堀口尚子「よもやま店」(19日)

手紙舎 2nd STORYの雑貨スタッフふたりに、「手紙舎の歴史上、最も売れた雑貨を3つ挙げよ」という質問をしたら、おそらくふたりとも、この商品を3つのうちのひとつに入れるのではないか。堀口尚子さんの包装紙「tutumu+」。

hori13枚で1セットの「tutumu+」。もみじ市では組み合わせを新しくして販売する予定

A3サイズの3枚の包装紙がくるっと丸められ、薄い茶色の紙でパッケージされ、タグがつけられた商品(パッケージもタグも、堀口さん本人の手によるもの)。手紙舎で人気があるのはもちろん、大阪・京都・高知で行った紙ものまつりのときも完売した商品。3枚の包装紙は、堀口さんが切り絵で“描いた”絵をレトロ印刷で印刷したもの。大きな猫、植物、“形”をモチーフにした絵は、圧倒的な存在感があり、ロマンチックで、ノスタルジックで、極めて自由で、だけどバランスが絶妙に取れている描線によって描かれている。そして、レトロ印刷独特の鮮やかな色彩。

hori2毎年作っている「ieカレンダー」。製本も自分の手で

レトロ印刷で印刷物を制作したことがある人ならおわかりかと思うが、入稿(印刷の元となる版下データやイラストを印刷所に渡すこと)する際、イラストの原画をそのまま渡したり、スキャンしたデータをそのまま渡せばいいわけではなく、色の指定をしなければならない。例えば、堀口さんの植物の包装紙の場合7色のインクを使っているわけだが、入稿するイラストは黒一色のもので、それに、花の部分は青のインク、茎と葉っぱの部分は赤のインクと、7色分指定していくわけだ。言ってみれば、色をオーダーメイドするようなもので、実際の色味は印刷物が納品されるまでわからない(特にレトロ印刷の場合、完成のイメージを想像するのは難しい)。印刷の出来上がりをイメージするために、入稿前に、試しに色付けをしたりするのだろうか?

「まったくしないんですよね。自分の頭の中でイメージするだけ。最初はインクの濃淡がどのように出るかわからなかったり。でも、そういうのも含めて、面白い。自分がイメージしたものがどのように出来上がってくるのか、という楽しさがありますね」

hori3段ボールをキャンバスにしたコラージュ作品

「偶然性」とどう向き合うか、というのは作り手にとって重要だ。それを愛せる人と、愛せない人がいる。堀口さんは間違いなく前者だ。例えば、段ボールをキャンバスにして作品を作ってみようと思い立ったとき、まずはその上に色紙を置いてみる。自作のゴム判をポンと押してみる。そこからイメージが広がっていく。下書きは一切しない。もちろん、“描けない時”もある。そういうときはしばらく放っておく。その後しばらくして、何気なくいたずら描きをしたときに、良いものが描けたりする。

堀口尚子の強さはここにある。自由なのだ。表現というものに対して純粋に向き合いながら、だけどそれにとらわれてはいない。つくりたいものを、つくる。つくりたいから、つくる。彼女と話しているときに、「仕事だからこういうことをやっている」という雰囲気は微塵も感じられない。

hori4手紙社の著作「レトロ印刷の本」のカバーは、堀口さんのイラストです

「絵だけを描いてゆく、とも決めてないですね。この素材だったらこういう表現方法があるかな、とか。この色だったらこういう素材を使ったら面白いかな、とか、自由でありたいですね」

hori5絵だけでなく編み物も。隠れた人気のムササビマフラー

作り手として自分を“何か”に例えるなら? という質問を堀口さんにしたことがある。
「水」
と彼女は答えた。
「形が定まっていない感じ。何にでも、注いだものにちゃんと収まる感じ。かたまるけど、また戻る。決まっていない感じが好き」

そんな堀口さんに今年、“表現の神様”が降りて来た。
「テキスタイルだ! と思ったんです。これ、私やりたいって。今までなんで気づかなかったんだろうって」
信じられないような本当の話なのだが、まさに堀口さんがそう思ったタイミングで、フィンランドのテキスタイルブランド・カウニステ社から一本のメールが来る。贈答用の包装紙に用いる図案を考えて欲しいと。堀口さんの答えは、もちろん「Kyllä!」(フィンランド語で「yes」)。堀口さんが描いた包装紙は、近々本国でお目見えする予定。

カウニステ以外にも、ヨーロッパの人々から連絡をもらうことが多い。つい先日は、デンマークの方から、どうしてもポストカードの図案として使わせて欲しいという連絡が来た。才能のある人は“世界”が放っておかないのだ。

さて、はじめに紹介した包装紙「tutumu+」。包装紙と言いながらも、それを包装紙として使っている、という声はほとんど聞かない。購入したお客様に聞くと、圧倒的に多いのが「部屋に飾ります」という答え。もちろん、それは自由だ。自由な表現で作られた作品が作家の手を離れたとき、それは更なる自由の海へと旅立つ。堀口尚子というよどみなく流れる水は、多摩川へ、そして世界中の海へ、何にも邪魔されることなく、自由に流れてゆくのだ。

【堀口尚子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
表現方法にこだわらず何でも創ってみるをモットーに活動中。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
玉虫色。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
「tutumu+」「ieカレンダー2014」などの「紙もの」と、「ことはな」という花の種とことばを合わせた楽しいくじ引きをご用意しております。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いてご紹介するのは、栃木の生んだ伝説のフレンチベジタリアン! もみじ市のスペシャリテ・にんじんフライが帰ってきます!!

文●北島勲

café tojo(カフェ・トホ)「自家製天然酵母パンとスイーツ、スープ」

「青木さんからはじまって、次はイボンヌさん、そしてウーさん、4代目はエノモトエミリさん、5代目は小野田さん」

これ、何の話だかわかりますか? これらはすべて「café tojo」(カフェ・トホ)さんが歴代育ててきた天然酵母に付けられた名前なのです。

「カフェトホといえば天然酵母のパン」と思い浮かべる方も多いと思いますが、お話を聞いてみると、はじめは意外にもドライイーストのパンを焼いていたとのこと。それが天然酵母のパンへと移行していったのは、東條モニカさんが長女桃花ちゃんを出産した際の助産師さんとの出会いがきっかけ。お世話になった助産師さんがかつて静岡に住んでいた時にパン屋を営んでいた方で、「酵母菌を育てるのは子育てと一緒よ、ご主人むいてそうだからやってみたら?」と言われたことがきっかけで天然酵母を用いてパンを作るようになったのだそうです。

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東條さんは「どちらかというと天然酵母のパンは硬くて酸っぱいという印象を持っていた」のですが、試行錯誤しながらパン作りをつづけていく中で、酵母の種類や配合、発酵の状態をコントロールすることで酸っぱくないパンを作ることができるようになったといいます。

酵母菌を育てはじめて、「あ」の「青木さん」から順番に50音順に名前をつけていて、今育てている1番新しい酵母には「し」ではじまる名前の(巨峰酵母の)「シューベルト」と名付けられました。単純にいついつ作った酵母というと記憶に残らないけれど、酵母に毎回名前を付けることで「オノダさんはあのときこうだったよね~」と今でも当時の酵母菌の状態、パンの出来上がりの状態を思い出すことができるそうです。

「『元気か?』と毎日声を掛けて、天然酵母を育てています。毎日変化するので、思うようには行かない。手を掛けすぎてもいけなくて、本当に子供のようでかわいいんですよ」

こう笑顔で話すのは、アフロヘアーの東條吉和さん。吉和さんの手は大きくてあたたかいので、天然酵母のパン生地を捏ねるのにぴったりだそう。

天然酵母のパン以外に、もうひとつの看板メニューである「トホブレンド」の珈琲のドリップも、吉和さんの担当。吉和さんだけが提供できるので、吉和さんのいる時の珈琲の看板は表の「炭火焙煎深煎珈琲トホブレンドあり〼。」いない時は裏の「店主不在のためトホブレンドはありません。」にして、道を通るお客さんに知らせているとのこと。

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珈琲の提供有無を伝えるかわいい手描きの看板は、知人のイラストレーターさんが描いてくれたもの。そのイラストレーターさんは、家族で通う銭湯でこどもたちが仲良くなったことがきっかけで、お店に遊びに来てくれるようになったのだそう。こんなエピソードを伺うと、カフェトホさんはこうやって人との縁の中でゆるやかに導かれて、少しずつ変化しながら、素敵なお店を続けていくんだろうな、とこちらも幸せな気分をお裾分けしてもらったような気持ちになりました。

今回のもみじ市には、東條さんご夫婦、桃花ちゃん、月之助くん、生後6ヶ月の桜ちゃんの家族5人全員で元気に参加してくれます。ライ麦パンとスープがセットになった「ハンカチランチ」、ダークチェリーとダークチョコの入った「黒い森のチーズケーキ」、吉和さんが丁寧にドリップして提供する「トホブレンド」のコーヒーなどを、ご用意していただける予定です。もう一種類、「三日間がかりで作る天然酵母のバターケーキ」は味が変化していくので持ち帰って少しずつ食べてもらうのがオススメとのこと。トーストして食べるのもおいしいということなので、もみじ市が終わってからも楽しみが続きそうなのはうれしいですね。 

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【café tojo 東條吉和さん、モニカさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
笹塚にある自家製天然酵母手ごねパンと炭火焙煎珈琲のお店café tojo(カフェ・トホ)です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
お店を象徴する色は黒とグリーンです。「黒」はお店の躯体や螺旋階段に使われている鉄の黒。「グリーン」はお客様からは見えないところにあうのですが厨房に敷かれているゴムがゴルフグリーンと言われるきれいな緑色でふたつがテーマカラーになっています。 

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
スープとライ麦パンのセットを「ハンカチランチ」としてご用意します。40センチ四方のお好きなハンカチや手ぬぐいなどを持ってきていただけると包んでお渡しします。キレイな色のハンカチで包んでカラフルハンカチランチになったらたのしいですね。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

「表現方法にこだわらず何でも創ってみるをモットーに活動中」。続いては、“世界”をも魅了するあの人の登場です!

文●尾崎博一

ひなた焼菓子店「焼き菓子と木のモノ」(20日)

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「あんまり役に立ってないんですよコレ」

そう語る店主・森和子さんの視線の先にあるのは、とってもシンプルなメニュー表。そこに記されているのは、『TART、SCONE、ROLLCAKE、CAKE、QUICHE…』。一体どんなタルトやケーキやキッシュが出てくるんだろう? そう思ったあなたは、立派な食いしん坊。頭の中に、ありとあらゆるタルトやケーキやキッシュがぐるぐると駆け巡り始めませんか? 想像力が掻き立てられるこんなメニュー表が客席に置いてある、そのお店の名前は「ひなた焼菓子店」です。

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小田急線の東林間にカフェと家具屋さんを併設したお店がオープンしたのは2010年12月のこと。それまでは、町田市にある一軒家で、店頭販売だけを行っていました。今のお店がオープンしてからまもなく丸3年。その場で食べてもらえるメニューを提供できるようになったことで、お菓子の作り手として、森さんの創作の幅が広がっていきました。

「召し上がったお客さまの反応が、その場で直に感じることができるようになったのがいちばん大きな変化であり、喜びですね」

お店がオープンしてから、新しいメニューも増えています。

「何か食べたいのある?」

森さんがこの言葉をお客さまに投げかけるとき、それは彼女が創作意欲に溢れている何よりの証拠です。もしもそんな場面に遭遇することができたのならば、あなたはとってもラッキーです。森さんが作り手として最大のパフォーマンスを発揮する場面に遭遇できたのですから。

「新メニューの創作に必要であり大切なのは、“心”と“時間”の余裕です。そのどちらが欠けても、魅力的なメニューは生まれません。けれど、両方がそろっているときにお客さまからリクエストを受けると、あ、やってみよう! という気持ちになるんです」

実際、お客さまからリクエストされなければ生み出されなかったものもたくさんあります。季節のフルーツを贅沢に使ったパフェはその代表的なメニューのひとつ。

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森さんは、メニューのレシピをノートに残すことはしません。書き残すとしたら、それはもっぱらカレンダー。ある日生まれたメニューは、その日のカレンダーの余白に書き残します。ただ、少々厄介なことは、カレンダーは一年が終われば処分してしまうこと。だから、お客さまに「去年のアレが食べたいなあ」と言われたときに、アレってなんだっけなあ、と考えることもしばしば訪れるのだとか。

「本当はレシピをきちんと残しておかないといけないんですけどね…」

苦笑いしながら話す森さん。けれどもその瞳の奥からは、その状況を楽しんでいるような、作り手としての無邪気な情熱が伝わってきます。レシピがないのだから、当然お客さまが求めていた味と同じにはならないことも多い。でも、間違いなく美味しい。だからこそ、お客さまもその変化を確かめに、楽しみに、そして味わいに森さんの下へ訪れてしまうのです。

「作るたびに進化しているのかな?」

冗談まじりに話すその言葉。けれどもその言葉の裏に感じる、熱く燃えるその情熱。森さんの菓子職人としての核心を垣間見たような瞬間でした。冒頭にお見せしたあのメニュー表。シンプルなあの体裁を変えない理由も、なんとなくわかったような気がします。

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今回、森さんのご主人である木工作家・鰤岡(ぶりおか)力也さんも数年ぶりにもみじ市に参加されます。そう、「木のモノ」が復活するんですよ。何を隠そう、ひなた焼菓子店の什器も、全て鰤岡さんが手掛けているのです。木の温かさも感じさせながらも、余分なものを全てそぎ落としたシンプルなデザインは、森さんのお菓子とも相性が抜群です。もみじ市では、木のプレートや、カッティングボードなど、暮らし、特に「食」にまつわる場面で、私達を豊かな気持ちにしてくれる品をご用意してくださるそうですよ。

今年、ひなた焼菓子店の多摩川出張所には、カラフルなカップで装った色鮮やかなカップケーキが並びます。森さんは、もみじ市当日が晴れであることを願ってやみません。だって、“ひなた”焼菓子店だから。突き抜けるように澄んだ青空と、そっと手を差し伸べられたかのような心地よい日差し。そんな風景をイメージしながら、森さんはたくさんのお菓子を用意してくれるでしょう。

【ひなた焼菓子店 森和子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
相模原市の東林間でカフェと家具屋を併設した焼き菓子店です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
クッキーやタルトの美味しく焼けた生地の色や、季節の栗の色の、茶色です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
フルーツの彩りが楽しめる焼き込みのタルト、栗のカップケーキ、定番のクッキーなどの他、コーヒーも用意する予定です。また、併設の家具屋さんも木のお皿などの販売もあります。どうぞ楽しみにいらして下さい。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、家族のように大切に酵母を育てるベーカリーカフェ!

文●加藤周一

tupera tupera「カラフル人工場」

「カラフル人を増産します!」
tupera tuperaの亀山さんは、言ってくれた。

写真① PHOTO RYUMON KAGIOKAPHOTO RYUMON KAGIOKA

2013年4月下旬、もみじ市事務局のメンバーは10月に開催が決定したもみじ市のメインビジュアルをお願いするイラストレーターさんについて話しあっていた。

「やっぱり、tupera tuperaさんにお願いしたいね」

今年のもみじ市のテーマが「カラフル」に決まり、当日のドレスコードも“カラフルな出で立ちに”と決まって以来、私はちょっとした不安を抱えていた。あれ、もみじ市に来てくださるお客さんって、そんなにカラフルだったっけ…? でも亀山さんの力強い言葉を聞いて「うん、これできっと今年も大丈夫だ」と心から思えた。

tupera tuperaは、亀山達矢さんと中川敦子さんのユニット。絵本や、イラストレーションをはじめ、日本各地で、それはそれはカラフルで愉快なワークショップを開催するなど多方面で大活躍をしている。最近ではNHK Eテレの工作番組「ノージーのひらめき工房」のアートディレクションの担当もしており、目にしたことのある方も多いのではないだろうか。

今年10年目を迎えるtupera tuperaのおふたり。多方面からひっぱりだこで大忙しの中、今年のもみじ市では当日の出店だけでなく、もみじ市のサイトやポスターなどに使われている、メインビジュアルの話を本当に快く引き受けてくれた。どうしてそんなにお忙しいのに、引き受けてくださったのですか?

「自分たちにとって大事な部分っていうのがある。大事なひと、大事な出版社、大事なイベントというのがある。この先の10年は、今までの10年を一緒に作ってきた人達と色々やってきたい。そういう人とのことは、どういうことであれ“やるぞ”と思う。もみじ市もそのひとつ。その先は、それまでの人と作って行く、かっこ良くいえば。かっこ良いでしょ。」

はい、カッコ良いです。

新しい人との出会いも新鮮でもちろん大切にされるけど、これまでの10年を一緒にやってきた人=大事な人、を大切にしていかなくてはという姿勢がとても頼もしくて、そしてそこにもみじ市が含まれていること、とても嬉しく誇りに思えた。

もみじ市で恒例となったワークショップは「色々な人と関わりながら作るのが楽しくなったきっかけ」になったのだそう。そして、今年のもみじ市では「カラフル人工場」というお面作りのワークショップを開催してくれる。子供はもちろん、大人も楽しめるワークショップ、しかも当日の飛び込み参加が可能となっているので「あれ、今日ちょっと地味だったかな?」と思った人も、もっとカラフルになりたい人も、カラフル人になりに行ってみてくださいね。

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「パンダのシッポ、実は白いんですよ。おしい。だから90点!」
パンダの出っ張っているところは全部黒いと思われがちだけど、実はシッポだけは白いのだそうだ。だから90点。

これは、tupera tuperaさんの新しい絵本『パンダ銭湯』(絵本館)を見せて頂いた時のはなし。亀山さんは出来たてホヤホヤの絵本を読み聞かせしてくれた。

亀山さん:「チャ」(絵本の中に出てくるフレーズ)
私:「アッ!!」
思ってもいないまさかの展開だ(ぜひ、本を読んで下さいね)。

tupera tuperaさんは、いつもクスッと笑っちゃうような何かをどこかに仕掛けている。だから私はその「クスッと」を見つけたくて、じっくりじっくりtupera tuperaさんの絵を見入ってしまう。

今年のメインビジュアルのポスターの中にも、あれ、どこかでみたことがあるような…もしかして…、そんな顔がいくつも隠れている。このメインビジュアルは、個性豊かでカラフルなもみじ市出店者の皆さんをイメージして作ってくださったのだとか。うずを巻いているあれとか、さくさくっと美味しいあれとか…あなたはいくつ見つけられたでしょうか?

tupera tuperaさんの出店は19日・20日の両日です。どのブースから周ろうか迷っているあなた、まずは「カラフル人工場」でtupera tuperaさんとお面を作って、とびっきりのカラフル人になって、もみじ市を楽しんでみませんか?

<tupera tuoeraワークショップ「カラフルお面を作ってカラフル人になろう!」のご案内>
開催日時
10月19日(土)11:00~15:00
10月20日(日)10:30~14:30
※両日とも開催時間中は随時受け付けいたします。

参加費:500円(当日のお支払い)
定員:各日150名
お申し込み方法:事前のお申し込みなしでご参加いただけます。

 【tupera tupera 亀山達矢さんと中川敦子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
亀山達矢と中川敦子、二人合わせて tupera tupera です。絵本、工作、ワークショップなど、とにかくいろいろな事をやっています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
亀山「グリーン」
中川「オレンジ」
補色です。ハレーションです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
カラフル人を量産します。みなさま、ぜひカラフル人工場にお越し下さい。とびっきりののカラフル人になりましょう!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、東林間にある、とっても素敵な焼き菓子店。開催時間中のおやつに、お持ち帰りのお土産に、お一ついかがですか?

文●上村明菜

フォトノスタルジア「旅するカメラ屋」

取材の本題そっちのけで話が盛り上がり、その人に興味が出てきてしまって、聞かなきゃいけないことを忘れてしまったりする時がたまにある。でも、これ、すこぶる楽しいんです。今回の取材は完全に、このパターンでした。

今回ご紹介させていただくのは、フォトノスタルジアを営む金子洋一さん。フォトノスタルジアは35mm、中判カメラ、二眼レフカメラ、トイカメラなどのフィルムカメラを販売するフィルムカメラ専門店。今、お店の移転を計画中で、現在は手紙舎2nd storyでの販売とイベントでの販売などをメインにしています。

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金子さんにお店を始めたきっかけを尋ねると、軽やかに当時のことを語ってくれました。

「うちの実家は八百屋さんだったんです。それで、当時これからくるぞと思ったコンビニの展開を始めました。それから、子供が生まれたこともあって写真を撮るようになって、フィルムの現像に出す機会が増えました。それで、これはいい商売になるぞ! とフィルムの現像のチェーン店の経営をしました。根っからの商売人なんでしょうね(笑)。でも、当時は現像なんかしたこともなかったし、お客さんから現像のことを教えてもらったりしてね。そうこうしてるうちに、写真に詳しくなっていきました。そして嫁さんの実家にヤシカのカメラがあって、古いのにすごくキレイに撮れてびっくりして、ヤシカを集めるようになりました。それでお店にもカメラを置くようになって、お客さんと盛り上がっていって…」

と、ここまでが、売るものが「野菜」から「カメラ」になるまでの物語。さらに話は続きます。

「それから友達がビレッジバンガードのFCをしていて、これもいいなと思ったんですけど、資本がたくさんいるからって諦めて(笑)。でも、その友達がきっかけでビレッジバンガードに古いカメラとか珍しいトイカメラなんかを卸すようになったんです。それがうけてね」

当時はまだ、トイカメラとかカメラ女子なんていう言葉がない時代。金子さんはいち早くその可能性に気づいたのです。

「その後、カメラ女子ブームの火付け役となった雑誌『カメラ日和』のライターさんから取材の連絡が入り、トイカメラなどの珍しいカメラを紹介する連載が始まって、通販も始めたら反響が大きくてね。今に至るわけです」

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どうですか、このバイタリティ。時代の流れをキャッチして、それをおもしろがり、自分のものにしていく。

「最近ね、車を買ったんですよ!」

嬉しそうに携帯のアルバムを見せてくれる金子さん。そこにはレトロなフィアットチンクェチェントが。とってもかわいい!

「レトロカーも好きでね。古いものはいいですよ。古い物こそ修理すれば直りますし、残していけます。壊れることもありますけど、それはご愛嬌。便利さだけではおもしろくないですからね」

興味が尽きませんねと金子さんに言うと、

「結局ね、僕は人が好きなんですよ。フィルムカメラにしても、レトロカーにしても、それ自体もちろん魅力に溢れてますけど、それを好きでいて、いろいろな所に行くと人と繋がっていく。それが一番楽しいんですよ」

金子さんの真骨頂がこれなのだなと納得。フィルムカメラをどんなモノとして捉えるかは人それぞれだと思いますが、フィルムカメラも、レトロカーも、つまりは人との繋がりを広げてくれ、楽しみを増やしてくれ、自分の世界を広げてくれる、人生を楽しむためのきっかけなのかもしれないと思いました。

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おっと! 取材につられて、本題を忘れるところでした。もみじ市では、金子さんが集めたフィルムカメラたちの他に、周辺機材、そして、アンティークなフィルムカメラにぴったりのトランクも。オリジナルのストラップも持ってきてくれるとのことなのでお楽しみに。フィルムカメラはもちろん。もみじ市で大好きなものを見付けて、それをきっかけに人の輪が広がって、みなさんの人生が豊かなものになりますように!

【フォトノスタルジア 金子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
フィルムカメラ専門店「フォトノスタルジア」です。今は移動販売やイベントを中心に展開しています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
お店のロゴもそうなのですが、テーマカラーにもなっているグリーンです。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
フィルカメラ、三脚などの機材とフィルムカメラに合うアンティークトランクを販売します。カメラは黒かシルバーの単色なので、オリジナルのストラップを制作して、カラフルなものを用意しようと思っています。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのはメインビジュアルを手がけてくれたあの人たちですよ! さぁ、みんなあつまれ〜!

文●竹内省二

畑のコウボパン タロー屋「野生酵母パン」(19日)

パンが“生きている”。

それは、生まれて初めての体験だった。取材前、その店のテラスでかじったパンは、「モモ酵母の食パン」。力強くつながれた小麦をちぎるように食み、噛むごとにぷつぷつと細かく弾けるような食感は、まるで生命を体に取り込むような野性的な感覚だ。それでいて、桃特有のふわりとした甘い香りに心は安らぎ、後を引く酸味に惹かれるようにまたひと口、さらにひと口と続く。この店のパンは、明らかに自分が食べてきたパンとは異なる。これからこのパンのつくり手と話せる、そう思うと胸が高鳴った。

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さいたま市浦和区、住宅街の小道を歩いていく。ここらへんかな、そんな予想が何度も外れながら、ようやく目的地となる場所に着いた。「畑のコウボパン タロー屋」。自家菜園から採れる季節の果物・野菜・花から酵母を育て、四季折々のパンを作っている。取材に訪れた土曜日は、今春オープンした新店舗の窓口販売の日。週に二日だけの販売だが、日によっては開店前から列ができ、一時間ほどで売り切れてしまうそう。貴重な営業日、しばらくお店の様子を後ろから見てみることにした。

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近所に住むちいさな男の子。千円札をぎゅっとにぎりしめていた。いつもお使いに来るそう。たしかに慣れた感じだ。「何のパンが好き?」と聞くと、「しょっぱいパンが好き」と答えてくれた。

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続々とお客さんが来る。こちらの方は、「やわらかくて食べやすいパンがいいわ」とスタッフの方にリクエスト。おすすめに従い「巨峰酵母のデザートフォカッチャ」と「モモ酵母の白パン」を購入。スタッフの方が、保存の仕方やおいしい召し上がり方も丁寧に教えている。 

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「汚れちゃうから靴脱ぐね」と店に入ってきたのは、近くの畑で作業を終えた農家さん。大きな「巨峰酵母のノア・レザン」を男らしく買っていった。説明をしているのは、店主の橋口太郎さん。

「動きがよくない」と橋口さんが話すこの日も、取材を始めて少しすると店頭用のパンは売り切れとなった。お店が落ち着いて来たので、テラスのベンチでゆっくりとお話を伺うことにした。

店主の橋口さんは、専門学校でインテリアデザインを学び、店舗設計の仕事をした後、友人とデザイン事務所を立ち上げて、2年間ほど紙媒体のデザインをしていたという。自分が抱いていたクリエイティブなイメージと異なり、実際は受け身な仕事が多く、そのギャップが高まってきたある日、知人から酵母の話を聞く。自分でも酵母を起こせるということに興味がわき、試しに、庭に成っていたびわで酵母を起こしてみた。

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「水に入れて管理するだけで、しゅわしゅわと泡が出て、酵母液が出来る。まるで“魔法”のような体験でした。それから色んな酵母を起こすようになりました。家中に酵母液のビンが転がっていて、まわりにはびっくりされましたね。酵母でパンを作り始めるようになり、実家の畑でも、酵母のために野菜や果物を育て始めました。既存の社会の枠組みにあるものを仕入れなくても、ものが生み出せる。そんな酵母中心の生活には毎日新しい発見や喜びがあって、楽しくて、それがあるからこそ、今パンをつくらせていただいていると思います」

タロー屋さんのパンづくりの入り口は、自然酵母にある。こんなパンがつくりたいから、それに合わせた酵母をつくる、という考え方ではない。起こした酵母の味を確かめ、それに合ったパンを生み出すのだ。初めは副材料を入れるのがこわかった、という。今も酵母の風味を損なわないよう、合わせる素材には気をつけている。これまで酵母といえば、どちらかというと食感を形づくるものかと考えていた自分にとって、酵母由来の香りがわっと広がるタロー屋のパンは驚くべきものだった。

「酵母はたしかにパンを膨らますことに使われますが、単なる膨らましの材料としては考えたくありません。それでは“つくる楽しみ”が薄れてしまう。たとえば、レーズンなどのドライフルーツは甘みが強く、発酵しやすい優秀な酵母です。パンを膨らませる目的だけ考えれば、この酵母だけあれば良い。だけど、さまざまな酵母を起こした時の喜びは、何ものにも代えがたい。それを皆さんにも感じて欲しい。フレッシュな酵母でつくられた季節感のあるパンを皆さんに味わってほしいのです」

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橋口さんがつくる酵母の数は、年間約50種類。1種類の酵母を長年つないで使うパン屋さんもある一方で、タロー屋のパンは季節の素材と「一期一会」だ。

「今も金木犀の開花が遅れていてドキドキしているんですが、必ずしも上手く手に入るとは限らない自然の素材と誠実に向き合うのは、緊張感のいる作業です。気候の変化で素材を使える時期がずれたり、パンを発酵させるために温度や湿度を管理する機器を使っても、外的変化で左右されることもある。ですが、それはつくり手にとって必要な緊張感。釣りをするのが好きなんですが、もしかすると釣りとパンづくりは似ているかもしれません。タイミングを“待つ”こと。酵母の発酵、パンの発酵のタイミングを見誤らず、世話をすることが上手くできた時、おいしいパンができる気がします」

春は、八重桜の若葉で起こした酵母。夏は、ラベンダー酵母。秋は、初めて花でつくった金木犀酵母。冬は、柑橘系やイチゴの酵母。四季の移ろいとともに咲く花が変わるように、つくられる酵母の変化とともに店に並ぶパンも変わる。毎年春の季節だけ来るお客さんもいるそうだ。今年もこの季節になりましたね、と挨拶をするのが橋口さんの楽しみらしい。

今でこそ工房での窓口販売を行っているが、昔は卸販売だけだったというタロー屋。直売を始めたきっかけを尋ねてみた。

「前の工房で卸し用のパンを焼いていると、香りが外に流れていくんです。近くの中学校の通学路にあって、ある中学生の子が『パン屋さん、いつから始まるんですか』と毎日のように手紙を入れてくれて。近所の方々からの声もあり、テーブルにクロスをかけてその上にちょんちょんとパンを置いた、バナナの叩き売りのような状態でお店が始まりました」

そんなエピソードを聞きながら、タロー屋にとって、訪れてくれるお客さまは特に大切な存在なのだろう、と取材前の店の様子を思い返していた。お客さまが外に見えると、「2週間ぶりに来たね」「あの人がいつも買うパン、まだ残ってるかな」と話すスタッフの皆さん。馴染みではない方にもパンの好みを伺ったりと、パンを通して会話が生まれていた。

「僕はパン屋ですが、パン職人と言われると違和感があります。パンをつくりたい、というだけではなく、パンはお客さんと自分がコミュニケーションをとるための媒介のようなもので、“人とつながりたい”という思いがどこかにあるのかもしれません。パンを通して、ここでお客さんとつながることが実はいちばん楽しい。なにより喜びを感じていると思います」

四季折々のフレッシュな素材、そしてそこから生まれるパンを口にする人々。タロー屋にとって、それぞれとの出会いはかけがえのないものだ。

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取材を終えて5日後。タロー屋のホームページを開くと、ボウルいっぱいの色鮮やかな金木犀の写真が、トップページに載っていた。秋色のパンが、もみじ市にやってくる。

【畑のコウボパン タロー屋 橋口太郎さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
さいたま市浦和区の小さなパン工房「畑のコウボパン タロー屋」と申します。四季折々の果物、お野菜、花から酵母を起こしてパンを焼いています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
店先に並ぶ酵母瓶の色にならえば、いまの季節は金木犀のオレンジ色の気分です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
秋の酵母で作るカンパーニュ、フォカッチャなどなど、生命力を感じられるような、元気なパンをたくさん焼き上げて参りたいと思います。金木犀のお花も無事に収穫出来たので、花酵母のパンもご用意したいと思います。噛んで味わい、のど越しに抜ける風味から秋色を感じる…そんなパンをお作りしたいです!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、人呼んで“ミスタークラシックカメラ”。フィルムカメラ専門店を営むあの方の登場です!

文●柿本康治

夜長堂「いとし紙店」

「夜明けています」

その奇妙な看板を見つけたら、「姿は見えねど」がモットーの夜長堂の店主が、珍しく店を開けているという合図。そこは、懐かしく、妖しく、だけどたまらなく愛らしい古い図柄の並ぶ店。レトロモダンな図柄を使った紙ものや布もののほか、古道具やこけし、妖怪グッズなどもある。ひと月に数回ほどしか開いていないその店はまるで、子どものころ、暗くなるまで遊んでいるうちに迷い込んだ、見知らぬ町の玩具店のようだ。

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では、店を開けていないとき、夜長堂は何をしているのかというと、「いつなんどきも営業しております」という。夜長堂の店主・井上タツ子さんは、大正・昭和の着物や千代紙に使われていた図柄を復刻し、紙雑貨や布小物の企画・販売を行っている。大阪・天満橋にあるアトリエを兼ねた店を開けているとき以外は、展示やイベントを行ったり、出店したりと、全国津々浦々を飛び回る。さらに、古いビルや妖怪史、地方の祭や風習などの取材に赴き、執筆や編集、商品企画まで手がけるのだから驚きだ。クリエイターであり、プランナーであり、編集者であり、アキンドでもある「夜長堂」という不思議な存在。

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だけど、井上さんの心惹かれるものたちにはすべて、揺るぎない世界観がある。かわいいけれど、なんだか少し怖くて、妖しげで、覗いてみたい。初めて一人で留守番をした少女が、おばあちゃんの和箪笥をこっそり開き、着物を纏ってみるような。縁日で父親とはぐれた少年が、鳥居のそばで狐のお化けに出会うような。夜長堂の発信するものからは、そんな秘密めいた魅力がある。

「”怖さ”とか”懐かしさ”って、実際に見たから感じるんじゃなくて、自分の中にあるんです。昔の図柄や、妖怪やこけしって、そういう内側にある恐怖や郷愁を呼び起こす。トントンって扉をノックされるような、そんな気がして」

井上さんのその言葉を聞いて、ハッとした。子どものころ、夜のお風呂で一人、髪を洗うのが怖かった。そんな経験は誰にもあるだろう。わたしたちは、”見たこともないもの”に怯えているのだ。逆にいえば、なんて、人間の心は繊細で想像力豊かなのだろう。

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井上さんが昔の図柄に惹かれる理由はもう一つある。

「情報のない時代、見たことがないものを想像だけで描き上げている。その発想の豊かさ、自由さ。そして、”作家”としてではなく、生きるため、食べていくためにものづくりをしていた人たちの、純粋さ。今見るとすごく新鮮なんです」

現代に生きるわたしたちなら、本物の象を見たことがなくても、象がどんな生き物かわかるだろう。本やテレビはもちろん、今やインターネットで画像検索すれば簡単に写真を探せる時代。だけど、それらがなかった時代に、異国の動物や植物、さまざまな意匠を描いた人がいる。想像力を駆使して、時にユーモラスに、時にロマンチックに。彼らは”作家”として讃えられることはない。着物や千代紙を作ることで、生活の糧を得ていた名もなき人たち。けれど、何の情報にも頼らないその想像力こそ、わたしたちの心の奥底にある「見えないものを見る力」なのだ。

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だが、井上さんは「古き良きものに光を当てる」などといった定型句の使命感にかられて、古い図柄を復刻しているわけではない。井上さんもまた、「作家」と名乗るよりも、かつての意匠に想いを巡らせ、その時代とその時代を生きた人々の心模様を想像する人だ。

「実は、他人の描いた絵で商売をすることに罪悪感を感じたこともありました。でも、『乙女モダン図案帖』という著書を発行したことで、記録されることのなかったものが一冊にまとまり、国内はもちろん海外の人たちにも、日本の古い図柄の魅力を知ってもらうことができた。これって、今の時代にしかできなかったことですよね」

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約100年前の無名の職人が、その本を見たらどんなに驚くだろう。もちろん、過去も未来もわたしたちは見ることはできない。だけど、見えないものに想像を巡らせるのは自由だ。恋心、郷愁、滑稽さ、愚かしさ、おっかなさ、そして愛しさ。夜長堂の図案には、100年前から変わらない人間の心模様が、想像力たっぷりに描かれている。それらはきっと、手に取った人の心の扉も、トントンとノックするはずだ。多摩川河川敷で2日間だけ現れる、夜長堂の「いとし紙店」。どうぞ、ごひいきに。

【夜長堂 井上タツ子さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
大正、昭和のモダンな図柄を復刻して紙ものやハンカチなど様々な雑貨の企画、販売、卸をしています。その他、こけしや郷土玩具の紹介や、ビル好きの仲間5人とともにBMC(ビルマニアカフェ)として、高度経済成長期に建設されたビルの魅力を紹介する「月刊ビル」や「いいビルの写真集」などの発行、もとキャバレーなどを会場にイベントを開催したりと、多方面で活動しています。こんな感じで自分が好きなものを追いかける事が仕事のような毎日を送っています。 好きなものを追いかける事は決して楽ではないですがとにかく気合いで何でも乗り越えています。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
クレヨンのカラフルな色を使って色を塗り、その上から黒色を重ねます。 黒を削ると下からカラフルな色が出てきます。その時出てくる虹色みたいな色。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
「カラフル」というテーマに夜長堂的ニッポンのおみやげもの屋さん要素を加え、カワイイ妖怪グッズや張り子やこけしなど謎の品揃えです。お楽しみに!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

続いてご紹介するのは、四季折々の素材を使ってさまざまな酵母をおこすパン屋さん。その数年間50種類! もみじ市にはどんなパンを持ってきてくれるのでしょうか。

文●増田 知沙

イシイリョウコ「不思議の人形とカラフルな小さなもの」

「キタジマさん、あのとき、怒ってませんでした?」
イシイリョウコさんが言う“あのとき”とは、いまから8年前の、あのときだ。

ishii1水玉の少女。こんな子がそばいにいたら、毎日はきっと幸せ。
頭の“彼”は、取り外し可能

当時ぼくは「カメラ日和」という雑誌を立ち上げたばかりで、そのなかで写真を使った雑貨を作ってくれる作家さんを探していた。そして、イシイさんにファーストコンタクトをとったわけだ。今考えてみると、イシイさんに写真ありきの雑貨制作を依頼するのは失礼も甚だしいのだけれど、とにかく、イシイさんと何か仕事をしたかった。イシイリョウコという人に会ってみたかった。言って見れば、その目的のために、自分がつくっている雑誌を利用したのだ(編集者とはそういうものなのです)。

ishii2頭にトリを乗せた少女。スカートの柄が素敵。まさにカラフル!

あの頃、イシイさんの作品とその存在を知ったばかりで、初めて彼女がつくる人形を見たときに、「なんという奇妙な作品なのだ」と思った。かわいい、という要素も、ある。寂しい、という要素も、ある。しかしやはり、奇妙なのだ。ストレンジで、ミステリアスなのだ。そのオリジナリティと魅力は強烈で、この“才能”を自分の眼で見てみたい、と思った。

怒っているように見えたのは間違いなく緊張していたからで、あのころのぼくはイシイさんのような作家さんとはあまりお付き合いがなく、あれだけの才能を持った人で、あのような奇妙なものを作る人だ、いかにもアーティスト風な、気取った人だったらどうしようと、会う前からとても構えていたのだ。

ishii3船ボーイ! 手に持っているのは冒険小説か、宝島の地図か

しかしその期待(?)は、序盤に裏切られた。「朗らか」という言葉はこの人のためにあるのではないか。とにかく、よく、笑う。ぼくの周りにこんなに笑う人はいないのでは? と思うくらいよく笑う。だから次第にこちらも愉快になって来る。都合、みんなイシイさんのことを好きになってしまう。あんなに素敵なものを作っている人がこんなにも朗らかな人なのだ。好きにならないわけはない。

ishii4小さなトリオ。左の少女に注目。体が富士山、頭も富士山!
おめでたいにも程があります

あれから8年。今回初めてイシイさんを担当することになり(もみじ市の出店者さんひとりひとりに、事務局のスタッフが「担当」としてつきます)、手紙舎でインタビューを行った。こんなにきちんと話をしたことはこの8年の間にはなく、初めて知ることもあった。イシイさんが美大の油絵科に在籍していたこと。初めて自分の作品を売ったのは大学の学園祭で、その作品とは手描きの(!)ポストカードだったこと。一社だけ就職活動をしたこと。しかし、就職はせずに、卒業してすぐに作家活動を始めたこと。ほかにもいろんな話をする中で印象的だったのは、今ではイシイさんの代名詞ともなっている「人形」が生まれた背景。それは、大学を卒業した年の8月、初めて個展を行ったときのこと。

ishii5イシイさんの作品には珍しい、粘土でつくったミニミニブローチ。
その右はリング

「“手に持つ絵”が作れたら面白いなって。裁縫とかは苦手だったのですが、見よう見まねで人形を作って、これに絵をつけたら楽しいかもしれない、と思いました。おそるおそるギャラリーの人に、こんなの作ってみたんですけどって見せたら、面白い! と言って下さって。初めて人形を展示しました」
イシイさんは続ける。
「人形を作るという感覚とはちょっと違います。人形作家の方は他にもたくさんいますし、人形自体にはさほど興味がないんです。人形を作りたいのではないんですよね。普通の絵だったら壁に飾るだけですが、人形だったらテーブルの上に置いても良いし、天井から吊るしても良いし、鞄にもかけられる。やっぱり、手に持つ絵ですね」

ishii6天井からも吊るせる“絵”。やっぱりすごい才能だなぁ、と思う

つまり、イシイさんにとっては、人形は絵である、と。人形に絵をつけたかったわけではない。演出家イシイリョウコは、絵を手で持てるようにするために、人形という名の役者をキャスティングしたのだ。

ishii7今年のもみじ市の目玉。靴作家UZURAさんとのコラボ作品。
乙女ならずとも、おじさんにもたまりません。欲しすぎます

手紙舎の雑貨売り場に、「てがみバッグさん」という人形が“いる”。あるときはポストカードの棚にまぎれてさりげなく、あるときはテーブルの上で他を寄せ付けない感じで、あるときはレジの横でここが自分の居場所とでも言いたげな顔で。これは、手紙舎ができた4年前に、イシイさんがプレゼントしてくれたもので、この4年間、手紙舎を見続けてくれた人形だ。不思議なもので、彼女の瞳は、あるときは嬉しそうに見えるし、あるときは悲しそうに見える。恋のはじめの少女のような表情でもあり、伴侶を失った老婆のような表情でもある。

ishii_tegamibagてがみバッグさん。その瞳が見つめるのは、手紙社の未来…?

インタビューが終わった。階段を下りるイシイさんを見送り、事務所へ戻ろうとするとき、レジの横の壁に寄りかかっているてがみバッグさんと目が合った。しょうがない、彼女を手に取ると、その瞳は何か言いたげだ。
「イシイリョウコの作品を、君は理解できたのかな?」

理解、ね。残念ながら、ぼくはイシイさんの作品を理解できそうもないな。でも、感じることはできる。イシイさんが描く絵は、美しくて、可笑しい。優しくて、厳しい。喜びに溢れ、悲しみに満ちている。これは疑いようもない、確かな感覚だ。そしてそれは、まるで人生そのものだ。ストレンジでミステリアスなサムシングに、ぼくたちの人生は彩られているんだ。

【イシイリョウコさんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
ちくちくと手縫いで作る一点ものの人形作品や絵など、 あれこれと制作しております、イシイリョウコです。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
赤と紺、赤と緑、この組み合わせが不動の好きな色です。 反対色のような色合い、自分の性格もそうなのかもしれません…。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
元気で楽しくなれるカラフルな一点ものの人形作品や、 お出掛けのお供にして頂けたら嬉しい小さな人形のブローチなどのアクセサリー、 石粉粘土を使った作品の他、紙ものなど新作をあれこれとご覧頂ける予定です。 また、今回はなんとUZURAさんとのスペシャルなコラボをさせて頂きます! UZURAさんの素敵な靴がクオリティそのままで小さく小さくなって、 小さな人形たちの棲みかに!? もみじ市限定、数量限定の作品となりますので、ぜひぜひご覧下さいませ♪

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いては、大阪よりレトロモダンな雑貨を作る彼女の登場です! 懐かしく、妖しく、だけどたまらなく愛らしい古い図柄の並ぶお店が、河川敷に開店します。

文●北島勲

石川若彦「colorful+waka style」

まだ蝉の鳴き声の止まぬ残暑のころ、栃木県益子町にある、陶芸家・石川若彦さんの工房「waka studio」を訪ねた。秋葉原から早朝の高速バス、やきものライナーに乗って2時間半。夏休みの終わりに、一人で小さな遠足に出かける子どものような気分だった。ワクワクするけど、緊張する。うつわが好きでさまざまな作家のものを少しずつ集めてはいるけれど、まだまだ知識も見聞も足りない。尊敬する作家を前に、うまく話ができるだろうか。

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工房は、木漏れ日がさんさんと降り注ぐ林の中にあった。入り口には白い看板。木立を抜けると、小さなギャラリーと作業場がふたつ並んで建っている。ギャラリーの窓辺には、石川さんのシンプルなうつわが並んでいる。作業場の奥から、トレードマークの眼鏡に手ぬぐいを巻いた石川さんが作業の手を止め、「やあ、こんにちは」と出迎えてくれた。その隣で、ニコニコと笑う奥さまの綾子さん。「ああ、ここで、若さんのうつわが作られているのだ」と思った。益子の緑も、小さな白い看板やギャラリーも、蝉の声も土の匂いも、石川若彦さんのうつわから感じる空気そのものだった。

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シンプルで、凛としていて、だけど温かみがある。若さんのうつわは、何気ないのに美しい。テーブルに置くと、ボウルの底からすっと立ち上がる直線や、小さな一輪差しの柔らかな曲線が描き出す輪郭が、清々しく空間に溶け込む。とりわけ、わたしの一番のお気に入りは若さんの作る「白」。白銀のような冷たさではなく、生成りのようなくすみもない、包み込まれるような柔らかい白。この白色の魔法にかかれば、どんな料理もとびきりおいしく彩られる。

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「うつわは、これから色が描かれていく画用紙のようなものだから、盛りつける料理が映える形や色を考えて作ってる。それに、白だって一つの色だからね」

作業場で素焼きの終わったうつわに釉薬を掛けながら、若さんはそう答えた。若さんの作るうつわの色は、質感の違う白が数種類と深みのあるグリーン。どれも料理や飲み物が映える色だ。

「創作をはじめたころは、具象的なものや絵付けの作品も作っていたんだよ。だけどだんだん、『使うこと』を考えるようになった。作品に自我を表現するのではなくて、使われることによって完成するような形を」

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とはいえ、シンプルであり続けるということには、途方もない労力と勇気が必要なのだと思う。個性的な形を作ったり、装飾や色を施す方が、表現の手段としてははるかに易しい。でも、ただ単純で素っ気ないものを作っていても、テーブルの空気まで澄み渡らせるような心地よさは生まれない。

一晩中窯の前を離れることができない「本焼き」をしている間、若さんはデッサンを繰り返すのだと言う。自分の左手や、身近にあるものを描くこともあれば、さまざまなうつわのフォルムを繰り返し描いていく。それは、とても孤独な時間だろうけれど、それこそが若さんの創造の原点のようにも思える。端正な輪郭と、包み込むような色、そして使うたびに心を晴れやかにしてくれるうつわは、こうして生まれている。こんなにも手と時間がかけられているのに、そのうつわがテーブルに並ぶとき、その姿はとても自然で気持ちが良い。

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土の匂いのする工房で、たくさんの制作途中のうつわに囲まれながら話をするうちに、わたしはいつの間にか石川さんのことを「若さん」と呼んでいた。親しい人たちの間でそう呼ばれていることは知っていたけれど、遠慮と緊張で呼べなかった。だけど、若さんと綾子さんとの会話は、まるでずっと昔からの友人ように自然体で、飾らず、温かかった。バスに乗り込んだときのあの緊張は、するするとほどけていった。若さんのうつわが生み出す、あの柔らかく澄んだ空気感と、当たり前のようにそばに居てくれる存在感。それは、若さんと綾子さんの人柄そのものだ。

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さりげなくて、何気なくて、多くを語らない。だけど、どんなものでも受け止める懐の深さと、優しさを併せ持つもの。心躍る豊かな色彩の傍らに、わたしたちの暮らしには、そういうものが必要なのだと思う。そしてそれは、どんな色の日々にもずっと寄り添ってくれる。もみじ市で、石川若彦さんの「カラフル」を、ぜひ手にとって見てください。

【石川若彦さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
益子で物作り暮らしも23年、waka studio石川若彦です。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
カラフルが映える「白」です。

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
どんなカラフルにも合うシンプルな器です。あとは、当日のお楽しみでよろしくです。

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いて、ご紹介するのはイラストレーターであり、人形作家のあの人。カラフルな小人が多摩川河川敷に大集合!

文●増田 知沙

キノ・イグルー「テントえいがかん」

スクリーンの前で、人は自由だ。 

あなたは普段、誰かのお母さんで、誰かの子どもで、誰かの上司で、誰かの部下で、誰かの先輩で、誰かの後輩で、もしかしたら村長かもしれないし、どこかの国の王様で、お姫様かもしれないけど。映画の上映中だけは、肩書きを忘れ、私たちは何者でもなく、ひとりの人間になる。

“彼ら”はいつだって、映画を通してそんなことを教えてくれる。

8月18日。日曜日。快晴。日差しが痛いほどジリジリとして、とっても暑い夏の正午。井の頭公園にあるカフェで待ち合わせをした。空は青く、高く、公園の緑は生命力に溢れ、蝉の声は、さらに勢いを増しているようだった。

大粒の汗を流しながら、待ち合わせのカフェに向かう途中、いつものように青いギンガムチェックのシャツを着た渡辺順也さんに出会った。眩しそうな表情で、こちらのほうへ歩いてくる。

「どこ行くんですかー?」

不思議に思って声をかけると、公園の売店を指さして、

「だって、暑くない?」

そう言いながら、ソーダ味のソフトクリームを買って、食べ始めた。自由だ。待ち合わせの時間まであと数分だけど、食べ終わるのだろうか…。そんな心配をよそに素早くソフトクリームを食べた渡辺さんとカフェに入ってからしばらくすると、いつものように青いボーダーのTシャツを着た有坂塁さんがふらっと現れ、にこやかに渡辺さんの横に座る。

注文を終えると真っ先に、「あの映画観た?」と、当たり前のように最近観た映画の話を始めた。どうやら、早速“スイッチ”が入ったようで、その映画の話でひとしきり盛り上がった。私は、彼らと映画の話をしている時間がとても好きだ。話しているとき、その表情からは映画に対する愛が滲み出ていて、こちらまでにやにやしてしまう。そうして、話した後は決まって、無性に映画を観たくなるのだ。映画について語り合っている光景はまるで、少年のように純粋で、きらきらした目の輝きが眩しかった。

彼らの名前はキノ・イグルー。“究極の映画ファン”である。

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有坂塁さんは、もともとは映画が嫌いだった。幼い頃から二十歳を越えるまで、サッカー一筋で、本気でプロを目指していた。しかし、ある一本の映画と出会い、衝撃を受けたときから、しだいに映画との距離が縮まっていく。そうしてある時、サッカー人生に終止符を打ち、映画の道に進むことを決意。中学の同級生である渡辺順也さんを誘い、2003年「移動映画館」を始めた。

とは言っても、最初から「移動映画館」として活動していたわけではなかった。彼らの活動の原点は、友人が運営する「まちの小さな映画館」。そこから始まり、今では全国各地のカフェや雑貨屋、書店、パン屋、美術館、ホテルや百貨店の屋上、森の中など、さまざまな空間で、世界各国の映画をジャンルにこだわることなく上映している。その上映スタイルはどこまでも自由で、独創的。想像もしなかったような環境で観る映画は、まるで別の世界を旅しているような気分にさせてくれる。

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「みんなの心のどこかにある“映画スイッチ”をONにしたい」

有坂さんはそう話す。心のどこかに眠っている一人ひとりの“映画スイッチ”にさりげなく触れ、目覚めさせてくれる。それが、キノ・イグルーの活動なのだと思う。

映画上映後、その余韻のなかで、有坂さんはみんなの前に立ち、「お話」をする。「お話」とは、映画の単なる「解説」や、「評論」をすることではない。その映画をもっともっと好きになってほしい、知ってほしいという思いに溢れた、プラスアルファの情報である。有坂さんの穏やかな口ぶりには、一本の映画に対する深い「敬意」を感じる。そこには、あくまで“映画ファン”として映画と関わることを大切にし続ける、結成時から10年間変わることのない、キノ・イグルーの姿がある。

2012年の夏に行われた、キノ・イグルーが主催するルーフトップシネマの風景が、忘れられない。とても暑い夜だったけど、ホテルの屋上には、ほてった体をやさしくいたわるように風が吹いて、気持ちがよかった。有坂さんが選んだ、夏の夜にぴったりなBGMが会場を包み込む。この日は、もみじ市の事務局何人かを誘ってみんなで観に行ったのだ。仕事が終わって、次々と集まってくるメンバーは、ウッドデッキの上で靴を脱ぎ、ねころがってぼんやり星空を眺めたり、お酒を飲みながらゆっくり話をしたり、思いおもいに、映画の前の、ゆるやかに広がる時間と空間を楽しんでいた。

足を伸ばして。風を感じて。映画を待つ。心はしだいに、とき放たれていった。

上映作品は、フランスのミュージカル「フレンチ・カンカン」。リズミカルな展開と、圧倒的なラストシーンに心が踊ったのは、私だけではなかった。野外の空気に開放された、そこにいるお客さん全員が、まるで映画の世界に入ってしまったかのように、もしくは、映画が、こちらの世界に飛び出してきたかのように、映画と一体となり盛り上がって、指笛を吹いたり、拍手をしたり、声を出して笑ったりしていた。そして前方には、主催者としてではなく、いち観客として、私たちと一緒になって映画を楽しむ、キノ・イグルーの姿があった。

私は、あの風景を一生、忘れないとおもう。映画がこんなにもみんなを「ひとつ」にして、心が震えるほど感動したのは、生まれて初めてだった。映画が終わっても、私たちはすぐに帰りたくなくて、しばらくデッキの上でぼんやりと、余韻に身を委ねていた。

普段、映画を観る環境ではない場所で、あえて「みんなで映画を観る」ということ。みんなが足を伸ばして、自分らしくそこにいられて、自分らしく映画を楽しみ、帰り道には、映画の話をして帰る。映画と私の距離が、ぐっと縮まったような、そんな気持ちにさせてくれる。私は当時、そこまで映画を頻繁に観るほうではなかったというのに。どうしてだか、家に着く頃にはもう、次の映画を観たくなっていた。私のなかの“映画スイッチ”がONになった瞬間である。

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もみじ市にはもはや欠かすことのできない存在となったキノ・イグルー。青いテントの映画館で、今年もみんなを待っている。上映作品は、当日までのお楽しみ。今回は、私たちをどんな世界に連れて行ってくれるのか、とても楽しみだ。

もみじ市に来たなら、おいしいものを食べて、飲んで、素晴らしいものづくりの作品に出会い、作家さんとたくさんお話をして、ライブを堪能し、そうして、この小さなテントで映画を観てほしい。一本の映画を観た後、余韻の残る心で、テントの外へ出て、またその目で、もみじ市の世界を、じっくりと見渡してみてほしい。そこにはきっと、さっきまでとは違う、もっともっとカラフルな世界が、あなたを待っているはずだから。

キノ・イグルーのテントえいがかん、まもなく上映時刻です。

【キノ・イグルー 有坂塁さんと渡辺順也さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
カフェ、雑貨屋、パン屋、ホテルの屋上など、ありとあらゆる場所を、わくわくする映画館へと変えてしまう、移動映画館のキノ・イグルーです。

Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
トリコロール!(反則?)

Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
もみじ市でしか体験することのできない「テントえいがかん」が、今回もオープンします! 目印は、ブルーのかわいいテント。カラフル!

Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!

さて、続いてご紹介するのは、益子からやってくるあの陶芸家さん! テーマカラーは料理の美しさを引き立たせる“白”。

文●池永萌