんです」

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さて、もみじ市では毎回大人気の大図さんのワークショップ。今回はなんと、2つのワークショップを行ってくれる予定。まずは2年前に開催されたもみじ市で大好評だった、水にも衝撃にも弱い、毛糸の腕時計「Knit-SHOCK!!」作り。

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もうひとつは、「パンチドットのカラフルキーホルダー」作り。針を使わず、簡単にクロスステッチが表現できる新たな工作だ。

「事務用パンチで穴を開けたときにできる丸い紙を使って、あらゆるモチーフを表現するんです。図案も約50種類考えました!」

子供はもちろん、手芸が苦手という人も楽しめるワークショップ。大図さんの「アイディア」は、作品だけでなくワークショップにも変化をもたらしている。

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冒頭で書いたように、大図さんは今たくさんの仕事をかかえている。自身の書籍の出版準備や、雑誌で掲載する制作物、そしてもみじ市の準備…めまぐるしい毎日を送っているはずなのに、その表情はとても生き生きとしている。

ものづくりをとびっきり楽しむこと。
型にはまらないこと。
自分の“好き”を信じること。

「アイディア」が溢れる場所は、自分の内側にこそあるのだ。


大図まこと「大図まことの飛び出せ! 青空手芸&工作教室」概要

<刺しゅうで作る毛糸の腕時計「Knit-SHOCK!!」を作ろう!>
開催日時:
① 10月19日(土)13:00〜15:00
定員に達しましたので、受付を締め切らせていただきました。お申し込みありがとうございました。
② 10月20日(日)13:00〜15:00
定員に達しましたので、受付を締め切らせていただきました。お申し込みありがとうございました。
参加費:2500円(当日のお支払い)
定員:各回10名(事前お申し込み制)
お申し込み方法:件名を「大図まことワークショップ申し込み」とし、ご希望の日時、人数、お名前、お電話番号、メールアドレスを明記の上、【workshop01@momijiichi.com】へメールでご連絡ください。
お申し込み開始日:定員に達しましたので、受付を締め切らせていただきました。お申し込みありがとうございました。

<事務用パンチを使ってカラフルキーホルダーを作ろう!>
10月19日(土)12:00〜15:00
10月20日(日)12:00〜15:00
参加費:200円(当日のお支払い)
お申し込み方法:事前のお申し込みなしでご参加いただけます。

【大図まことさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
こんにちは、クロスステッチデザイナーの大図まことです。今回でもみじ市は4回目の参加になると思います。「フジロック」のオファーを待つミュージシャンのように10月の週末は、毎年この日のためにスケジュールを空けています。去年は、開催がなかった分、今年は倍返しだ! 会場でお会い出来ることを楽しみにしています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
緑色です。単純に好きだからです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
事務用パンチを使った楽しい工作「パンチドット」と、恒例の刺繍で作る腕時計「Knit-SHOCK!!」のワークショップを行います。

物販では、刺繍グッズのほかに2年前からスタートした陶磁器ブランド「The Porcelains」の商品も販売します。どちらもPOPでカラフルな仕上がりになっているので、ぜひお立ち寄りください。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いてご紹介するのは、ステージイベント。あの3人組がステージに登場です!

文●新居鮎美

黒澤洋行「ハチのマークの革製品KUROSAWA」

一匹のハチが、そっとバッグにとまっている。立体的にふくれあがった胴体に、つやっとした羽根。まるで本物のハチのよう。

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鹿革の糸で丁寧に刺繍されたハチのマーク。それが、黒澤洋行さんの作品の目印です。黒澤さんが革の世界に入ったきっかけは、自分のオートバイのシートを直したことが始まりでした。「どうやって作っているんだろう」と革の奥深さにどんどん興味が湧いたそう。その後、革製品を制作する会社に13年間勤務し、2008年に独立。東京から千葉に工房を移して現在3年目。工房の大きな窓から見える、緑が豊かな景色が好きだそうです。

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糸を通す穴を一つずつ開け、一針一針、すべて手作業。牛や山羊、羊、鹿などの革を使い分け、バッグやお財布、ポーチ、ふでばこ、ベビーシューズなどを制作しています。

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中でもベビーシューズは、黒澤さんの人気作品のひとつ。きれいな色に染められた革を使って、さまざまな作品を制作しています。水玉柄や魚の群れ、ひまわり、白くま、うま、うさぎ、白鳥、ねこ、ちょうちょう。その色使いと、愛らしい表情といったら…。

黒澤さんが初めて作った作品は、家族のためのものでした。ベビーシューズも、娘さんのために作ったのがきっかけ。娘さんも喜んでくれて、周囲の評判も良かったことから定番商品になりました。保育園に通う息子さんの手には、白くまがついた革のバッグ。身近な人のために作る、それはものづくりの原点かもしれません。

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7歳になる娘さんが小さい頃に履いていたベビーシューズを見せてもらいました。お花にハチがとまったベビーシューズは、しっかりと履き込まれ、革独特の使用感がありました。革だからこその味わい。小さな傷や手あかなどもすべて溶け込んで、時間が作り上げた、趣のある佇まい。大きくなった娘さんがこれを見たときに、きっと宝物を見つけたような気持ちになるのではないでしょうか。

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ハチのついたバッグの裏にはてんとう虫がいたり、ポーチを開けると白鳥の顔が出てきたり、ポーチの先端から象の鼻が出ていたり。黒澤さんの作品にはあちこちに楽しい仕掛けがあります。いつもニコニコ、笑顔で話してくれる黒澤さんの人柄が、そこには表れているよう。

「できるだけ直接お客さまに会ってお話したいんです」

私が初めて黒澤さんにお会いしたのは、あるクラフトイベントでした。作品がずらっと並ぶ中、黒澤さんが、穏やかに、ニコニコした表情で座っていたのをよくおぼえています。作品のことを聞くと、とても丁寧に教えてくださいました。

黒澤さんの作品は、どこでも手に入るものではありません。個展やイベントで直接見て購入できますが、基本的には受注生産。そんな黒澤さんが、今年のもみじ市に初出店し、たくさんの作品を持ってきてくれます。

使うほどに馴染んでいく風合いと柔らかさ、優しくあたたかい肌触り、しっかりとした厚み、匂い。私たちにとって、革のバッグやお財布は、ちょっと特別なもの。大切に味わいたい革のものを探しに、緑が広がる河川敷にある、黒澤さんのお店にぜひいらしてください。きっと黒澤さんは、いつものように、笑顔でみなさんを迎えてくれるはずです。 

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【黒澤洋行さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
ハチのマークが目印の革製品を作っています。黒澤と申します。今年初めてもみじ市に参加させていただきます。千葉県茂原市に3年前に引っ越し、緑に囲まれた自宅兼工房で制作に取り組んでいます。

ハチはひとつ、ひとつ、手で刺繍していますのでそれぞれに表情があります。バッグにとまっていそうなミツバチです。もみじ市当日、是非ハチを手にとって見ていただけたら嬉しいです。多摩川河川敷でみなさんにお会いできるのを楽しみにしています。宜しくお願い致します。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
自分を色にたとえたことがなかったので難しいですが、選ぶとしたら黄色です。元気になる色だと思うからです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
ベビーシューズにバッグ、小物類などです。様々な色、柄のベビーシューズがとてもカラフルだと思います。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いて紹介は、あの王子の登場です!

文●鈴木静華

こばやしゆう「陶」

私たちはなんて、いろいろな物事に“とらわれて”生きているのだろう。

髪を二つに編みこんで、土の色をした膝上丈のワンピースを身にまとい、とびっきりの笑顔で迎えてくれたゆうさんを見たとき、私はそう思った。

それから両手にたくさんの荷物を持ってきてしまったことを少し後悔していた。たった数時間しかここにいないのに。

ゆうさんの家からまっすぐ松の木立の方へ向かうと100歩程でもう海だ。ゆうさんが松の木立へ登る前にサンダルを脱いだから、私もまるでゆうさんのおうちに来たみたいな気分でサンダルを脱ぎ、裸足になった。胸がどきどきしていた。それからまた少し歩いていくと、そこには大きく広くパーっと拓ける風景があった。

海だ。ここがゆうさんの海だ。

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ゆうさんは、私よりずっと先に行って、白い砂浜のうえで自由だった。「なかなか裸足になることないでしょ?」そう言いながら、ちくちくと草の生えた砂の上の歩き方を教えてくれる。

波の音が心地よく耳に届く松の木の下で、私たちはいろいろなお話をした。

早朝に起きて、朝焼けを眺め、コーヒーを飲み、レーズンを何粒かかじる。そうして創作をし、海で4km泳いで、暗くなるまで浜辺で本を読み、よるごはんを食べて、浜辺にテントを張って眠る。ゆうさんは時計を持たないけど、困ることはないと言う。

「人が居る場所なら人に聞けばいい。人が居ない場所なら太陽が教えてくれるでしょ。」

それがゆうさんの暮らし。

ゆうさんは浜辺に手作りのおやつを持ってきてくれた。クッキーみたいだけど、もっと分厚くて、かたくて、ごつごつしていて、ゴマが入っている。これは一体なんだろう? 一口かじる。今までに食べたことの無い味がした。

「何だとおもう? 六種類のものが入っているよ」 

咀嚼してまた考えてみたけど、それが何だかさっぱりわからなかった。

「塩のビスケット」

ゆうさんは教えてくれた。それを聞いたあとも、私は何がどの味なんだかよくわからなかった。

ゆうさんの作った陶器でお茶を飲んだ。その陶器をそっと両手で包み込めば、作ったゆうさんの手の温もりまでも感じられて、口に当たる感じも滑らかで、とってもやさしくて、冷たいお茶の美味しさが一層際立った。

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こばやしゆうさんは、陶芸家だ。こばやしゆうさんは、絵描きだ。こばやしゆうさんは、写真を撮るし、文章も書く。こばやしゆうさんは、旅人で、こばやしゆうさんは、アスリートである。

ゆうさんはあらゆるものをそのときの自分に合った方法で表現する人だから、何をやっている人か、だなんて、一言で言い表すことができない。けれど、あえて聞いてみた。ゆうさんの職業はなんですか?

「旅芸人です」

ゆうさんはときに、地方で行われるトライアスロンなどのスポーツ競技の大会に出て(競争はだいきらいだけど)、大好きなかぶりものをして、わざと一番最後にゴールする。その他にも、ロングボードの上に立って、お茶目なポーズをとったりする。根っからの「パフォーマー」である。

それにしても、まさか作家ではなく芸人という答えが返ってくるとは。ゆうさんはやっぱりゆうさん、としか言いようがなかった。

ゆうさんのおうちにお邪魔したとき、そこらじゅうに陶のワニや紙でつくったワニ、絵本になったワニがあった。みんなごつごつしていて、強そうで、やんちゃそうで、ずる賢そうで、何をしでかすかわからないような、そんな目をしたワニ。だけど、どこかほっとけない魅力があるのがゆうさんの作るワニ。今回のもみじ市では、このワニの作品をたくさん連れてきてくれるという。

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テーブルの上には「かきごおり」という絵本があった。今年の夏に作った絵本。「それはかきごおりを食べてるときじゃないと読んじゃいけないの」とゆうさんが言ったので、残念だけどあきらめた。

だけどその後、松の木の下にゆうさんはこの絵本を持ってきてくれて、「かきごおりは無いけど、きょうは特別だよ。」と言って「おはなし会」をしてくれた。その話は、ワニと、かきごおりと、しろくまが出てきて、あまりにも不思議で、あまりにもおかしかったので、私はお腹を抱えて笑ってしまった。ゆうさんはとっても楽しそうに本を読んだ。

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そろそろお別れの時間がやってきた。帰り際、ゆうさんはおうちの前の小さなちいさな畑から何枚かバジルを摘み、「これはお土産。帰り道かじって帰ってね」と私の手のひらに四枚、そっと置いてくれた。それから「これは、とっておき。今食べてね」と言って、また別の葉っぱを一枚くれた。葉っぱをかじってみる。「甘い!」びっくりした私にゆうさんは「何だとおもう?」と聞いた。さっきのビスケットのように、やっぱり今まで食べたことの無い味がした。何度もかじって、だけど、私にはそれが何だかさっぱりわからなかった。ゆうさんは教えてくれた。

「ステビアだよ」

帰りのバスのなかで、私はたくさんの荷物が入った大きなリュックサックを両腕でぎゅっと抱えながら、ゆうさんにもらったバジルの葉っぱをちょっと齧って、ゆうさんと過ごした夢のような一日を忘れないように、忘れないように、何度も思い出して目に焼きつけた。

ゆうさんはこの日、いつからか忘れてしまったようなことや、知らなかったことをたくさん教えてくれた。それから、ゆうさんと話していると心の中がすーっと落ち着いて透き通っていく感じがした。

ゆうさんにとって海は自分をリセットできる場所なのだそう。海を眺めたり、海で泳いだりすれば、何か考え事があっても「まぁ、いっか!」と思える。ゼロに戻すことができる。海がゆうさんにとって、自分をリセットできる存在ならば、ゆうさんも、相手の心を知らないうちにリセットしてしまう、そんなパワーを持つ海のような人だった。

太陽が昇るすこしまえ、ゆうさんは目覚める。元気いっぱいに魚と海を泳ぎ、浜辺で本を読み、ごはんを食べて、眠って。そうしてまた、あたらしい太陽を迎える。

きっと、ゆうさんの暮らしに憧れるひとは多くて、だけど、それは簡単にできることじゃなくって、だからこそ、ゆうさんは母のように強くて、少女のように自由で、ゆうさんの作品にもとっても大きな「力」を感じるのだと思う。

東京・調布の多摩川河川敷の芝生のうえで、こばやしゆうさんの「作品」と、こばやしゆうさんの「感覚」に触れてみてほしい。きっと、忘れかけていたたくさんのことをふっと思い出させてくれて、「ここ」よりもっともっと遠く、輝くはるか海のむこうまで、私たちを連れて行ってくれるから。

【こばやしゆうさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
こばやしゆうと申します。形を作るのが私、あとは、土と火の力で生まれるやきものを作るのが主な生業です。ごつごつとした荒土にとても魅力を感じます。木や、鉄や、朽ちていく素材を使い、暮らしの中で使いたいものや意味不明のものを作ることも嬉しい手仕事です。絵を描くことに、至上の歓びを感じたりもします。そのとき時間は止まります。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
たぶん、色はない、です。ひそやかな望みとしては無色透明になりたい。

好きな色はあります。無彩色では、白、黒(消炭色)。あでやかな色では、古代紫、紅柄色、駱駝色、玉虫色、蜜柑色。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
作品は陶でつくった鰐です。陶の器も並びます。ゲンジツ、私の暮らしはとても地味です。淡々としています。原色の華やかさはありませんが、漆黒から群青色、藍から、曙色に染まる明けの空に毎日感動しながら朝を迎えます。私の使う絵の具のどんな色にもかないません。銅版画の2014年カレンダーもつくりました。12ヶ月の物語のように描きました。365日毎日、あなたの暮らしの友のように添いたいな、と思います。実物を見にいらしてください。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、初めての参加となる革の作家さん。ハチのマークが目印ですよ。

文●池永 萌

charan 山田亜衣「銅・真鍮雑貨」

川原を歩いていると、私にはある風景が見えてきます。それは、はじめて多摩川河川敷でもみじ市を開催した、2008年秋の朝もやのなかで見た風景です。

全国各地から訪れる、陶芸家、料理人、音楽家、アーティスト。自分の手からものを作りだしているさまざまなジャンルのみなさんが、早朝の薄明るい朝もやのなか、次々とやってきて、言葉をかけ合っています。

「おはよう!」「おはよう!」
「ついに、来たね、来ちゃったね」
「久しぶり!」「一年ぶり!」
「今日は一日よろしくお願いします」

久々に顔を合わせる仲間も、つい先日会ったばかりのメンバーも、それぞれに声をかけ合って。そうしているあいだに、霞んでいた多摩川河川敷の空気も澄んできて、明るい日差しが差し込みます。何年たってもきっと忘れられない風景です。

そして毎年、そのなかでひときわ、明るく優しい、いつもと変わらない笑顔で「おはよう!」と声をかけてくれる方がいます。「この、朝がいいよね」と言ってくれる方がいます。

第一回目のもみじ市が始まる前から、これまでずっと支えてくれて、私たちが迷ったとき、苦境に立たされたときにもいち早く駆けつけてくれて、いつもと変わらないその笑顔で「大丈夫、大丈夫」と言ってくれるような、心を奮い立たせてくれる存在です。

今回ご紹介するのは、銅・真鍮雑貨作家の山田亜衣さん。

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私たちにとって、亜衣さんは、ひとりの作家さんというだけではなく、もみじ市を一緒になって盛り上げようと考えてくれ、楽しんでくれて、そしてこれから先もお互いに刺激し合えるような友であり続けたい、と思う人。

これまで何度となく亜衣さんの笑顔に癒され、その手から生み出される作品から私たちは、元気をもらってきました。

風景を描くように形作られた、お花のかんざし、木の葉のアクセサリー。亜衣さんの作品は、自然のなかに存在する花・葉・枝・雲・月・星・人がモチーフになったものが多く登場します。そしてどの作品にも亜衣さんの繊細なデザインが施されていて、身につけると亜衣さんの明るく温かなエネルギーをもらっているような気持ちになります。

今から4年前、亜衣さんは「大きな作品を作って表現したいという気持ちもあるけれど、お客さんが使ってくれて喜んでもらえるもの、見て楽しんでもらえるものも作りたい。両方大切にしていきたい」と話してくれました。実際、個展へ足を運ぶここ数年のあいだに、大きな作品が登場する機会が増えているように感じていましたが、それ以上に“使って喜んでもらえる作品”の種類も、とても増えているような気がします。

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今年7月に訪れた個展では、天井からつりさげられてくるくると回る大きなモビールやオブジェ、ストーリーを感じる絵画のような作品など、ずっと眺めていたいと思うような作品もあれば、本のしおり、新しいデザインのブローチ、髪飾り、アクセサリーなどのこまやかな作品の新作もあり、亜衣さんの作品も亜衣さんご自身も変化し、これまでひたすらに作品と向き合い、走ってきた様子を肌で感じたのでした。

「もみじ市が昨年開催されなかったのはさみしかったですね。ここ数年もみじ市があるのがあたり前だったけれど、なくなってみると、あらためて大きな存在だったのだと感じました。けれどじっくり考える時間ができました。これまでは、自分のことはさておき……仕事に夢中になってしまう節があったのですが、昨年は、今後のことを考えながらゆっくり活動できる時間をもらえた気がします」と語る亜衣さん。

「今まではお仕事にしても何にしても、まずはやってみて、後から “さあ、どうしましょう”と考える方だったのですが、これからは今までのご縁を大切にしながら地に足をつけて活動していきたいですね」

以前は、「一度作り始めると途中の記憶がなくなる程の勢いで、誰とも話さず、何も食べずに作業することがあるんですよね」と語っていたこともある亜衣さんなので心配になる時もありましたが、今年は自分自身を少し見つめ直し、ゆっくり地に足をつけて活動をする年にしたい、と言います。

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そんな亜衣さんですが、二年ぶりのもみじ市はとても楽しみにされているとのこと。今年のテーマは「カラフル」ということでお話をうかがうと……

「ディスプレイをカラフルにしてみようかな? 銅と真鍮という素材の色をカラフルにすることは難しいけれど、バラエティにとんだ作品を準備していこうかな? どんなふうにカラフルを表現しようかな?」と悩んでいる様子。もみじ市当日はどんな作品が登場するのか、楽しみに待つことにしましょう。

いつもお客さまとお話しするのを楽しみに、もみじ市に来るという亜衣さん。私にはもうすでに、川原の光景が見えています。キラキラ輝く多摩川の河川敷のあの場所で、心地よい秋風がわたるあの場所で、たくさんのお客さまとお話されている亜衣さんの笑顔が見えています。

亜衣さんの手から生み出されるその作品は、形・温度・素材・色など様々な要素を意識しながらも複雑な工程を経て作られるものばかり。もみじ市に来られたら、ぜひ亜衣さんとお話しして、どんなふうに作られているのか、どんな思いでつくられているのか聞いてみてください。

きっと今年も亜衣さんはのどを鍛えて(!?)、たくさんのお客さまとお話をするのを楽しみにやってくるはずです。

【charan 山田亜衣さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
こんにちは。charan 山田亜衣と申します。銅・真鍮の雑貨と、真鍮アクセサリーを作っています。

charan とは、茶欒(ちゃらん)という造語です。ひとりでお茶を楽しむ時間、みんなが集まるお茶の間、団欒。銅の雑貨を飾って、そんなあたたかな空間がつくれたらいいなーと思い、2000年より製作をはじめました。よろしくお願いいたします。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
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Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
真鍮アクセサリー、雑貨の定番ものと新作を持っていきます。普段は、素材の色が茶色、黄土色。。と、カラフルな感じではありませんが、私なりにちょっと色をつかって、つくってみようと思います! 真鍮アクセサリー、雑貨の定番ものと新作を持っていきます。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてはあのお菓子のスペシャリストの登場ですよ!

文●増田千夏

845「木のもの、木の色、動くもの」

「木の色は何色?」と聞かれたら、多くの人は「茶色」と答えるのではないでしょうか。しかし、木にもさまざまな色があるという感覚を、私ははじめて覚えました。「845」さんの作品に出会って。 

「845(ハシゴ)」は、木工作家の藤本雄策さんとイラストレーターの平田茉衣さんによる制作ユニット。木や真鍮、紙など、「変化を愉しめる素材」を利用して、さまざまな作品を制作しています。おふたりがユニットを組んだのは大学時代。「互いに制作の相談を持ちかけアイディアを出しあう関係が自然と今まで続いているのかもしれない」と話します。木を加工するという工程の難しさをつい意識してしまうという藤本さんの代わりに、平田さんが自由な観点からアイディアを出す。平田さんが平面に描くアイディアを藤本さんが立体に組みたてる。2人のタッグは最強のタッグなのかもしれません。

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845さんの工房には、カラフルな木端が並んでいます。パドウク、ペクイア、パープルハート。耳なじみのないこれらの単語はそれぞれ、赤、黄、紫色の木の名称です。上の写真は木屑。その美しさに、しばし時間を忘れて見入ってしまいました。紫色の木を削ると紫色の木屑が出る。当たり前と言われればそれまでかもしれませんが、魔法にかけられているような気分。ふだん私たちは、人工的に着色されたものに囲まれすぎて、素材自体が持つ色の神秘、雄弁さをすっかり忘れてしまっているのかもしれません。

藤本さんが木の“色”を意識し始めたのは大学生の頃。きっかけは、大学の先輩が作ったオブジェを見たことでした。それは一枚の花びらのような作品だったとのこと。その作品の素材として使われていたのは、真っ赤な木。もちろん、その赤は着色された色ではなく、木が本来持っている色でした。藤本さんのものづくりのきっかけともなった作品ですが、どんな作品だったのか、詳しいことは覚えていないといいます。一目見て衝撃をうけて、その瞬間からすぐさま自分の頭の中の思考に切り替わったのだとか。木にはこんな色があるのか、木の色を自分だったらどう表現するだろう、どうすればこの美しさを伝えられるんだろう。ただ色だけが、その赤い色だけが藤本さんに強い印象を残しました。 

それからは、「木の色」を強く意識するようになった藤本さん。木そのものの魅力をひきだし、伝えるために、オリジナリティあふれ、見る者に強い印象をもたらす作品を生み出していきます。その作品をいくつか紹介しましょう。

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こちらは「べろ」を赤い木で表現した作品。藤本さん曰く「この作品を作ったときは、隠れた美しさ、にはまっていたんです。一目見ただけではなかなかわからない、奥に潜んだ美を表現するのに最適なモチーフを探していたら、べろになりました」とのこと。

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その次に手がけた作品がpeeping dome。造形にも勿論こだわりを持ってつくられた作品ですが、木の色の豊富さを伝えたくて、あえてさまざまな色味の木を使いました。周囲の評価は、「今にも動き出しそうな躍動感」「のぞき窓の中に広がる、つくりこまれた世界が良い」「造形が美しい」と、素晴らしいものでしたが、木の色の豊かさを伝えようと作った藤本さんからすれば、正直本意ではなかったのだとか。 

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そんな中出会ったモチーフが、いまや代表作ともなったバナナ。ペクイアと呼ばれる黄色の木を使ったこの作品は、ともすれば、本物のバナナよりも表情豊かに佇んでいるように見えます。時を経て変化する木の色は、そのまま果物の成熟を表すかのよう。熟した証の黒い斑点=シュガースポットまでも表現されています。はじめてこの作品を見たとき、私は何度も匂いをかいでしまいました。 

一切着色をせずに、木そのものの色だけでどれだけ本物に近づけられるか。バナナを制作すると決めたとき、理想の形状のバナナを探し求めて近所のスーパーに足を運び、とにかく沢山のバナナを見たのだそう。あまりにも真剣なその様子に、「今日はバナナが安いのかしら」と、他の買い物客が集まってきたこともありました、と笑う藤本さん。木が持つ色の美しさや豊かさを伝えるための、いわば象徴として作られたこの作品は、木の色の代弁者と言えるのかもしれません。その作品からは、藤本さんの、色を表現することへの執念のようなものが漂って来ます。

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こちらはリンゴ。この皮の色、艶にしばし時を忘れて見入ってしまいます。近くで見ても遠くから見ても、360℃どの角度から見ても、本物と見紛うほどの質感、存在感をもっています。果物シリーズ、次の構想はありますか、と尋ねると、「木の色で作れるものを考えると、柿・さくらんぼ・ぶどうなんかもいいですね。パイナップルもいつかやりたいです。あとはかじられたリンゴ、食べ終わりのリンゴのリアルサイズを作りたいです」とのこと。既に藤本さんの頭の中にはたくさんのターゲットがあるようです。藤本さんの話を聞いてからというもの、果物の形を見ては「これは藤本さんに美しいと認められる形をしているだろうか」と、まじまじと見つめてしまう癖がつきました。

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さて、こちらはイロイロな形をした王様とその家来たち、その名もイロイロボタンです。この作品も、もちろん着色をしていません。家来たちの服や王様のパンツ、肌の色は、木が本来持つ色なのです。では、このイロイロボタン、一体どうやって作っているのでしょう? 実はこの作品は、私が845さんを知るきっかけになった作品であり、その作り方を、ずっと知りたいと思っていたのです。そして今回の取材中、そっと正解を教えてもらうことができました。まずは、さまざまな色の木を藤本さんが貼り合わせます。木の無駄が出ないように、またある程度形の印象に変化をつけられるように、余裕を持たせたサイズにすることに注意しながら行う重要な工程です。それを板状に切りだしたものを、平田さんがイロイロな形にカットしていくのです。「決まりきった形や同じ形にはしたくない」と平田さんは言います。そう、845さんの魅力を語るうえで欠かせないもう一つの要素が「形」なのです。

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鋭い歯のワニ、赤いとさかをもったニワトリ、ちょろんとした尻尾をもったブタ。どれも、愛くるしいけれど、独特な形をしています。平田さんは言います。

「どの形も本当に手がかかるんです。象だってライオンだって、一筆書きで切れるような形にした方が作業は楽だと思うのですが、それは決して本来の形じゃない。豚の尻尾は細くてかわいいし、ワニの歯や背中はギザギザしている。工程の中でどうしても少し丸みを帯びてしまうワニの歯は、切り抜いた後にもう一度手をかけて尖らせています。ヒツジのモコモコしている部分ももっとゆるい波線にすればとても切り易くなります。でも、そうしてしまうととてもしまりの無い形に見えます」

こちらのzoo pieceもワニとニワトリ以外は、平田さんのイラストをベースに作られています。イラストの特徴、ペンで描いた個性をできる限り優先して、素材や工程と相談しながら、相当の時間をかけて作り上げられた作品です。平田さんのイラストはシンプルなラインで描かれていながら、動きを感じられるものばかり。そして、イラストの中の物語を想像したくなるものばかり。子供や動物の豊かな表情につられて、ふふっと笑みがこぼれます。それは、表現するステージが紙から木に代わっても同じことが言えます。

「優しい線とエッジの効いた線などを複合的に合わせ、雰囲気をつくりあげることを意識しています。私たちが届けたいのはこういう形なんです」 

木そのものが持つ本来の色、素材が木であることを感じさせないような自由な形。無限に広がる色と形の組み合わせを、さまざまな方法で私たちに届けてくれる845さんの作品は、どれも見るだけでは満足できません。いや、満足してもらいたくないのです。どんな触り心地なのか、手に持った時の感触や匂いを、その木の色や形を、実際に自分でさわって確かめてみてください。そして是非おふたりに話しかけてみてください。私が感じた木の色の世界の奥深さを、表情の豊かさを味わっていただけると思います。今回初出店となる845のおふたりは今から気合十分! 色で、形で、そして仕掛けで楽しんでもらいたいと、準備をしてくださっています。皆様どうぞお楽しみに。

【845さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
845です。ハシゴと読みます。木工を主にやる藤本雄策とイラストと時に木工をやる平田茉衣の二人でやっております。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
“暖色”でしょうか。木には青色のような寒色系はあまりないのです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
いろんな色の木を使って作った「カラフル」な小物やちょっと動くおもちゃのようなものをいろいろ作っていきます。見るだけじゃなくて触って遊んでたのしんでいって貰えるような場所にできたらいいなと思います。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、3組目にご紹介する出店者は、赤い自転車が目印のあのドーナツ屋さん。秋風に揚げたてのドーナツの香りを乗せて多摩川河川敷にやってきます!

文●市川史織