get well soon「自家製酵母パン、クッキー」(19日)

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このお店を訪れることをとても楽しみにしていた。2008年から、もみじ市に参加してくれているお店。いつも大人気だから、スタッフをしている僕が食べることは叶わないのだけど、「いつか食べてみたい」と思いを募らせていた。その機会がやってきたのだ。そのお店の名前は「get well soon」。「早くよくなってね」という名の、八代絵里子さんとご主人の美智彦さんが営む、パンと焼き菓子のお店だ。

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大学を卒業後、都内の天然酵母パンのお店で働いていた絵里子さん。get well soonを始めてからはずっと、そこで学んだハード系のパンを焼いていたという。しかし最近は、そのハード系のパンに加えて、柔らかめのパンも焼くようにしているそう。その理由について尋ねてみたところ、ふたつのことを教えてくれた。

「まずひとつは、子供たちにも食べやすくて、かつ、体にも安心。それらを両立できるパンを作れたら、という理由です。糖分、乳製品、卵、油分、などを入れることによって、パンはしっとりと柔らかく甘く口溶けのよいものになります。けれど、そういうものは控えめに、だけど柔らかくてしっとりしていて、酸味も少なくて、それでいて栄養もあって、というパンを作りたかったのです」

たしかに、いわゆる天然酵母のパンのイメージは、酸味があって、ハードで、その食べ応えが美味しかったりもするのだけど、苦手だと感じる人もいるだろう。絵里子さんは菜種油と玄米甘酒を使って柔らかな食感を出し、玄米甘酒を発酵させた酵母を使うことによって天然酵母特有の酸味も抑え、思い描いていたイメージに近いパンを生み出した。

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一口食べてみる。もっちりとした心地よい食感と、噛むほどにおいしさが込み上げるパンは、とても食べやすく、あっという間に平らげてしまった。パンの中に入っている素材がみんな活き活きとしているように感じる。ブルーベリーのパンはベリー特有の酸味が効いている。白砂糖、牛乳を使っていない豆乳クリームパンは、それでも十分なほど甘く、口どけはさらりと軽やかだ。とても純粋な味。“素材の味を活かす”とはこういうことなんだと納得してしまった。

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「ずっとパンを作り続けてきて、いつももっと上を目指している気がします。これがもうひとつの理由かもしれません。他のおいしいパン屋さんのパンを食べたら、どうやってこういうパンを作れるんだろうと考えたり、自分でも作ってみたくなります。どこのパン屋さんでも、いや、パン屋さんにかぎらず、きっとだれもが上を目指しているのだろうと思いますが、そういうことの延長で自然に出来てきたという感じが、一番します」

絵里子さんがget well soonという屋号でパンを焼き始めてから今年で14年が経つ。その間、ずっとパンを作り続け、新しい味に挑戦し続けているというのは、簡単なことではないと思う。

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八代夫妻には8歳と4歳のお子さんがいる。お店に着くなり、「遊ぼう! ねぇ、遊ぼう!」と元気いっぱいに声をかけてくれた。人見知りをしない、人懐っこい子どもたちの笑顔を見ていると、ご両親から愛情をたくさんもらって育ってきたのが伝わってくる。ふたりとも、ご両親がつくるget well soonのパンが大好きなのだ。

お姉ちゃんのひなたちゃんは、小学校の社会科見学の授業で、自らが班長となって、班の子たちといっしょにget well soonを訪れ、食パンの作り方を教えてもらっていた。どうしてもここがよかったのだそうだ。弟の福太くんは、取材中、おかまいなしに店頭からクッキーをつまみ食いする。「あら、まだ食べるの?」という絵里子さんの優しい声。そんなやりとりにも触れて、僕はこの家族が大好きになった。本を読んだり、ピアノを弾いたり、庭の樹の枝からぶら下がっているブランコで一緒に遊んだり、石を集めて並べてみたり。子どもたちと一緒にたくさん遊んだ。

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2011年3月、福島はあの地震に襲われた。そして、原発の事故が起きた。その問題は今もなお解決してはいない。このブログを目にする方の中には放射能の問題などに敏感な方もいらっしゃると思う。get well soonのある棚倉町も低線量の地域であり、その量も震災後に比べかなり落ち着いてきたとはいえ、「以前と同じ」とは言いきれない。食べ物を作りお客さまに提供する作り手として、絵里子さんは今の状況を隠すことなく真摯に教えてくれる。使用している食材がどこでどんな風に作られたものなのか、というところから、工房のある場所の放射線量の状態とそれに対するご自身の考えや暮らし方に至るまで。とても詳細に。その上で絵里子さんはこう話す。

「100%安心ですとは情けないことに言えないのかもしれませんが、ほんのちょっとのリスクは承知の上で、でもできるだけ安全なものを生み出せるようにできる限りの工夫をしています、というのが正直なところかなと思います。ただ、たとえ福島県に位置していたとしても、get well soonならではのパンを求めていただけるように、という思いで、事故後は特に気合いを入れて作ってきたような気がします。そういうわけで、本当に、今回お声をかけていただいて、うれしく、ありがたく思っています。」

放射能の影響についてはさまざまな考え方があると思う。目に見える科学的なデータが全てではないようにも思う。本当のところ、その影響の大小を、100%正確に言える人はいないだろう。そしてこれは、放射能にかぎらず、添加物や、農薬や化学肥料など、さまざまなものに同じことが言えるような気がする。

では、安全な食べ物とはなんなのか。その答えは人それぞれだろうけれど、僕は、信頼に足る作り手の作る食べ物なんじゃないかと思っている。そして、それはget well soonのような真摯なパン屋さんの作る食べ物なのではないだろうか。だって、ここの子たちはこんなにもまっすぐに生きることを喜んでいる。母の、get well soonのパンを食べることで、こんなにも元気に生きている。

get well soonのパンを買うか、買わないかは訪れるみなさんの自由。だけど、もし買わない方でも、何も隠し立てをしない、八代さんとぜひお話をしてみてください。ただの売買の場ではなく、作り手と“交流”ができる場が、このもみじ市なのだから。

【get well soon 八代絵里子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
福島で自家製酵母のパンなどを焼いています、get well soonです。3年前くらいから、比較的ソフトなパンを、でも砂糖不使用で作ることに力を入れてきました。ごはんのように違和感なく食べられる、でもしっかりと体と心を支えてくれる本物の食べ物を作りたいと思い、日々試行錯誤を続けています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
水色か白。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
もともと季節ごとに移り変わる素材を使ったパンやお菓子を作るのが好きなので、バラエティ豊かなラインナップに磨きをかけて、お持ちしたいと思います。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、お次にご紹介するのは、チーズのスペシャリストのあの人。ご用意してくれるのはチーズのための◯◯です。

文●藤枝大裕

マールコ「マエガミマールコ」

前髪がのびて重くなってきた。そろそろかな? そんなふうに、いつも私は「マールコ」に出かけます。

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マールコは、穏やかな日差しが差し込むマンションの一室にそっとたたずむ、代官山のちいさな美容室。お店を営むのは、店主のしょうたさん。2008年9月にオープンし、今年で6年目を迎えます。私がはじめてマールコを訪れたのは、今から2年半ほど前。冬も終わりのころで、すこしあたたかい日だったことを憶えています。

じつはマールコに出会うまでは、同じ美容室に長く通ったことがあまりなく、いろいろなお店へ足を運んでは転々としていました。もしかしたら、美容室という空間がすこし苦手だったのかもしれません。にぎやかなフロア、華やかな会話、なんだか気の休まらない感じというか…。

でも美容室で過ごす時間というのは、ちょっと大げさに聞こえるかもしれませんが、のびた髪を切ってさっぱりするということだけではなく、心を整えるひとときでもある、と思うのです。マールコに通いはじめてから、そんなふうに感じるようになりました。

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お店を訪れると、いつも変わらない笑顔で迎えてくれるしょうたさん。

「こんにちは。今日はどうしますか?」

そんな調子で始まります。茶色の椅子に深く腰をかけて、背筋をまっすぐにのばすと、とてもリラックスした気分になります。

「今回はどのぐらい髪を切ろうかな?」

「前回イメージを変えた髪の色は少しなじんできただろうか?」

「よく見ると、1カ月のあいだにずいぶん日焼けしてしまったような……?」

「この間はお互いの仕事の話をしたけれど、あれから自分は何か変わっただろうか……?」

マールコの大きな鏡の前に座ってしょうたさんとお話ししていると、ふだんは気がつかなかった自分自身に気がついたり、いつもは思い過ごしてしまうようなことをなぜかふと考えたり。不思議と自分自身と向き合い、ゆっくりと考える時間になるのです。

ときには、どんな髪型にしたいか、自分でわからなくなることもあります。そんなときは、

「似合う髪型というのは、その時の気分や表情で変わることもありますよ。持って生まれた顔つきにその髪型が似合うかどうかというよりも、その人の今の気分や、笑顔かどうか、そういったことが大きいんじゃないかな」

しょうたさんはさりげない会話をしながら雰囲気を感じとってくれて、髪の色、長さなどを、すこしずつ“今の自分”らしいと思えるイメージに近づけていってくれる。そんな自然な気遣いが、髪型だけでなく、心までそっと整えてくれるのかもしれません。

 前回のもみじ市では、ヘアアレンジをいつもと違うスタイルにしてもらえるという、「アレンジサロン 青空マールコ」をオープンしてくださったしょうたさん。 2回目 の参加となる今回は、なんと前髪をつくる専門店、その名も「マエガミマールコ」をオープンしてくださることに!

「みんな視界良好にして、世の中を明るく見渡してもらえたらいいな、って。だから、大人もこどもも前髪をつくって、もみじ市を歩いてもらいたいんです」

そう、マールコに出かけるのは、ただ前髪がのびて重くなったからだけではなく。毎日を過ごしていくなかで、見えづらくなりがちな未来のありかを確認したいからであって。そんなわけで、男性も女性も、もちろんちびっこたちもご遠慮なく!  前髪をつくって視界良好にして、もみじ市を、そしてふだんの毎日を颯爽と歩いてみませんか? しょうたさんが、うんとかわいく、かっこよくしてくれちゃいますよ。ご来店、お待ちしています!

【マールコ しょうたさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
代官山にあるプライベートサロンマールコです。今回で二度目の参加になります。よろしくお願いします!

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
白です。染まりやすいから…

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
前髪のヘアカットをします。今までにない自分を発見して下さい!演出等は考え中です。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、5組目にご紹介するのは、福島のあのパン屋さん。食べる人への想いが詰まったたくさんのパンをご用意してくれています。

文●増田千夏

monsoon donuts「赤い自転車の豆富ドーナツ屋」(20日)

群馬県前橋市。かつては栄えた県都前橋の中心地。しかし今は、全国でも有数の「シャッター商店街」となってしまったアーケード街を抜け、広瀬側を渡り、小さな交差点を左に曲がると、一軒のドーナツ屋さんが見えて来ます。目印は、店の前に置かれた赤い自転車。「monsoon donuts」がこの地に店を構えたのは、2013年7月9日のこと。私が取材に伺った、ちょうど1カ月前のことでした。

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「季節をドーナツで届けたい」という、岩田真征さん・桃さん夫妻の思いが店名に込められたmonsoon donuts。お店を開くまでの3年間は、前橋市内を中心にドーナツの移動販売をしていました。そのときの“移動販売車”こそが、いまお店の前に停まっている赤い自転車。たくさんのお客様が、赤い自転車を目指してドーナツを買いに来てくれました。

「自転車でドーナツを売りながら、いつかはお店を持つんだろうなって思っていました。焦って見つけるつもりはなかったので、移動販売をしながらなんとなく探していました。シャッターが閉まった、人通りも少ないアーケード街の独特の雰囲気が好きで、この辺りもよく来ていたんです。当初は、アーケード街の中にお店を出す予定でしたが、なかなか話が進まなくて…。そんな時にこの場所が空いていることを知り、すぐに決めました。理由はとくにないんですけど、直感で!」

取材に伺った日、アーケード街は確かに人が少なくて、軒を連ねるお店のシャッターも、ほとんどが閉まっていました。それは、アーケード街を抜けたお店の周辺も同じだったのですが、monsoon donutsにはたくさんの人が集まっていました。

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「お客さんがよく言うんですよ。『初めて来た気がしない』って。なぜでしょうね」と桃さんは笑って話します。うん、たしかに。私も初めてお店に伺ったのに、昔から通っているような、友人の家に遊びに来たような、気兼ねしない、ついつい長居してしまう心地よさ。店内の造作は、真征さんがほとんど一人で手がけたそう。使い込まれた味のあるテーブルやソファー、ドーナツに関連した本、異国を感じさせるオブジェなど、自分たちの「好き」をぎゅうぎゅうに詰め込めんだ店内は、確かに「ほっ」と落ち着ける空間です。けれど、これだけが初めて来た気がしない理由? それだけではないような…。あ! 桃さんの話を聞きながら、店内を見渡しながら、はたと気づきました。それは、真征さん・桃さん夫妻と、お手伝いのチャイさんの存在です。三人が何気なく作り出している温かい空気感がたまらなくいいのです。

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「私、ドーナツが好きなんですよね。片手で食べられる気軽さとか、見た目のかわいさとか。それなのに私、乳製品が得意ではないんです。豆富ドーナツが生まれたきっかけは、そういう理由からです。せっかく作るのなら、自分でもたくさん食べたい。だから、体の負担にならない、どこにもないようなドーナツを作りたいって。けれど、目新しいものが作りたかったわけではなくて、あくまでもスタンダードなもの。食べたときに『懐かしいなー』って思ってもらえる、素朴な味にしたかったんです」

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桃さんが作るドーナツには、昔ながらの製法で作られた豆富(群馬近郊の大豆で作られたもの)が使われています。ほかにも、無農薬栽培を続ける「秋山農園」から仕入れる石臼挽きの地粉、ナッツやスパイスはなるべく有機栽培のものを選ぶなど、素材選びに抜かりがありません。

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油はというと、栄養分がたっぷりの米ぬか油を使っています。確かな食感と理想的なボリュームのドーナツに仕上げるために、独自の揚げ方と温度調整を行っているそう。

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店内に、ドーナツのいい香りが広がって来ました。

「せっかくなので、出来たてをどうぞ」

桃さんの笑顔と一緒に出てきたのは、定番のプレーンドーナツ。どこにもない、だけれどスタンダードなドーナツです。

「美味しい!」

ありきたりな言葉だけれど、第一声はそれでした。これまで食べて来たどのドーナツにもあてはまらない、初めての食感と風味。むっちりとした程よい弾力感と、ひとくち、ふたくちと食べ進めるうちに口中に広がっていく大豆の香ばしさ。「懐かしいなー」と感じさせる、いい意味で素朴に満ちあふれた味。甘さは控えめなのに、十二分に感じられる満足感。気づけば、満面の笑みでドーナツを頬張っていました。

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「あの、ほかのドーナツもいいですか?」。

取材中にもかかわらず、私は、ココア、黒ごまきなこ、麦チョコと3個のドーナツを追加で注文していました。左手にドーナツ、右手にペン、口元は、話をしているのか、それとも食べているのか。3個、2個、1個、お皿にのったドーナツは、取材が終わる頃には0個になっていました。「全部食べちゃいましたね」と桃さん。そう、桃さんには言わなかったけれど、私、甘いものが得意というわけではないんです。一度に4個のドーナツを食べたのは、実は人生で初めて。それくらい、monsoon donutsのドーナツに魅せられていました。 

かつては賑わった前橋市の中心街。しかし今となっては寂れてしまったこの地に、しっかりと根を張って新たな一歩を踏み出したmonsoon donuts。そこには、桃さんの「自信」のようなものが見えて来ます。一軒のお店が街を変える。私たち手紙社がこれまでにいくつかの地方の街で見て来た物語が、この街でも始まるのかもしれない。海外の路地裏にありそうなレンガ造りのかわいいお店を見ていると、そんなゾクゾクとした予感のようなものが、私の脳裏をよぎりました。 

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さて、レンガ造りのお店の前に停まっている赤い自転車。今となってはお店の飾りに…なっているわけではありませんよ! monsoon donutsのおいしいドーナツを待っているみなさんの元へ、赤い自転車は颯爽と出動します。もみじ市の当日は、ドーナツはもちろんのこと、とっておきのコーヒー、オリジナルのマグカップなど、自分たちの「好き」をぎゅうぎゅうに詰めこんで、多摩川河川敷にやって来ます。

秋風に乗ってドーナツの香りがして来たら、monsoon donutsの赤い自転車が、ほら、すぐそこまで来ています。

【monsoon donutsさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
群馬県前橋市で豆富ドーナツを販売しています。もみじ市にも、卵、乳製品を使わない、体に優しいドーナツを持っていきます。もみじ市限定のドーナツも作れたらと思っているので、楽しみにしていてください。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
赤です。monsoon donutsの自転車の色が赤なので、きっとみなさんも赤をイメージしてくれているのではないでしょうか。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
ドーナツの色と言えば茶色がベースになるのですが、当日はカラフルなドーナツもご用意できればと思っています。どんなドーナツになるのかは、当日までのお楽しみです。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

お次にご紹介するのは、チョキチョキチョキ・・・。河川敷では聞きなれない音が聞こえてきます。4組目は、ハサミを使って髪も心も晴れやかにしてくれるあの方です。

文●新居鮎美

845「木のもの、木の色、動くもの」

「木の色は何色?」と聞かれたら、多くの人は「茶色」と答えるのではないでしょうか。しかし、木にもさまざまな色があるという感覚を、私ははじめて覚えました。「845」さんの作品に出会って。 

「845(ハシゴ)」は、木工作家の藤本雄策さんとイラストレーターの平田茉衣さんによる制作ユニット。木や真鍮、紙など、「変化を愉しめる素材」を利用して、さまざまな作品を制作しています。おふたりがユニットを組んだのは大学時代。「互いに制作の相談を持ちかけアイディアを出しあう関係が自然と今まで続いているのかもしれない」と話します。木を加工するという工程の難しさをつい意識してしまうという藤本さんの代わりに、平田さんが自由な観点からアイディアを出す。平田さんが平面に描くアイディアを藤本さんが立体に組みたてる。2人のタッグは最強のタッグなのかもしれません。

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845さんの工房には、カラフルな木端が並んでいます。パドウク、ペクイア、パープルハート。耳なじみのないこれらの単語はそれぞれ、赤、黄、紫色の木の名称です。上の写真は木屑。その美しさに、しばし時間を忘れて見入ってしまいました。紫色の木を削ると紫色の木屑が出る。当たり前と言われればそれまでかもしれませんが、魔法にかけられているような気分。ふだん私たちは、人工的に着色されたものに囲まれすぎて、素材自体が持つ色の神秘、雄弁さをすっかり忘れてしまっているのかもしれません。

藤本さんが木の“色”を意識し始めたのは大学生の頃。きっかけは、大学の先輩が作ったオブジェを見たことでした。それは一枚の花びらのような作品だったとのこと。その作品の素材として使われていたのは、真っ赤な木。もちろん、その赤は着色された色ではなく、木が本来持っている色でした。藤本さんのものづくりのきっかけともなった作品ですが、どんな作品だったのか、詳しいことは覚えていないといいます。一目見て衝撃をうけて、その瞬間からすぐさま自分の頭の中の思考に切り替わったのだとか。木にはこんな色があるのか、木の色を自分だったらどう表現するだろう、どうすればこの美しさを伝えられるんだろう。ただ色だけが、その赤い色だけが藤本さんに強い印象を残しました。 

それからは、「木の色」を強く意識するようになった藤本さん。木そのものの魅力をひきだし、伝えるために、オリジナリティあふれ、見る者に強い印象をもたらす作品を生み出していきます。その作品をいくつか紹介しましょう。

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こちらは「べろ」を赤い木で表現した作品。藤本さん曰く「この作品を作ったときは、隠れた美しさ、にはまっていたんです。一目見ただけではなかなかわからない、奥に潜んだ美を表現するのに最適なモチーフを探していたら、べろになりました」とのこと。

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その次に手がけた作品がpeeping dome。造形にも勿論こだわりを持ってつくられた作品ですが、木の色の豊富さを伝えたくて、あえてさまざまな色味の木を使いました。周囲の評価は、「今にも動き出しそうな躍動感」「のぞき窓の中に広がる、つくりこまれた世界が良い」「造形が美しい」と、素晴らしいものでしたが、木の色の豊かさを伝えようと作った藤本さんからすれば、正直本意ではなかったのだとか。 

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そんな中出会ったモチーフが、いまや代表作ともなったバナナ。ペクイアと呼ばれる黄色の木を使ったこの作品は、ともすれば、本物のバナナよりも表情豊かに佇んでいるように見えます。時を経て変化する木の色は、そのまま果物の成熟を表すかのよう。熟した証の黒い斑点=シュガースポットまでも表現されています。はじめてこの作品を見たとき、私は何度も匂いをかいでしまいました。 

一切着色をせずに、木そのものの色だけでどれだけ本物に近づけられるか。バナナを制作すると決めたとき、理想の形状のバナナを探し求めて近所のスーパーに足を運び、とにかく沢山のバナナを見たのだそう。あまりにも真剣なその様子に、「今日はバナナが安いのかしら」と、他の買い物客が集まってきたこともありました、と笑う藤本さん。木が持つ色の美しさや豊かさを伝えるための、いわば象徴として作られたこの作品は、木の色の代弁者と言えるのかもしれません。その作品からは、藤本さんの、色を表現することへの執念のようなものが漂って来ます。

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こちらはリンゴ。この皮の色、艶にしばし時を忘れて見入ってしまいます。近くで見ても遠くから見ても、360℃どの角度から見ても、本物と見紛うほどの質感、存在感をもっています。果物シリーズ、次の構想はありますか、と尋ねると、「木の色で作れるものを考えると、柿・さくらんぼ・ぶどうなんかもいいですね。パイナップルもいつかやりたいです。あとはかじられたリンゴ、食べ終わりのリンゴのリアルサイズを作りたいです」とのこと。既に藤本さんの頭の中にはたくさんのターゲットがあるようです。藤本さんの話を聞いてからというもの、果物の形を見ては「これは藤本さんに美しいと認められる形をしているだろうか」と、まじまじと見つめてしまう癖がつきました。

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さて、こちらはイロイロな形をした王様とその家来たち、その名もイロイロボタンです。この作品も、もちろん着色をしていません。家来たちの服や王様のパンツ、肌の色は、木が本来持つ色なのです。では、このイロイロボタン、一体どうやって作っているのでしょう? 実はこの作品は、私が845さんを知るきっかけになった作品であり、その作り方を、ずっと知りたいと思っていたのです。そして今回の取材中、そっと正解を教えてもらうことができました。まずは、さまざまな色の木を藤本さんが貼り合わせます。木の無駄が出ないように、またある程度形の印象に変化をつけられるように、余裕を持たせたサイズにすることに注意しながら行う重要な工程です。それを板状に切りだしたものを、平田さんがイロイロな形にカットしていくのです。「決まりきった形や同じ形にはしたくない」と平田さんは言います。そう、845さんの魅力を語るうえで欠かせないもう一つの要素が「形」なのです。

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鋭い歯のワニ、赤いとさかをもったニワトリ、ちょろんとした尻尾をもったブタ。どれも、愛くるしいけれど、独特な形をしています。平田さんは言います。

「どの形も本当に手がかかるんです。象だってライオンだって、一筆書きで切れるような形にした方が作業は楽だと思うのですが、それは決して本来の形じゃない。豚の尻尾は細くてかわいいし、ワニの歯や背中はギザギザしている。工程の中でどうしても少し丸みを帯びてしまうワニの歯は、切り抜いた後にもう一度手をかけて尖らせています。ヒツジのモコモコしている部分ももっとゆるい波線にすればとても切り易くなります。でも、そうしてしまうととてもしまりの無い形に見えます」

こちらのzoo pieceもワニとニワトリ以外は、平田さんのイラストをベースに作られています。イラストの特徴、ペンで描いた個性をできる限り優先して、素材や工程と相談しながら、相当の時間をかけて作り上げられた作品です。平田さんのイラストはシンプルなラインで描かれていながら、動きを感じられるものばかり。そして、イラストの中の物語を想像したくなるものばかり。子供や動物の豊かな表情につられて、ふふっと笑みがこぼれます。それは、表現するステージが紙から木に代わっても同じことが言えます。

「優しい線とエッジの効いた線などを複合的に合わせ、雰囲気をつくりあげることを意識しています。私たちが届けたいのはこういう形なんです」 

木そのものが持つ本来の色、素材が木であることを感じさせないような自由な形。無限に広がる色と形の組み合わせを、さまざまな方法で私たちに届けてくれる845さんの作品は、どれも見るだけでは満足できません。いや、満足してもらいたくないのです。どんな触り心地なのか、手に持った時の感触や匂いを、その木の色や形を、実際に自分でさわって確かめてみてください。そして是非おふたりに話しかけてみてください。私が感じた木の色の世界の奥深さを、表情の豊かさを味わっていただけると思います。今回初出店となる845のおふたりは今から気合十分! 色で、形で、そして仕掛けで楽しんでもらいたいと、準備をしてくださっています。皆様どうぞお楽しみに。

【845さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
845です。ハシゴと読みます。木工を主にやる藤本雄策とイラストと時に木工をやる平田茉衣の二人でやっております。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
“暖色”でしょうか。木には青色のような寒色系はあまりないのです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
いろんな色の木を使って作った「カラフル」な小物やちょっと動くおもちゃのようなものをいろいろ作っていきます。見るだけじゃなくて触って遊んでたのしんでいって貰えるような場所にできたらいいなと思います。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、3組目にご紹介する出店者は、赤い自転車が目印のあのドーナツ屋さん。秋風に揚げたてのドーナツの香りを乗せて多摩川河川敷にやってきます!

文●市川史織

小谷田 潤「フジカラー+陶器」

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「もみじ市はすごい人たちが集まるし、そんな中で中途半端なものを出すのは恥ずかしいから」

そう言って、“彼”は今回もまた、2年ぶりのもみじ市のために万全の準備を進めてくれていた。訪れた工房の壁には、今回のもみじ市で初めてコラボレーションをする作り手の作品が貼られている。作品を眺めながら、日々イメージを膨らませているそうだ。“彼”とは陶芸家の小谷田潤さん。2006年に行った第1回もみじ市のときから参加し続けてくれる、もみじ市の歴史を知る、いや、もみじ市の歴史そのものと言っても良い作り手の一人だ。

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自らの作品を発表するのはもちろんのこと、全く異なるジャンルの作り手さんとコラボレーションした作品を発表する…、もみじ市では恒例となった小谷田さんの“チャレンジ”である。今回もそのチャレンジのために早い段階からコラボレーションする作り手と打ち合わせを重ね、試行錯誤を重ねてくれていた。僕が知るだけでも、打ち合わせの数はすでに3回。真摯に、じっくりと対峙する“ふたり”の横に同席させてもらい、その“通り名”に偽りはないな、と思った。常に新人のように、熱い思いを持ってものづくりに臨む彼のことを、僕らは深い敬意を込めてこう呼ぶ。「情熱の陶芸家・小谷田潤」と。

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小谷田さんの情熱は作品にだけ注がれるものではない。いつも周りに気を配り、投げかける真っ直ぐな言葉は、それを聞く者にも熱い何かを与えてくれる。僕自身、小谷田さんの言葉に勇気をもらったことは一度や二度ではない。今年の1月、とあるギャラリーで行われた個展に足を運んだときのことだ。

「大変だろうけど、頑張って。俺も大変なんだけど、受けた仕事は絶対やり遂げるから」

帰り際に、小谷田さんがこんな言葉をくれた。その時、小谷田さんは僕達のお店で使う器を一揃い、製作してくれていた。僕はといえば、1カ月後に控えた、初めて企画するイベントを前に、少し弱気になっていた。それを見透かされたようにかけてくれたその言葉は、僕の心にしっかりと火を灯してくれた。

もみじ市の全てを僕は知らない。けれど、小谷田さんの情熱にこのイベントが救われたことが今までに何度もあったということは、よく聞かされる話だ。1月の早稲田での展示の帰り道、こういうことなんだな、と理解出来たような気がした。だから僕は、今回のもみじ市で、この人の担当をしたいと立候補をした。誠意を込めて向き合い、精一杯の言葉で紹介をさせてもらう機会が欲しかった。この作り手の素晴らしさを僕の言葉でみんなに届けたいと思った。

そんな想いを胸に抱き、工房を訪れた。そこには、もみじ市のためのいくつもの試作品が焼き上げられていた。小谷田さんの器といえば、ざらりとした表面の黒い器や、アイボリーがかった白い器をイメージされる方も多いのではないだろうか。しかし、展示の度に新しい挑戦を繰り返し、最近では、そこに深い群青色の器や、爽やかな空色の器も加わっている。以前に比べカラフルなラインナップになっているが…。もちろん小谷田潤、今回はそれだけでは終わらない。なにせ、今年のもみじ市のテーマそのものが「カラフル」なのだ。

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上の写真を見て欲しい。ぼくは正直、想像を裏切られた(良い意味で)。青の器はまだしも、黄色い器。小谷田潤の黄色い器! この美しさを写真で伝えるのはちょっと難しい。いままで出会ったことのない美しい黄色。

陶磁器の色は、ベースになる透明なうわぐすりに金属成分を加える割合と、窯の炎との化学反応によって左右される。 焼き上がり、窯から出した時に初めて色が顔を出す。制作の段階では出来上がりの色をみることはできない。もちろん後から色を重ねることも。

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「基本的に絵の具とは違うから、焼いてみるまで出来上がりの色はわからない。焼くと、見たことのない色が出たりする。やってみて少しずつ好きな色に近づけていく。土が変われば色も変わるし、同じ色でもその時に出る色は微妙に違うから難しいんだけど。でも、そういうところがいいのかな」

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担当となり小谷田さんと接していくなかで、気づいたことがある。ストイックなまでの創作に対する真摯な姿勢、そして周囲の人達に対しての深い優しさとは別に、少年のような遊び心も彼の魅力のようだ。今回のもみじ市では作家1人1人を訪ねてメッセージの動画撮影をしている。この撮影の際にも乗りよく遊んでくれた。その様子を見て、情熱や優しさに加えて、この遊び心も一緒に“材料”として作り上げるのが、小谷田さんの器なのだと思った。ぽってりと丸みのある形も、優しい色合いも、毎日の中で繰り返し使いたくなるような気さくな佇まいも、この人のそんな人柄の現れだろう。

2年ぶりに、小谷田潤が多摩川に帰って来る。それは、2年ぶりに、もみじ市が多摩川に帰って来ることを意味している。小谷田潤の新たなる物語と、もみじ市の新たなる物語の幕開けを、あなたの目でしっかりと焼き付けて欲しい。

改めてご紹介しよう。2013年もみじ市のトップバッターを飾る作り手は、この方。情熱の陶芸家・小谷田潤さんです!

【小谷田 潤さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
こやたです。毎日使う器を作っています。たくさんの人の生活になじんでいけばうれしいです。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
群青色です。地味だけど、ちょっと目立ちたいのかもしれません。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
文字通りカラフルな作品を用意します。普段作っているものに加え、色のバリエーションを増やし、少しにぎやかな感じに整列させたいと思います。
あの人とコラボもします。もみじ市でしか作れないあたらしいものを持って行きます。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてのご紹介は今回が初参加!「カラフル」というテーマにぴったりの木工ユニットです。

文●藤枝大裕

「もみじ市2013」公式サイトオープン!

大変長らくお待たせしました。2年ぶりの開催となる、そして今回で9回目の開催となる「もみじ市2013」の公式サイトがオープンいたしました! 今年のテーマは「カラフル」。メインビジュアルとなるイラストを描いてくれたのは、tupera tuperaのおふたり。(WEB上では、切り取られた一部分しかお披露目出来ないのが残念。ビジュアルの全容は今月下旬に配布予定のもみじ市ポスターで確認できますので、こちらをお楽しみに!)。アートディレクションをお願いしたのはatmosphere ltd. 川村哲司さんです。どうです、素敵でしょう?

これから、こちらの公式ブログで、もみじ市2013の出店者さんをどんどんご紹介していきます。ここで、公式ブログをより楽しんでいただくためのポイントを、2つご紹介します。

1. ブログの原稿について
もみじ市2013の実行委員会事務局の有志メンバーは20人。ふだんはそれぞれ別の仕事をしている20人のメンバーが、北は北海道、南は高知県まで、自分が担当する出店者さんを直接訪ね、取材をし、ブログの原稿を書いています。一組一組の作り手と膝を突き合わせ、目と目を見つめ合い、お話を伺い、溢れ出した想いを書き綴った原稿とその情熱を、ぜひとも受け止めていただけたら嬉しいです。

2. カラフル人とお面
tupera tuperaさんが今回描いてくれたメインビジュアルには、「カラフル人(じん)」がいっぱい! さまざまな“カラー”を持つもみじ市の作り手を象徴するものとして描いてくれくれました。そして、カラフル人のほかにもうひとつ、tupera tuperaのおふたりが提案してくれたキーワードが「お面」。もみじ市当日、カラフルなお面をつけたカラフル人がたくさん河川敷に現れたら楽しいと思いませんか! そんなわけで今回、出店者のみなさまにもカラフルなお面を作ってもらいましたよ。出店者紹介ブログの最後に、出店者さんからみなさまに動画メッセージをいただいているのですが、そのなかで、出店者さんが作ってくれたお面が登場しますので、どうぞお見逃しなく!

それではみなさま、もみじ市当日まで、どうぞよろしくお付き合い下さいね。2013年もみじ市の幕開けです!!