ライフスタイルしかり、ファッションしかり、デバイスしかり。ぼくたちの日常がどこかシンプルなものへと回帰しはじめてから、ずいぶんと経ったような気がする。だが、そのなかに本質的にオーセンティックなものをほとんど見つけることができないのは、未だにどこか回帰しきれないぼくの思い過ごしだろうか。彼の作品を手にするとき、いつもそんな想いが頭をよぎる。
西本良太さんは、木材を中心としながらもプラスチック、アクリル板、紙、果てはセメントに至るまで、多彩なマテリアルを用いてヴァラエティに富んだプロダクトに落としこむ、緑豊かな西東京に工房を構えるクラフト作家。建築の図面で用いられる、三次元を二次元で描き出す二点透視図法のシルエットを再び三次元に起こしたウッド・ブローチ、すこし力を入れれば折れてしまいそうな、アクリルを繊細に削り出したしなやかなタッチのリング、水と着色剤をセメントに加え、型に流し込んで丹念に磨き上げた淡く発色する箸置き―—その静謐でシャープなたたずまいの作品群は、いずれも一貫して圧倒的とすらいえる気品を放ちつつ、不思議とやわらかなあたたかみを感じさせてくれる。
だがそんな色とりどりの鮮やかなアプローチを次々と繰り出しながらも、やはり木工作家と呼ばれるのがいちばんしっくりくる、と彼は笑う。
「もともと木工の家具を作る会社にいた、というのが大きいような気がしますね。木だけにこだわらず、身近にあるいろんな素材を使ったりしますけど、ベースになっている技術や知識はそれほど変わらないし、そんなに違うことをやっている意識もなくて。それに、木もそのほかの材料も、なるべく特別なものは使わないようにしているんです。専門の人じゃないと買えないようなものじゃなく、誰もが選択できるもの。そのへんのホームセンターで買ってきたりしますよ(笑)。ベースが個性的であったり、貴重であったりすることにまったく興味がない、というか。だって自分が作っているのは、あくまで普段身に付けるものや、日常で使う道具なので」
この透徹したストイシズムこそが、テクスチャーをフラットに飛び越えたクリエイティヴィティに、自身でさえ無意識のうちに帰結するのだろう。
「箸置きだって、着色剤を混ぜたセメントを固めただけの、ただの立方体ですし。いろんな色が表現できたり、その質感の意外な面白さ自体を毎日使うものの中で出してみたくて作ったものだから、そこで強烈な形はあんまり前に出てくる必要がなくて。ものを、ものとして見たいんです。高い材料だからいい、ってわけじゃないし、安い材料でも面白い素材はたくさんあるから。『これもいいでしょ?』っていう。あらゆることを並列に、平らにしたいのかもしれませんね」
ものの本来の価値とは、社会が暗黙のうちに都合よく定義した相対的な規格のなかに潜むのではなく、ただ対象に真摯に向き合い、その魅力を正しくとらえようとする、後ろ盾のない絶対的な勇気にこそ宿ることに、彼の手はあらかじめ気づいている。どうかもみじ市で、あなたにもこの凛とした奇蹟に出逢ってほしいと強く想う。世界よ、これが正統だ。
【西本良太さんに聞きました】
Q1 もみじ市に来てくれるお客様に向けて自己紹介をお願いします。
指輪、箱、家具などを製作する、木工作家です。
Q2 今回のテーマは「カラフル」ですが、あなたは何色ですか?
グレーかな。気になる素材もグレーが多いんです。塩ビ管、とか(笑)。黒みたいにきつくもないし、白みたいにはっきりした感じでもないし。どこか、ぼやけたものが好きなのかもしれませんね(笑)。
Q3 今回はどんな作品をご用意してくれていますか? また「カラフル」というテーマに合わせた作品、演出などがあれば教えてください。
最近とくに気持ちが向いていて、いろいろ作ることも多いんですけど、箱でなにかやりたくて。ただの入れ物のはずなのに、どこか惹かれるんですよね。ちょっと小さめのもの、小物入れがいいかな。テーマは単純にそのまま文字通り受け取って、あまりひねらずに、いろんな色のものを作られればな、と。
Q4 ご来場くださる皆さんにメッセージをお願いします!
さて、続いてご紹介するのは、もみじ市の“象徴”、tico moonのアルバム・ジャケットなども手がけたあのイラストレーターさんです!
文●藤井道郎