鈴木農園+ゼルコバ「野菜と天然酵母パン」

「そう言われるのがいちばん嬉しい!」

弾むような声に振り返ると、そこにはこちらまで暖かくなるような、素敵な笑顔があった。 

わたしがこの日訪れたのは、東京都立川市にある鈴木農園。鈴木富善さん、弓恵さんご夫婦が農薬や科学肥料を使わずに、安全で安心な野菜を育てている。太陽の光をたっぷり浴びた暖かい畑の、柔らかそうな土の上で、さまざまな種類の野菜がすくすくと育っている。「はい、どうぞ」富善さんがそう言って、採りたての人参をそのまま生で食べさせてくれた。思わず「美味しい!」と言葉が出たとき、弓恵さんが冒頭のセリフを言った。

01:人参カット

畑の土のことを説明してくれるときも、野菜のことを説明してくれるときも、鈴木農園の人々は、とてもとても優しい瞳で畑を見つめる。富善さんが畑を見つめながら言った。
「同じ日に蒔いた種でも、芽が出る時間が微妙に違うんです。土をかぶせた順番に芽を出すんです。種を蒔いてから、芽がでるまでの期間は心配ですね」

鈴木農園の野菜の種は、土をかぶせられた瞬間から、その優しい眼差しを一身に受けて、たいせつに、たいせつに、手をかけて育てられる。雑草を取るのにも、「農薬を使ってしまえば簡単」なことを、ひとつひとつ手作業で行う。だからこそ「収穫の時はほんとうに嬉しい」と言う富善さんと弓恵さんの言葉は、とても説得力があるのだ。

02:直売所全景

大切に育てられ、喜びと共に収穫された野菜は鈴木農園の直売所で販売される。直売所には、「ここの野菜が大好き」という方たちがたくさんやって来て、カゴいっぱいに野菜を買ってゆく。弓恵さんは丁寧に、食べ方やお勧めの調理法を説明してくれる。遠くから買いに来る方も、1週間分を、と買って行く方も多いという。

「僕はね、いつもここの野菜だよ」
とあるお客さまが教えてくれた。その満たされた表情に、取材していた私もいろいろな野菜を食べてみたくなってしまって、その日の夜ごはん用に、何種類か野菜を抱えて帰えった。鈴木農園の野菜をいただき、納得した。これは、来週も買いに行きたい。私の家からは少し遠いけれど、“いつも”ここで買いたい、と。

03:直売所

野菜は、食べてしまうと物体としての形は残らない。それでも、食べる、ということは、体を作る、ということ。安全で安心な野菜は食べた人の中に、栄養となって残ってゆく。野菜が作られた時間、そして手間と愛情は、食べた人の「美味しい」という喜びとなって残ってゆく。素晴らしい野菜は、それを食した人の体と笑顔を作るのだ。

「こどもが美味しいって言ってくれるのはほんとうに嬉しいですね」
と笑顔の富善さんと弓恵さん。鈴木農園が育てるような、安全で安心な野菜をこどもたちに食べて欲しいと願う。富善さんと弓恵さんのような、笑顔の人が育てる野菜を、こどもたちに食べて欲しいと願う。

04:鈴木さんご夫妻笑顔カット 

さあみなさん、作り手の暖かい眼差しがたっぷり注がれた、鈴木農園の野菜がもみじ市にやってきます。富善さんと弓恵さんがたくさんの野菜を持って、多摩川河川敷にやって来ます。自らの手で野菜を育てる人が、自らの手で野菜を販売するということ。それをいただくということ。その喜びを、ぜひみなさんにも味わって欲しいと思います。

05:鈴木農園の皆様

そしてなんと、今回のもみじ市では、鈴木農園と同じ敷地内にあるパン屋さん「ゼルコバ」(ご家族が営んでいます)からもパンが届きますよ。パン好きの間では全国的に知られるゼルコバの天然酵母のパン。こちらもどうぞお見逃しなく。

06:ゼルコバ全景

07:ゼルコバ

【鈴木農園+ゼルコバ 鈴木富善さんと弓恵さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
こんにちは、立川市の鈴木農園と申します。私たちは今回のもみじ市で、お客様が安心して、そして自然と笑顔があふれるお野菜をお持ちして販売いたします。

私たちは皆さまにお会いできるのを楽しみにお待ちしております。カラフルなお野菜をたくさんお持ちしますので、どうぞよろしくお願いいたします。そして、ゼルコバのパンもお楽しみにー!!

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
ぼくは明るい色が好きなので蛍光色、ビビットなピンクです。(富善さん)

みどりです。自然に有るような濃い緑が好きです。(弓恵さん)

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
野菜自体がとてもカラフルです。今回も多くのカラフルな野菜をお持ちします! 特に人参は、オレンジだけだった色が、毎年品種が増えてきて、黄色なども加わり、とてもカラフルです!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、着物姿がよく似合うあの方です。“和”をテーマにした手作りの石鹸が並びますよ

文●鳥田千春

feltico 麻生順子「羊毛アクセサリー」

「みんな、おかえり」 

夕暮れ時になると、外に遊びに行っていた猫たちがようやく帰ってきたようだ。器用に自分で網戸を開け、家に帰ってくる猫たちに麻生さんは、母のようにやさしく声をかけ、迎え入れた。飼っている猫はぜんぶで四ひき。みんな外と中を自由に行き来し、日中は家のすぐ裏にある自然豊かな公園に遊びに行ったりして、とても自由に暮らしている。

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我が家にも猫がいるけど、まだまだ若いやんちゃ盛り。毎日私のアクセサリー箱を漁っては、なにやら目ぼしいものを見つけては、ぐちゃぐちゃに噛んで転がして遊んでいる。それを見つけるたびに怒るけれど、その数分後にはやっぱりまた、漁っている。

なかでも一番のお気に入りが、麻生さんのフェルトの花のブローチだ。どうやら、ふわふわした「小動物」に見えるらしい。ある日、うっかり箱を開けっぱなしにしていたら、少し離れたところで猫がフェルトを口にくわえて逃亡する姿を目撃。必死に追いかけたけれど、時すでに遅し。猫はフェルトを一瞬でぼろぼろにしてしまった…。悲しすぎて、麻生さんにはすぐに言えなかった。だけど、やっぱりそのフェルトの花たちをまた身につけたかった私は、申し訳ない気持ちになりながらも、麻生さんに相談した。すると、麻生さんはカラっと、どうってことないという風にこう言ってくれた。

「基本、猫が絡むように作ってあるので合格です。今度お直しするよ!」

お直しが、できるんだ。猫のいる家でフェルトを扱う難しさを誰よりも知っているからこその、とっても頼もしい言葉だった。私はほっとして、またこの花を身に付けられる喜びに心が弾んだ。それは、このフェルトの花を買った日の気持ちと、何ら変わることのない嬉しさ。むしろ、この花への愛おしさは、日ごとに増していくばかりだ。

写真2お直しをお願いしたfelticoの作品「hidamari」を初めて付けたときに撮った写真

麻生順子さんは、「feltico(フェルティコ)」という名で活動している羊毛フェルト作家。「feltico」とは、「フェルトのこども」という意味で、「ひとつひとつ時間をかけた手しごとは、想いのこもった自分の分身」というところから付けられた造語である。ひょんなことから参加したハンドメイドフェルトのワークショップをきっかけにして、2004年に作家活動を開始。国内外のギャラリーで展示やイベントに出店するほか、オーダーでブライダルのヘッドドレスを制作したり、ミュージシャンのライブ衣装として、コサージュやピアスを提供したりと、年々活躍の場を広げている。

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ピアス、髪留め、ブローチ、バッグやマフラーにいたるまで、たくさんの種類の作品を制作しており、そのすべてが“手しごと”の一点もの。羊毛を、お湯と石鹸をかけて手で圧縮しながら、何層にも何層にも重ねて、一枚のフェルトをつくり、いろいろな形に変え、作品にしていく。ゆっくり丁寧に時間をかけるため、一日に数個しか作ることができないという。

felticoの並んだ花を目の前にしたときの幸福感は、普段アクセサリーを付けることが少ない私にも、「おとめの心」があることを思い出させてくれる。どれにしようかな? どれがいちばん、私に似合うかな? 初めて身に付けるのは、特別な日にしよう! そうして私は、最初につけるその瞬間を想像するだけでつい、ほっぺがゆるんでしまう。

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9月末。秋の風が少し吹き始めた頃に、麻生さんのご自宅兼アトリエにお邪魔した。駅から歩いて間もなくすると、たくさんの緑に囲まれた公園がある。そこでは、春に桜や白木蓮の花がきれいに咲くこと、麻生さんの飼っている猫と外でばったり会っても他人のふりをされてしまうことなど、楽しそうに話してくれた。白木蓮の清楚な花は、麻生さんのもっとも好きな花で、鳥が一斉に羽ばたくときのような音をさせながら散る風景が、とても美しいそうだ。

ご自宅に入ると、アンティークの家具や扇風機、近所から採ってきたという草花に迎えられる。窓際には、まるで“標本”のようにガラスケースに保管された花のコサージュや、海で拾った海草が並んでいた。海草は、羊毛のフェルトにどことなく似ている。

「自然の形とか色って、すごいよね」

眺めていると麻生さんは、目を輝かせてひとつずつ解説してくれた。年季が入り味の出たものが好きで、毎月あちこちの骨董市に行っては気になるものを買い、コレクションする。麻生さんの「好き」で埋め尽くされた空間は、懐かしく、ちょっと不思議で、ファンタジーのにおいがする。私は、どこか異国のちいさな博物館に来たような気分になった。

麻生さんのフェルトの作品も、身近な植物などのモチーフを作品にしているけれど、色使いや雰囲気がファンタジックで、普段の何気ないTシャツにブローチを付けるだけでも、胸元のアクセントとなり、ひとつの「物語」が生まれるように感じられる。フェルトが詰まっているため、思ったよりしっかりしているけれど、羊毛だから軽くて、肌にやさしくて、繊細で儚げ。手のひらに乗せれば、まるで「生き物」のような温もりがある。

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アトリエは、“生活の真ん中”にあった。麻生さんはいつも、キッチンのすぐ横のダイニングテーブルで作業をしていて、制作の途中、ご飯の準備をしながら、とか、庭で寝ている猫を微笑ましく眺めながら、とか、日々の生活のなかで作品が生まれているという。

私は、麻生さんの家に、猫にぐちゃぐちゃにされてしまった、お気に入りの三つのアクセサリーを持って行った。それを麻生さんに手渡すと、麻生さんはニードルを取り出し、すばやくサッサッサッサとフェルトに刺して、ほんの数分で元のかたちに戻してしまった。

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「フェルトは、ボロボロになってきても、また新しいフェルトを足して分厚くして、形を整えてあげれば、長く使うことができます」

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「元気でやってるかな。楽しくやってね」。フェルトが麻生さんの手元から離れたときから、麻生さんは、我が子を想うように、「その子たち」を想う。felticoは、フェルトのこども。想いがたくさんこもった、麻生さんの、いとおしい子どもたち。

「もみじ市は、いろいろなものを作ってきて、毎年、自分の成長を見てもらう場所だと思っていて。二年間、いろんな人に出会って、できたものがいっぱいあって。その間に出会った人の数を、みんなに見せることができる場所が、もみじ市」

麻生さんはこの二年間で、どんな人と出会い、どんな色を見つけ、どんな美しい景色を見てきたのだろうか。今回は、そんな二年間の記憶や思いがぎゅっと詰まった、色とりどりの羊毛の花をたくさん持ってきてくれるという。

多摩川緑鮮やかなの芝のうえに、生まれたてのfelticoの花が咲いたら。

それは、小さなファンタジーの、はじまり、はじまり。

【feltico 麻生順子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
羊毛作家のfeltico(フェルティコ)です。ふわふわの羊毛から花や植物モチーフを中心とした1点もののアクセサリー小物を手しごとで制作しています。日常のきゅんとくるものをカタチに。温度を感じられるものづくりを目指しています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
「黄色」かな。黄色のような、温かみとクールさとPOPさを両方持った人でありたいし、そういう作品をつくっていきたいです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
秋の川原に羊毛のお花がカラフルな彩りを添えるような小春日和gardenにしたいです。わくわくとしながら作ったものが、温度となって少しでもみなさんに伝わればうれしいです。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、東京で真摯に野菜を育てるあの農家さん。すくすくと育った美味しい野菜が並びますよ!

文●池永萌

きりん屋「自家製天然酵母らっきーぱん」(20日)

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「魔女になりたいんです」

彼女はそう言った。笑いながら、でも真面目そうに。もう立派な大人なのに、小さなお子さんが生まれたばかりのお母さんなのに。彼女は本気で魔女になろうとしているような口ぶりだった。

「魔女になって、パンを通してみんなに元気を与えられたらいいなと思って。『魔女の宅急便』の主人公・キキのお母さんが、魔法の薬草で人を元気にするみたいに」

ふと店の天井を見上げると、魔女のオブジェが悠々と空を飛んでいる。部屋につり下げられたくさんのドライフラワーも、棚に飾ってある古い瓶も、そして、この場所が木々に囲まれた山の麓にあることも、すべてが怪しく思えて来た。彼女は、ほんとうは魔女なのかもしれない。

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『ごっつくて、力強くて、生命力がみなぎっている』

これが、私のきりん屋さんのパンに対する印象だった。「パン」に対する褒め言葉とは思えないかもしれない。「おいしい」「もちもちしている」「香ばしい」という感想はもちろんすべて当てはまるけれど、そんなありきたりな表現では伝わらない気がして、どれも違うと思ってしまうのだ。

初めてきりん屋のパンを口にしてから5年以上が経った。もみじ市にはこれまでに2回参加してくれている。その間じゅうずっと抱いていた疑問を解決すべく、私は三重県へと向かった。どうして、こんな「強い」パンが焼けるのか? 「生命力」の源はどこにあるのか? それを聞き出そうという意気込みと、あのパンの焼きたてが食べられるという期待に胸を踊らせながら。

その店は、山の麓の道すじにあった。茶畑のほかはあまりにも何もない道が続くため、ほんとうにこの辺りに店があるのかと心配になるころ、通り沿いにぽつりと赴きのある小屋が現れた。正直、「みんなこんなところまで、パンを買いにくるんだ」と思った。“わざわざ”行かないと、きっとそこへはたどり着かない。

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赤畠由梨枝さんに会うのは2年ぶり、前回のもみじ市以来だ。小柄でかわいらしく、ストローハットが似合い、ケラケラとよく笑う。どう見ても、あんなストイックなパンを焼くようには見えない。赤畠さんと、こんな時間を持つのは初めてだった。3時間以上もの間一緒にいて、たくさんの話を聞き、パンを焼く姿を見せてもらった。けして饒舌とはいえない彼女は「なんでやろう?」「なんでやったかな?」と何度も繰り返しながら、言葉を選ぶように私の疑問に答えようとしてくれた。

実はいまここで、きりん屋さんを紹介するにあたり、あの場所で感じた何を伝えたらいいか、私は戸惑っている。赤畠さんがどんなに魅力的な人か。その店がどんなに美しく、彼女が焼くパンがどれほどたくましかったか。そして、私たちのために焼いてくれたピザが、生地のはじっこまでどれだけおいしかったか。伝えたいことが次々と溢れ出て来る。溢れすぎて、頭の中がザワザワするのに、ありきたりな飾り言葉は軽すぎて全部違っているような気がして、なかなか次の言葉が出て来ない。パソコンを打つ手が止まってしまう。そんな日が何日も続いている。

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彼女が何度も繰り返していた言葉が、頭の中で渦巻く。
「力強いパンを焼きたい」
「感動するパンがつくりたい」

それは、ずっと私が感じていたことでもある。「力強くて生命力にあふれる」という、彼女のパンに対する印象は、彼女の魂から来ているのか。彼女の強い思いが、工房の空気を伝わり、彼女の手のひらを伝わり、パンのなかに閉じ込められているのか。

ただの「おいしいパン」なら、本を読んだり人から教えてもらえばどうにかたどり着きそうだけど、力強いパン、感動するパンはどうしたらできるものなのか。具体的に目指すパンがどこかにあったのか。

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ある1冊の本を見せてくれた。タイトルは「THE BREAD BUILDERS」。ロサンゼルスにあるパン屋さんの本だ。その写真にあるパンは、確かに焼けこげていて、ごっつくて、大きくて、力強くて、こちらに訴えかけて来るものがある。その中の1ページには、お母さんが子どもをおんぶしてパンを作っている写真もあり、それもいいという。「この写真をイメージしながら、何度も練習しました。英語だから、中身はぜんぜん読んでいないけど(笑)。技術的なことはわからないから、何度もつまづいた。やってやっての繰り返しでした」

パンづくりを人に習ったことはない。本と見比べて作っては人に食べてもらい、改善しての繰り返しだったという。そして、いまの自分のパンも「まだまだ弱い」と言い切る。ならばどうやって、さらに強いパンを目指しているのか。

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「負けるもんか、っていつも思っています」
いったい何に?
「何かわからないけど、とにかく負けるもんか! って」

強いパンを作りたい、負けるもんか。心のなかで繰り返しながら、無言でパンを捏ねている赤畠さんの姿が目に浮かぶ。赤畠さんが勝負している相手は誰なのだろう? それは、全国のおいしいパン屋さんでも、おいしいパンを求めてくるお客さまでもない。負けたくない相手。それは、「このくらいいいだろう」「こんな感じかな」と妥協する自分ではないだろうか。自分が『これだ』と思うパンまでにいきつくまで、負けないということか。

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力強いパン、感動するパンという言葉には、おいしいこと、香りが高いこと、体によいことが、すべて満たされているように思う。それがすべて合わさっているから、感動するのだ。感動して食べるから、私たちの血となり、肉となるんだ。彼女は「まだまだ弱い」というけれど、もうそれはお客さまには伝わっている。だから、みんなきりん屋のパンを食べたいんだ。きりん屋のパンが好きなんだ。これを求めて遠くからでもやってくるんだ。彼女が作るパンは、人を喜ばせ、人を元気にしている。

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10ヵ月前、彼女に子どもが生まれた。母となった彼女は、パンに打ち込む時間がだいぶ減ってしまったけれど、たくさんのお客さまを待たせてしまっているけれど、「パンを楽しんで焼けるようになった」と話す。これまでは作ることに追われる毎日だった。期待に応えたいと、無理をしていたかもしれない。いま、子どもの時間に合わせるなかで、限られた時間を楽しめるようになった。「視界が広くなった」「いろんなことが受け入れられるようになった」と話す。彼女のとんがった部分が、母になって少しまるくなったのかもしれない。優しく、おおらかになったのかもしれない。

ある人がこんなことを言っていた。
「優しいことは強いこと」

母になった彼女は、ますます強くなる。そして、もっともっと力強く、私たちに感動を与えるパンを焼いてくれるだろう。

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取材前に意気込んでいた「なぜ強いパンが焼けるのか」という疑問については、結局のところ真の理由は理解できなかった。そして、到底それをわかることはできないだろうと、もうあきらめることにした。

だって彼女は、魔女なんだから。

【きりん屋 赤畠由梨枝さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
三重の田舎町にある小さいぱん屋。きりん屋です。自然をいっぱいすいこんだ、にこにこぱん焼いています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
今日は飴色です。憧れは、ピンク色です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
お客様のこころが色とりどりになれるような、楽しいぱん達をつれていきます。どうぞよろしくお願いします。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、“フェルトのこども”という意味の名前で活動をするあの人です。

文●わたなべようこ

サカヤカフェマルヨシ「栃木カラー(colour)」

「料理をつくる上で大切なことですか? そうですね…やっぱり“愛”ですかね。真ん中に“心”があるじゃないですか、愛という字には」

まるで芸能人のように格好をつけてインタビューに応えるので、こらえきれずにお互い笑ってしまった。これからご紹介するお店の店主は、手紙社のイベントではいつもうるさいくらいに場を盛り上げてくれる、自称「栃木のピエロ」。どこまでが本気で、どこまでが冗談か、たまにわからなくなるので取材のときに少し困ったことは、ここだけの話だ。 

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栃木県宇都宮市。 最寄りのバス停に着き、これから取材を行うお店へ向かって、 夏の日射しを受けながらふらふらと歩いていく。同じように日の光を浴びながらも、どこか涼しげな田園の緑を横目にしばらく進むと、 「光が丘団地商店街」という郷愁感の漂う小さな商店街に入った。この商店街に「サカヤカフェマルヨシ」はある。1階には天然酵母パンとスイーツの店「RhythBle」、2階には栃木産の食材をふんだんに使った“栃木イタリアン”を提供する「クッチーナ ベジターレ マルヨシ」。2つのお店をあわせて、「サカヤカフェマルヨシ」と呼ぶ。この場所を訪ねるのはこれで2度目だが、あらためて感じたことがある。店とこの町の境を感じない、といえばよいのだろうか。互いの空気がよく調和して、隔たりをまったく感じないのだ。

そんなことを考えながらカフェの入り口へ向かうと、ひときわ大柄の男性が待ち構えていた。店主の笠原慎也さんだ。開口一番、「今日は泊まり込みの取材でしたよね?」とジョークを言う。今日はまともに取材できるだろうかと多少不安になりつつ、店内に入る。よし、まずこのお店の“始まり”を聞いてみよう。

「祖父の代からこの場所で『マルヨシ酒店』という酒屋をやっていました。僕は高校卒業後、何となく人と違うことがやりたくて、大阪の専門学校を出た後、イタリアンレストランで10年間料理修行をしていたのですが、父親が体調を悪くして、栃木に戻って酒屋を継ぐことになったんです。自分が小さな頃には活気のあった商店街も、当時はほとんどお店がなくなっていて、うちの店に来るのも近所のご年配の方ぐらい。人が集まる場所をつくろう、と決意して、店で販売していたお香典袋やみりんなどをすべてどかして始まったのが、サカヤカフェマルヨシです」

店舗がオープンしてから9年の歳月が経ち、商店街には若い店主が切り盛りする雑貨店やベーグル屋、お好み焼き屋など、まるで昔からあったような気配を漂わせながら、違和感なくマルヨシとともに並んでいる。お店がオープンした後は、順調にやってこれたのだろうか。

「店を始めた当初は、この街を自分が変えるんだ、と意気込んでいました。というのも、修業時代に過ごしていた大阪の南船場という街が『CAFE GARB』というカフェによってどんどんと栄えていく様を目の当たりにして、じゃあ自分もやってやろう、と。大阪から栃木の片田舎に戻ってカフェを開いた自分のことを“栃木の宝”だと思い込んでいましたね。ですが、『CAFE SHOZO』『starnet』『日光珈琲』など、栃木にすでにある素晴らしいカフェのことを知ったとき、ガラガラと音を立てて僕の妄想は崩れ去りました。とはいえ、先人の店を見て、なおさら良い店をつくろうと思ったんです。でも、オープンしてしばらくは、来てくれるのは町内会のバレーボールの後にブルマで来るお母さんたちだったり、ここはラーメンないの、漬け物ないの、ボトルキープできないの、と平気で尋ねてくるおばあちゃんだったり…。自分が思い描いていた店のイメージとはだいぶかけ離れていましたね」

しかし、しばらくすると雑誌やホームページを見て遠方からマルヨシを訪ねる若い方々が増えていく。今思えばとても失礼なことと思いつつ、店に合わないと感じた地元のお客さんの入店をやんわりとお断りすることもあったという。そんなことを重ねるうちに、少しずつ地元の人との関係がぎくしゃくとしていった。そんな中、2011年3月に起こったのが、東日本大震災だ。店舗の2階部分が壊れ、お皿もすべて割れた。今まで大切にしていた遠方のお客さまがパタリと来なくなり、愛想を尽かした地元の人も当然来ない。来客が無い日が、1カ月ほど続いた。このままではいけない、とパンを焼いて、隣のベーグル屋と一緒に自転車で隣町まで行き、出張販売を始めた。そこで気づいたことは、8年間ほど店をやっているのに、店があることが近場の人々にほとんど知られていないことだった。

「それから、パンの販売がきっかけで近隣の方が店に足を運んでくれるようになりました。イタリアンもやってるんだね、と少しずつ店のことを知ってもらえましたし、僕もこの町の人を知るようになったんです。その頃からはもう、ブルマで来る人はいなくなりましたね」

遠方から訪れる人、よく顔を出してくれる地元の人。マルヨシに、活気が戻ってきた。ようやくお客さんが増えてきた頃、複数のお客様から、同じような質問をされるようになった。

「おすすめは何ですか、と聞かれるんです。遠方から楽しみにして来られる方からは、特に。心からおすすめできるもの、食べてほしいものはなんだろう、と考えて出した答えが“栃木イタリアン”です。イタリアンをつくっている身ですが、本場のイタリアには行ったこともありません。でも、自分が美味しいと感じる栃木の素材を使った自分なりのイタリアンを提供してこそ、この場所でお店をやる意味があるのではないかと思います」

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そんなマルヨシのメニューの中で、これぞ栃木イタリアン、という料理がある。今はディナーコースのメインにもなっている「パスタシモツカレ」というオリジナルメニューだ。シモツカレとは、鮭を頭と骨ごと煮込み、旨味のきいた出汁に季節の野菜と酒粕を入れて煮あげた栃木県民なら誰しもが知る郷土料理。その鮭の代わりに栃木県産のヤシオマスという魚を使用し、仕上げにチーズを入れてショートパスタに絡めてマルヨシ流にアレンジしたのが、パスタシモツカレだ。

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「ヤシオマスという川魚は、サーモンに近い味わいですが、脂っこくなくてさっぱりとしているので、四季を通して様々な野菜と相性が良い素材です。お店を続けることはやはり大変で、一方で良いことはなかなかありませんが、こうした良い素材に出合えたときは、よし、美味しいものをつくってやろう、その良さを伝えてやろう、と励まされますね」 

そんな笠原さんの言葉を受け、栃木の素材を使って料理をつくるときに大切にしていることは何だろう、と思い尋ねてみると、この文章の冒頭の言葉が返ってきた。ひとしきり笑った後、笠原さんはこう続けた。

「素材の味や香りはしっかり伝えてやりたいですね。ヤシオマスならヤシオマス! 食べたら良くも悪くも、味わった人の印象に残るものがつくりたいです。僕もそうです。人とコミュニケーションする時は、まず自分をぶつける。もみじ市の決起大会のときに、酔っぱらった演技をして近所の飲み会のようにたくさんはしゃぎましたが、あれも僕という人間を印象づけるための作戦です」

笠原さんが話す、もみじ市の決起大会とは、スタッフと出店者がこのイベントをつくる仲間として集った夜のことだ。演技というのはもちろん冗談に違いないが、「愛」という答えは結構本気かもしれない。冗談ばかり言っている笠原さんだが、その目の奥には、いつも“純粋さ”が溢れていることを、ぼくは知っている。

もみじ市初出店のサカヤカフェマルヨシ。出店のおさそいの連絡をした後、笠原さんは男泣きをしたそうだ。彼にとってもみじ市は、ずっと目指していた理想の場所だという。自分をぶつける最高の舞台。マルヨシが用意してくれるメニューは、「パスタシモツカレ」だ。

【サカヤカフェマルヨシ 笠原慎也さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
もみじ市に初参加となります!サカヤカフェマルヨシと申します。栃木県の材料のみを使用した「栃木イタリアン」と栃木県産地粉を使用した焼き菓子やパンを作っています。栃木県の「おいしい」を是非皆様に食べていただきたいです。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
情熱の「赤」です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
栃木の魚「ヤシオマス」を使用した、真っ赤なトマトソースのパスタを作ろうと思っています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、三重からやってくるあのパン屋さん。毎年、このパンを求めて多くの人がもみじ市へと足を運びます。

文●柿本康治

uguisu × organ「uguisu × organの青空デリカテッセン」

紺野真さんにとって“みんなで何かをすること”は、人生を豊かに生きるために欠かせないことなのかもしれない。

紺野さんは、2005年にはじめた三軒茶屋の「uguisu」と2011年に西荻窪にオープンした姉妹店「organ」を切り盛りするオーナー兼シェフ。どちらのお店もなかなか予約を取ることがかなわない人気のレストラン。雑誌やメディアで取り上げられることも多く、味にうるさいお客さん、常連さん、仕事帰りにワインを一杯飲んで帰るお客さんが、絶妙な味付けのビストロ料理と作り手の顔が見える選りすぐりの自然派ワインを楽しみに訪れる。先日uguisuを訪れた時は、40〜50代くらいの方々が優雅に食事を楽しんでいた。大いに食べて、笑い、ワインをたしなみ、「また来るよ」と言って去っていく。仲間たちとここで幸せな時間を過ごし、また明日から頑張ろうというエネルギーをもらって帰っていく、そんな光景に見えた。

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紺野さん率いる「uguisu×organ」チームにとって、もみじ市は今年で2回目の参加となる。前回は青空のもと、炭火で焼いたブーダンノワール(豚の腸詰)や、キャロットラペ、ジャガイモと玉ねぎ、オリーブを使った前菜など、ライブ感あふれる“青空デリカテッセン”というフランス料理店をオープンしてくれた。

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私が紺野さんと何度かお話をするうちに気がついたことは、紺野さんはいつだってサービス精神にあふれ、とてもポジティブな考え方の持ち主だということ。なにかを相談すると、こちらの期待に応えようと、真摯に対応してくれようとする姿勢がすごく伝わってくる。初めてお会いした時からその印象は変わらない。アイディアをいくつも挙げて、積極的に関わってくれようとするのだ。

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しかし連日予約でいっぱいのお店を営みながら、もみじ市の準備をするのはどんなに大変なことだろう。スタッフの体力、お客さまのこと、設備の整わない会場でのオペレーション、さまざまな不安要素をかかえながらの準備……。きっと、軽やかでポジティブにみえる紺野さんにとっても、簡単なことではないと思う。紺野さんが、それでももみじ市に参加してくださる理由は何だろう。多忙な日々を過ごす紺野さんが、こんなふうに語っていたことがある。

「僕はもともと料理をつくるのではなく、楽器をかき鳴らしていたんですよ。バンドを組んでプロを目指していた時もあったのですが、挫折してしまいました。自分には才能がなかったみたいで……。でもその間勤めていた飲食店でのサービス経験が今の仕事に結びついています。そしていつからか、自分でお店をやりたいと思うようになったのです」

また前回のもみじ市が終わったあとには、こんなふうにも。

「本当に大変だったけれど、みんなで一緒に汗をかいて、楽しかったです。片付けが終わった後、夕日のなかでみんなで写真を撮ったんだけど、それがとってもいい写真だったんです」

そう、紺野さんは、信頼できるメンバーとともに、なにかひとつのことを一緒にやりたいのだ。好奇心に満ちた少年のように。バンドもお店もきっと同じ。個性あふれる仲間たちと、一緒にひとつの空間で、汗をかきたいのだ。

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そしてそれは、私たちが「この作家さんに参加してもらいたい、このアーティストに参加してもらいたい、そして一緒にひとつのものを作りたい」という思いから始めた、もみじ市と同じような気がしてならない。全国からやってくる、料理人、作家、アーティストたちが集まる舞台。その舞台に、思いを同じくした「uguisu × organ」という名のバンドが上がってくれる。こんな誇らしいことが他にあるだろうか。

最近ではスタッフたちと畑を借りて野菜を作っているという紺野さん。料理への尽きない探究心、そして、これだけ知れ渡っているにもかかわらず、新しいことに果敢にチャレンジする姿勢。私たちはいつだって、そんな紺野さんと「uguisu×organ」のメンバーに刺激を受ける。

舞台の幕が開くのはもう間近。今年はどんなステージを見せてくれるのか? もみじ市に訪れたら、ライブ感あふれる「uguisu × organ」のお店を、ぜひ訪れてほしい。

【uguisu × organ 紺野真さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
三軒茶屋の小さなワインカフェuguisuと、その姉妹店である西荻窪のorganです。
フランスの市場で売られている様な素朴で美味しいお惣菜と、青空の下で身体に染み入るような優しい味わいのワインを紹介したく思います。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
紺色です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
場所は河川敷になりますが、お店の雰囲気そのままに、みなさんに楽しんでいただけるよう、
自分達も楽しみながら本気でやります。その様子をぜひ見に来てください。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、栃木県からもみじ市初出店のあのお店です!

文●増田千夏

Siesta Labo.「手作り化粧石けん」

仕事帰りの電車の中、窓に映る自分の疲れきった顔に気づいてハッとする。そんな日は、帰ったら何をするよりもまず顔を洗う。メイクを落として、石けんを泡立てる。両手いっぱいの泡で顔を包み込んだら、全てをさっぱりと洗い流す。そう、汚れだけじゃなく、今日起こったあんなことやこんなこと、何もかもさっぱりと。そうして洗い終わったら、鏡に映る自分の顔は、すっかり優しくなっている。心も丸くなっている。Siesta Labo.の附柴彩子さんが作るのは、そんな、魔法のような石けんだ。

siestalabo1色とりどりの紙に包まれた石けんたちは、お菓子のように可愛らしい。

色紙にハトロン紙が重ねられた淡い色の包み紙。開くと現れるのは、少し白みがかった穏やかな色の石けん。四角い形は手のひらにすっぽりとおさまるサイズ。Siesta Labo.の石けんは、洗い心地はもちろん、何から何までとても優しい。

「女性にとって、石けんで顔を洗うのは “ほっ” とする瞬間です。作っているのは石けんだけれど、届けたいと思っているのは、”ほっ” とする時間なんです」

「Siesta」はスペイン語で「お昼寝」を意味する。うたたねをする時のように、心からくつろいでほしいから、素材はなるべく天然のものを使っている。ベースとなるのは、ヤシ、パーム、オリーブなどの植物オイルにアルカリ成分を加えたもの。そこに、蜂蜜やヤギのミルク、ハーブなど、肌のタイプに合わせた素材をブレンドし、商品のコンセプトによって、エッセンシャルオイル(精油)で香り付けをする。余分なものは一切入れない。そして、40日間という時間をかけて “熟成” する。さらに、完成した石けんに型を押すのも、紙で包むのも、全てをひとつひとつ手作業で行っている。伝統的な技法を選び、手間をかけることで、時間はかかるけれど、その分だけ、肌に優しい気持ちのこもった石けんができあがる。

siestalabo2 熟成開始から何日で型を押すか、そのタイミングは石けんの種類によって違うという 

石けん作りと聞くと、ほんわかと可愛らしい様子を想像するかもしれない。しかしながら、Siesta Labo.の石けんが生まれる場所は、実験室のような部屋だった。白衣に袖を通し、ビニールの帽子を被って部屋の中へ入る。大きな鍋やレードルが置かれた流し場。磨き上げられたステンレスの台。壁一面に備え付けられた頑丈そうな棚には、熟成中の石けんが業務用のケースに入れられて、びっしりと並んでいる。 

siestalabo3Siesta Labo.の石けんのサイズに合わせて特別に作られた器具で、カットしていく

「私がもともと理系出身なのもあって、やるんだったらきっちりやりたくって」

附柴さんが初めて石けんを作ったのは、大学院生のとき。市販の石けんが肌に合わなくなり、試しに自分で作ってみたところ、その工程がすごく自分に合っていると感じたという。

「これを仕事にした方がいい! と思いました。全く違う素材を混ぜ合わせることで、新しいものが生まれるという現象が好きなんです。オイルと様々な材料を混ぜ合わせることで、新しい石けんができあがる。その工程が、すごく楽しい。それに、石けんをカットしたり、四角いものをいっぱい並べるという作業も、とても好きなんです(笑)」

大学卒業後、製薬会社で何年か働いた後に、化粧石けんのレーベルを立ち上げる。附柴さんが製作の拠点に選んだのは、地元ではなく、大学時代を過ごした北海道だった。

「何年か住んでみて、北海道がすごく好きになりました。道内には良い素材がたくさんあるんです。でも、その良さを活かしきれていないと感じる部分もあって、それを伝えていきたいと思いました。だから、Siesta Labo.の石けんは、道産の素材を使うことを大切にしています」 

siestalabo4何だか落ち着く、少しくせになる不思議な匂いのアズキ石けん。

一番のロングセラーである「アズキ石けん」(肌がすべすべになると評判の石けんだ)に使われているあずきも、もちろん北海道産。また、素材の生産者にはなるべく直接会いにいくという。例えば、乾燥肌の人向けの「白樺石けん」、材料となる白樺の芳香蒸留水が作られているのは、道北の下川町という小さな町。北海道に住んでいる人でもピンと来づらい地名だが、「最近は若い人たちが増えていて、とっても活気があるんですよ」と、まるで自分のことのように、うれしそうに、附柴さんが教えてくれた。

附柴さんのお話を聞いていると、素材選びや作業工程、お客さんに対する姿勢など、その全てから真摯さが伝わってくる。優しい石けんを作る附柴さんの眼差しは、やわらかでとても強い。

「石けんを作るのではなく、生活を作っている。そう思っています」

Siesta Labo.の商品は石けんだけに留まらない。シャンプーやバスソルト、ルームフレグランスなど日々を穏やかに過ごすためのアイテムが並ぶ。さらにお店では、しばしば、靴やアクセサリーなど、他の作家さんの展示会や販売会が開かれる。すごく多忙なはずなのに、とてもきらきらとした表情の附柴さんとお会いして、これから先、さらに大きく活動の場を広げていかれるような気がして、とても楽しみになった。

siestalabo5新作のルームフレグランス。優しい香りが部屋をつつむ。

siestalabo6”カラフル” に合わせて作られたもみじ市オリジナルの石けん。お試しサイズなのもうれしい。

Siesta Labo.の石けんは、とても優しい色をしている。そしてエネルギーに満ちている。それは、自然の素材から作られているから、そして、附柴さんの思いが込められているから。ぜひ手にとって、眺めて、匂いをかいでみてほしい。それだけでとても、優しい気持ちになれるはずだから。

もみじ市に、Siesta Labo.の石けんが並ぶ。それは附柴さんにとっての夢であり、私たちにとっても、夢のような光景なのだ。

【Siesta Labo. 附柴彩子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
札幌で手作り石鹸の工房を開いています。北海道のハーブや、小豆などの素材を使い、じっくりひと月以上時間をかけながら石鹸を作っています。ブランド名のシエスタはスペイン語でお昼寝。お昼寝をするようなゆったりとした気持ちを過ごしていただけるような、いい香りだったり、ホッとする素材を選んで制作を行っています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
穏やかな晴れた海のような人になりたい、とずっと思っていました。だからなのか、青がとても好きです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
青、ピンク、グリーン…色とりどりの石鹸を作って参加します! そのほかにも、スキンクリームや、ルームフレグランスなど…もみじ市のために特別に作った、手のひらサイズの石鹸も持っていきます。はじめてのもみじ市、とても楽しみにしています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてはいつ訪れても多くの人で賑わうあのビストロの登場です!

文●吉田茜

SEED BAGEL&COFFEE COMPANY「ベーグルとクレープとカプチーノ」

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もみじ市を休んだこの2年間で、たくさんの人に会った。たくさんのすばらしい作品に出合い、たくさんのおいしいものに巡り合った。

だからといって、素晴しいと思ったすべての作家さんをもみじ市にお誘いしているかと言えば、そんなことはない。取材してわかった。私たちはこういう人と一緒に何かをやりたかったんだ。SEED BAGEL&COFFEE COMPANYの平野大輔さん、小川美月さんみたいな人たちと。

いくらベーグルがおいしくても、いくら店の空間が素晴しくても、それだけではきっと、声をかけることはなかっただろう。好奇心が強くて、ノリが良くって、人懐っこくて、やんちゃな少年のような平野さん、そして、それを母親のように支える美月さんに、もみじ市に来て欲しかった。もみじ市は私たちにとって、特別な場所だから。

初めてそのベーグルを食べた時、衝撃が走った。大げさに聞こえるかもしれないけれど、こんなにもっちりして弾力があり、心からおいしいと思うベーグルを食べたのは初めてかもしれない、と思った。それほどおいしかった。

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忘れもしない、いまから2年前の11月。手紙社が企画する「森のカフェフェス in ニセコ」というイベントの打合わせのため、北海道・ニセコを訪れたときのことだった。地元の方に、森のカフェフェスにお誘いするべきお勧めのカフェを伺ったところ、そのうちのひとつとして紹介されたのが、SEEDだった。

その日は急いで札幌に戻らなければならず、ベーグルだけ買って帰ることにした。ほんとうなら天井が高くて、明るい窓に囲まれたその店でゆっくりとベーグルとエスプレッソを楽しみたかったのだけれど。カウンターにずらりと並ぶ、こんがりと焼き焦げた丸くてかわいらしいベーグルのなかから、慌てていくつかを買い求める私たちを見かねて、平野さんは冷たいお水をそっと差し出してくれた。
「これ、羊蹄山の湧き水なんです。おいしいですから、お水だけでも飲んで行って下さい」
すっきりとクリアで、奥の方がかすかに甘い。それはそれは、おいしい水だった。

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そして、その帰り道に車の中で食べたベーグルが、あの衝撃的なベーグルだったのだ。

それからというもの、あのベーグルがふと食べたくなるときがある。だから、東京とニセコという遠く離れた距離にあるにも関わらず、私たちはパンを販売する機会があると、まっ先に平野さんにメールを送る。「イベントで販売させてもらえませんか?」と。平野さんは、いつでも快く「よしきた!」と言わんばかりに引き受けてくれる。次第に、私たちと平野さんの距離は、実際の距離を忘れさせてしまうほど近くなった。

森のカフェフェスの打合わせの際、ニセコに行くときは必ずSEEDに寄る。たとえ、わずかな時間しかなくても、平野さんの顔を見て「こんにちは。元気?」と言いに行く。まるで、隣町の友達に会いに行くみたいに、気軽に、ふいに。何の連絡もせずに行くから、平野さんはいつも、ビックリした様子で、少し慌てふためいた顔をして、私たちを迎えてくれる。あるとき平野さんが、手紙社の代表である北島のことを、こんなふうに表現した。「体育の先生みたい」と。
「突然、見回りにやってくるじゃないですか(笑)。だから、ちゃんとできてるかな、って緊張して、ソワソワするんですよね」
言い当てていて、なんだかおかしい。

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SEEDのベーグルは、北海道産の小麦と天然酵母が使われ、たくさんの緑から生まれた空気と、羊蹄山から発せられているであろう、地力のようなものに包まれた中でつくられている。水は羊蹄山の湧き水を使う。週に2〜3回、たくさんのタンクを持って湧き水を汲みに行く。もちろん、雨の日でも、雪の日でも。ニセコの自然の恵みを余すことなく使い尽くし、それだけでもおいしいものができそうだけれど、平野さんのベーグルには「こんなベーグルは初めて」と思わせるとっておきの理由が、もうひとつある。それは、世界中をさがしても、おそらく他のだれもやっていないであろうこと。成形の方法だ。

一般的にベーグルは、まず、具材を包んだ細い棒状の生地を作り、その両端をつなげることで円にしている。だが、平野さんの方法は違っている。 「まず、生地を丸い板状に伸ばします。円のふちにそってぐるりと一周具材を置いたあと、外側の生地を引き伸ばしながら、具材を包むように中心に向かって丸め込みます。そして、中心の生地とつなぎ合わせながら整えて行くと、自然と中心に穴が空き、ドーナツ状にできあがります」

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なんでこんな面倒なことを…。

「知らなかったんですよね。ベーグルってどうやってつくるのかって。考えながらやってみた結果なんです。それに、つなぎ目を作りたくなかった。きれいな『丸』が作りたかったんです」

作り方を誰かに習ったことはない。だから、他の人がどうやっているのか、自分のやり方が正しいのか、まったくわからないという。その後、本で読んだ一般的な成形方法でもつくってみたけれど、やっぱり自分流の方がおいしいと感じた。これで行こうと確信した。たとえ、手間と時間がかかろうとも。おそらく、生地が引っ張られ、中心に向かって具材を包み込むときに、複雑なねじれや空洞が生まれ、それがもっちり感を生み出しているのだろうと推測している。本当の理由はわからない。

そうか。誰かと同じやり方で作れば、簡単にある程度の完成度に近づけられるけれど、その人以上のものはできない。自分が見いだしたやり方なら、自分だけのおいしさができるのだ。だから特別なんだ。だから強いんだ。

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店のオープンは朝8時。名古屋地域に広がる「モーニング文化」を取り入れてみようと、朝はコーヒーを頼んだ人には、べーグルをおまけでつけている。オープン当初から始めたこのサービスを続けていくのは、けっこうたいへんなことだけど、それを求めてきてくれる人がいるからと、今もそのスタイルを続けている。モーニングに間に合わせるため、明け方3時ごろから仕込みに入る。今となっては小さく感じてしまうオーブンでは、1回で焼けるベーグルの数はわずか12個。それを毎朝8〜10回フル回転させ、その日に販売するためと、卸先に届けるためのベーグルをつくる。

太陽が高く昇ってきた頃、お客さまがひと組、またひと組とやってきた。外国人観光客や別荘が多いこの地にとって、ここは、朝食のためのおいしいコーヒーと焼きたてのベーグルをいただける貴重な場所なのだろう。常連のお客様と自然に会話をする、平野さんの和やかな顔がそこにあった。

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もうすぐ、もみじ市がやってくる。いつもは私たちがニセコにある平野さんのお店を訪れるけれど、この日は違う。もみじ市の2日間は、私たちが彼らを迎える番だ。

10月19日の早朝、フェリーで新潟に到着する平野さんと美月さんは、その足で多摩川河川敷にかけつけてくる。平野さんのことだから、ひとつでも多くのベーグルを用意しようと、きっと出発の直前まで焼き続け、車に積み込み、運転してくるのだろう。

青く晴れ渡る空の下で、そんな彼らを見つけたら、まっ先に握手を交わそう。そして、こう言おう。「遠くまで来てくれて、ありがとう」と。「ようこそ、もみじ市へ」と。

【SEED BAGEL&COFFEE COMPANYの平野大輔さんと小川美月さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
北海道ニセコ町の有島地区でベーグルとコーヒーの自宅カフェを営んでいる平野大輔と申します。そしてスタッフの小川美月です。よろしくお願いします。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
平野:すぐに頭に浮かんだ色は黄色です。理由はわかりませんが、でも多分黄色なんだと思います。

小川:透明な色。でありたいと思っています、水のような。 時に海のように青く 雪のように白く。大自然と同化していたいのかも 笑

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
ベーグルを出来るだけたくさん、お持ちしたいと思います。

2日目はクレープ屋さんになります。クレープをくるくるーっと焼くのは美月さん担当。平野は全くセンスが無かったです。それとカプチーノ。「カラフル」のテーマに因んでテントをニセコの自然で彩りたいと思ってます。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、天然素材を使った石鹸の作り手。材料となるのは、ハーブ、あずき、白樺。北海道の自然の恵みの結晶がもみじ市にやってきます。

文●わたなべようこ

緒方伶香「糸屋+テノリシロクマ」

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ぼくは、ペン吉。皇帝ペンギンのヒナです。もみじ市というイベントで羊毛作家の緒方伶香さんが羊の毛から作ってくれたんだ。どうやってあのふわふわした毛からぼくができるのかって? それはニードルパンチという針を使ってチクチクと固めるんだよ。ひと針ひと針愛情を込めて(なんて、自分でいうのもおこがましいけどね)、少しずつ少しずつ固めるんだ。

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 ぼくを作ってくれた緒方さんは、「羊毛のしごと」や「羊毛フェルトの教科書」っていう本も出している人で、糸を紡いだり、フェルトでバッグや小物ケースを作ったりする人なんだよ。緒方さんは毎年、もみじ市に出ていて、ぼくの他にも手のひらサイズのハリネズミやパンダやうさぎ、ひつじなんかも作ったことがあるんだ。どれもとってもキュートで(ぼくほどではないけどね)、たくさんの人に作り方を教えてるんだよね。ワークショップって言ってね。みんなが緒方さんの作った人形(ぼくみたいなスマートなやつね)をお手本にして、チクチクと一緒に作っていくんだ。

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みんなで作ってくれると一辺にたくさんの仲間ができるからぼくは嬉しいんだ。その場ですぐに離れ離れになっちゃうけど、離れていても心はひとつっていうかさ、同じ場所で、同じ日に生まれた兄弟がどこかにいるんだと思うと、なんだか嬉しいんだよね。

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この間、緒方さんが、もみじ市の事務局の人に「毎年、もみじ市のために一生懸命準備をする」って言ってたよ。定期的にみんなで人形を作れて、たくさんの人に触れてもらえる大事な機会なんだって。たくさんの人に作って欲しいから、緒方さんは毎年、新しい、キュートな子を連れて行くんだ。でも、どんな子にするか考えるのがとっても大変だから、学校の宿題みたいって言って笑ってた。

もみじ市はそんな特別なイベントなんだけど、じつは、去年は開催されなかったんだ。でも今年は2年ぶりに開催できて、新しくスタートするから緒方さんもとても楽しみにしているみたい。

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実はこの前、緒方さんにニューヨークまで連れて行ってもらったんだよ。すごいでしょ? 向こうで、もみじ市用のお土産も買ってきたよ。ついでにMOMAやジャクソン・ポロック、建設中のセント・パトリック寺院とかいろいろな場所に行って記念写真も撮ったんだ。

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休んでいる間に緒方さんもいろいろ考えたみたいで、今年からはぼくみたいな絶滅危惧種に指定されている動物を作ることにするんだって。それを聞いた時、ぼくはとっても嬉しかったな。だって、このままだったらぼくの仲間は地球からいなくなってしまうかもしれない。けれど、こうやって、ワークショップでたくさんの人に作ってもらえたら、ぼくの仲間は地球上に確かにいるんだって思ってもらえるでしょ。ぼくみたいに一緒に旅行に連れていってくれたりしたら、一層ぼくの仲間も大切にしてもらえるような気もするよ。

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緒方さんにとっても新しいスタートになる今年のもみじ市では、シロクマくんを作るんだって。もちろんシロクマ君も、絶滅危惧種なんだよ。お手伝いにアナンダっていうお店で一緒に働いている仲間たちも参加してくれるよ。みんな手でものを作るのが大好きだから、きっと楽しいワークショップになるんじゃないかな。たくさんの人に作ってもらえたらいいな。

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<緒方伶香「ニードルパンチでつくるテノリシロクマ」ワークショップのご案内>

開催日時:
10月19日(土)11:30〜15:30
10月20日(日)11:00〜15:00

参加費:2,300円(材料費込み、当日のお支払い)

定員:材料がなくなり次第終了とさせていただきます。(各日50名程度)

 お申し込み方法:当日ブースにて直接お申し込みください。

製作所要時間:約1時間程度
※人によって大きく差が出ますことを予めご了承ください。 

【緒方伶香さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
毎回、もみじ市では手のひらサイズの動物を羊毛フェルトで作るWORKSHOPをやってます。本来は、食べること、寝ること、映画を観ること、そして音楽を聴きながらぼんやり糸を紡いだりするのが好きなのですが、この時ばかりは、みなさんに楽しんでいただくべく、マトリックスのような早さで、みなさんの作品作りを手伝うことに集中します。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
白、と言えたらいいのですが、墨色です。白や黒ほどはっきりしてなくて、でも濃淡の中に幅広い寛容さがある、優しさと厳しさがある。私の色というより、私の願望です。墨の匂いも落ち着きますし。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
白い氷の世界に住むシロクマ。白は色のはじまりのような気がします。だから、カラフルだけど敢えて白。絶滅危惧種の第一弾として、シロクマを作ります。「もみじ市」という、どんどん大きくなっていく舞台で私も何か役に立ちたい、地球の平和を祈ってみんなで作りたいという気持ちです。他にも、白をはじめ、いつものカラフルな手紡ぎ糸やフェルト小物を持って行きます。2年ぶりのもみじ市、どんな色になるのか、楽しみです。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いてご紹介するのは、遠くニセコの地からやってくるあのお店。羊蹄山の透き通るような湧き水と厳選された食材のベーグルを届けてくれます!

文●藤枝大裕

すげさわかよと木下綾乃「絵描きのこまもの店」(19日)

「もみじ市では、他ではやれないことをやりたいなぁっていつも思う」

「ふたりで一緒にできるから、それぞれやりたいことをアイデア出して、ふだんできないことをやるのがたのしいよね」

すげさわかよさんと木下綾乃さんとお話をしていると、晴れた日にピクニックに来たような気分になる。それはおふたりの柔らかくて優しい雰囲気のせいなのか、おふたりが描く暖かみがあってかわいらしいイラストのせいなのか。お話を伺った日はあいにくの雨空だったけど、それでもなんだか、ぱっと明るくて暖かくて嬉しい気持ちになった。

①グリーティングカード(すげさわさん)_1

すげさわさんと木下さんは、仲良しイラストレーター。すげさわさんは柔らかい線とカラフルな色使いで、北欧や東欧をイメージさせるようなぬくもりのあるイラストが印象的。もともと旅行が好きということもあって、外国っぽい建物や風景を描くのが好きなのだとか。今回作っていただいたお面も、どこかの国の民族衣装をイメージするようなカラフルでかわいいもの。

②木下さん_1

木下さんは、インクの線が印象的なイラストで、クマや男の子、そしておじさん(!)をモチーフにすることが多いのだとか。かわいらしいイラストのイメージの木下さん、でも実はおじさんっぽい物が好きなのだそうで、イラストを書いているとだんだん可愛くなってくるからせめてモチーフをおじさんとか変なものにしないと、と思っているのだそう。そんなおふたり、普段はそれぞれ個人でお仕事をされているけれど、もみじ市となるといつもふたりで仲良く駆けつけてくれる。

前回のもみじ市は「のはらのこまもの店」、その前は「紙と木のこまもの店」、と毎回「~のこまもの店」という名前で出店するおふたり、今年は「絵描きのこまもの店」での出店となる。そしてまさに「絵描き」らしく、おふたりのイラストを使ったもみじ市限定のギフトボックスをご用意いただけるのだとか! しかも内容がまた魅力的。おふたりのイラストを使った包装紙や、タグカードなどがセットになるのだそう。これはまさに、もみじ市ならでは! わたしもこっそり覗きに行ってしまいたい! 

③ガーランド風さんかくカード_すげさわさん_2

他にも、今回のカラフルというテーマに合わせて、色々な物を持ってきてくださる予定。例えば、すげさわさんはパーティーなどで見かけるガーランド。手描きで作られたガーランドは、ひとつならメッセージカードに使えて、いくつか並べると自分で好きな組み合わせができるカラフルなガーランドに。しかもその場でリクエストに応えてイラストも描いてくださるそう! 木下さんは、クマの絵のポストカードのシリーズ。クマが持っている本の色が全部異なり、全部で16色もあるのだとか。虹を超えるカラフルさなのだ。

④木下さん_2

そして注目なのが、木下さんによるイラストの描きおろし! 以前のもみじ市でお客さんの似顔絵を描いたのが楽しかったそうで、今回も3組限定の予約制で、オーダーメイドでイラストを描いてくれるそう。オーダーメイドでイラストを描くというのは、普段やっていないそうなので、まさにもみじ市ならでは。木下さんと相談をしながら描いてほしい絵柄を決められるそうなので、とびっきりの想い出ができそう(詳細は下記をご覧ください)。

「描いていると、ちょっと人だかりができてうれしいよね」(木下さん)

「ふだんは家でひとりぼっちで絵を描いているから、人に会ってリクエストを聞いて描けるのがたのしい」(すげさわさん)

もみじ市ではどんどん話しかけてほしいそう。もともと知っていた方、たまたま通りかかって初めて目にしてくださる方、そしてお子さん連れや家族で来てくださる方、ふだんなかなか話す機会がない方、そんなさまざまなお客さまとの会話ももみじ市の楽しみのひとつなのだそう。

河原で開かれるこまもの店は、まさにおふたりの雰囲気にぴったり。たくさんのカラフルなこまものが河原に並ぶ姿は考えただけでもワクワク。おふたりはまるで、河原に咲くカラフルな花の周りをとぶチョウチョウのようだと私は思う。かわいいものの周りをフワフワ、楽しい会話に花を咲かせながらフワフワ。ぜひあなたも一緒に、楽しい会話に花を咲かせてくださいね。

なお、出店日は19日(土)の1日のみとなるので、日にちに気を付けてお越しくださいませ。

<木下綾乃さんイラストオーダーのご案内>

●描くイラストは下記の2種類からお選びいただけます。

① クリスマスカード、年賀状などはがきに使える大きめのイラスト=12,000円…1名さま
② フレーム切手、名刺、はんこに使える小さなイラスト=3,500円…2名さま

●描いてほしいものを事前にメールでご応募いただき、その中から抽選にて3名さまを選ばせていただきます。応募方法は下記をご確認ください。

●カラー/モノクロどちらでも同じ値段となります。

●お打ち合わせ時間は下記の通りになります。ご応募の際はくれぐれもご都合をお確かめください。お打ち合わせにかかる時間は1組 10~15分程度となります。

 10月19日(土)13:15~①大きめイラスト
 10月19日(土)14:00~②小さなイラスト
 10月19日(土)15:00~②小さなイラスト

●イラストの納品は出来次第で、遅くても11月10日までにはお送りします。

●応募方法
件名を「木下綾乃イラストオーダー」とし、ご希望のイラストサイズ(①or②)、描いてほしいもの、ご希望のお打ちあわせ時間(小さなイラストの場合)、お名前、お電話番号、メールアドレスを明記の上、【workshop03@momijiichi.com】へメールでご連絡ください。

●応募締切日
締切日を過ぎましたので応募を締め切らせていただきました。たくさんのご応募をありがとうございました。

【すげさわかよさんと木下綾乃さんに聞きました】

Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
イラストレーターすげさわ かよです。旅や手作りをテーマにした本を作ったり、雑誌などでイラストを描いています。趣味は旅行で、1歳になったばかりの娘がいます。(すげさわ)

イラストレーターの木下綾乃です。雑誌や書籍の挿絵のほか、手紙や文房具の本を執筆しています。(木下)

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
むらさき色かな。好きな色で、よく身に着けているので。服やバッグ、娘のベビーカーまで、むらさき色ばかり選んでしまいます。(すげさわ)

グレーかな? 白に憧れつつ、なれない感じです。(木下)

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
ひとつずつ手作りで、グリーティングカードやポストカードをいろいろ作る予定です。

まずは、三角形の手描きのカード、「ガーランド風さんかくカード」。一枚でカードとして使ったり、いくつかひもにつなげてガーランドにして飾ったりしてください。

ふたつめは、「ポップアップ・グリーティングカード」。お誕生日やご出産おめでとう、メリークリスマスなどいろんな種類のカードです。お気に入りを選んで、大切な方へ贈ってください!

「カラフル」にちなんで、木下さんとふたりで作る作品は…、一個ずつテーマカラーを決めて絵を描いた、限定10色の小さな箱!!中には、タグカードとふたりのイラスト入り包装紙が入っています。カラフルに箱が並ぶようすを、ぜひ見に来てください♪ もみじ市当日は、その場でご希望のイラストを描くこともしますので、ぜひお声をかけてくださいね!(すげさわ)

今回は予約制で、イラストを描きおろししたいと思います。もみじ市でお打ちあわせ~後日納品というかたちです。出来上がったイラストは、クリスマスカードや年賀状、名刺、フレーム切手、などなどお好きに使ってください。雑貨は、シロクマと、「ポス山ポス夫」というなまけものの郵便屋さんのカレンダー&ポストカードをつくっています。ポス夫はフレーム切手も!

すげさわさんとのコラボは、ギフトボックスです! 手描きのイラストが描かれた箱の中に、ギフトタグが3つ入っています。それぞれ、好きな色をテーマにつくったので、ずらーっと並んだらカラフルになると思います。大切な方へプレゼントをわたすときや、宝箱としてつかってくださいね。(木下)

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いてご紹介するのは、ほっこり愛らしい人形を作るあの方です。今回もニードルパンチで作るキュートな動物を披露してくれますよ。

文●上村明菜

アンリロ「秋空レストラン」

アンリロが生まれ変わった。

営業時間が変わり、ディナーがなくなった。その代わり、ランチタイムとカフェタイムを今まで以上にゆっくりと過ごせるように、時間を延ばした。メニューにお子様ランチも加えた。キッズルームと呼ばれる座敷席は、スタッフで力を合わせて、丸2日で作った。新しい仲間は、主婦や妊婦の方を積極的に迎え入れることにした。そう、アンリロは子どもがいる環境にある全ての人に対して、大きな“いたわり”を持つお店に生まれ変わったのだ。

「世の中を動かしているのは主婦の人たちだからね。いちばん頑張っているし、気合いが違います。昔から続いているお店を見ても、やっぱり頑張っているのは主婦の方ですし」

きっかけは、オーナーシェフである上村さん自身の環境の変化によるものだった。3年前、第一子を、そして今年、第二子目を授かった。楽しいけれど、決して一筋縄にはいかない育児の日々の中で芽生えた想いが、彼を変化させていったのだ。

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アンリロとは、上村真巳というひとりの男の人生そのものなのだと思う。自身の環境の変化に合わせてお店自体も変化させていく。その姿勢には、潔さと人間らしさがあふれている。その中で、ただひとつ変わらないこと。それは、自分が行きたくなるお店をつくり続けてきたことだ。

2005年、上村さんは栃木県鹿沼市に、野菜をおいしく食べるフレンチベジタリアン「アンリロ」をつくった。地元で採れた野菜を美味しく食べてもらいたい。そんな願いのもとでつくられた料理が、多くの人を魅了するのには、さほど時間はかからなかった。そして、2008年、31歳の年齢を数える年、2号店である「ル・ペリカン・ルージュ」をつくった。そこは地元の食材を使用したお料理とおいしいワインが楽しめるビストロ。男性が行けるお店をつくりたかったのだという。掲げたテーマは「30代以降の大人が居心地のいい、遅くまで開いているお店を目指そう」だった。 

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そして、今回の大きな変化。アンリロに足を運ぶ客層は9割が女性だ。もちろん、その中には妊婦の方も多い。だからこそ、そんな方々が子どもを産んでからも「行きたい」と思ってもらえるようなお店にしたいという結論に至ったのは、ごく自然なことだったのだろう。

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インタビューを続ける中で、私はアンリロを初めて訪れたときのことを思い出していた。それは今年の1月のこと。手紙社の一員として、数名のスタッフと共に上村さんに会いに行ったときのことだ。どうせならと、アンリロのランチを予約していた。お店に到着すると、用意してくれていたのはポカポカとした冬の木漏れ日が射し込むテーブル席。そこに並ぶ料理の色鮮やかさといったら…。陽の光を受けてキラキラと輝く、鹿沼の採れたての野菜を使った料理の感動は今でも色褪せることなく覚えている。ひと皿ひと皿が、とにかく美しい。そして、きちんと演出されている。料理が提供される度に皆、感嘆の声を上げた。純粋に料理を、そして食事を楽しむ。そんな体験だった。夕食は、ル・ペリカン・ルージュを予約した。カウンターに座っている常連と思わしき年配の男性と楽しそうに会話をしている上村さん。それが、初対面の瞬間だった。この時にどんな言葉を交わしたのかは、正直なところ、緊張のあまりほとんど覚えてはいない。それでも、そのとき話してくれた、マクロビに対する考え方。地元の野菜を使うことに対する想い。そして、何よりも料理をする自分自身が楽しむということ。その場で話を聞いていた私達は、噛み締めるようにその言葉を心に刻んでいた。そして、前菜の盛り合わせが、本当に美しくて美味しかった。これは余談になるが、同行していた手紙舎のカフェのスタッフもいたく感銘を受けていたようで、「地元の野菜を使う」という上村さんの考えに影響された結果、現在、手紙舎のカフェで使用する野菜は我々の地元である調布で採れたものを使っている。

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ふいに、将来の展望を話す時間が訪れた。その内容は、海外のとある国でお店をつくりたいという話だった。自身が独立前にお世話になったオーガニックレストランのオーナーが住んでいるということもあり、上村さんは家族で、その国へ幾度かの旅行を重ねてきた。ベジタリアンが多く、どこのお店に入ってもベジタリアンメニューが必ずある。エステも盛んだ。内側と外側から身体を綺麗にできる国。それはインドネシア。ただ観光地化しているのではなく、自然をふんだんに活かしたお店づくりが成されていて、そこには昔の日本の風景を感じるのだとも言う。例えば、山あいの渓谷の中のお店。窓なんて無くて、全てが開放感にあふれている。清流の流れる音、そこにある自然全てがインテリアとして成立しているお店。

「作られた造形も好きですけど、自然が作り出した造形には敵わないなって思うんですよね。なによりも本当に気持ちが良いんですよ。そんな空間で、モダンな料理なんか出したら、絶対素敵だと思いません?」

はい、そう思います! そんなロケーションで楽しむ上村さんの料理。楽しみだなあ。そんな日がいつかきっと来る。将来の自分のご褒美がまたひとつ増えた瞬間だった。 

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インタビューもそろそろ終わりの時間を迎える頃、上村さんは自身の生き方のテーマをこのように紡いでくれた。

「常にベースにあるのは“自然体”という言葉。自然の流れに逆らわず、無理をしないで生きていきたいですよね。」

そして、その言葉は料理に対する想いへと繋げるように続いていく。

「それじゃあ、自然体な料理って何かって聞かれたら、やっぱり、地元で採れた食材でつくることだと思うんです。それが自分には向いているし、好きなんですよね。そう考えると、なんかもう、何処でも生きていける気がします」

栃木県鹿沼市、その土地で暮らしを営む一員として、誇りを持って、上村さんはシェフであり続ける。野菜を料理し続ける。上村さんがつくったお面を是非見てもらいたい。太陽の朱色と、地球の緑。それはどちらも野菜の色だ。

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2年ぶりのもみじ市。アンリロは鹿沼の野菜をたっぷりと使ったパスタを用意してくれる。使う野菜は新鮮で色とりどり。正にカラフルだ。もちろん、みんなが大好きな、もみじ市名物と言っても良い、あのにんじんフライもあるので、どうぞお楽しみに。新鮮な素材と、プロフェッショナルな料理。そして、今のアンリロにはそれ以上の“何か”が存在している。新生アンリロは、これまでにないくらい、子供と家族に優しいフレンチベジタリアンとして、多摩川河川敷にやってくる。

【アンリロ 上村真巳さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
栃木県鹿沼市のアンリロです、栃木県は全国的に寒暖の差が厳しい土地でもあり特に野菜は美味しくなる気候なんですよ! そんなお野菜をふんだんに使ったフレンチベジタリアンがアンリロです! 美味しいおやさい食べに来てくださいね!

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
太陽のオレンジと葉っぱの緑!

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
今回は定番の人参フライはもちろん、パスタもサラダもカラフルにしあげます!もちろん屋台もお花でいっぱいにします!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いてご紹介するのは、人気イラストレーターのあのお二人です!

文●加藤周一